対局時計
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(チェスクロックから転送)
対局時計(たいきょくどけい)は競技者の持ち時間や制限時間などを表示し、ゲームの時間管理を行なうために使用される特別な時計を指す。「チェス・クロック」または「ゲーム・クロック」とも呼ばれている。
概説
- 囲碁、将棋、チェス、その他のボードゲームの対局時に用いられる。
- アナログ式とデジタル式の2種類がある。
- 1台に2つの時計があって、対局者双方の持ち時間が表示される。自分側のボタンを押すと自分の時計が止まり、それと同時に相手側の時計が動き出すようになっている。
詳細
- 対局時計の向かって左側を「時計A」、右側を「時計B」とする。
- その上にあるボタンは、それぞれ「Aボタン」および「Bボタン」とする。
- 時計Aが先手側、時計Bが後手側にあるものとする。
アナログ式
- アナログ式は、文字盤の長針と短針により残り時間(時間の経過)を表示する。
- AとB両方のボタンを「半押し」にすることにより、時計を両方とも止めたままにすることができる。どちらかのボタンが完全に押されるまでは、この状態のままになる。
- アナログ式は対局の前に、開始時刻と終了時刻を決めておく必要がある。対局者双方が合意すれば、具体的な時刻は何時でも構わない。例えば「持ち時間が90分・終了時刻は5時」とした場合、開始時刻は3時30分にセットされる。
- 通常の時計とは異なり、時計盤の上部に小さな赤色の旗(フラッグ)がついている。この旗は、時計の長針が12の5分前になれば徐々にセリ上がり、12を超えると落ちる。
- 赤色の旗が落ちることで、時間切れを知らせる事になっている[1]。デジタル式とは異なり、旗が落ちても特に音は鳴らない[2]。
- 右図の時計Aは、旗が落ちそうになっている。あと2〜3分で旗が落ちる。
- 右図の時計Bは、旗が落ちた状態。
- 時計Aと時計Bともに、最長で12時間の持ち時間を設定できる。最短設定は1分である。
- アナログ式では、秒単位のカウントはできない。「一手30秒以内」などの設定は、機種に関係なく不可能となっている。「フィッシャーモード」などの特殊な設定も、アナログ式では不可能である。
- アナログ式の動力は、「電池式」か「ぜんまい式」である。電池が切れたり「ぜんまい」を巻かないでいると、時計は両方とも動かなくなる。
- 「ぜんまい式」の特徴の一つに、特有の「稼動音」があげられる。機種によって違いはあるが、常時「チッチッチッチッ」という音が鳴り続ける。
デジタル式
- デジタル式の表示装置により、残り時間(時間の経過)を表示する。
- デジタル式はアナログ式とは異なり、持ち時間を直接設定できる。例えば「持ち時間90分」の場合は「01:30」をそのまま入力すれば良く、開始時刻や終了時刻などを考える必要はない。
- どちらかが時間切れになれば、表示画面はゼロ(「0」「0:00」)やマイナス(「-」)等になる。
- 時間切れになると、「ビーッ!」という音で勝負がついたことを知らせる[3]。時間切れになってしまう直前に、何らかの警告音を鳴らす機種も多い。
- デジタル式の動力は、ほとんどが電池になっている。使用される電池は、時計の機種により多種多様である。電池が切れると、当然時計は動かなくなる。
- 対局時計自体も、その価格や製作時期によって機能に様々な違いがある。すべてのデジタル式の対局時計で、フィッシャースタイル等の特別設定が可能とは限らない。
- デジタル式は、どの製品も基本的に無音である。アナログ式のような、「チッチッチッチッ」という音は鳴らない。ただし、時間経過を告げる音が設定できる機種もある。(例:5分経過するごとに「ピッ」。)
- 時間が少なくなった場合には、人の声による秒読み機能がついているケースもある。多くは棋士が秒読み音声を担当しているが、声優の声が使用されているケースもある。
実際の使用
- あらかじめ対局時間を設定する。公式戦では先手と後手は同じ持ち時間になるが、非公式戦で実力に違いがあればハンデキャップも設定できる。(例:先手は1時間、後手は30分。)
- 対局開始の合図と同時に後手がBボタンを押すことで、対局時計のカウントが開始される[4]。
- 手を指したあとに、自分側のボタンを押すことによって相手側のカウントが始まる。以後、これを交互に繰り返す。
- 対局者のどちらかが設定された制限時間を超過すると、その対局者は時間切れで負けとなり対局は終了する。
配置
- 対局時計は、盤(碁盤、将棋盤、チェスボードなど)の右側または左側に配置される。公平を期すため、先手からも後手からも等間隔になる場所と決められている。
- 盤の左右どちらに置くかは、重要なポイントになる。例えば持ち時間が残り少なくなった場合、ボタンが利き手に近い対局者が(わずかでも)有利となる。
- 通常は対局前に、後手が有利になるよう配置される。ただし左利きの対局者もいるので、どちらに置くべきかは一概に言えない。
- チェスの公式戦の場合は、審判員(アービター)が対局時計の置き場所を決定する。
- 右図は1960年に行われた、チェスオリンピックの対局から。アメリカ代表のボビー・フィッシャーが、旧ソ連の世界チャンピオンであるミハイル・タリとプレイしている。ここでは対局時計は、黒(後手)の右側に配置されている。
小史
- チェスの対戦者の考慮時間を公平にするため、昔は砂時計が使用されていた。自分の手番が終わると時計を逆さまにして、砂が落ちきったら負けとされていた。
- 1866年 アンデルセンvsシュタイニツの試合で、2つのストップウォッチが使用された。立会人がそれぞれの一手ずつの消費時間を記録し、それを合計するというものだった。これは立会人の手加減が入り、いつも揉めごとになっていた。
- イギリスで対局専用の時計が考案され、現在の対局時計の原型となった。二つの振子時計をシーソー型に連結し、一方の時計の振子が動いている間、もう片方は休むという簡単な構造だった。
- 1883年 ロンドンの国際競技会で、最初の対局時計が使用された。
- 1884年 イギリスの時計会社が、対局時計に関してのパテントを取得した。
- 1989年 世界で初めてデジタル式の対局時計が登場した。これは日本製の、シチズン対局時計「名人」である。
その他
- 公正を図るために、「着手に用いる手とボタンを押す手は同じでなくてはならない」とする規定もある[5][6]。不慣れなアマチュアの場合、両手を使用すると正確な時間が計れなくなることや、勢い余って着手以前に時計を押してしまうケースもあるためである。
- プロの公式戦では、ゲームによって対局時計の取扱いに若干の違いがある。
注釈
出典・参考文献
- (囲碁)日本棋院 対局時計
- シチズン 「ザ・名人戦」 (お知らせ)
- 『最新 図解チェス 必勝の手筋』 松本康司・監修 渡井美代子・著 日東書院 ISBN 4-528-00853-x
- 『はじめてのチェス』 渡井美代子・著 成美堂出版 ISBN 4-415-02549-8
- 『挑戦するチェス』 権田源太郎・著 中央公論事業出版 ISBN 4-89514-159-4
- 『ヒガシ コウヘイのチェス入門 定跡編』 東公平・著 河出書房新社 ISBN 4-309-26001-2