衛生管理者
衛生管理者(えいせいかんりしゃ、テンプレート:Lang-en-short)とは、労働安全衛生法において定められている国家資格である。 労働環境の衛生的改善と疾病の予防処置等を担当し、事業場の衛生全般の管理をする。一定規模以上の事業場については、衛生管理者免許等、資格を有する者からの選任が義務付けられている。
衛生管理者免許には、業務の範囲が広い順に、衛生工学衛生管理者、第一種衛生管理者、第二種衛生管理者の3種類がある[1]。
目次
歴史
事業場の衛生管理においては医師だけで全ての業務を行うことは困難であり、指導員のような者が必要と考えられ、日本独自の制度として発足した。1947年制定の労働基準法、旧・労働安全衛生規則に規定された。
以降、伝染病の流行、職業性疾患への取り組み、特殊健康診断、作業環境測定法の制定、女子労働基準規則の制定、喫煙対策、過重労働による健康障害防止などの時代背景をもとに、何度か規定が改定され、現在に至っている。
- 1966年:旧・労働安全衛生規則の改正が行われ、衛生工学衛生管理者が創設された。また、一定の事業場において、衛生管理者の少なくとも1人を専任とすべきとされ、現在でも踏襲されている。
- 1972年:労働安全衛生法、新・労働安全衛生規則、衛生管理者規程の制定により、法的な位置付けや職務が明確化された。免許試験制度の規定、受験資格の引上げなどが行われた。
- 1988年:労働安全衛生法の一部改正が行われ、免許の業種別区分の新設などが行われた。また、職務に関する能力を向上するための教育、講習などの実施が盛り込まれた。
- 1989年:衛生管理者免許が第一種衛生管理者免許と第二種衛生管理者免許に分化された。衛生管理者免許を取得していた者は、第一種衛生管理者免許を受けたものとみなされた。
- 1997年:衛生工学衛生管理者免許を受けられる者の範囲の拡大、労働衛生コンサルタント等への講習科目の一部免除などが規定された。
職務
衛生管理者の職務としては、労働衛生と労働衛生管理に分類できる。
労働衛生については、ILOとWHOが1950年に採択した労働衛生の目的が参照される。この中で『人間に対し仕事を適用されること、各人をして各自の仕事に対し、適用させるようにすること。』と述べられている。
労働衛生管理については、時代により若干の違いがあるものの、労働安全衛生法では、
- 労働災害の防止、危害防止基準の確立
- 責任体制の明確化
- 自主的活動の促進
- 労働者の安全と健康の確保
- 快適な職場環境の形成
などが述べられている。
選任義務
労働安全衛生法において、一定規模以上の事業場については、衛生委員会の設置、衛生管理者、産業医等の選任を義務付けている。
衛生管理者
衛生管理者は、衛生に係る技術的事項を管理する者である。すべての業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任が義務付けられている。同様に、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場においては、安全衛生推進者もしくは衛生推進者の選任が必要である。
使用労働者数が50人以上200人以下の場合は、衛生管理者は1人以上選任しなければならない。200人を超え500人以下では衛生管理者は2人以上、以降、500人を超えると3人、1000人を超えると4人、2000人を超えると5人、3000人を超えると6人以上の衛生管理者を選任しなければならない。
衛生管理者は、少なくとも毎週1回作業所等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。また、事業者は、衛生管理者に対し、衛生に関する措置をなしうる権限を与えなければならない。衛生管理者が事故等でその職務ができないときは代理者を選任しなければならない。
衛生管理者は、選任する事由が生じてから14日以内に選任しなければならないが、選任できないことについてやむをえない事由があり所轄都道府県労働局長の許可を得たときは14日を過ぎてもよい。事業者は衛生管理者を選任したときは、遅滞なく所轄労働基準監督署長に届出なければならない。所轄労働基準監督署長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、事業者に対し、衛生管理者の増員又は解任を命ずることができる。
衛生管理者は以下の資格を有する者の中から選任しなければならない。
- 衛生工学衛生管理者免許
- 第一種衛生管理者免許
- 第二種衛生管理者免許(農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む)、電気・ガス・水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業、清掃業(工業的職種)は、第二種衛生管理者免許保有者を選任できない)
- 医師又は歯科医師
- 労働衛生コンサルタント(試験の区分は、コンサルタントとしての活動分野を制限するものではない)
- その他厚生労働大臣の定める者
原則としてその事業場に専属することとされ、常時使用する労働者が1000人を超える(一定の業種にあっては500人を超える)事業場では複数の衛生管理者のうち少なくとも1人は衛生管理者の業務に専任する者を置かなければならない。
但し、労働安全衛生法は、船員法の適用を受ける船員については、適用除外となっているため(第115条)、衛生管理者を置く義務はない(その代わりに船員法による「船舶衛生管理者」の資格が存在する)。
なお、同条において、鉱山保安法第2条第2項及び第4項の規定による鉱山における保安に関しては労働安全衛生法が適用されないが、衛生に関する部分は鉱山における保安には含まれないため、衛生管理者の選任については当然に適用がある。
また、国家公務員の事業場(つまり、国の官公署)については、国家公務員法附則第16条において、労働安全衛生法の適用を除外しているため、衛生管理者を置く義務はない(ただし、地方公務員の事業場においては、地方公務員法に適用除外の規定がないため、衛生管理者を置かなければならないので注意)。
総括安全衛生管理者
総括安全衛生管理者は、労働安全衛生法第10条に定められている。安全管理者、衛生管理者又は救護に関する技術的事項を管理する者を指揮し、安全衛生に関する以下の業務の統括管理を行う者である。当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければならず(職務の性質上、実際の指揮権限を有することが重要なので、「統括管理者に準ずる者」では足りない)、総括安全衛生管理者が事故等でその職務をできないときは代理者を選任しなければならない。衛生管理者とは異なり、特段の免許や経験は有さなくてもよい。
- 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること
- 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること
- 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
- 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること
- その他労働災害を防止するため必要な業務(安全衛生に関する方針の表明、危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置等)
選任すべき事業場は次の通りである。
- 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業は常時使用する労働者数100人以上
- 製造業(物の加工業を含む)、電気・ガス・水道業、通信業、熱供給業、各種商品卸売業・小売業、家具・建具・什器等卸売業・小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業は常時使用する労働者数300人以上
- その他の業種では常時使用する労働者数1000人以上
総括安全衛生管理者は、選任する事由が生じてから14日以内に選任しなければならない。事業者は総括安全衛生管理者を選任したときは、遅滞なく所轄労働基準監督署長に届出なければならない。所轄都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができる(都道府県労働局長が事業者に直接改善命令を出すことはできない)。
元方安全衛生管理者
- 元方安全衛生管理者を参照のこと。
店社安全衛生管理者
- 店社安全衛生管理者を参照のこと。
船舶に乗り組む衛生管理者
- 船舶に乗り組む衛生管理者を参照のこと。
衛生管理者免許
衛生管理者として選任されるための免許が衛生管理者免許であり、次の3種類がある。
- 衛生工学衛生管理者免許
- 第一種衛生管理者免許
- 第二種衛生管理者免許
衛生工学衛生管理者免許は、大学又は高等専門学校において工学又は理学に関する課程を修めて卒業した者など一定の資格を有する者が厚生労働大臣の定める講習を受け、修了試験に合格することにより取得できる。所持資格により一部科目免除が適用されるため、所要日数は最短で半日、最長で5日に分かれる。試験の難易度はそれほど高くないと言われているものの、免除科目が無い場合には講習は5日間に及び、実施する機関も少ない。
第一種・第二種衛生管理者免許は、厚生労働大臣の指定する指定試験機関の行う免許試験に合格することにより与えられる。現在では、財団法人安全衛生技術試験協会が唯一の指定試験機関である。受験には資格が必要であり、その代表的なものを次に示す。
このうち、労働衛生の実務の確認は、事業者証明書により行われる。なお、第一種衛生管理者免許は、保健師、薬剤師等の一定の資格を有する者に無試験で与えられる。
- 労働衛生の実務とは、次の内容と定められている。
- 健康診断実施に必要な事項又は結果の処理の業務
- 作業環境の測定等作業環境の衛生上の調査の業務
- 作業条件、施設等の衛生上の改善の業務
- 労働衛生保護具、救急用具等の点検及び整備の業務
- 衛生教育の企画、実施等に関する業務
- 労働衛生統計の作成に関する業務
- 看護師又は准看護師の業務
- 労働衛生関係の作業主任者(高圧室内作業主任者、エックス線作業主任者、ガンマ線透過写真撮影作業主任者、特定化学物質作業主任者、鉛作業主任者、四アルキル鉛等作業主任者、酸素欠乏危険作業主任者、有機溶剤作業主任者又は石綿作業主任者)としての業務
- 労働衛生関係の試験研究機関における労働衛生関係の試験研究の業務
- 自衛隊の衛生担当者、衛生隊員の業務
- 保健所職員のうち、試験研究に従事する者の業務
- 建築物環境衛生管理技術者の業務
- その他(申請時に業務の内容を具体的に記入する)
免許試験
- 試験は、全国7か所の安全衛生技術センターで定期的に実施される。
- 第一種は第二種の上位免許に当たるが、受験申請は段階を踏む義務はなく、最初から直接第一種を受けることも可能である。
- 合格後の免許申請は、東京労働局に対して行う。
試験科目
- 第一種(第二種衛生管理者免許を受けていない場合又は同免許を受けているが一部科目免除を希望しない場合)
- 労働衛生
- 労働生理
- 関係法令
- 特例第一種(第二種衛生管理者免許を受けていて一部科目免除を希望する場合)
- 労働衛生(有害業務に係るものに限る。)
- 関係法令(有害業務に係るものに限る。)
- 第二種
- 労働衛生(有害業務に係るものを除く。)
- 労働生理
- 関係法令(有害業務に係るものを除く。)
- ※上記科目の順序は法令上の記載順による。労働生理が免除対象となる場合があるため、実際の問題用紙では労働生理が最後となる。
- ※問題用紙は3科目(特例第一種の場合は2科目)がまとめて配布される。試験時間もまとめて3時間(特例第一種の場合は2時間)で、各科目ごとの時間区分(制限)はされない。
- ※船員法による衛生管理者適任証書の交付を受けた者で、その後1年以上労働衛生の実務に従事した経験を有するものは、第一種・第二種ともに労働生理の科目が免除となる。この場合の試験時間は2時間15分。
- ※第二種衛生管理者免許を既に受けている者は、免許証の写しによりその旨を明らかにした上で上記の特例第一種の区分で(つまり一部科目免除で)第一種を受験することができる。特例第一種という呼称はあくまでその免除適用試験の区分を指すものであって、合格して免許を受けた場合に、その免許の表示には何ら影響しない(「特例」等の区別を意味する表記が冠されるわけではない)。第二種を経て第一種を取得した場合も、第二種を経ずに第一種を直接取得した場合も、免許の効力・表示は同一のものとして取り扱われる。なお、第二種の既得者が必ずこの特例(一部科目免除)で受験しなければならない、という規定はなく、あえて免除科目なしで第一種を受験することも可能である。
衛生工学衛生管理者に係る講習
東京安全衛生教育センター、大阪安全衛生教育センターで定期的に実施される。 また、財団法人労働安全衛生研修所が行なう労働安全衛生大学講座を受講した者で、受講者が大学理工系の卒業者であること、または衛生管理者第1種資格のある人に限り衛生工学衛生管理者に係る講習と認められる。
衛生工学衛生管理者に係る講習の受講資格
- 大学又は高等専門学校において工学又は理学に関する課程を修めて卒業した者等(等は、職業能力開発促進法による職業能力開発大学校における長期課程の指導員訓練を修了した者を指す)
- 第一種衛生管理者免許試験に合格した者(保健師・薬剤師の資格による免許取得者は対象外)
- 大学において保健衛生に関する学科を専攻して卒業したものであって、労働衛生に関する科目を修めた者(指定大学のみ)
- 労働衛生コンサルタント(保健衛生・労働衛生工学)試験に合格した者
- 作業環境測定士となる資格を有する者
「第一種衛生管理者」・「労働衛生コンサルタント」・「作業環境測定士」・「大学において保健衛生に関する学科を専攻して卒業したものであって、労働衛生に関する科目を修めた者」の場合は、受講科目の一部が免除される。
講習科目
既に所持する他の資格(労働衛生コンサルタント試験合格者など)によっては、一部科目の受講が免除される。
- 衛生工学
- 労働基準法(2時間)
- 労働安全衛生法(関係法令を含む。)(6時間)
- 労働衛生工学に関する知識(14時間)
- 職業性疾病の管理に関する知識(6時間)
- 労働生理に関する知識(2時間)
- 修了試験
- ※上記科目の順序は法令上の記載順による。実際の講習は科目免除の適用、講師の都合等を考慮して組まれるため、必ずしも上記の順序とは一致しない。
衛生工学衛生管理者の免許申請
- 衛生工学衛生管理者の免許申請は、居住地の都道府県労働局で申請する(免許試験を受けた場合と異なるため、要注意)。