野辺山宇宙電波観測所
正式には、自然科学研究機構国立天文台野辺山宇宙電波観測所/太陽電波観測所。
それぞれ扱っている部門で部署が分けられており、宇宙電波観測所と太陽電波観測所を総合して「野辺山電波観測所」あるいは「野辺山地区」と呼ぶ。地元では、「野辺山電波天文台」の愛称で呼ばれる。
沿革
この観測所は、東京大学附属東京天文台(現・国立天文台)天体電波研究部の観測施設として設立。 開設当初から、全国大学共同利用観測所として運営が行われている。現在活躍する、日本における電波天文学者の生みの親となった観測所。
- 1967年10月 - 天文研究連各委員会で、45mを中心とする観測所計画がまとまる
- 1969年4月 - 6mミリ波天体電波望遠鏡が稼動(現:国立天文台三鷹キャンパス内)。
- 1969年5月 - 起工式。
- 1969年10月 - 開所式
- 1970年4月 - 160MHzの太陽電波干渉計が稼動。
- 1971年4月 - 17GHzの太陽電波偏波計が稼動。
- 1977年4月 - 用地取得終了
- 1980年4月 - 45mミリ波電波望遠鏡建設開始。(工事受注:三菱電機・富士通のJV)
- 1981年10月 - 45mミリ波電波望遠鏡試験観測開始。
- 1982年4月 - 45mミリ波電波望遠鏡が稼動。
- 1982年10月 - 野辺山ミリ波干渉計(NMA)が稼動。
- 1986年4月 - 17GHzの太陽電波干渉計を改良。
- 1989年4月 - 160MHzの太陽電波干渉計稼動終了。
- 1990年4月 - 太陽電波ヘリオグラフ建設開始(工事受注:NEC・東芝のJV)。
- 1992年4月 - 太陽電波ヘリオグラフ稼動。
- 1992年7月 - 17GHzの太陽電波偏波計稼動終了
- 1997年10月 - VSOP衛星の打ち上げ成功「はるか」と命名される。
現在の陣容とほぼ同じになる。
現在は、台内では水沢VLBI観測所と共同で、全国では宇宙航空研究開発機構や国土地理院、情報通信研究機構、全国の宇宙物理学講座を開講している大学などと共同で、VLBI観測を初めとして、ASTE望遠鏡観測計画、ALMA観測計画を推進。また、水沢VLBI観測所と宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部と共同で、「ひのでプロジェクト」やASTRO-G計画を推進。国際共同利用も進めている。
設営理由
この地における太陽電波観測が始まったのは、西を八ヶ岳山麓、東を秩父山地に囲まれ、放送電波による電波ノイズが少ない事と小海線等を活用できることによるアクセスの良さ、さらには信州大学の実験農場等があり、開設に関して信州大学等から協力を得て行われることになったためである。
主な施設
- 駐車場(南牧村で運営。無料)
- 守衛所(団体見学の受付、パンフレットなどを配布)
- 本館 -研究棟-(研究棟の前には、観測成果の説明パネルなどを展示)
- 計算機室・開発室・事務室
- 干渉計観測棟
- NMAの観測モニター室
- 45m電波望遠鏡
- 下部機械室
- 受信器室
- 45m望遠鏡観測棟
- 45m電波望遠鏡の観測モニター室
- 太陽電波観測所棟
- 計算機室・事務室
- 偏波観測室
- 電波観測装置が入っている
- 旧太陽電波観測所棟
- 現在は、資料室や機械置場などに活用
主な観測装置
太陽電波観測所
太陽電波望遠鏡による観測所。現在の電波ヘリオグラフは二代目に当たる。なお、観測画像の解像度を上げるため、前の観測装置はセンチメートル波であったが、現在はマイクロ波の観測装置を用いている。
電波ヘリオグラフ(NoRH: Nobeyama Radioheliograph)
直径80cmのアンテナ84台を東西490m、南北220mのT字型の線上に配置した太陽観測専用の電波望遠鏡。観測対象は太陽の全面である。撮影される画像はカメラで撮影したような映像で、プロミネンスや黒点などを視覚的に観察できるのが大きな特徴である。最高で毎秒10枚の電波画像を取得することができ、天候に関係なく毎日太陽を観測している。
技術仕様
- 制御:全自動式(84台の望遠鏡を1台のコンソールから制御)
- 鏡面材質:炭素繊維強化プラスチック製、反射面はアルミニウム蒸着
- 光学系:カセグレイン式電波光学系
- 受信機:超伝導型SISミキサー
- 架台:経緯台式
- 追尾精度:0.01秒/180度
- 観測周波数:17 GHz、34 GHz
野辺山強度偏波計(NoRP: Nobeyama Radio Polarimeters)
さまざまな周波数を用いて太陽の電波を計測することを目的とした電波計で、それぞれ1、2、3.75、9.4、17、35、80 GHzの7周波数を持つ観測装置から成っている。太陽表面の爆発のメカニズムの解明に向けた観測を行うことが主な目的である。技術仕様
- 制御:全自動式
- 鏡面材質:アルミパネル
- 光学系:カセグレイン式電波光学系
- 架台:赤道儀式
- 追尾精度:0.01秒/180度
- 各アンテナ毎に電波測定を行う
宇宙電波観測所
宇宙電波望遠鏡による宇宙電波観測を実施。主たる観測波長がミリ波のため、ミリ波電波望遠鏡と呼ばれる。
口径45mミリ波電波望遠鏡(光学系:カセグレイン式)
1981年に完成した、口径45mの電波望遠鏡。波長が数ミリの電波(ミリ波)を観測する電波望遠鏡としては世界最大級である。1996年にBEARS (25-BEam Array Receiver System) と呼ばれる25素子受信機が搭載され、一度に25点を観測する高速マッピングが可能になった。近年ではOn-The-Fly (OTF) と呼ばれる、観測領域を掃天しながら短時間間隔でデータを取得する技術が実装され、マッピングのスピードと精度を大幅に向上した。いくつもの新星間分子、原始星周囲のガス円盤、ブラックホール存在の証拠の発見など、世界的に重要な観測成果を出し続けている。
技術仕様
- 有効口径:45m
- 光学系:カセグレイン式ビーム光学系
- 鏡面材質:アルミパネル+CFRPコート
- 鏡面精度:実測値 平均0.01mm/45m(補償装置稼動時)、平均0.1mm/45m(補償装置非稼動時)
- 光学系補助装置:ビームコリメータ
- 鏡面測定補助装置:レーザ測定装置(精密補正用)
- 架台:経緯儀式
- 追尾精度:0.1秒/180度
- 観測波長:10GHz ~ 230GHz
- 架台制御方式:全自動制御(ACサーボモータ)
野辺山ミリ波干渉計 (NMA: Nobeyama Millimeter Array)
口径10mのアンテナを6台結合させ、最大口径600mの電波望遠鏡に相当する高解像度観測を行うことができる開口合成型電波望遠鏡。星形成領域や星間分子雲、近傍系外銀河やクエーサー母銀河などの観測研究に活躍している。2006年度を最後に一般共同利用観測を停止した。45mミリ波電波望遠鏡と組み合わせて最大の分解能を実現する「RAINBOW干渉計」としても用いられていた。技術仕様
- 有効口径:10m /最大合成口径 600m
- 光学系:カセグレイン式ビーム光学系
- 鏡面材質:アルミパネル+CFRPコート
- 鏡面精度:実測値 平均0.005mm/10m(補償装置稼動時)、平均0.01mm/10m(補償装置非稼動時)
- 鏡面測定補助装置:衛星ビーム干渉測定装置(通常補正用)、レーザ測定装置(精密補正用)
- 架台:経緯儀式
- 追尾精度:0.05秒/180度
- 観測波長:85GHz ~ 230GHz
- 架台制御方式:全自動制御(ACサーボモータ)
- 架台制御補助装置:エンコーダ補正装置
- 本体移動装置:有人運転型ディーゼル機関車、ジャッキアップ装置付き(最大荷重50トン)
研究活動
ソフトウェア分野(教育研究活動)
- 学部4年生及び大学院生を対象とした観測実習を実施。
- 観測所の研究成果に関しては、各観測装置の説明及び脚注や国立天文台公式ホームページのアストロトピックス等を参照のこと。
ハードウェア分野
電波天文学分野であり、かつまた、開口合成法を用いた観測を行うため、天文学分野では日本で最初にスーパーコンピュータを活用した観測所としても知られている。太陽電波望遠鏡に関しても、その画像を得るためには大きな計算機資源が必要なため、これまた専用のスーパーコンピュータシステムを導入した。 その他、ハードウェア分野における研究活動については、国立天文台・公式ホームページからリンクが張られている(国立天文台野辺山地区)を参照。
最初期の「ミリ波6m電波望遠鏡」は、鹿児島大学構内に移設して現在も実習観測などに用いられている。
業務解説
観測及びデータ利用
- 45mミリ波電波望遠鏡を使用する際には、公募観測として共同利用に付している。
開発業務
- 25素子型のマルチチャンネル受信機は、超伝導素子を使用した受信機(SIS受信機)を5×5に並べたもの。
- 現在は、多様な観測ニーズにこたえるために、受信機装置の精度向上や高分解能のデジタル分光計の開発などを行っている。
所内注意事項
- 宇宙電波観測は、宇宙空間からの微弱な電波を捉えて解析する作業のため、観測所内では通信機器の使用は制限している。
公開情報
年末・年始を除いて自由見学が可能であり、団体に対しては案内員をつけるために事前申し込みが必要。
毎年8月の20日頃に「特別公開」としてイベントを行っている。