地球の大気
地球の大気(ちきゅうのたいき、テンプレート:Lang-en-short[1])とは、地球の表面を層状に覆っている気体のこと[2]。地球科学の諸分野で「地表を覆う気体」としての大気を扱う場合は「大気」と呼ぶが、一般的に「身近に存在する大気」や「一定量の大気のまとまり」等としての大気を扱う場合は「空気(air)」と呼ぶ。
大気が存在する範囲を大気圏(たいきけん)[3]、その外側を宇宙空間という。大気圏と宇宙空間との境界は、何を基準に考えるかによって幅があるが、便宜的に地表から概ね500km以下が地球大気圏であるとされる。
目次
用法
地球を覆う気体の層であることを強調する場合は「大気圏」、その気体そのものを指す場合地球科学では「大気」、それ以外では「空気」と言い、使い分けられる[2][2]。英語では大気圏や大気を指す場合"atmosphere"[注 1]。空気を指す場合"air"と呼ぶ[4]。
地球大気の区分
地球大気の鉛直構造
大気は、温度(気温)変化を基準にして、鉛直方向に四つの層(外気圏を含めれば五つ)に区分されている[5]。これを「地球大気の鉛直構造」という。高度が高くなるにつれ、鉛直方向では気圧や密度が単調に低下するほか、大気の流れの性質、分子組成などが変化する。
- 対流圏 (Troposphere)
- 0 - 9/17km。高度とともに気温が低下。さまざまな気象現象が起こる。上層よりも水(水蒸気)の比率が高い。質量比では大気の成分の半分以上が対流圏に存在する。赤道付近では17km程度と厚く、極では9km程度と薄い。成層圏との境界は対流圏界面(Tropopause)と呼ぶ。
- 成層圏 (Stratosphere)
- 9/17 - 50km。高度とともに気温が上昇。オゾン層が存在する。中間圏との境界は成層圏界面(Stratopause)と呼ぶ。
- 中間圏 (Mesosphere)
- 50 - 80km。高度とともに気温が低下。熱圏との境界は中間圏界面(Mesopause)と呼ぶ。
- 熱圏 (Thermosphere)
- 80 - 約800km。高度とともに気温が上昇。外気圏との境界は熱圏界面(Thermopause)または外圏底(Exobase)と呼ぶ。熱圏と外気圏との境界は定義が難しく500 - 1,000kmと幅がある。
対流圏の中は、気流が地表の摩擦(粘性)の影響を受ける大気境界層とほとんど受けない自由大気に分かれ、また大気境界層の中はさらにいくつかに分類されている。
また、成層圏と中間圏は1つの大気循環で混合しているため、2つをあわせて中層大気(テンプレート:Lang-en-short)と呼ぶことがある。
熱圏のさらに上部に外気圏(Exosphere)をおく場合もある[5]。
また、国際航空連盟やアメリカ航空宇宙局 (NASA) は活動を円滑に進めるための便宜的な定義として、高度100kmのカーマン・ラインより外側を宇宙空間とする定義を用いている。
その他の鉛直構造区分
鉛直構造とは別の視点から命名されているものもある。
- 電離層 (Ionosphere)
- 大気中の原子や分子が主に紫外線を受けて光電離し、イオンが大量に存在している層。中間圏と熱圏の間にあたる60km - 500km付近に存在する。
- オゾン層 (Ozonoshpere)
- 高度約10 - 50km。成層圏の中にある。
- 磁気圏 (Magnetosphere)
- 地球磁場と太陽風の圧力がつり合う境界の内側。高度1,000km以上。太陽側は高度6 - 7万km、太陽とは逆側に100万km以上の尾を引く。電離圏とは磁力線でつながる。
- 磁気圏の中で地球に近い内側領域には太陽からの高エネルギー荷電粒子の密度が高い領域があり、これをヴァン・アレン帯 (Van Allen radiation belts)という。放射線の放出が強い。特に赤道上空で顕著。
- プラズマ圏 (Plasmasphere)
- 低温のプラズマがほぼ地球の自転とともに回転している、赤道で高度2万km程度以下の領域。
- 均質圏 (Homosphere)
- 大気成分が均質な層。地表から80 - 90km付近まで。この外側を非均質圏 (Heterosphere)といい、高度が上がるにつれて分子量の大きい成分から順に減っていく。分子量に応じて各分子が持つスケールハイトに対応して気体が分離し、約170km以上では酸素が主成分、約1,000km以上ではヘリウムが主成分、さらに外側の数千km以上では水素が主成分というふうに変遷していく。2つの境界を均質圏界面(Homopause)という。
- 乱流圏 (Turbosphere)
- 乱流による分子の拡散が分子自身の熱運動による拡散を上回っている層。地表から100 - 110km付近まで。この外側を拡散圏 (Diffusosphere)といい、熱運動による拡散が上回っている。2つの境界を乱流圏界面 (Turbopause)という。
地球大気の水平構造
地球の大気は、太陽放射の量が最も多い赤道と最も少ない極との間での熱輸送を担っており、これにより水平方向に循環構造を持っている。大きく分けて、対流圏の循環と中層大気の循環の2つがある。
対流圏の大規模な循環は、3つの風系が北半球と南半球にに1セットづつの計6つの風系からなる。赤道を挟んだ低緯度には、地表加熱による上昇気流を原動力としたハドレー循環があり、地表では熱帯収束帯と呼ばれる上昇気流の中心線に向かう北東・南東の貿易風が吹く。極を中心とした高緯度には、地表冷却による下降気流を原動力とした極循環があり、地表では極高圧帯から周囲に吹き出す北東・南東の極東風が吹く。中緯度には、間接循環のフェレル循環が存在する。年平均の風向を見ると、熱帯収束帯で上昇した空気が下降してくる亜熱帯高圧帯から高緯度低圧帯に向かって風が吹いているように見えるが、実際には温帯低気圧や移動性高気圧により南北の風向は変化が大きく、それよりも西寄りの偏西風が特徴的である。中緯度では、偏西風の南北蛇行である傾圧不安定波により熱が低緯度から高緯度へ輸送されている。
対流圏ではこれよりも小さな循環が存在する。赤道付近では、太平洋西部で上昇気流、インド洋・大西洋や太平洋東部で下降気流が強く、これをウォーカー循環という。また、大陸と海洋の間で1年を周期に風向が変化する季節風も循環構造を持っている。
中層大気では、低緯度上空や夏の極上空で上昇気流、冬の極上球で下降気流が強く、これをブリューワー・ドブソン循環という。
成分
テンプレート:Main 地表付近の大気の主な成分は、比率が高い順に、窒素が78.1%、酸素が20.95%、アルゴンが0.9%、二酸化炭素が0.04%である。水蒸気は最大4%程度になるが1%を下回ることもあり、場所や時間によって大きく変動する。水蒸気の影響を除くため、一般的に地球大気の組成は「乾燥大気」での組成で表される。
二酸化炭素、オゾンのほかいくつかの微量成分の濃度も場所や時間によって大きく異なる。地表にそれらの気体の発生源や吸収源が存在するためで、例えば二酸化炭素は、空間的には都市で濃度が高く、時間的には植物の活動が活発化する夏に濃度が減少する[注 2]。なお二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、六フッ化硫黄、フロン類などの温室効果ガスの濃度は、20世紀中盤以降増加を続けていて、気候変動研究などを目的に監視が続けられているいる[6]。また、排気ガスなどに含まれ大気汚染を引き起こす二酸化硫黄、窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素などいくつかの気体成分は、固体の浮遊粒子状物質などとともに常時測定が行われており[7]、日本では高濃度になった際に都道府県は大気汚染注意報を発表して排出制限や住民への注意の呼び掛けを行う。
なお、水蒸気、二酸化炭素、オゾンは地表付近に発生源があるため、鉛直方向でも比率が大きく変化する。これら以外の主成分は、高度上昇とともに気圧が下がっても比率は一定で、中間圏界面の上高度90km付近まではほとんど変化しない。
成分 | 化学式 | 体積比(%) |
---|---|---|
窒素 | N2 | 78.084 |
酸素 | O2 | 20.9476 |
アルゴン | Ar | テンプレート:00.934 |
二酸化炭素 | CO2 | テンプレート:00.032 |
大気モデル
大気の鉛直方向の温度や組成の分布は、緯度によって異なり、また季節や測定毎に異なる。しかし、科学では実験や大気について論じるとき、また産業面では工業や航空で大気の物性を知る必要があるときに、基準となるものが必要である。そのため、近代よりさまざまな標準大気モデルが作られている。
現在工業の分野では、国際標準化機構(ISO)標準であるISO 2533:1975の「国際標準大気」を世界標準として、各国の国内基準が作られている。また米国標準大気(1976)(英語)のほか、航空ではICAO Doc 7488-CDのICAO標準大気が標準として用いられている。宇宙工学ではNRLMSISE-00(英語)が用いられる。
地球大気の「進化」
テンプレート:See also 地球大気の歴史については、確証は得られていないが、以下のようなことが考えられている。
地球が誕生した46億年前頃の原始大気(げんしたいき、テンプレート:Lang-en-short[9])は、主にヘリウムと水素からなり、高温高圧だった。これは現在の太陽の大気と似た成分である。また、水蒸気も含まれていて、その温室効果が原始地球を高温高圧に保っていたという説もある。しかし、これらの軽い成分は、原始太陽の強力な太陽風によって数千万年のうちにほとんどが吹き飛ばされてしまったと考えられている。
やがて、太陽風は太陽の成長とともに次第に弱くなってくる。この頃には、地表の温度が低下したことで地殻ができ、地殻上で多くの火山が盛んに噴火を繰り返していた。この噴火にともなって、二酸化炭素とアンモニアが大量に放出された。水蒸気と多少の窒素も含まれていたが、酸素は存在しなかった。この原始大気は二酸化炭素が大半を占め、微量成分として一酸化炭素、窒素、水蒸気などを含む、現在の金星の大気に近いものであったと考えられている。100気圧程度と、高濃度の二酸化炭素が温室効果により、地球が冷えるのを防いでいたと考えられている。
古い変成岩に含まれる堆積岩の痕跡などから、43 - 40億年前頃に海洋が誕生したとみられる。この海洋は、原始大気に含まれていた水蒸気が、火山からの過剰な噴出と温度低下によって凝結して、雨として降り注いで形成されたものであった。初期の海洋は、原始大気に含まれていた亜硫酸や塩酸を溶かしこんでいたため、酸性であったが、陸地にある金属イオンが雨とともに流れ込んで中和されたと考えられている。中和されると二酸化炭素が溶解できるようになるため、原始大気の半分とも推定される大量の二酸化炭素を吸収していった。水蒸気が紫外線を受けて光解離することで酸素が生成されてはいたが、鉄などの酸化によりすぐに吸収されたため、大気中にはほとんど残らなかった。
やがて生命が誕生し、二酸化炭素と自ら光合成を行う生物が誕生すると、それらは水を分解して酸素を発生するようになる。さらに、二酸化炭素が生物の体内に炭素として蓄積されるようになり(炭素固定)、長い時間をかけて過剰な炭素は化石燃料、生物の殻からできる石灰岩などの堆積岩といった形で固定される。植物が現れて以降は酸素が著しく増え、二酸化炭素は大きく減少する。大気中の酸素は、初期の生物の大量絶滅とさらなる進化を導いた。
また、酸素は紫外線に反応しオゾンをつくった。酸素濃度が低かったころは地表にまで及んでいたオゾン層は、濃度の上昇とともに高度が高くなり、現在と同じ成層圏まで移動した。これにより地表では紫外線が減少し、生物が陸上にあがる環境が整えられた。
脚注
注釈
出典
参考文献
- テンプレート:Cite book
- 岩槻秀明 『最新気象学のキホンがよ〜くわかる本』第2版、秀和システム、2012年 ISBN 978-4-7970-3511-6
- 東北大学惑星大気研究室「テンプレート:PDFLink」
- テンプレート:Cite web
関連項目
テンプレート:地球の大気 テンプレート:自然 テンプレート:大気圏
bat-smg:Atmuospėra bs:Atmosfera id:Atmosfer ku:Hewa sq:Ajri tg:Ҳаво
to:ʻea- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 2.0 2.1 2.2 Yahoo! Japan辞書(大辞泉)たい‐き【大気】
- ↑ Yahoo! Japan辞書(大辞泉)たいき‐けん【大気圏】
- ↑ スペースアルク 語源辞典"atmosphere"
- ↑ 5.0 5.1 超高層大気 理科年表オフィシャルサイト
- ↑ 気象庁 「テンプレート:PDFLink」2012年11月
- ↑ 環境省 大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)「大気汚染物質(常時監視測定項目)について」
- ↑ kikakurui.com 「JIS W 0201:1990 標準大気」
- ↑ テンプレート:Cite book
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