ボディマス指数
ボディマス指数(ボティマスしすう)とは、体重と身長の関係から算出される、ヒトの肥満度を表す体格指数である。一般にBMI (Body Mass Index) と呼ばれる。
ケトレー指数 (Quetelet Index) とも呼ぶ。カウプ指数 (Kaup Index) とも呼び、主に乳幼児に対して呼ばれる[1]。
体重が<math>w</math>kg、身長が<math>t</math>m(cmではないことに注意)の人のBMIは、
- <math>\mathrm{BMI}=\frac{w}{t^2}</math>
で表される。例えば身長160cm (1.6m)、体重50kgの場合、
- <math>\mathrm{BMI}=\frac{50}{1.6^2}=\frac{50}{2.56}\fallingdotseq19.5</math>
となる。
目次
歴史
「体重/身長2」からなる指数は、ベルギーの数学者、統計学者で社会学者であるアドルフ・ケトレーによって1835年に開発された[2]。その後、ドイツ(オーストリア)の衛生学者イグナーツ・カウプ (Ignaz Kaup) によって小児の発育指数として利用されるなどして普及し、1972年のKeysらの研究[3]によってこの指数が体脂肪率とよく相関することが明らかにされたことによって、身体組成研究分野における重要な指数として位置付けられ、以後、BMIと呼称されるようになった。1985年には、GarrowとWebsterの研究[4]によって、肥満度の代替指数としての有効性が検証された[5]。
この指標を使う意義
肥満は、糖尿病、高血圧、脳血管障害、虚血性心疾患などの重要な危険因子である[6]。また痩せは、栄養不良や慢性進行性疾患などで生じることがある。どの程度の肥満や痩せがあるかを正確に評価して把握することは、それらの疾患の予防や治療のために役立つ。そして、この評価に基づいて、対策を実行し、効果を判定することは意義が大きい。そのための簡便な指標が望まれる。肥満の評価には、本来は、体脂肪率や体組成の計測が行われるべきであるが、それらの計測は通常は困難である(普及している体脂肪計は、両足の間の電気抵抗を測定するに過ぎない)。このため、身長と体重から、簡便に計算されるBMIが使用される。BMIの最も良い点は、たいていの人において、体の総脂肪量とよく相関することである[7]。
スポーツ界では、選手の過度な減量を防ぎ体重による有利・不利の差を少なくする目的で、スキージャンプやノルディックスキー・コンバインドといったスキー競技の一部でBMIを用いた体重制限ルールを設けている。
判定基準
成人
BMIの計算式は世界共通であるが、肥満の判定基準は国により異なる。
- 世界保健機関(WHO)や米国国立衛生研究所(NIH)や英国国民保健サービス(NHS)では、BMI:25以上を「過体重 (overweight)」、30以上を「肥満 (obese)」としている[8][9]。ドイツ、フランス、イタリアも同様である(Wikipediaの他言語版による)。
- 日本肥満学会では、BMI:22の場合を標準体重としており、25以上の場合を肥満、18.5未満である場合を低体重としている。
状態 | 指標 |
---|---|
低体重(痩せ型) | 18.5未満 |
普通体重 | 18.5以上、25未満 |
肥満(1度) | 25以上、30未満 |
肥満(2度) | 30以上、35未満 |
肥満(3度) | 35以上、40未満 |
肥満(4度) | 40以上 |
乳幼児
BMIは、満3ヶ月-5歳の乳幼児に対して使われる。小児では、もっぱらカウプ指数と呼ばれる。
年齢 | 下限 | 上限 |
---|---|---|
乳児(満0歳(3ヶ月以上)) | 16 | 18 |
幼児(満1歳-5歳) | 15 | 17 |
日本では、新生児~生後3ヶ月未満の乳児にはBMI(カウプ指数)は使わない。学童期は主にローレル指数=10×(体重kg)÷(身長m)3が用いられている。
日本では、乳幼児健康診査に際しては、身長と体重を、別々に、パーセンタイル曲線(成長曲線)で、評価している[11]。
世界保健機関WHOのワークショップは、乳幼児肥満の判定に、BMIを採用している(判定には、BMIのパーセンタイルを用いる)[12]。また、米国疾病予防センターCDCも、小児の肥満については、BMIを求めて、BMIのパーセンタイル曲線で評価している[13]。
妊婦
妊婦の体重管理にも用いられ、妊娠週数によって正常範囲も異なる[14]。
日本肥満学会では、妊婦のBMI値が、妊娠初期(5~16週)では24.9、中期(17~28週)は27.1、末期(29~40週)は28.2を超える妊婦を肥満妊婦と判定する[15]。
週齢 | 下限 | 上限 |
---|---|---|
16 | 18.5 | 23.7 |
20 | 19.3 | 24.3 |
24 | 20.0 | 25.5 |
28 | 20.6 | 25.8 |
32 | 21.5 | 26.5 |
36 | 22.2 | 27.0 |
40 | 22.7 | 27.9 |
この両方の基準を比較すると、妊娠17週の場合には、両者の過体重の基準は、BMIで3.2ほど異なっている。身長160センチの妊婦の場合には、過体重の基準は、3.2×1.6×1.6≒8.2kg ほども、異なっている。
産婦人科診療ガイドライン2011によれば、「妊娠中の体重増加の推奨値に関しては統一見解がなく、介入研究も極めて少ない。したがって、厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスが乏しく、慎重な姿勢が求められる。厳格に体重増加を指導する根拠は必ずしも充分ではないと認識し、個人差を考慮してゆるやかな指導を心がける」としている。
また、National Collaborating Center for Women's and Children's Health(英国)のガイドラインでは、初診時に身長体重を測定して評価を行い、栄養状態に問題がある場合のみ定期的に体重を測定し、通常の妊婦健診では体重を測定すべきでないと述べている(定期的な体重測定にはメリットはなく、妊婦に不必要な心配を与えるに過ぎないとしている)[16]。
BMIと平均余命の関係
テンプレート:Double image 喫煙しない米国の白人男性及び白人女性のBMIごとの10年後の相対的死亡リスクについては、右図のように、BMI:20-24.9が最も死亡リスクが低い[17]。
日本肥満学会では、BMI:22の体重を標準体重(統計的に最も病気にかかりにくい体重)としている[10]。
例えば、肥満と糖尿病は関連があり、40-59歳の男性で、糖尿病が強く疑われる人の割合は、BMI18.5-22で5.9%、BMI22-25で7.7%、BMI25-30で14.5%、BMI30以上で28.6%であった。なお、加齢を重ねていない20-39歳の男性ではこのような大きな差は出ていなかった[18]。 1971年から1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められた[19][20]。このメカニズムとして高血糖が生体のタンパク質を非酵素的に糖化させ、タンパク質本来の機能を損うことによって障害が発生する。この糖化による影響は、例えば血管の主要構成成分であるコラーゲンや水晶体蛋白クリスタリンなど寿命の長いタンパク質ほど大きな影響を受ける。例えば白内障は老化によって引き起こされるが、血糖が高い状況ではこの老化現象がより高度に進行することになる[19]。同様のメカニズムにより動脈硬化や微小血管障害も進行する。また、糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化ストレスも増大させる[21]。
厚生労働省の研究班(研究代表者=辻一郎東北大教授)による40歳代のBMIと平均余命を調査した研究で、太り気味(BMI:25以上30未満)の人が最も長命である結果が得られた。「太り気味の人」に次いで、普通体重(BMI:18.5以上25未満)の人、肥満(BMI:30以上)の人、やせた(BMI:18.5未満)人、の順で平均余命が高いことが判明した。なお、同じ研究で、医療費の負担は太っているほど重くなることも判明し、肥満の人が40歳以降にかかる医療費の総額はやせた人の1.3倍かかっていたという[22]。
2013年1月に米国疾病対策センターCDCが発表した研究結果によれば、BMIで「過体重」に分類されたグループのほうが、「普通体重」とされたグループよりも死亡リスクが6%低かった[23]。一方で、BMIが35を超えると死亡率は普通体重に比べて29%増加する。
相似則との関係
ケトレーは統計学的手法によって「平均人(テンプレート:Lang-fr、テンプレート:Lang-en)」を示す指数として「体重/身長2」の関係を見出したが[2]、相似則に従えば重さ(体重)は長さ(身長)の3乗と相関するはずであり、事実、胎児の発育段階では相似則が保たれるため3乗と相関するローレル指数が適合する。しかし、成人では頭部の重量比率などが胎児や乳幼児とは大きく異なり、また、筋肉量に応じた放熱に必要な体表面積を確保するために相似にならない[5]。なお、アリの足は細くゾウの足は太いなど、生物は大きさに対して対称ではない。
BMIの限界
多様な肥満の病態を、身長と体重の関係のみに抽象して算出されるこの指数には自ずから限界がある。
- 体型が全く同じ相似形であっても、身長が大きくなれば、BMIはそれに比例して大きくなる。BMIは、体重を身長で2回割ったものであるから、長さの次元を持っている。体型が同じでも、身長(長さ)が増大すると、BMIも増大する。BMIは大人では22くらいが正常値であるが、3歳児では16くらいが正常値である(BMIは、カウプ指数と同じ)。BMIは、身長の低い人では、数字が小さくなるので、肥満を過小評価することになる。また過去数十年間に、大人の平均身長は増加傾向にあったが、BMIは、肥満の経年変化を過大評価することになる。
- 体脂肪率は考慮されていないため、例えばトップ・アスリートやボディービルダーのような、筋肉質で高体重で体脂肪率は低い場合は「肥満」と判定され、逆に隠れ肥満のような、体脂肪率は高いが低体重である場合には「痩せ」と判定されてしまう。また、メタボと判定された人が運動を行って脂肪を筋肉に変えると、体重は増加し、BMIは増加して、肥満は悪化したと判定されてしまう。よって、激しい運動を伴う職業に従事する者に用いる場合には、体組成計等で体脂肪率を測定した方が有効性は高い。
- 若年や高齢の男女を、同じ指標で評価しているが、若い人ほど水分含有量が多く、女性の方が水分含有量が多い。同じ体型でも、水分含有量が多ければ、体重は軽く、BMIは小さい。
- 加齢の影響で、変形性脊椎症により、背骨(脊椎)の間の軟骨が磨り減ると、身長は短く計測される。また、背骨(脊椎)の圧迫骨折により円背が生じると、身長は短く測定される。いずれの場合も、体重は一定でも、BMIは増加する。
このように欠点は多いが、BMIを上回る指標は、今のところ他に見当たらない。
- かつて、厚生労働省の「肥満とやせの判定図」が使われたことがあった。これは、男女別の10歳ごとの肥満判定図であった。毎年の健診の評価に使用すると、10年に1回、使用する図が変わるが、その際に、前年に「普通」の判定を受けた人が、体重が不変であるのに、翌年に「肥満」の判定を受けることが有り得た。現在では使われていない。
- また、小児科領域では、標準体重として、長い間「村田の表」が使われてきた。これは、男女別、1歳ごとの標準体重の表であった。誕生日が来て次の表を使う際に、年長の高身長の女児では、標準体重が一挙に数kgも増加することがあった。また、標準体重を表として固定すると、全員の体格が向上した場合には、全員が「肥満」と判定されることになる。現在は、撤回されている。
BMIには、上記のような問題が残されているものの、計算式が簡便なこともあり、成人の肥満の指標として多用されるものの一つとなっている。
脚注
関連項目
外部リンク
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