化学物質
化学物質(かがくぶっしつ、chemical substance)という言葉は、分野や文脈に応じて以下のような様々な意味で用いられている言葉である。
- 原子、分子および分子の集合体や高分子重合体のような、独立かつ純粋な物質[1]。混合物や不純物が多いものは除外される。特に化学が研究対象とするような物質[2]。
- 元素または化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物(化審法における定義)。
- 人工的、あるいは工業的に合成した物質。天然物に対する概念として用いられる。なお広辞苑は、この意味の存在に言及した上で「元々このような意味はない」と指摘している[2]。テンプレート:独自研究範囲よって、訳語として用いられて後に類推や語感によって日本語の「化学物質」という言葉に付与されてきた意味というのが、「原義と異なる」ものとして排除されるべきかどうかには議論があるテンプレート:要出典。
アメリカ化学会が発行している Chemical Abstracts 誌で使用される化合物番号(CAS登録番号)が付与された物質の数は約3000万種であり、うち工業的に生産されているもの(すなわち上記3に該当する物質)は約10万種、世界で年間1000トン以上生産されるものは5000種程度とされる。
欧州連合(EU)では新たにREACH (Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals) を定め評価実施を行っている。
以下、特に断りがなければ上記の定義のうち3の定義による「化学物質」について述べる。
日本の法令における定義
- 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 - 元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物(放射性物質を除く)をいう。
- 労働安全衛生法 - 元素及び化合物をいう。
- 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律 (PRTR法)- 元素及び化合物(それぞれ放射性物質を除く)をいう。
化学物質と危険性
現在、世の中に存在する化学物質は何十万種とあり、市場で広く出回っているものだけでも数万の物質がある[3]。
一般に化学物質と言うと危険というイメージが広がっている。確かに化学物質は使用方法によっては有害なものもある一方で、昔から人間が生活で用いてきたものも多い[4]。そういったものとしては、例えばアルコールや染料などが挙げられる。市場で出回っている化学物質の中で有害とされてきた物質は1割ほどではないかとも言われている。ただし、従来「安全」とされてきた物質であっても使いかたによっては健康に悪い影響を与えることがあることも徐々に判明してきている。また同様に、家屋の密閉度が高くなったことで、今まで見過ごされていた化学物質がシックハウス症候群といった症状を引き起こすようなケースも現れてきている[3]。
化学物質は固体、液体、気体(ガス)、ミスト等々の状態で我々の周りに存在している。固体が特に問題となるのは粉状になっている場合である。口の中や鼻の穴にとどまることになる。一部は咳とともに体外へと排出されるが、人間の鼻や口からは絶えず粘液が流れ出ており、その多くが胃へと流れてゆく。つまり呼吸により鼻や口へと入った粉は、気管や肺に溜まったり、やがて、胃などの消化器系へと移動してしまう可能性が高い。気体の化学物質は主として肺から吸収される。一部は肺以外の粘膜を通して血液中へと移動する[3]。
危険性の高い化学物質から身を守る方法
日常生活や一般の仕事の場で、危険性の高い化学物質から身を守る方法としては次のようなことが挙げられている[5]。
- 口に入れない、唇に接触させない。
- においを嗅がない。吸い込まない。
- 素肌・素手で触れない。
- 化学物質どうしを近づけない。
- やむを得ず扱う時は換気を確保し、風上に身を置く。
- 保管は屋外の離れた場所にする。
化学物質による食中毒
食中毒の中でも、何らかの原因によって鉛、ヒ素などの無機物質、PCB、メチルアルコールなどの有機化合物などの化学物質が食品中に混入し人を侵襲して起きる食中毒は「化学物質による食中毒」と定義されている[6]。
日本で起きた「化学物質による食中毒」事件で特に知られた件に限っても、今までに以下のような事件が起きている[6]。
- 富山県神通川の流域住民の方々にイタイイタイ病が起きたのは、金属鉱業所と関連施設から排出されたカドミウムが原因とされている(イタイイタイ病事件、1945年頃から)。
- 砒素によって粉ミルクが汚染された事件(1955年)(森永ヒ素ミルク事件)。
- 米ぬか油へのPCBが混入したとされた事件(1968年) (カネミ油症事件)。
- 工業用メチルアルコールによる中毒事件(1974年)。
化学物質が人の口を通して健康に被害をもたらす例として、ヒ素による中毒が挙げられる。日本では、茨城県で高濃度のヒ素が井戸水から検出され健康への影響が出ているとされており、他国ではバングラデシュ、中国、ネパール、ベトナム、カンボジアなどのアジア諸国においてヒ素による中毒が広がっているという[6]。
食中毒には様々な原因のものがあるが、他の原因の食中毒であれば消費者の側で予防することができる場合があるのに対して、化学物質による食中毒というのは消費者の側で予防することは困難だということが言える[6]。
出典
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 2.0 2.1 岩波書店『広辞苑 第六版』
- ↑ 3.0 3.1 3.2 亀井太『化学物質取扱いマニュアル』pp. 9–15
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 亀井太『化学物質取扱いマニュアル』
- ↑ 6.0 6.1 6.2 6.3 社団法人日本食品衛生協会『食品衛生責任者ハンドブック 第4版』p.86
参考文献
- 米谷民雄『食品中の化学物質と安全性』日本食品衛生協会、2009年。ISBN 4889250301。