ニュートン力学
ニュートン力学(ニュートンりきがく、テンプレート:Lang-en)とは、アイザック・ニュートンが、運動の法則を基礎として構築した、力学の体系のことである[1]。 「ニュートン力学」という表現は、アインシュタインの相対性理論、あるいは量子力学などと対比して用いられる[1]。
概要
静止物体に働く力の釣り合いを扱う静力学は、ギリシア時代からの長い年月の積み重ねにより、すでにかなりの知識が蓄積されていた[1]。ニュートン力学の偉大さは、物体の運動について調べる動力学を確立したところにある[1]。
ニュートン力学は古典物理学の不可欠の一角を成している。「絶対時間」と「絶対空間」を前提とした上で、3 つの運動の法則(運動の第1法則、第2法則、第3法則)と、万有引力の法則を代表とする二体間の遠隔作用として働く力を基礎とした体系である。広範の力学現象を演繹的かつ統一的に説明し得る体系となっている。
ニュートン力学は、1687年のニュートン自身による、3巻から成る著作『自然哲学の数学的諸原理』(略称: プリンキピア、Principia)を通して公表された[1]。ニュートン力学の主要な点はすべてこの中に含まれていると言ってもよい[1]。
『プリンキピア』の表現形式は、ユークリッド原論に倣った作図を用いて幾何学的証明を積み上げる方式を採っている。この表現の中には、エルンスト・マッハが指摘したように十分に論理的とは言えない点も含まれており、その後の時代の多くの人々によって整理しなおされ、別の説明方法も与えられている[1]。 今日的な「ニュートン力学」の解説は『プリンキピア』とは様相が異なったものとなっており、大学などで「ニュートン力学」と呼ばれている体系は、これを出発点としつつも多くの人々によって改良された、相対論以前の古典力学の体系と見なすのが適切である。
『プリンキピア』の冒頭部分は質量、運動量、慣性、力などの定義にあてられているが[2]、重さという概念の他に質量という概念を導入したことが画期的だとされている[1]。
なお、一般向けの図書などで、「ニュートンが運動に関する原理を発見した」といった表現がされることもあるが、物理学史的な研究の立場からは、先人であるシモン・ステヴィン、エドム・マリオット、ガリレオ・ガリレイ、ヨハネス・ケプラーらによって既に定量的に発見、研究されていた法則や、ルネ・デカルトの考え方、あるいは同時代に活動したロバート・フックを代表とする科学者、自然哲学者たちが得ていた知見を、ニュートンが数学的記述を用いて体系的にまとめあげた面が大きいことも指摘されている。
質点に関する運動の法則
ニュートン力学は、物体を「重心に全質量が集中し大きさをもたない質点」とみなし、その質点の運動に関する性質を法則化し、以下の運動の3法則を提唱した[3][注釈 1]。また、これらの法則は、質点とは見なせない物体(剛体、弾性体、流体などの連続体)に対しても基礎となる考え方である[4][5]。
- 第2法則(ニュートンの運動方程式)
- 質点の加速度 <math>{\vec{a}}</math> は、そのとき質点に作用する力 <math>{\vec{F}}</math> に比例し、質点の質量 <math>{m}</math> に反比例する[7][注釈 3][注釈 4]。
- <math>\vec{a} = \frac{\vec F}{m}\,.</math>
- 第3法則(作用・反作用の法則)[8][注釈 5]
- 二つの質点 1, 2 の間に相互に力が働くとき、質点 2 から質点 1 に作用する力 <math>{\vec{F}_{21}}</math> と、質点 1 から質点 2 に作用する力 <math>\vec{F}_{12}</math> は、大きさが等しく、逆向きである。
- <math>\vec{F}_{21} = -\vec{F}_{12}\,.</math>
力学分野における数多くの法則や定理は、基本的には、上の三つの法則から導出されるものである。 また、位置ベクトルの時間に対する 2 階の常微分方程式である運動方程式は、ある時刻の位置と運動量(あるいは速度)を与えれば、あらゆる時刻の運動状態が確定する方程式であり、その意味で、ニュートン力学は決定論的であるとされる。
継承と発展
テンプレート:古典力学 ニュートンの力学は、その後、ダニエル・ベルヌーイ、レオンハルト・オイラー、ピエール・ルイ・モーペルテュイ、ジャン・ル・ロン・ダランベール、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ、ピエール=シモン・ラプラス、ガスパール=ギュスターヴ・コリオリらによって、今日的な力学体系の形にまとめ直され、ラグランジュやウィリアム・ローワン・ハミルトンによる解析力学へと発展した。
電磁気学が19世紀に発展した結果、電磁気学とニュートン力学が互いに矛盾することが問題となった。電磁気学における基本方程式であるマクスウェル方程式は、ニュートン力学における運動方程式と異なり、ガリレイ変換に対する普遍性を持たず、慣性系によらず電磁気学の法則が成り立つならばそれは相対性原理を修正することになる。逆に、ニュートン力学とガリレイの相対性原理が正しいならば、マクスウェル方程式は一般の慣性系では成り立たず、電磁気学を修正する必要がある。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ハインリッヒ・ヘルツ、ジョージ・フィッツジェラルド、ヘンドリック・ローレンツ、アルベルト・アインシュタインらの仕事によって、マクスウェルの理論の正当性が検証され、ニュートン力学は修正されることになる。 修正された新しい力学は特殊相対性理論と呼ばれ、ガリレイの相対性原理ではなくアインシュタインの相対性原理を基礎とし、ローレンツ変換に対して普遍な力学である。
その後に発展した一般相対性理論までの完成された力学は「古典力学」と呼ばれ、1920年代に成立した量子力学と区別される。 量子力学では局所実在論が成立せず、その意味でニュートン力学などの古典論とは決定的に異なっている。
解析力学
テンプレート:Main ニュートン力学はラグランジュ形式やハミルトン形式で再定式化された。これらは、ニュートンの運動法則を座標系の取り方によらずに一般的に成立するように構成されたもので、ラグランジュ形式では、最小作用の原理(変分原理)からニュートンの運動方程式を再現する。ハミルトン形式では、正準変数とポアソン括弧を用いることにより、ニュートンの運動方程式に対応する正準方程式を対称な形で表現することができる。
現代物理学での位置付け
現代の物理学の視点では、ニュートン力学は、「巨視的なスケールでかつ光速よりも十分遅い速さの運動を扱う際の、無矛盾・完結的な近似理論」と理解される。
特殊相対性理論は、物体の速さが光速よりも十分遅い条件下ではニュートン力学で十分近似されるし、量子力学の結果は、対象物体の質量を大きくした極限では、ニュートン力学の運動方程式の解と一致する。また、「ニュートンの万有引力理論は、重力が弱い場合の一般相対性理論の近似である。」とも言われる。例えば、人工衛星や惑星探査までを含む宇宙航行の運動の予測を行う際には、ニュートン力学を用いて十分な精度で計算できる場合が多い。
出典
注釈
参考文献
- テンプレート:Cite book
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関連項目
- ニュートンの運動方程式
- 万有引力
- 剛体の力学
- 振動運動
- 時間 - 空間 - ガリレイ変換
- 修正ニュートン力学
- 古典力学 - 解析力学(ラグランジュ力学、ハミルトン力学)
- 現代物理学 - 量子力学、 特殊相対性理論、一般相対性理論
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 『改訂版 物理学辞典』培風館。
- ↑ Newton (1729) pp. 1–7, Definitions .
- ↑ 松田哲 (1993) pp. 17-24。
- ↑ 砂川重信 (1993) 8 章。
- ↑ 原康夫 (1988) 6-9 章。
- ↑ Newton (1729) p. 19, Axioms or Laws of Motion . "Every body perseveres in its state of rest, or of uniform motion in a right line, unless it is compelled to change that state by forces impress'd thereon ".
- ↑ Newton (1729) p. 19, Axioms or Laws of Motion . "The alteration of motion is ever proportional to the motive force impress'd; and is made in the direction of the right line in which that force is impress'd ".
- ↑ Newton (1729) p. 20, Axioms or Laws of Motion . "To every Action there is always opposed an equal Reaction: or the mutual actions of two bodies upon each other are always equal, and directed to contrary parts ".
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