マクロス ゼロ

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テンプレート:Pathnav テンプレート:Infobox animanga/Header テンプレート:Infobox animanga/OVA テンプレート:Infobox animanga/Footerマクロス ゼロ』(MACROSS ZERO)は、2002年から2004年にかけて制作されたOVA。全5巻。テレビアニメ超時空要塞マクロス』の前史に当たる作品である。東京国際アニメフェア2004において優秀作品賞OVA部門を受賞した。

概要

作品

マクロスシリーズ生誕20周年記念として制作されたのが本作である。地球が異星人ゼントラーディとの戦争(第一次星間大戦)に巻き込まれる7か月前、2008年の南海の孤島マヤンを舞台に、現代文明と伝統文明の相克、人類創生の秘密が描かれる。

『超時空要塞マクロス』の舞台となる近未来(2009年)を現実に迎えつつあることから、本作はそれまでの続編作品とは逆にシリーズの過去にさかのぼり、現実世界と架空のマクロスワールドが交錯する過渡期の状況[1]に焦点を当てた。F-14MiG-29という実在する兵器と、可変戦闘機デストロイドという空想未来兵器が同世界の中に登場する。

監督の河森正治は当初、南の島を舞台にした戦記ものに可変戦闘機の開発エピソードを絡めた短編2本立ての物語を構想していた。しかしロケハン中にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、ミリタリー的な作風を自粛するムードがあったため、民俗学を下敷きにした神話的作風へ方向転換することになった。また、近作の例にもれず本作でも自然との協調が唄われているが、これらの描写には以前の作品である『地球少女アルジュナ』で開発された生物を3DCGで描画するテクニックが随所に使用されている。

本作の設定について河森は「発表されているマクロスの基本年表には載っていない話」であるとしていた[2]。アメリカでは機密事項公文書が50年経たないと公開されない場合があるという例を挙げ、本作は歴史から抹消されている前提のエピソードであり、物語の構成も後々に伝説として語られるというまとめ方に近いと述べている[3]

2008年には『マクロスF』(作中の設定年代は2059年)が製作され、これにあわせて改訂された基本年表[4]では、本作の事件が2008年7月に起きたとする記述が加えられ、この時代(2059年)には機密情報が公開されてマヤン島事変やVF-0の存在も公になっていることが示唆された。また、作中では本作の物語をシン・工藤の伝記とし、それを題材にした劇中劇も登場するなど[5]、一般市民にも広く知られた「物語」となった様子が描かれている。また本作のヒロインの一人マオ・ノームのその後の消息も明らかにされている。

この『マクロスF』内のエピソードが語るように、全てのマクロスシリーズに共通する「架空の世界(マクロスワールド)の歴史的出来事をモチーフにして後から作られた創作作品(フィクション)である」という設定(参照)は本作品においても例外ではなく、史実をモチーフに制作されたが、必ずしも作品内の事象が全てにおいて史実通りとは限らないという事である。本作では敢えて随所にそれを強調する演出が意図的に盛り込まれている[6]

3DCG

本作はマクロスシリーズでは初めて全面的に3DCGを導入した。1994年制作の『マクロスプラス』では一部のみの使用だったが、その後『マクロス VF-X2』などのゲーム開発で経験を積み、本作ではメカ以外にも背景の立体的な空間表現などを試みている。

制作の中心は河森が所属するサテライト。『地球少女アルジュナ』で実績のあるトゥーンレンダリングを使う予定であったが、『戦闘妖精雪風』など他作品との違いを明確にするため、新たにテクスチャマッピングによる質感の表現法を模索することになった。写真とイラストの中間イメージ的なテクスチャを描くため、ハセガワのマクロスシリーズ模型でボックスアートを手がけるイラストレーター天神英貴が参加し、色調やライティングの調整を行った。

本シリーズの代名詞である「板野サーカス」をCGで再現するため、板野一郎自身が特技監督としてモーション監修を行い、3DCGでは軽く見えがちなメカアクションの演出を指導した。戦闘機の3DCGは、アニメーションがキーフレーム間を自動補間するのではなく、通常のアニメと同じように全てのモーションを手打するという手法をとっている。VF-0のメカ描写には特に多くのカットが割かれ、説得力の有る変形シーケンスや、標的を眼で追うだけで次々とロックオンしていく制御系は、以降のVFシリーズに継承され、VF-25等の最新鋭機にも採用されている事が『マクロスF』作中で描かれている。第一章では戦闘機形態(ファイター)の3DCGモデルから変形させたロボット形態(バトロイド)が華奢に見えたため、第二章以降は中間形態(ガウォーク)、バトロイドも別個に見映えのいいモデルを作り使い分けている。

一方で、3DCGで迫力が描ききれない場合は通常の手描き作画で処理している(具体的にはVF-0リアクティブアーマー仕様やデストロイド・オクトス、劇中終盤に登場するプロトタイプ・モンスターの登場シーン)。

約2年間の制作期間中3DCG技術の試行錯誤は続き、その経験は『創聖のアクエリオン』『マクロスF』に生かされることになる。河森は本作のクオリティはテレビ画面では十分伝えきれないため、OVAよりは大画面・大音響むきの作品だったと振り返っている[7]

ストーリー

1999年7月、後にマクロスと名づけられる異星人の宇宙戦艦が地球へ落下した。この艦よりもたらされた様々なオーバーテクノロジーの奪い合いに端を発する争いは、やがて統合戦争と呼ばれる世界大戦に発展する。

戦争末期の2008年。統合軍パイロットの工藤シンは、反統合同盟軍の可変戦闘機SV-51に乗機を撃墜され、今なお伝説が生きる南海の孤島マヤン島に流れ着く。そこで彼は島の巫女サラ・ノームとその妹マオ・ノームと出会った。一方、落下した宇宙戦艦と同様のエイリアン反応を示す物体がマヤン島付近の海底に沈んでいることが判明し、統合軍と反統合同盟軍は新型可変戦闘機VF-0 フェニックスとSV-51を配備した回収部隊を派遣する。マヤン島を舞台に戦争が始まり、伝説に謡われた「鳥の人」が目覚めて「滅びの歌」を唄う時、世界は破滅の淵を覗うことになる。

登場人物

主人公・ヒロイン

工藤 シン(くどう シン)
- 鈴村健一
18歳。統合宇宙軍少尉。日系2世のアメリカ人。幼い頃に異星人の宇宙戦艦ASS-1(のちのSDF-1マクロス)の墜落を遠方より目撃する。その後勃発した統合戦争で両親を亡くし、統合軍に入隊後パイロットとなる。腕は優秀だが自分勝手な言動が多く、同僚達からは距離を置かれている。ノーラの駆るSV-51γと交戦し、その変幻自在の機動の前に撃墜される。脱出して一命をとりとめフォッカー指揮するスカル小隊に転属となるも、それまでとは勝手の異なる可変戦闘機への機種転換に手を焼くこととなる。物語冒頭ではF-14に搭乗し、その後VF-0D、VF-0Aへと乗り換える。左目の泣きぼくろが特徴。サラやマオ、フォッカーたちとの触れ合いの中で、それまで閉ざしていた心を徐々に開いてゆく。
サラ・ノーム
声 - 小林沙苗
16歳。呪術師の家系に生まれ、マヤン島の古代文明を守る「風の導き手」。しとやかだが内に激しい気性を秘める。島に騒動を招いたシンを警戒していたが、徐々に心を通わせ惹かれ合ってゆく。
自分を救出しに来たシンが目の前で撃墜され、激昂。呼応するように覚醒を始めた鳥の人に取り込まれてしまい、統合、反統合の機体すべてをカドゥンと認識し攻撃を始める。
両軍からの反撃を受けるが、圧倒的な攻撃でそれらを退ける。しかし、無事に復帰したシンの決死の呼びかけが通じ、正気を取り戻す。
最後は統合軍が鳥の人を破壊するために使用した反応弾から島とシンを守るため、自身を含めて鳥の人を反応弾ごとバリアのような物で隔離、伝説をなぞるようにと宇宙へ旅立つ。
マオ・ノーム
声 - 南里侑香
11歳[8]。サラの妹。元気で快活な少女だが、時折女らしいしぐさを見せる事がある。姉と違い島内の生活には退屈気味。文明人のシンに興味を抱き惹かれてゆくが、姉の想いとの間で揺れ動くこととなる。最終話ではシンを勇気付ける重要な役割を担う。
マクロスF』では、後にプロトカルチャー研究の第一人者となったとされる(別項参照)。
なお、半世紀後の『マクロスF』において本作が劇中劇として映画化されたとき、彼女の孫娘シェリル・ノームが主題歌を歌っている。

統合軍

ロイ・フォッカー
声 - 神谷明
26歳。統合宇宙軍少佐で空母アスカ艦載機隊を率いるエースパイロット。指揮官用のVF-0Sに搭乗。大空と酒と女をこよなく愛する、部下思いのパイロットの鑑の様な人物。実戦訓練においては、シン達可変戦闘機の操縦に不慣れな若年パイロット達のアグレッサーを務める。
エドガー・ラサール
声 - 小森創介
18歳。陽気な統合宇宙軍RIO(レーダー迎撃士官)。シンと常にコンビを組み、F-14及びVF-0Dの後部席に搭乗する。
アリエス・ターナー
声 - 進藤尚美
26歳。文化人類学者。フォッカーのかつての想い人で大学時代の先輩。人類プロトカルチャー干渉仮説の検証のため統合軍の嘱託として空母アスカに乗艦する。
中島 雷造(なかじま らいぞう)
声 - 有本欽隆
69歳。空母アスカの技術班長。職人気質だが熟練の技でパイロット達から厚い信頼を集める。
ケイティ 
声 - 朴璐美
統合軍海兵隊員。男性隊員以上に卓越した格闘術を身に付けており、武器を携えたシンでさえ全く相手にならない程の戦闘能力の持ち主。

反統合同盟軍

ノーラ・ポリャンスキー
声 - 高山みなみ
25歳。反統合同盟軍の女性パイロット。階級は大尉。ワインレッドのSV-51γを駆る凄腕で、2度に渡りシンを撃墜する。イワノフとは恋仲。
統合軍兵士に家族を惨殺され、自身も陵辱・拷問を受けたことを仄めかしており、そのため統合軍に対して異常なまでに憎しみを抱いている。シンに執着するあまり鳥の人の射線上に入ったことに気がつかず、エネルギー波の直撃を受け戦死する。
D.D.イワノフ(ディーディーイワノフ)
声 - 大友龍三郎
反統合同盟軍のエースパイロット。乗機は黒いSV-51γ。機体の黄色い花のマークから、パイロット仲間には「デイジー・イワノフ」と呼ばれている。
統合戦争以前から紛争地帯を転戦してきた軍人で、統合軍のテストパイロット時代はフォッカーの教官だった。最終決戦でフォッカーと熾烈なドッグファイトを繰り広げるが、ノーラを殺害されたことに逆上して鳥の人に挑み、その圧倒的な力の前に敗れる。
ハスフォード博士
声 - 野沢那智
アリエスを指導した学者。プロトカルチャー干渉仮説を提唱する。

マヤン島

ヌトゥク
声 - 大木民夫
鳥の人伝説を語り継ぐマヤン島の長老。頑なに掟を守ろうとするサラとは対照的で、外から来た人間にすぐ民芸品を売ろうとする。

メカニック

統合軍

  • F-14 A++スーパートムキャット
(バンダイのサイトでは「F-14A+改」とも記される。F-14AのOTM改修型であり、B型に準じるとすればエンジンをPW-TF30からF110-GE-400に換装しており外観は実在のF-14D、コクピットはF-14Aの形状になっている)

反統合同盟軍

用語

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マヤン島
東南アジアの洋上に浮かぶ熱帯雨林に覆われた島。古の「鳥の人伝説」を信じる島民が伝統社会を守ってきたが、徐々に現代文明に染まりつつある。統合戦争末期の2008年、近海海底でAFOSが発見されたため、統合軍と反統合同盟軍の熾烈な争奪戦に巻き込まれる(マヤン島事変)。
半世紀後を舞台とする『マクロスF』ではマクロス・フロンティア船団におけるマヤン島事変の映画化に伴い、生態系艦アイランド3内にセットとしてマヤン島の環境が再現される。
ヤリウェイ
マヤン島に伝わる風習に使う、長さ1mほどの木製の棒。マヤン島で目覚めたシンが武器として携行し、目の前に現れたサラに対して突き付けた。本来の用途は、男性がそれぞれ形を工夫して作り、好きな女性に見せる。夜になって、男性が女性の元を訪ねて行った時に棒を差し入れる。女性は気に入った男性だとそのまま二人でデートをするというもの。マオはラブレターのようなものだと説明し、シンはラブスティックと呼ぶ。
AFOS(エイフォス)
マヤン島沖の海底で発見されたプロトカルチャー遺跡(鳥の人)の識別名。
鳥の人(とりのひと)
マヤン島の伝説で人類を作ったとされる存在。星々の海を渡ってきて、魚の人の尾びれを切って最初の人「ローイカヌ」を作ったと言われている。
プロトカルチャーが太古の地球を訪れ人類の祖先に遺伝子操作を行った後、一種の監視装置として残した巨大兵器。やがて人類が進化して宇宙へ進出する段階に達した時、好戦的な人種となっていた場合は災いの元として消去するよう仕掛けられていた。マヤン島に住む巫女の一族は、この発動を食い止める(または鳥の人を発動させる)鍵となる存在だった。
『マクロスF』においてその容姿は、当時プロトカルチャーが神格化していたバジュラクイーンを模していると説明される。分冊百科『マクロス・クロニクル』では、「鳥の人」にはプロトカルチャーが独自に生成したフォールドクォーツが搭載されているという説明がある[9]
オペレーション・イコノクラスム
統合軍のAFOS調査艦隊が行う作戦。鳥の人が復活して制御不能となった場合、これを完全に破壊せよとの密命による。最終手段として威力調整型の反応弾頭が使用される。「イコノクラスム」とは聖像破壊運動のこと。
そして、ついに反応弾頭使用が決定され、島は滅びの危機に直面した。

スタッフ

主題歌

メインテーマ

「ARKAN」
作詞 - Holy Raz / 作曲・編曲 - 蓜島邦明 / 歌 - Holy Raz
(第1話エンディングテーマ)

エンディングテーマ

「Life Song」
作詞・作曲・編曲 - 蓜島邦明 / 歌 - 福岡ユタカ(Yen Chang)with Holy Raz
(第2話)
「yanyan」
作詞・作曲・編曲 - 蓜島邦明 / マヤン語協力 - 河森正治 / 歌 - 南里侑香
(第3話)
「Forest Song」
作詞・編曲 - 蓜島邦明
(第4話)

各話リスト

話数 サブタイトル 絵コンテ 演出 作画監督
第一章 海と風と 河森正治 ところともかず 齋藤卓也
第二章 地上の星 - 西山明樹彦 齋藤卓也、大久保宏
水畑健二、仲田美歩
藤原潤
第三章 蒼き死闘 河森正治 田中孝行 齋藤卓也、水畑健二
松山光治
大久保宏(メカ)
第四章 密林 ところともかず
河森正治
ところともかず 齋藤卓也、鷲田敏弥
入江篤、水畑健二
最終章 鳥の人 工藤進 齋藤卓也、鷲田敏弥

関連商品

CD
  • 『マクロス ゼロ ORIGINAL SOUNDTRACK 1』2003年1月22日(VICL-61042)
  • 『マクロス ゼロ ORIGINAL SOUNDTRACK 2』2004年11月10日(VICL-61518)
ビクターエンタテインメントが発売。
DVD・Blu-ray
  • 『マクロス ゼロ 第一章「海と風と」』2002年12月21日(BCBA-1332)
  • 『マクロス ゼロ 第二章「地上の星」』2003年5月23日(BCBA-1333)
  • 『マクロス ゼロ 第三章「蒼き死闘」』2003年11月28日(BCBA-1334)
  • 『マクロス ゼロ 第四章「密林」』2004年5月28日(BCBA-1335)
  • 『マクロス ゼロ 最終章「鳥の人」』2004年10月22日(BCBA-1336)
  • 『マクロス ゼロ Blu-ray Disc BOX』 2008年8月22日発売 (BCXA-0062)
    この作品の『マクロスF』との関連性が強くなったため、一部DVD版にはない追加描写が加えられている。
バンダイビジュアルが発売。
ゲーム

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:マクロスシリーズ

テンプレート:河森正治
  1. ただし1999年のASS-1(マクロス)墜落という事件によって既に現実世界の歴史とは乖離しているのに加えて、『超時空要塞マクロス』制作当時の冷戦時代の世界情勢に合わせた背景設定がそのまま用いられている。
  2. 『Great Mechanics 6』2002年 双葉社 p66
  3. 『Great Mechanics 15』2004年 双葉社 p84
  4. メガミマガジンクリエイターズ Vol.11』2008年 学習研究社 p11
  5. マクロスF』第10話「レジェンド・オブ・ゼロ」 - シン・工藤の伝記を原作とした映画「鳥の人」として、本作を題材にした劇中劇が登場する。
  6. 「海面近くの戦闘シーンにおいて、機体がカメラ前をかすめた直後、飛び散った水滴がレンズに付着する」、「VF-0が本来使用不可能なはずのピンポイントバリアパンチを一瞬だけ放つ」等。
  7. 『Great Mechanics 15』2004年 双葉社 p88
  8. マクロス公式サイトでの表記。マクロスゼロ公式サイトでは13歳くらい。
  9. 「ワールドガイドシート バジュラ」『マクロス・クロニクル No.43』 ウィーヴ、2010年、27頁。