ジャン・ボードリヤール
テンプレート:Infobox 哲学者 ジャン・ボードリヤール(Jean Baudrillard, 1929年7月27日 - 2007年3月6日)は、フランスの哲学者、思想家である。『消費社会の神話と構造』(La Société de Consommation 1970)は現代思想に大きな影響を与えた。ポストモダンの代表的な思想家とされる。
経歴
1929年7月27日、マルヌ県ランスの小作農の家に生まれる。
1962年、フェリックス・ガタリとともにフランス中国人民協会を設立。このころより、カール・マルクスやベルトルト・ブレヒトの翻訳を発表する。
1966年、博士号を取得。博士論文は『物の体系』で、審査員はロラン・バルト、ピエール・ブルデュー、アンリ・ルフェーブル。パリ大学ナンテール校でルフェーブルの助手となる。その後、『対象のシステム』を発表し、フェルディナン・ド・ソシュールの記号論を「貨幣は一定の諸機能においてそれ自身のたんなる記号によって置き換える事が出来る」と言ったマルクスの価値理論に取り入れた画期的な視点で脚光を浴びる。
1977年、『誘惑論序説――フーコーを忘れよう』を発表。ミッシェル・フーコーの怒りを買う。
1986年、ナンテール教授を辞任。
大量消費時代を迎え、商品が使用価値としてだけでなく、記号として立ち現れることを説いた。アラン・ソーカルらによって、数学・科学用語を不適切に使用しているとの批判を受ける(→ソーカル事件参照)。
1990年代には写真家、写真評論家としても活躍し、写真評論集として『消滅の技法』などがある。
かつてはワールドトレードセンターのツインタワーについても考察し、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降テロの背景にアメリカ自身が持つ問題を積極的に論じた。
ボードリヤールの哲学は映画マトリックスのもととなった。取り分けウォシャウスキー監督は非常にボードリヤールを意識しており、主演のキアヌ・リーヴスなどキャスト、クルーのほとんどは『シミュラークルとシミュレーション』を読まされ、台本にもボードリヤールの名前が頻繁に出ている。映画の中でもハードカバーで『シミュラークルとシミュレーション』が映るシーンがある。2作目の制作に入る前に監督はボードリヤール本人に助言を求めたが、ボードリヤール自身は拒否したという。
邦訳著書
単著
- 『物の体系――記号の消費 (Le Système des objets)』(1968年, 邦訳 宇波彰訳, 法政大学出版局, 1980年)
- 『消費社会の神話と構造 (La Société de consommation)』(1970年, 邦訳 今村仁司・塚原史訳, 紀伊國屋書店, 1979年)
- 『記号の経済学批判 (Pour une critique de l'économie du signe)』(1972年, 邦訳 今村仁司・宇波彰・桜井哲夫訳, 法政大学出版局, 1982年)
- 『生産の鏡 (Le Miroir de la production)』(1973年, 邦訳 宇波彰・今村仁司訳, 法政大学出版局, 1981年)
- 『象徴交換と死 (L'Échange symbolique et la mort)』(1976年, 邦訳 今村仁司・塚原史訳, 筑摩書房, 1982年/ちくま学芸文庫, 1992年)
- 『誘惑論序説――フーコーを忘れよう (Oublier Foucault)』(1977年, 邦訳 塚原史訳, 国文社, 1984年)
- 『L’Effet Beaubourg』(1977年、未邦訳)
- 『À l'ombre des majorités silencieuses, ou la fin du social』(1978年、未邦訳)
- 『誘惑の戦略 (De la séduction)』(1979年, 邦訳 宇波彰訳, 法政大学出版局, 1985年)
- 『シミュラークルとシミュレーション (Simulacres et simulation)』(1981年, 邦訳 竹原あき子訳, 法政大学出版局, 1984年)
- 『宿命の戦略 (Les Stratègies fatals)』(1983年, 邦訳 竹原あき子訳, 法政大学出版局, 1990年)
- 『アメリカ――砂漠よ永遠に (Amèrique)』(1986年, 邦訳 田中正人訳, 法政大学出版局, 1988年)
- 『L'autre par lui-même』(1987年, 未邦訳)
- 『Cool Memories: 1980-1985』(1987年, 未邦訳)
- 『シミュレーションの時代――ボードリヤール日本で語る』(JICC出版局, 1982年)
- 『透きとおった悪 (La Transparence du Mal)』(1990年, 邦訳 塚原史訳, 紀伊國屋書店, 1991年)
- 『湾岸戦争は起こらなかった (la Guerre du Golfe n'a pas eu lieu)』(1991年, 邦訳 塚原史訳, 紀伊國屋書店, 1991年)
- 『L'Illusion de la fin ou la grève des événements』(1992年, 未邦訳)
- 『完全犯罪 (La Crime parfait)』(1995年, 邦訳 塚原史訳, 紀伊國屋書店, 1998年)
- 『芸術の陰謀——消費社会と現代アート(Le Complot d'art)』(1997年, 邦訳 塚原史訳, NTT出版, 2011年)
- 『消滅の技法 (Photographies - car l'illusion ne s'oppose pas à la réalité)』(1998年, 邦訳 梅宮典子訳, Parco出版, 1997年)
- 『不可能な交換 (L'Echange impossible)』(1999年, 邦訳 塚原史訳, 紀伊國屋書店, 2002年)
- 『パスワード――彼自身によるボードリヤール (Mots de passe)』(2000年, 邦訳 塚原史訳, NTT出版, 2003年)
- 『L'esprit du terrorisme』(2002年, 未邦訳)
- 『パワー・インフェルノ――グローバル・パワーとテロリズム (Power Inferno)』(2002年, 邦訳 塚原史訳, NTT出版, 2003年)
- 『暴力とグローバリゼーション (Violence et Mondialisation)』(2003年, 邦訳 塚原史訳, NTT出版, 2004年)
- 『明晰さの盟約または悪の知性 (le pacte de lucidité u l'intelligence du mal)』(2004年, 邦訳 塚原史・久保昭博訳、NTT出版, 2008年)
- 『Cool Memories V 2000-2004』(2005年, 未邦訳)
共著
- (吉本隆明)『世紀末を語る――あるいは消費社会の行方について』(紀伊國屋書店, 1995年)
- (マルク・ギヨーム)『世紀末の他者たち』(紀伊國屋書店, 1995年)
- (エドガール・モラン)『ハイパーテロルとグローバリゼーション』(岩波書店, 2004年)
- (ジャン・ヌーベル)『les objets singuliers――建築と哲学 (les objet singuliers - Architecture et philosophie)』(2000年, 邦訳 塚原史訳, 鹿島出版会, 2005年)
共編著
- 『化粧』(リブロポート, 1986年)
- 『デザイン』(リブロポート, 1988年)
- 『声』(リブロポート, 1988年)
- 『恐怖』(リブロポート, 1989年)
- 『ニッポン』(リブロポート, 1990年)
- 『世紀末の政治』(リブロポート, 1992年)