ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット、もしくはLSD解放同盟
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ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット、もしくはLSD解放同盟(Far East Acid House Quartet, Otherwise the LSD Liberation Front)は日本のレイヴ音楽グループ。おもに日本やヨーロッパので活動し、サイケデリックトランスや野外レイヴの草分けとも見なされた。通称は「ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット(Far East Acid House Quartet)」。
目次
概要
- 現在のように野外レイヴが一般化する以前の、1980年代後半から、シャーマニズム、神秘主義などをベースに、原始宗教の儀式のような呪術的なイメージを持つ、野外レイヴ・パーティをおこなっていた。
- 工事中のビルや倉庫、廃校や野外スペースなどで行われる彼らのレイヴ・パーティ「イリーガル・レイヴ」シリーズは、基本的にすべて、シークレット・パーティとして、場所や日時は公表されず、特定の人たちだけが特定の方法で参加することができた。
- 内外に「レイヴ・コミューン」を形成、国家内国家を宣言したり、マスコミ拒否を続けるなど、ヒッピー・リバイバル的思想を感じさせる活動を行っていた。
歴史
- 1988年、サイケデリック・ロック・グループ・淫心のメンバー、田嶋エリサ、スペースDJリョウ、芙苑晶、市川カヲルの四人がロンドンに滞在中、セカンド・サマー・オブ・ラブの名で呼ばれるアシッド・ハウス・ムーブメントに遭遇、グループ名を改め、結成された。結成当時のグループ名は「LSD Liberation Front(LSD解放同盟)」だった。
- 1989年、LSDやメスカリンなどのサイケデリック・ドラッグに影響を受けたファースト・アルバム『十億の神経の針(A Billion Nerve Needles)』を、ニューヨークのレーベル、 Nerve Nets Records より発表。
- 1988年、日本に帰国後、国内初と推定される野外のレイヴ・パーティをおこなう。以後、ヨーロッパや日本の各地で「レイヴ・ビー・イン(Rave Be-in)」と題する、野外レイヴ・シリーズを先駆的に行った。
- 1993年以後はクラブ出演等の公のライブ活動を停止、勢いを失った。
- 「ファー・イースト」の活動においてはトラブルも多く、1994年以降は、メンバーの逮捕、堕落や死によって活動自体が困難になっていった。1995年には市川カヲルが死去、さらに1997年には田嶋エリサがドラッグのオーバードースにより死亡するという悲劇的な顛末を迎え、これがバンド解散へとつながった。バンドは合計6枚のアルバムを残した。「ファー・イースト」の四人のメンバーのうち、他の三人は死亡したり引退しているため、芙苑晶のみが唯一の現役アーティストである。
解散後の出来事
- バンド活動期には、TV・雑誌・新聞等のマスコミには一切登場しないというポリシーを貫いたため、一般には知られることは少なかったが、解散後の2005年に公認サイトが立ち上げられ、ウェブを通じて初めて一般に情報が公開された。
- 2007年、芙苑晶の80-90年代の代表曲をトランス・レイヴ・ドーターズをはじめとする内外のDJがリミックスを手がけたクラブ・リミックス・アルバム『恍惚的宇宙論 / トランス・レイヴ・コスモロジー (Trance-Rave Cosmology)』がリリースされた(芙苑晶 with トランス・レイヴ・ドーターズ名義)。同アルバムには「ファー・イースト」の過去の代表曲として『Ibiza Breakfast(イビザで朝食を)』、『Kama Sutra Part 4 (カーマ・スートラ/愛の性典 パート4)』の2曲のトランス・リミックスが収録された。また、バンド解散と同時に音楽界を引退していたスペースDJリョウがリミキサーとしてゲスト参加したことや、その当時から仲違いしていたと言われる元・メンバーの芙苑晶・スペースDJリョウの二人の交流が、このプロジェクトを介して約十年ぶりに復活した。
- 2008年9月9日、現在の若い世代のファンからの公開質問状による「Q&A集」、同バンドの元・メンバーである芙苑晶・スペースDJリョウの二人による最新の「eメール書簡集」の二部構成によるサイト「レイヴ聖典 - 芙苑晶 + スペースDJリョウ - ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット (Far East Acid House Quartet)」が立ち上げられた。解散後、残された元・メンバーである二人は、バンドに関しては長らく沈黙を守り続けていたが、公の場で発言するのは、11年ぶりのことである。とくに「eメール書簡集」においては、テクノミュージックや野外レイヴに始まり、政治、経済、文化、世界情勢、テロリズム、さらには現代日本のニートやフリーター問題に至るまで、さまざまなテーマが語られている。
エピソード
- 当時、野外レイヴでダンサーの田嶋エリサがやっていたブードゥー教の儀式を思わせるパフォーマンス(鳥や動物の仮面をつけて登場、手首を切って自分の血を赤ワインと混ぜて飲む、鶏を殺して生き血を裸体に浴びる、等々)や、他のメンバーたちの楽器を破壊するなどの行為をはじめとする過激なイメージ、さらに、彼らのLSD愛好や、レイヴの時に客たちが興奮して踊りながら裸になってしまうといったこともあり、当時、バンドメンバーは、レイヴ上演中に風紀紊乱や騒音などの理由で何度となく逮捕されている。
グループ名について
- 正式名称は非常に長く、ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット、もしくはLSD解放同盟 (Far East Acid House Quartet, Otherwise the LSD Liberation Front) である。通称はファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット (Far East Acid House Quartet) または、ファー・イースト (Far East) 等と呼ばれることが多い。
- ロンドンでデビューした当時は、「LSD Liberation Front(LSD解放同盟)」というバンド名だったが、「LSD」という単語がバンド名の頭に入っているので、とくに保守的なイギリスの放送局ではかけてもらえない恐れがある、とプロデューサーに言われ、二番目のバンド名候補であった「Far East Acid House Quartet」と合体させたためである。
- CDブックレットなどには正式名称が載る場合もあるが、おもに通称のファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット (Far East Acid House Quartet) に統一されている。
- なお、バンドメンバーはこの「LSD」という単語について、当初は向精神薬のLSDの意味として使っていたが、のちにこれは「Living, Seeing and Dying」(生きること、見ること、そして死ぬこと)の略称でもあるとして、解釈を広げている(芙苑晶のインタビューによる)。
- 漢字では「極東幻覚的電子舞踏音楽四重奏団」とも表記される事もあるが、この漢字での表記は一種のロゴ・デザイン的なもので、バンド名ではない。
メンバー
- 田嶋エリサ (ダンス、パーカッション、民族楽器、シタール)
- スペースDJリョウ (ターンテーブル、リズム、プログラミング)
- 芙苑晶 (キーボード、シンセサイザー)
- 市川カヲル (ウィンド、ディジュリドゥ、ベース・シンセサイザー)
ディスコグラフィー
オリジナルアルバム
- 「十億の神経の針(A Billion Nerve Needles)」(1988年)
- 「心臓二金属ノ花咲ク(Metal Flowers Bloom On My Heart)」(1991年)
- 「無法的熱狂祭(Illegal Rave)」(1993年)
- 「肺魚の夢(Lung Fish Dreams)」(1995年)
- 「太陽黒点(Sunspot)」 (1997年)
- 「電気羽虫(Electric Locust)」(1998年)
ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテットの楽曲が収録されたアルバム
- 『恍惚的宇宙論 / トランス・レイヴ・コスモロジー (Trance-Rave Cosmology)』(2007年)
- (芙苑晶 with トランス・レイヴ・ドーターズ)
- 「ファー・イースト」の楽曲が収録されたアルバムとしては、2008年10月現在、唯一現行品として入手可能な音源である。
- 以下の2曲のトランス・リミックス(スペースDJリョウによる)が収録されている。
- 『Ibiza Breakfast (イビザで朝食を)』
- 『Kama Sutra Part 4 (カーマ・スートラ/愛の性典 パート4)』