カントリーリスク
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カントリーリスク (テンプレート:En) とは、海外投融資や貿易を行う際、対象国の政治・経済・社会環境の変化のために、個別事業相手が持つ商業リスクとは無関係に収益を損なう危険の度合い。
GDP、国際収支、外貨準備高、対外債務、司法制度などの他、当該国の政情や経済政策などといった定性要素を加味して判断される。多くは民間の格付会社によって公表される。
特に開発途上国においてはカントリーリスクが高く考えられることが多い。
第一次石油危機の際、多くの開発途上国において対外債務が累積し、これまでの商業リスク概念を超えた考え方が必要であるとしてカントリーリスク概念が注目されるようになった。
目次
要因
収益を損なう原因のうち何をカントリーリスクとして考えるかはさまざまな意見があるが、以下にあげるのは主なものである。
経済情勢の変化
政治情勢の変化
- 内乱や革命、その他政情不安
- 三井グループがイランと協力して設立したイランジャパン石油化学は1979年のイラン革命、1980年に勃発したイラン・イラク戦争の影響を受ける。最終的に9割がた完成していた石油プラントは放棄され、総額6,000億円もの投資が無駄になった。
- 政権と経済界との癒着、政権による企業経営への介入
- 一部の国では財閥が有力政治家と深く関わり、政権内の権力闘争により企業経営が左右される。ロシアやウクライナの政権によるオリガルヒへの介入などが代表的。
当該国の政策変更
社会的要因
- 国民の教育水準の低さ
- 警察や行政といった公務員の腐敗(賄賂による汚職や職権濫用が横行している)
- 司法制度の不備や不公正、遵法意識の欠如(法務リスク)
- 所得格差の増大や、宗教・民族対立・地域間格差などの社会問題
- 知的財産権(著作権・特許・商標など)の侵害・濫用・詐取
- 先端技術や商品製造ノウハウの流出と模倣品の氾濫
自然災害など
- 地理学的・水文学的・環境学的な要因
カントリーリスクが特に懸念される地域
アフリカや中南米といった途上国は総じてカントリーリスクが高い。またベトナムなど東南アジア諸国の一部や、イランなど中東の一部地域もカントリーリスクが懸念される。
他にロシア連邦をはじめとする旧ソ連諸国、北朝鮮などが特にカントリーリスクが高い地域である。日本では中国のカントリーリスクであるチャイナリスクが注目を集めている。
イギリスEconomist Intelligence Unitによると、2005年時点では東欧、ロシア、アメリカ合衆国、中国を除くアジア太平洋地域、中国の順でカントリーリスクが上昇している。
カントリーリスクを象徴する事件の例
- 味の素インドネシア追放事件
- ロシア政府によるサハリン1、サハリン2の開発中止命令
- 日露合弁サンタリゾート乗っ取り事件 解説HP
- チェブラーシカ#権利に関する略史
- テトリス#ライセンス
- イランの核開発問題の進行に伴うアーザーデガーン油田利権の一部喪失
- OVA版ジョジョの奇妙な冒険 Adventure6 報復の霧コーラン引用によるイスラム団体からの抗議と出版社謝罪
- ホンダ・CR-Vの意匠権を「無効」とする判決
- クレヨンしんちゃんの商標乱用
- S&Tモータースによる技術供与契約の乱用
- 台湾製不良電解コンデンサ使用によるマザーボード寿命大幅短命化問題
- 福島第一原子力発電所事故、東日本大震災による電力危機
関連項目
- チャイナリスク - 中国製品の安全性問題、中国の知的財産権問題など多数。
- ロシアリスク - 公務員の腐敗・法制度の未整備や、それらによる外国会社に対する差別的取り扱い、政商化した財閥と政権の癒着、納期遅れや一方的な契約破棄の多発など。
- コリアリスク - 主に韓国のカントリーリスク。北朝鮮の軍事的脅威、南北統一後の経済的負担の懸念、知的財産権問題、家計債務の多さなど。資源・食糧の自給率の低さ、輸出における加工産業偏重など日本と共通する面もある。また、司法が政治的影響を非常に受けやすい[1]ために国民情緒法による訴訟のリスクが著しい。
- アメリカリスク - アメリカ合衆国のカントリーリスク。州単位の地方分権であるため、州により大きな差がある。訴訟社会(サブマリン特許)、著作権延長法に見られる自国利益最優先の事後法ゴリ押し、家計債務の多さ、一部地方での地震・竜巻多発、電力業界自由化の行き過ぎによる停電多発など。
- ジャパンリスク - 日本特有のカントリーリスクとしては、巨大地震を含め地震・火山活動・台風などの自然災害が多いことや、原子力発電所が集中することによる原子力事故のリスクの高さ、円高、政府の累積債務の多さ、資源・食料の自給率の低さ、貿易輸出額に占める加工産業への高依存・偏重などが挙げられうる。
- ソブリン格付け
- アジア通貨危機
- 国債
- リスクマネジメント
- コーポレートリスク
脚注
外部リンク
- Economist Intelligence Unitのページ - EIUはイギリスのThe Economist傘下の企業間事業部門である。例えば、Press releaseから2005年4月14日付けの" Global business risk rose sharply in first quarter of 2005, according to new Corporate Risk Barometer"を開くと、地域別のカントリーリスクの上昇率などを参照できる。