ゆで卵
ゆで卵(ゆでたまご、茹で卵)は、卵料理の一つ。鳥類の卵、特に鶏卵を、殻のままゆでて凝固させたもの。地域により「うで卵」、近畿地方では固ゆで卵を「煮抜き卵」・「煮抜き」とも呼ぶ。また、ゆで卵は特に中欧のポーランド料理で非常に好まれる。
調理法
殻を割らない状態で鶏卵、ウズラの卵などを鍋の水に入れ、火にかけて沸騰した湯で数分ゆでて作る。ゆでる際には、殻が割れて中身が出た時に固まりやすいように食塩を水に入れることもある。
また、ゆで卵調理専用の機器として卵ゆで器があり[1]、これを用いて調理することもできる。
ゆであがったあと、卵の殻をむき、食塩・マヨネーズなどをつけて食したり、他の料理の材料とする。
水からゆでる場合、水の量や火力、気温により温度の上がり方が変わるためタイミングをはかるのが難しい。これをはかるために「エッグメーター」と呼ばれる一種の温度計を一緒にゆでる方法がある。また、常に一定の時間で仕上げるために、多めのお湯をあらかじめ沸騰させておき、そこに卵を入れてしまう方法もある。この場合、あらかじめ圧を逃がすための穴(後述)を空けておかないと割れて白身が漏れてしまうことが多い。
ゆでる時間の加減により、黄身に火が半分通った半熟卵、完全に火が通った固茹で卵に分類できる。また、湯を沸騰させずに、70℃前後の比較的低温を保って数十分ゆでると、黄身と白身の凝固温度の違いから、白身は固まらず黄身だけが固まる特殊な状態になる。これは温泉卵と呼ばれ、広い意味でのゆで卵の一種である。
ゆであがった卵は、数分冷水にさらし、更に水の中(もしくは流水内)で揉むようにして殻に細かくひびを入れると簡単にむくことができる。しかし、産卵直後の新鮮な卵では、この方法でも薄皮は非常にむきにくく、きれいにはがすのは至難である。そのため、大量に新鮮な卵を入荷する店では、入荷から少し時間を置いて、鮮度を若干落とした卵をゆで卵に用いることが多い。無論、頂部など1箇所だけをむき、エッグスタンドに立ててスプーンで中をえぐって食べる方法であれば、殻のむきやすさを気にする必要がなく、新鮮であればあるほど良いことになる[2]。
卵と卵が十分没する量の水を入れた器を電子レンジにかけてゆで卵を作ることもできるが、卵が破裂する可能性があるので注意が必要である(爆発卵の項を参照)また、冷蔵庫から取り出したばかりの冷たい卵を急激に加熱すると、やはり破裂することがある。これは、内部の空気や液体の膨張による内圧の急上昇が原因である。地鶏卵よりも殻が薄いケージ飼いの量産卵でとくに起こりやすい。
長時間高温でゆでた場合、白身から発生した硫化水素と、黄身の鉄分とが化合して、黄身の外端が黒緑色となるが、健康には害がないとされる。また、なべ底に接していた温度の高い部分のみが茶褐色に変色し、「硫黄焼け」を起こす場合がある。さらに加熱時間を長くすると、白身全体が褐色をおび、硫化水素臭により、味も落ちる。
熱を加えているため、ゆで卵のほうが生卵よりも保存がきくと考える人も存在するが、生卵に含まれる酵素のひとつであるリゾチームが熱により破壊されるため、同条件下ではゆで卵のほうが早く腐敗する。
ゆで卵を利用した料理
- おでん
- ゆで卵はおでんの具としても一般的に用いられる。殻をむいておでんの出汁に入れ一緒に煮ることで、味を含ませる。テンプレート:要出典範囲
- 煮卵、味付け卵(味玉)
- 叉焼の煮汁やタレで煮れば煮卵となる。冷たい煮汁にゆで卵を入れて沸騰させ、短時間煮た後、汁ごと長時間かけて冷やすなどにより味を染み込ませて作る。ラーメンのトッピングとしてゆで卵の代わりに煮卵がメニューに加えられている店もある。ゆで卵を半熟に仕上げ、冷たい汁の中に入れて以降は加熱せずに味付けする「半熟煮卵」(厳密には「煮卵」ではないが)が出されることもある。また、醤蛋(ジャンタン)とも呼ばれる。
- 爆弾
- ゆで卵を魚のすり身で包んだ薩摩揚げ。
- スコッチエッグ
- ゆで卵をひき肉で包んだフライ。
- みそたま
- ゆで卵を八丁味噌の中に入れてじっくり煮込んだ料理。愛知県の郷土料理となっている。
その他みじん切りにしたゆで卵はマヨネーズとの相性も良く、サンドイッチの具にしたりタルタルソースの材料にしたりすることがある。
ゆで卵と科学
- 「コロンブスの卵」という、できそうにないことを簡単にやってのける発想の転換を教えるエピソードがあり、建築家フィリッポ・ブルネレスキが起源とされる。フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のクーポラを設計を誰が担当するかという時に出た話である。科学者の中谷宇吉郎には『立春の卵』という随筆があり、立春に卵が立つ、という当時の噂を実験したことを書いている。
- 生卵とゆで卵を割らずに判別する方法に、卵を寝かせてテーブルの上で勢いをつけて回転させ、指で短時間回転を止めた後再び指を離すというものがある。指を離すと再び微妙に回転し始める方が生卵で、これは殻の回転を短時間止めても流体状の中身が慣性で回転を続けたままであるために起きる現象である。もっとも同様の理由で回転させようとした時点で回転しにくく、それだけでも判別できる。
- ゆで卵をテーブルの上などで高速回転させると、次第に起き上がって回転するようになる。この力学は下村裕[3]とテンプレート:仮リンクが解明し、2002年3月28日の『ネイチャー』に掲載された[4]。また、三井[5]と下村らにより、回転する卵が非常にごくわずかだがジャンプするという予測について、現象が確認され、2006年に発表された[6]。
- 日本の小学校でよくおこなわれる理科の実験に、牛乳瓶の口にゆで卵を乗せ、あらかじめ温めておいた中の空気を冷やすなどして中の空気を収縮させて圧力低下し、大気圧との圧力差で、ゆで卵が瓶中に吸い込まれるというものがある。
備考
- 東南アジアでは孵化直前のアヒルの卵を茹でた「バロット」と言う料理がある。
- 江戸時代の文献で、黄身が外側・白身が中央に茹でられた「黄身返し卵」と言う料理がある。本来は有精卵を用いるが、近年は市販の無精卵で行う別の方法も開発されている。
- ポーチドエッグは殻を割って卵の中身だけを茹でた料理。
- 文学作品の分類上のハードボイルドとは、元来は「固ゆで卵」の意である。
- コンビニエンスストアなどで販売されているサラダやチルド麺類に輪切り状態で入っているゆで卵には、ロールエッグと呼ばれる加工卵が多く用いられている。
- 日本では、岩倉市がゆで卵生産日本一である。
脚注
関連項目
外部リンク
テンプレート:Food-stub- ↑ 意匠分類定義カード(C5) 特許庁
- ↑ スウィフトの『ガリヴァー旅行記のうち、「第一篇 リリパット国渡航記」、いわゆる小人の国で、リリパット国とブレフスキュ国が戦っているが、この戦争の理由は、卵の殻の正しい剥き方は大きな方から剥くか小さな方から剥くかについての意見の違いに由来する。卵は復活祭のシンボルとして、キリスト教信仰を表している。「卵の大きな方」はカトリック教徒を表しており、「卵の小さな方」は英国国教徒を表している。いさかいの原因を嘲笑することによって、聖書の解釈の仕方は幾通りもある事をスウィフトは示している。
- ↑ http://researchmap.jp/read0164293/
- ↑ テンプレート:Doi
- ↑ http://researchmap.jp/read0190789/
- ↑ テンプレート:Doi