四塩化炭素
四塩化炭素(しえんかたんそ、テンプレート:Lang-en-short)あるいはテトラクロロメタン(テンプレート:Lang-en-short)は、化学式 CCl4 で表される化学物質である。溶媒などとして用いられる。
概要
常温では無色透明の液体で、わずかに甘い特異臭をもつ。水に溶けにくい。エチルアルコールやベンゼンなどと任意の割合で混合する。以前は溶媒のほか、消火剤や冷却材に広く利用され、俗に四塩炭(しえんたん)とも呼ばれていたが、その毒性の為に既に使用が廃止された。現在では試薬としてのみ流通している。
四塩化炭素、テトラクロロメタンのどちらも IUPAC名として利用できるが、これは無機化合物と見るか有機化合物と見るかで区別されているためである。
工業的製法
四塩化炭素の多くは二硫化炭素の塩素化により生産されている。反応温度は 105 ℃ から 130 ℃ である。
- CS2 + 3Cl2 → CCl4 + S2Cl2
またジクロロメタンやクロロホルム生産時の副生成物としても得られてくる。
- CH4 + 4Cl2 → CCl4 + 4HCl
化学的性質
四塩化炭素分子は1個の炭素に4個の塩素が結合した四面体構造を取っている。このため分子全体としては双極子モーメントを持たず、無極性分子である。
溶媒としては、他の無極性物質を溶解するのに適している。揮発性があるため、他の塩素系溶媒と同じく特有の臭気を発する。炭素−水素結合がないため、四塩化炭素がフリーラジカル反応を起こすことは難しい。このためハロゲンガスや NBS 等を用いたハロゲン化反応に利用することができる。
通常の温度では引火性はない。
高温下で金属と接触させることによりホスゲンが生成する。水分が共存すると徐々に分解し、鉄などの金属を腐食するので、水分の混入を避けて、風通しのよい冷所に保管する。
利用
20世紀前半には、ドライクリーニングの溶剤、冷却材、消火器の薬剤などに幅広く利用されていた。また機械器具の脱脂に使われ、オーディオなどでは接点復活剤やテープレコーダーヘッドの清掃溶剤として用いられてきた。しかし健康への悪影響が明らかになってくると代替物質への転換が進み、1940年をピークに使用量は減少していった。その後も貯蔵穀物に対する農薬として利用されていたが、アメリカ合衆国では1970年に消費財への使用が禁止された。
モントリオール議定書が成立するまでは、フロンの原料としても大量に使用されていた。その後フロンや四塩化炭素自体がオゾン層破壊物質と考えられるようになったため、四塩化炭素の使用量も減少していった。日本やアメリカ合衆国といった先進国では1996年までに生産が全廃されたが、発展途上国では2006年現在でも生産が認められている。
ニュートリノの検出にも用いられる。またアッペル反応では塩素源として利用される。
IRスペクトル(赤外分光測定)では > 1600 cm−1の領域で大きなシグナルを持たないため、時として赤外分光測定において便利な溶媒として用いられることがある。また水素原子を持たないため、1H−NMRの溶媒としても長年用いられてきた。しかし毒性が大きく溶解力が小さいという欠点を持っているため[1]、分光器によりロックをかけることができる重溶媒を用いることが主流となった。
安全性
麻酔性があり、高濃度の蒸気や溶液に晒されることにより中枢神経に悪影響を与え、長期に曝露するなどした場合は昏睡、そして死亡する可能性がある。また慢性的な暴露により肝臓や腎臓に悪影響を与え、時としてがんになる可能性もある。作用機序としては、四塩化炭素がシトクロムP450(cytochrome P450 2E1) により代謝され、反応性の高いトリクロロメチルラジカルを生じるというものが考えられている。国際がん研究機関の発がん性評価では、グループ2Bの「発がん性の可能性がある物質」に分類されている。取り扱う際にはMSDSなどにより情報を収集し、十分に注意を払う必要がある。
日本では労働安全衛生法により第1種有機溶剤に、PRTR法により第1種指定化学物質に、毒物及び劇物取締法により原体と製剤が劇物に指定されている。