ブルドーザー
ブルドーザー(Bulldozer)とは、土砂のかきおこしや盛土、整地に用いる建設機械のこと。ブルドーザともいう。
解説
トラクターの前面に可動式のブレード(排土板)を装着していて、進行方向に土砂を押しだす。中には後部に土砂や岩盤を掻き起こす爪(リッパ)を装着する車両もある。
現在、ブルドーザーを生産している主な会社は、アメリカのキャタピラー社と日本の小松製作所(コマツ)であり、2社で世界市場をほぼ寡占する状態となっている[1]。
概して開発途上国ではブルドーザーの需要は高く、先進国では低い。
歴史
1923年にアメリカ合衆国のカミングスとマクロードにより発明されたのが最初。
「ブルドーザー」という名称の由来について、日本では「ブルドーザーが発明される以前は牛に整地をさせていたが、ブルドーザーが発明されてから牛が居眠りするほど役目がなくなったことから、英語で「雄牛」のBull と「居眠り」のDozeを合成させたBulldozerとなった[2]」といった説明がなされることがあるが、誤りである。"bulldoze"という単語は、"bull's dose"(文字通りの意味は「雄牛に薬を与える」)に由来し、これは「強引に推し進める」といった意味でブルドーザーが出現する前の1880年代から使用されていた[3][4]。
黎明期のブルドーザーは車輪を用いていたが、後にキャタピラー社が無限軌道(クローラ)を装着した製品を生産するようになり、不整地で活躍する性質から無限軌道が一般的な形態となった。現在では、車輪を用いる機械をホイールドーザー、無限軌道を用いるものをブルドーザーとして分けている。
日本のブルドーザーは戦前から京都帝国大学で研究されていたが、動く事がほとんどなかった。最初の使用は鉄道省(国鉄)信濃川発電所(現:JR東日本信濃川発電所)のうち、千手発電所関連の工事であり、1940年(昭和15年)頃から使用された。現地責任者であった国鉄の技師 三好新八は米国キャタピラー社から何台かのブルドーザーを輸入し工事に使用した。当時、米国と日本は緊張状態にあったが、米軍の制式に指定されたモデル以外は輸入が可能であった。最初の運転は三好本人が行い、マニュアル記載の手順通り行ったところ、一発でエンジンが掛かったことが印象的であったとのことである。
太平洋戦争突入以降に軍から技術者が派遣され、現地で本輸入機のスケッチが行われたこともあった。戦争初期に日本海軍がアメリカの拠点を占領した際、米軍が乗り捨てて行ったブルドーザーを発見。何に使うものか見当がつかない所を、捕虜にされた米軍の工兵隊が動かしてみせたのがブルドーザーと日本人の本格的な出会いである[5]。これまで肉体作業でやって来た土木工事を、短時間で大量にやってしまうブルドーザーを見て、海軍の関係者は「これ程技術と作業速度に差があるなら、日本はアメリカとの戦争に負けるだろう」と悟ったと言われている[6]。このブルドーザーは小松製作所に送られ、国産化する為の研究が行なわれた。開発期間を短縮するため既に存在していたG40型ガソリン牽引車に油圧ドーザーブレードを追加したものが「小松1型均土機」として海軍設営隊に採用され、1943年から約150台が生産された。小松1型均土機は、コマツテクノセンター(静岡県)に一台が保存されており、日本機械学会の認定機械遺産となっている[7]。なお、陸軍は火砲牽引車にドーザーを付けたトイ車を採用し、終戦までに80台が生産された。
特殊なブルドーザー
- ドーザーショベル
- ブレードの代わりにバケットを装備したもので土砂を盛ったりトラックに積み込んだりできる。
- トリミングドーザー
- 両面が使用可能なブレードを装備したもので、進行方向に土砂を押すだけでなく、バックしながら土砂を引き寄せることもできる。
- 水陸両用ブルドーザー
- 浚渫船の出入りできない浅瀬や狭い水路での作業を行う。操縦は車体上部に組んだ櫓の上に乗って操作するか、陸地から無線で行う。動力は通常のエンジンであるが、吸排気用に長いパイプが上に伸びている。
- 日本では小松製作所(コマツ)が1968年から旧建設省の指導の元で開発に着手した。当初から無線操縦が念頭に置かれており、現場投入が「遠隔操作による施工」の最初の例でもあるという[8]。需要の低迷により1993年に製造中止、2013年時点で国内にあるコマツ製の5台だけが現存機だった。
- 2013年に東日本大震災の破損した橋脚工事の為、所有していた青木あすなろ建設はコマツに修理を依頼したが、コマツでも専用部品や図面の一部が紛失していた。しかし開発に携わったOBや協力企業などの協力を得て1年掛けて修理、原価で納品した。[9][10]
- 水中ブルドーザー
- ダイバーによる有線遠隔操縦によって海底を走行し、作業を行う。動力には電動モーターが使用されている。
製造会社
現在製造している会社(日本国内)は以下の通り。
- コマツ - 小型から世界最大級のモデルまでラインナップあり。また水陸両用ブルドーザー、水中ブルドーザーなどの応用機も製造実績あり。
- キャタピラージャパン - 小型、中型機の一部のクラスは日本でも生産している。大型機は海外から輸入。ハイブリッドタイプの製造も行っている。
過去に製造していた会社は以下の通り(日本メーカーのみ)。
- 三菱重工業 - 小型から30t超級までを製造。のちにキャタピラー社との合弁会社「キャタピラー三菱」(昭和62年に新キャタピラー三菱、平成20年8月よりキャタピラージャパン)設立に伴い、小型クラスのBD2を除き順次生産終了。
- 日立建機 - 通常のブルドーザに加え、水中ブルドーザを開発するなど力を入れていたが、昭和40年代後半に製造終了。のちに古河機械金属、米国ジョンディアよりOEMを受け、一時期販売するも、こちらも現在は販売終了している。
- 日特金属工業 - 昭和30~40年代当時湿地ブルドーザと言えば日特と言われた。
- 古河鉱業(古河機械金属) - 4t級のブルドーザを製造。日立建機、クボタにOEM供給していた。
- ヤンマーディーゼル - 小型のブルドーザを製造。
- 久保田鉄工(クボタ) - 小型のブルドーザを製造。
など
軍用ブルドーザー
テンプレート:Double image aside ブルドーザーは軍用でも用いられる。陣地や塹壕の造営といった任務だけでなく、敵の築造した塹壕やバリケードといった障害の排除にブルドーザーが有効だからである。
イスラエル国防軍は、米国キャタピラー社のタイプD9(en)のキャビン・エンジン、その他を装甲し、機関銃・発煙弾投射機・擲弾発射機などを取り付けたものを多数保有し、新規入植地など紛争地帯で敵対勢力の立てこもる家屋を壊す一種の兵器として使用している。2003年にはガザ地区で抗議活動を行っていた米国人女性レイチェル・コリーが同車に轢かれて死亡する事件が起こっており、このため米国内ではD9のイスラエル向け輸出に対する反対運動が起きている。
D9装甲ブルドーザーのように民生品を改造したブルドーザーがある一方で、最初から軍用として開発されたブルドーザーもある。一般的にブルドーザーの最高速度は遅いが、アメリカ軍のM9ACEは戦車と同等の速度と航続距離を持ち、最前線に進出して塹壕を兵士ごと埋める戦法を行った。陸上自衛隊が保有する75式ドーザは、砲煙弾雨の中で作業できるように弾片や小銃弾に対する装甲が施されている。また、ブルドーザーを保有せずとも、工兵車両や戦車などの装甲戦闘車両にドーザーブレードを装備して、整地や塹壕掘り、バリケード破壊などに用いられる事も多い。
この他、イラン・イラク戦争における第5次ヴァル・ファジュル作戦では、イラン側が日本製ブルドーザーを投入、ドーザーブレードで銃弾から歩兵を守る盾となった。
短編映画(教材)
ブルドーザーの建設現場に於ける活用方について順序立てて解説するための短編映画が2本制作されている。
何れも建設技術教育映画製作委員会の企画の下につくられた「建設技術教育シリーズ」[11]の一作品としてラインナップされている。
- 『ブルドーザ 点検・整備編』
- ブルドーザー本体の構造、機能及び動作について解説すると共に、メンテナンスの方法についての説明も為されている。
- 『ブルドーザ 施工編』
- 建設現場に於ける土工作業が実際どのような手順を踏んで行われているのか、またどのような機械(ブルドーザーなど)が用いられているのか、解説している。
2本ともニッポン報道映画社が制作にあたったが、制作に際し建設省(現・国土交通省)の監修を受けているほか、建設広報協議会や全国工業高等学校長協会などからの後援を、そして小松製作所からの協賛を、それぞれ得ている。
現在は2本とも科学映像館(NPO法人・科学映像館を支える会)のWebサイト上に於いて無料公開されている。
脚注
- ↑ プロジェクトX 230ページ
- ↑ プロジェクトX 176ページ、のりもの博物館8-VHS(1989年発売)
- ↑ 建設機械の歴史 山﨑建設ウェブサイト「土工教室」
- ↑ History of the Bulldozer(英語)
- ↑ テンプレート:要出典範囲。
- ↑ 阿川弘之『米内光政 下巻』
- ↑ 小松一式均土機(G40型ブルドーザ) コマツテクノセンター
- ↑ 無線遠隔操縦式水陸両用ブルドーザの活用状況
- ↑ 水陸両用ブルドーザー、被災地で活躍 旧型をコマツ改修(朝日新聞デジタル 2013年02月07日11時45分)
- ↑ 水陸両用ブルドーザー、被災地で活躍 asahicom
- ↑ 映画の冒頭で「建設技術教育シリーズ」の表示が為される(2本とも)
参考文献
関連項目
外部リンク
- 短編映画(科学映像館Webサイトより)