通関
通関(つうかん)とは、貿易において貨物を輸入及び輸出をしようとする者が、税関官署に対して、貨物の品名、種類、数量、価格などに関する事項を申告し、必要な検査を受けた後に、輸入の場合は関税など必要な税金を納入させ、税関から輸出入の許可を受ける手続き。この許可を得ないと、輸出入が完了したとはならず、輸出の場合は内国貨物から外国貨物にならず船積ができない。また、輸入の場合は外国貨物から内国貨物にならず、保税地域から国内に引き取ることはできない。
この通関に関する手続を行わず(手続きを怠ったり、虚偽の輸出入申告を行ったりして)輸出入を行った場合、それは密輸にあたる。
輸出入の申告は、輸出入をしようとする者(個人でも、企業や団体でも)が行える。しかし、輸出入申告手続きは非常に煩雑で、法律等の専門的知識が必要なことから、通常は通関業者と呼ばれる税関への輸出入申告を代行する業者に手数料を支払い、通関業務を委託する場合が多い。税関への輸出入申告に際し、通関書類の審査をし書類に記名押印する行為だけは、通関業者に所属する通関士しか行えない。
目次
意義
通関制度は、貨物が国境を出入りする際、関税徴収を確実にし、また出入りを監視するために創設された制度である。
- 輸入の際の関税を確実に徴収する
- 輸出・輸入をしてはならない品物が国外に持ち出されたり、国内に持ち込まれたりするのを防ぐ
- 輸出・輸入の実態を正確に把握し、統計や経済政策に役立てる
また、これらを確実・円滑・効率的に行うため、日本の場合港湾や空港には、輸出前の貨物や外国から到着した貨物を手続が終了するまで一時保管する場所として、保税地域が設けられている。(なお、通関しないまま貨物を国内の工場などに持ち込みそこで通関する便宜のため、保税運送や特別な保税地域の制度も設けられている。)
輸出申告
貨物を輸出するときは、輸出者はその貨物を保税地域に搬入した後に、その保税地域を管轄する税関官署に対して輸出申告を行い、貨物に対し、必要な審査・検査を経て、許可を受けなければならない。
輸出申告の手続は、
が必要となるほか、貨物の種類によっては、法令の規定により必要な書類(輸出許可・承認書、関税の軽減・免除・払い戻しに関連する書類、内国消費税の免税を受ける貨物については輸出を証明する申請書、その他)があればそれらも添付して税関官署に提出することによっておこなわれる。
輸入申告
外国から到着した貨物を国内に引取る(輸入する)ためには、輸入者はその貨物を保税地域に搬入した後に、その保税地域を管轄する税関官署に対して輸入申告を行い、貨物に対し、必要な審査・検査を経て、関税、内国消費税等を納付して、許可を受けなければならない。
輸入申告の手続は、
- 輸入しようとする貨物の品名、数量、価格などを記載した所定の様式の「輸入申告書」
- 仕入書(invoice、インボイス)、またはそれに代わる書類
- 船荷証券(航空便の場合、航空貨物輸送証)
- 保険料明細書
- 運賃明細書
- 包装明細書
が必要となるほか、貨物の種類によっては、法令の規定により必要な書類(輸入許可・承認書、特恵関税の適用を受けようとする場合は「特恵原産地証明書」、減免税の適用を受けようとする場合は「減免税明細書」、その他)があればそれらも添付して税関官署に提出することによっておこなわれる。
特別な制度
輸出・輸入申告では、上記の原則的な方法のほか、輸出入の迅速化・簡便化などの便宜を図るために次のような諸制度がある。
通関手続に関する制度
輸出入の迅速化・簡便化などの便宜を図るためにある制度である。
- 包括事前審査制度(廃止)
- 輸出者が同一種類の貨物を継続して輸出する計画がある場合、事前に包括的な審査を行うことによって、その後の個々の輸出の際の審査を簡略化できる。サプライチェーン・マネジメントなど、計画的な物流により、コスト削減が実現できる(輸出通関の迅速化を図るため)。
- 特例輸入申告制度
- 税関長の承認を受けている輸入者が、継続的に輸入していると指定を受けた貨物については、法令遵守(コンプライアンス)の確保を条件に輸入申告と納税申告を分離し、さきに貨物の引取申告を行い、その後納税申告することができる制度。簡易申告により、申告内容が減るほかペーパーレス化も図られる。(輸入貨物引取りの迅速化を図るため。)
- 予備審査制
- 輸入貨物が日本に到着する前に「予備申告書」を税関に提出して、事前に税関の書類審査を受けることができる制度。輸入貨物が保税地域に搬入された後、本申告(輸入申告)の意思表示を行えば直ちに許可される。生鮮食料品やジャスト・イン・タイムで納期の厳しい商品、特定の季節やイベント(クリスマスなど)のための商品など、国内搬入を急ぐ商品によく使われる。(輸入貨物引取りの迅速化を図るため。)
- 貨物到着即時輸入許可制度
- 輸入の際に予備申告が行われた貨物のうち、国内引取を急ぐ貨物の場合、税関の書類審査の結果「検査不要」とされた貨物については、貨物の到着が確認され次第、本申告(輸入申告)を行えば保税地域に搬入することなく直ちに輸入許可となる制度。(輸入貨物引取りの迅速化を図るため。)
関税に関する制度
輸出入の際の関税に関して、申告の便宜のため情報を提供し、また納付の際の負担を減らす制度である。
- 事前教示制度
- 輸入を予定している貨物の関税分類や関税率等について不明な点がある場合、税関に対し文書等による照会を行ない、回答を受けることができる制度。(事前に関税額が分かり販売計画などに役立つほか、輸入申告のミスを減らし円滑化を図るため。)
- 関税等の納期限延長制度
- 輸入貨物を国内に引取るためには関税を納付しないと輸入許可が出ないが、担保を提供することを条件として3か月以内の納期限延長が認められる制度。(関税の納付の際の負担を減らすため。)
- 開発途上国を原産地とする特定の種類の輸入品については、一般の関税率よりも低い税率を適用し、それらの国・地域の輸出所得の増大、工業化の促進、経済発展を推進する制度。(特定国の産品の関税を減らし、販売競争力が増し、よってその国の振興も図る。)
- 減免税制度(関税定率法)
- 貨物が一定の条件に適合した場合には、関税の一部又は全部が免除される制度。
- 保税地域内蔵置中に変質・損傷等の場合の減税
- 再輸入免税
- 再輸入減税
- 再輸出免税
- 再輸出減税
- 生活関連物資の価格騰貴の際の減免税
- 飼料の原材料等、製造用原料品の減免税
- 輸入時と同一状態で再輸出される場合の戻し税
- 違約品等の再輸出又は廃棄の場合の戻し税
- 加工又は組立てのため輸出された貨物を原材料とした製品の減税
- 加工又は修繕のため輸出された貨物の減税
- 皇族、海外元首のための物品などの無条件免税
- 我が国船舶が外国で採捕した水産物等の減免税
- 学術振興等の見地から学術研究など特定用途に供される特定貨物の免税(特定用途免税)
- 外交官用貨物等の免税
- 輸出貨物製造用原料品の減免税・戻し税
- 課税原料品等による製品を輸出した場合の免税又は戻し税
- 関税暫定措置法に関係する減免税制度
- 航空機部分品等の免税
- 加工又は組立てのため輸出された貨物を原材料とした製品の減税
- 加工再輸入減税制度
日本の通関の課題
厳格化と簡素化
通関は国内外を行き来する貨物の監視のために重要であり、特に2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以来、武器や大量破壊兵器として使用されたり原材料にされたりされるおそれのある製品の輸出阻止、危険物や大量破壊兵器の輸入阻止など、セキュリティー対策が非常に重要になっている。ところが日本の通関の運用では銃器、麻薬、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)などの輸入規制・禁止品、コンテナを使った密入国などの対策は進めているものの、しばしば監視の目をかいくぐり密輸が繰り返され、セキュリティの不安も残る。
一方、企業の生産活動における加工用部品や販売用製品の輸出入など、国際物流の重要性は増しており、特に国内輸送・国際輸送のコスト削減、在庫の軽減、リードタイムの軽減など、物流にかかる時間や手間を可能な限り削ることによる物流コストの削減が急務である。ところが日本の通関はペーパーレス化、保税地域搬出入や申告制度の簡素化、24時間365日手続の受け付け、通関手続にかかる時間の削減など、根本的な改革が諸外国に比べ大幅に遅れており、日本の国際競争力が低下している重要な一因となっている。
日本の通関制度改革の動き
通関においての日本での制度には改革も行われている。一例としてNACCS(税関官署、運輸業者、通関業者、倉庫業者、金融機関の相互を繋ぐ電子的情報通信システム)は近年では改善されている。
また、2005年(平成17年)度より「コンプライアンスと通関手続の迅速化」を旗印に大幅な法令改正がなされた。
- 輸入について:輸入禁制品を追加し、テロ対策と知的財産権対策が強化された。テロ行為に利用されるおそれの高い爆発物・火薬類、および化学兵器の製造の用に供されるおそれの高い物品が輸入禁制品に追加された。また、知的財産権侵害物品が輸入される以前で対策を打つため、不正競争防止法の規定で輸入が禁止されている物も輸入禁制品に追加した。
- 輸出について:テロに関わる物品を危険地帯に輸出する恐れのない、コンプライアンスのすぐれた輸出者に対して、コンテナなど封印後は内容物を変更できないような形態の貨物は、保税地域に入れる前に工場や倉庫で輸出申告を受け付け輸出の許可を出し、保税地域を通る必要がなくなった(テロ対策にもなり、通関手続を迅速化し、保税地域のスペース削減にもつながる)。
香港やシンガポールは早くから手続の電子化を進め、アメリカでは輸出は許可制ではなく届出制で格段に簡素になっており、保税制度についてもアメリカでは保税地域への輸出貨物の搬入義務はなく、イギリスや大韓民国では保税制度そのものが既に存在しない。