シェヘラザード (リムスキー=コルサコフ)
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テンプレート:Portal クラシック音楽 『シェヘラザード』(Шехераза́да)作品35は、1888年夏に完成されたニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲である。千夜一夜物語の語り手、シェヘラザード(シャハラザード、シェエラザード)の物語をテーマとしている。シェヘラザードを象徴する独奏ヴァイオリンの主題が全楽章でみられる。各楽章の表題は本来は付けられていない。作曲途中では付けられていたものの、最終的には『アンタール』のように《交響曲第4番》として聴いてもらうために除去したものといわれている。
日本での演奏会、録音媒体などでは「シェエラザード」と表記されることが多い。
作曲の経過と初演
『シェヘラザード』作曲の頃のリムスキー=コルサコフは、全生涯のうちで最も作曲意欲が湧き上がっていた時期にあり、この作品の前に『スペイン奇想曲』、後に『ロシアの復活祭』序曲といった代表作が作曲されている。1888年8月7日に完成したとみられ、同年中にサンクトペテルブルクの交響楽演奏会にて初演された。総譜は1889年に出版された。
日本での初演は1925年4月26日に歌舞伎座における「日露交歓交響管弦楽演奏会」にて、山田耕筰指揮の日露混成オーケストラによるものが初演と見られている。戦前期の日本では難曲とみられており、第二次世界大戦末期の満州でこの曲を指揮したことがある朝比奈隆によれば、当時としては「マーラー級の大曲」だったという。
演奏時間
約45分
楽器編成
構成
- 第1楽章《海とシンドバッドの船》
- ホ短調 - ホ長調
- 力強いユニゾンはシャリアール王の主題、ハープ伴奏の独奏ヴァイオリンがシェヘラザードの主題を示す。これらの序奏が終わったあとに主部となり、うねるような海の様子をよく表す伴奏音型にのって、海の主題、船の主題がつづく。シャリアール王とシェヘラザード王妃の主題が絡み合う。
- 第2楽章《カランダール王子の物語》
- ロ短調
- カランダールとは諸国行脚の苦行僧のこと。シェヘラザードの主題に始まり、ファゴットによる3/8拍子のメロディがカレンダー王の主題を示す。その後、中間部ではトロンボーンやトランペットの力強い響きが特徴的。そしてさまざまな主題が絡み合い、力強く激しく終わる。
- 第3楽章《若い王子と王女》
- ト長調
- 主部では歌謡的主題をヴァイオリンがゆったりと奏でる。中間部では独特な小太鼓のリズムに乗って、クラリネットが快活な舞曲風の王女の主題を奏する。シェヘラザードの主題を挟みながら、静かにやさしく終わる。
- 第4楽章《バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲》
- ホ短調 - ホ長調
- 1楽章のシャリアール王の主題がテンポ違いで示されたあとに、シェヘラザードの主題がそれを受けるところから始まる。主部となり、バグダッドの「祭り」の主題が6/16拍子で激しく奏でられる。前楽章の各主題も回想されつつ、徐々に曲は盛り上がっていく。その頂点で荒れ狂う波に呑まれる船の難破の場面に変わり、そして穏やかに波が引く描写となり「海」の主題を静かに再現、独奏ヴァイオリンのシェヘラザードの主題を奏して、消え行く様に終結する。
代表的な録音
- エルネスト・アンセルメ指揮:スイス・ロマンド管弦楽団(1960年録音)
- ヴァイオリン・ソロはローラン・フニヴ。
- レオポルド・ストコフスキー指揮:ロンドン交響楽団(1964年録音)
- ヴァイオリン・ソロはエーリヒ・グルーエンバーグ。
- ストコフスキーは都合5回この曲を録音しており、1975年録音のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との演奏や1951年のフィルハーモニア管弦楽団との演奏、1934年のフィラデルフィア管弦楽団との演奏などがある。1975年のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団でのヴァイオリン・ソロは1964年のロンドン交響楽団との録音と同じくエーリヒ・グルーエンバーグ。1951年のフィルハーモニア管弦楽団ではマヌーグ・パリキアン、1934年のフィラデルフィア管弦楽団ではアレクサンダー ・ヒルスバーグがヴァイオリン・ソロを担当している。
- ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1967年録音)
- ミシェル・シュヴァルベによるヴァイオリン・ソロ。
- エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮:ソヴィエト国立交響楽団(1969年録音)
- ヴァイオリン・ソロはゲンリヒ・フリジゲイム。
- 他にロンドン交響楽団とのスタジオ録音・ライヴ録音(ともに1978年録音)がある。ヴァイオリン・ソロはジョン・ジョージアディス。
- キリル・コンドラシン指揮:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1979年録音)
- メンゲルベルク時代から在団するヘルマン・クレッバースがソロを担当。
- セルジュ・チェリビダッケ指揮:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(1984年録音)
- ライヴを放送用に録音した音源。ヴァイオリン・ソロはヴェルナー・グロープホルツ。
- チェリビダッケには、シュトゥットガルト放送交響楽団との放送用のライヴ音源(1982年録音)もある。シュトゥットガルト放送交響楽団とは、これとは別に1982年11月のスタジオでのカラー映像演奏記録もある。ヴァイオリン・ソロはどちらもハンス・カラフースが担当。
- ウラジミール・フェドセーエフ指揮:モスクワ放送交響楽団(1994年録音)
- ヴァイオリン・ソロは木野雅之。
- ヴァレリー・ゲルギエフ指揮: キーロフ歌劇場管弦楽団(2001年録音)
- デジタル録音。ヴァイオリン・ソロはセルゲイ・レヴェーチン。
先行する音楽作品
『シェヘラザード』は次の作品の影響を受け、あるいはアイディアを取り入れて成立したと言える。
その他
- フィギュアスケート選手の伊藤みどりが1989-1990シーズンにLPで使用し、1990年の世界選手権で準優勝した(LPのみでは1位)。2001-2002のシーズンにはミシェル・クワンがLPに使用し、ソルトレイクシティオリンピックで銅メダル、世界選手権で準優勝する。また安藤美姫は2006-2007シーズンのSPで使用し、2007年世界選手権女王になった。2008-2009のシーズンには金妍兒がこの楽曲を使用し、2009年の世界選手権女王になった。2009-2010のシーズンではエヴァン・ライサチェクがこの楽曲をFPで使用し、バンクーバーオリンピックで金メダルを獲得した。
- 2000年代の現代でも人気を誇る1966年のソ連コメディー映画「コーカサスの女囚もしくはシューリクの新たな冒険(Кавказская пленница, или Новые приключения Шурика)」で使用されるコミカルな歌「もし俺がスルタンだったら(Если б я был султан)」のイントロ部分で3楽章のヴァイオリンとオーボエの掛け合いの部分が使われており、本国ロシアではそのメロディーとしても有名である。
- 作曲者自身による、ピアノ連弾版が存在する。