合成洗剤
合成洗剤(ごうせいせんざい、テンプレート:Lang-en-short)とは、石油や油脂を原料として化学的に合成された洗剤をいう。石鹸より水溶性に優れ、洗浄力が強く、石けんカスが発生しないため、洗濯機の普及とともに広まった。なお、日本では家庭用品品質表示法の適用対象となっており雑貨工業品品質表示規程に定めがある[1]。
歴史
第一次世界大戦中のドイツで開発されたといわれている。兵士の制服を洗う需要が拡大する一方、油脂不足で石鹸の調達が難しくなったことから、石鹸の代用品となる物質が研究され、石油から作る合成洗剤が開発された。
日本では、1937年にウール用中性洗剤(第一工業製薬の「モノゲン」)が初めて発売され、第二次世界大戦以降の1952年、花王(当時・花王石鹸)から日本初の弱アルカリ性合成洗剤「花王粉せんたく」(後の「ワンダフル」)が登場以降石鹸に代わって広く普及するとともに、次項のような問題点も生じた。
1987年には、従来の洗剤から助剤を削減し、より少ない容積で同等の洗浄力を得るようにしたコンパクト洗剤、花王の「アタック」が発売された。
2000年代に入ると、従来の粉末洗剤に代わって液体洗剤が登場し、家庭に浸透してきている。
2010年代に入ると液体洗剤の技術革新が進み、パッケージの小型化及び「すすぎ1回」の表記にあるような時間短縮、抗菌防臭作用が付け加えられるなどした。
環境への影響
かつての水環境問題点:
このため、環境負荷の少ない製品開発の研究が進められ、1970年頃にはABSはより環境負荷の少ないLASに置き換えられた。1980年前後には、リン酸塩の替わりにゼオライトや酵素(プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼなど)を使う技術が開発され、合成洗剤はほぼ無リン化された。なお、環境に排出されるリンのうち洗剤由来は10数%と低かったが、排出可能という点からの無リン化へ自主的に進んだ。無リン化後も従来の生産設備をそのまま使っていたため、微量のリン酸塩が検出されることがあった。このため、パッケージにはその旨の断り書きがあった。
石鹸に比べて自然環境での生分解性が悪く、水質汚濁の原因物質であると指摘されているため、合成洗剤よりも石鹸を使用することを奨励している自治体もある[2]。その一方で、下水処理施設が整備された環境では石鹸と合成洗剤の環境負荷には大差がないとする説もある。
1997年の東京都環境科学研究所による報告によれば、石鹸は全般的にみて最も毒性が低いと報告されている。[3]
1999年に公布されたPRTR法は、有害性の選定基準[4]に基づき、有害性があり環境を汚染している第1種指定化学物質を354種指定して、その扱いを管理し環境中に排出する量を毎年届出することを原則義務付けた。その354種には6種類の合成洗剤成分(LAS、AO、DAC、AE、OPE 、NPE)が含まれている。
- LAS=直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及び塩
- AO=N,N-ジメチルラウリルアミン=N-オキシド
- DAC=ビス水素化牛脂ジメチルアンモニウムクロライド
- AE=ポリオキシエチレンアルキルエーテル
- OPE=ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル
- NPE=ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
これらの成分の選定理由は水生生物の生態毒性の程度に基づいている。
これまで石鹸や複合洗剤を推奨してきたコープネットではデータを見直し、次のような見解を述べている[5]。
- どんな洗剤でも環境中に直接排出されれば環境に負荷をあたえます。 洗剤の界面活性剤は、種類によって「有機物汚濁」「生分解性」「水生生物への影響」などの環境影響評価では優れた面と劣る面を持っており、すべての面で優れた界面活性剤はありません。
- 洗剤は環境中、下水道に排出される化学物質の中では量の多いものの一つです。どの界面活性剤を主成分とする洗剤でも、使用量を減らし排出量を減らすことが大切です。また、洗濯廃水を含めて、生活廃水を全体として減らす取り組みが重要です。
一方、合成洗剤の追放運動を継続している農協・漁協・生協は、1981年に協同組合石けん運動連絡会(協石連)を組織して、毎年4月にシャボン玉フォーラムを全国各地で開催し、毎年7月をシャボン玉月間として、現在も石鹸の利用を呼びかけている。
人の健康への影響
テンプレート:Amboxテンプレート:DMC 現在、合成洗剤は石鹸と同様、通常使用ならびに予見できる誤使用・誤摂取において問題を生じることは少ない[6]が、依然として、“洗剤は毒である”とか、“環境を著しく汚す”といった情報が世の中に流されている[7]。合成洗剤には毒性があり人体に危険とする市民団体や労働組合などが合成洗剤不買運動がみうけられるが、過去に問題提起された点を根拠としている。
肌荒れや脱毛、アトピー性皮膚炎の原因物質であるとする説もある一方で、低刺激性の合成洗剤を使用すれば問題ないとする説もある。一方でアルカリ性である石鹸よりも合成洗剤のほうが肌荒れしにくい人もいる。また一般に合成洗剤のほうが石鹸よりすすぎ性がよいため、残留した洗剤による皮膚炎の場合には合成洗剤から石鹸に換えると症状が悪化する場合もある。
洗剤として以外の使われ方
合成洗剤は、昔からゴキブリ駆除に使われることがある。「有害物質が入っているから」という論が聞かれるが、実際には合成洗剤が気門を塞ぎ、窒息死させられるからである。むろん、正規の使用法ではない[8]。
脚注
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ もっと良く知ってほしい洗剤内のページ (日本石鹸洗剤工業会)
- ↑ 合成洗剤(界面活性剤)の水辺環境に及ぼす影響(PDF) (東京都環境科学研究所)
- ↑ 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく第一種指定化学物質及び第二種指定化学物質の指定について(答申)
- ↑ 洗剤と水環境 (コープネット)
- ↑ 洗剤の安全性と環境問題 (PDF) (大矢勝研究室 「洗浄・洗剤の科学」のページ)
- ↑ 洗剤の安全性・環境適合性 (PDF) (日本石鹸洗剤工業会)
- ↑ 例えば有吉佐和子著複合汚染(下巻pp.69-70)には、ゴキブリに合成洗剤をかけてみたら「イチコロでした」という果樹農家の発言を引用し、ゴキブリのような生命力の強い生物を死に至らしめるような毒物を食器を洗うために使うべきではないという著者の見解が示されている。但し、合成洗剤でゴキブリが死ぬのは窒息によるものだということを著者が認識していたことも当該部分からは窺える。