スーパークルーズ
テンプレート:独自研究 テンプレート:出典の明記 スーパークルーズ(supercruise、超音速巡航)とは、航空機が超音速で長時間の飛行(巡航)を行うことである。2000年代現在の新型戦闘機に要求されることもあり、F-22やユーロファイター タイフーンなどがこの能力を備えている。これらの機体はアフターバーナーを使用せずとも超音速飛行が可能であり、結果として長時間にわたって超音速飛行が可能になっている。
スーパークルーズ可能な航空機
- F-22
- YF-23
- MiG-25
- MiG-31
- MiG-35
- PAK FA
- 1.44
- Su-35
- ユーロファイター タイフーン
- ラファール
- サーブ 39 グリペン(グリペンDemo、グリペンNG)
- (爆撃機)B-58- 超音速域でアフターバーナーを使用する
- (爆撃機)TSR-2
- (爆撃機) ミラージュIV
- (爆撃機)XB-70
- (偵察機)SR-71 - 吸入した空気の一部を圧縮機中段から排出することにより、高マッハ数飛行時の圧縮機後段の失速を抑止し効率を改善する機構を持つ
- コンコルド - 超音速への加速時にアフターバーナーを使用
- Tu-144 - 超音速域でアフターバーナーを使用する
- (爆撃機)Tu-160 (航空機)
歴史
初期の超音速巡航機
超音速機が登場した当初において、アフターバーナー(リヒート)を使うことなく超音速飛行を行える機体は、ライトニングの原型機 P.1 、あるいはセンチュリーシリーズのF-107戦闘機など、いくつか存在した。
また、超音速爆撃機のB-58や、コンコルド・Tu-144のようなマッハ2で超音速巡航可能な旅客機(アフターバーナーは使用する)が登場するが、当時はその高速性自体が話題になっていた。さらにSR-71のようなマッハ3で超音速巡航可能な偵察機(超音速でもエンジンのタービンセクションを使用するが、実効圧縮比を下げて巡航速度での効率を向上させる特殊なターボジェットエンジンを持つ)も登場するが、本機はその最高速度によって名を知られており、超音速巡航については特筆される事は無かった。
停滞
1970年代以降になると超音速戦闘機にターボファンエンジンが採用されるようになった。ターボファンエンジンはターボジェットエンジンに比べて燃費効率が良い反面、特性がより低速向きであり、超音速飛行には向かない。音速を突破するにはアフターバーナーの使用が不可欠になった。またターボファンエンジンとアフターバーナーの組み合わせは、出力増大効果はターボジェットとアフターバーナーを組み合わせた場合よりも高い反面、その際の燃費効率は逆に悪化した。結果として超音速飛行にはアフターバーナーが必要不可欠になり、燃料を短時間で消費するため、小さな機体では超音速巡航に不向きになってしまった。
また、ベトナム戦争 の経験から、戦闘機にそもそも超音速域での性能は求められなくなった。超音速領域ではほとんどまっすぐに飛ぶ事しかできず、格闘戦など不可能であり、偵察機や旅客機ならともかく、戦闘機においては超音速で長時間飛ぶ事に意味は無い(必要な時のみ超音速飛行できればよし)と考えられたのである。F-15は推力重量比が極めて高く、条件次第では超音速巡航可能であるが、その事が特徴として特筆される事は無かった。また、フォークランド紛争においては、亜音速機であるホーカー・シドレー ハリアーは、超音速戦闘機であるミラージュIII・ダガーに対して完全勝利しており、速度性能の差は空戦の勝敗に寄与しなかった[1]。
爆撃機においても、高空からの超音速での侵入という戦術が注目された時期があったが、レーダーや地対空ミサイルの発達によって有効性を失い、その後は亜音速での低空侵攻によってレーダーをかわす戦術が一般的になり、速度性能は顧みられなくなった。
民間航空機でも、低燃費なターボファンエンジンを搭載した亜音速旅客機と比べると超音速旅客機は極度に狭い座席や運賃面で大きな差が開き、また、超音速時のソニックブームが地上に与える影響が高高度飛行時でも大きいことによる環境問題、離着陸時の不安定性、長い滑走路などにより、超音速旅客機の本格的な導入はなされずに終わった。
再評価
前述の通り、戦闘機や攻撃機・爆撃機がレーダーや地対空ミサイルによって守られた敵の勢力下にある空域に侵入するには、亜音速での低空侵入という方法が一般的であった。しかしレーダーを避ける事ができても対空砲火による被害は大きくなった。フォークランド紛争においても、亜音速機であり速度性能に劣るハリアーは、対空砲火により多大な損害を出している。
その後、フレア、電子妨害装置が一般化し、さらに1980年代にステルス性を備えた機体が現れ、その後のステルス技術開発の結果、充分に敵のレーダー探知域を小さくできるようになると、今度は対空砲火を避けて高空を高速で飛行する方が危険性が低いと考えられるようになり、戦闘攻撃機に超音速巡航性能を持たせる事が求められた。21世紀になって新たに登場したF-22戦闘機では、搭載するエンジンに高速向きの特性を持たせることでアフターバーナーを使わなくとも音速突破が可能となった。また推力偏向ノズルも備えることで超音速領域においても高い運動性を誇る。
タイフーンとラファールはスーパークルーズ能力を備えるとされているが、F-22程のステルス性は備えず推力偏向ノズルも持たない。前述の通りF-15も格闘戦闘基準重量時にはスーパークルーズが可能と言及される場合があるが、この能力が実戦に寄与した例は報告されていない。
また、2000年代以降、ソニックブームの低減策についても研究が進められている[2]。
その他
「アフターバーナーを使わなくとも音速を突破できる事」は、厳密に言うと「スーパークルーズ(超音速巡航)」と同義ではない。「スーパークルーズ」という単語には「超音速で長時間安定して飛行する事」という以上の意味はなく、「アフターバーナー不使用」は「ターボジェットあるいはターボファン機で」長時間飛行を達成するための「よくある条件」の1つでしかない。アフターバーナーを使用する間は燃料消費が格段に増え、結果その分だけ飛行可能な時間や距離が短くなる。
例えばコンコルドは離陸と音速の突破にはアフターバーナーを要し、B-58やツポレフTu-144、SR-71は巡航時にもアフターバーナーを必要としている。前3者は大量の燃料を搭載することで、後者は超音速域でラムジェットに近い働きをするエンジンの採用することで、実効的なスーパークルーズを達成していた。特にB-58の場合は、採用しているエンジンはF-4など他の多くの戦闘機のものと同一であり、超音速巡航を実現したのは大量の燃料を搭載したことによるものである[3]。
逆の例として、エンジンをF110-GE-400に換装したF-14は、アフターバーナー無しで音速を突破可能であるが、極めて短時間であり、長時間持続しての超音速飛行は不可能であるため、スーパークルーズとは見なされない(付け加えて、武装し増槽を装備した状態では達成不可能なため、実用上の意味がない)。
関連項目
脚注
- ↑ ハリアーがミラージュ・ダガーに対して勝利したのはミサイルの性能差、アルゼンチン本土から飛来するミラージュ・ダガーが戦闘空域に留まる時間が限られる事によるハンディによる所が大きいが、その不利を速度性能で補う事ができなかったのは事実である。
- ↑ www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/972/972-06.pdf
- ↑ B-58の項目においては「J79は(中略)連続2時間のアフターバーナー使用が可能となっており、このエンジンなくしてB-58の超音速巡航は実現不可能だった。」と記述されるが、そもそも戦闘機において長時間アフターバーナーを使用できるだけの燃料搭載は不可能である。