ラリー・ニーヴン
ラリー・ニーヴン(Larry Niven)ことローレンス・ヴァン・コット・ニーヴン(Laurence van Cott Niven、1938年4月30日 - )は、アメリカの小説家、SF作家。代表作は『リングワールド』(1970) で、ヒューゴー賞、ローカス賞、ネビュラ賞を受賞した。大胆なアイデアのハードSFを得意とし、しばしば推理小説と冒険小説の要素もある。ファンタジーとしては『魔法の国が消えていく』を代表とするシリーズがあり、魔法を再生不可能な資源として描いている。
経歴
ニーヴンは石油王 Edward L. Doheny の子孫である。カリフォルニア工科大学にも通ったが、カンザス州トピカのウォッシュバーン大学で数学(と心理学を少し)学び1962年に卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で数学の修士課程で1年だけ学んだ。以降ロサンゼルス近郊に住み、専業作家となった。同じくSF作家の Marilyn Joyce Wisowaty と1969年に結婚した。
作品解説
ニーヴンは非常に多くのSF短編・長編を著しているが、その最初の作品は『いちばん寒い場所』(The Coldest Place : 1964年)である。本作品の執筆当時、水星は太陽による潮汐力のために自転していないと考えられていた。本作品はその「固定された」水星の夜側を舞台にしたSF短編である。しかし皮肉にも本作品が出版される数ヶ月前に、水星は自転周期 : 公転周期=2:3の尽数関係をもって自転していることが明らかになった。
代表作は『リングワールド』(Ringworld, 1970年)だと見なされている。この作品で1970年度のネビュラ賞 長編小説部門[1]、1971年のローカス賞 長篇部門とヒューゴー賞 長編小説部門[2]を受賞している。また、「中性子星」では1967年のヒューゴー賞 短編小説部門を受賞し、1972年には「無常の月」でも同賞を受賞した。1976年には「太陽系辺境空域」でヒューゴー賞 中編小説部門を受賞した。
ニーヴンは Land of the Lost やアニメ版スタートレックなど様々なSFテレビ番組の脚本を書いている。また、『アウターリミッツ』(1996)では「無常の月」がドラマ化されている。
DCコミックのグリーンランタンのシリーズには科学考証面で関与しており、エントロピーとか赤方偏移といったコミックでは通常でてこない概念が登場する。
ニーヴン作品の多くは、かれが創造した「ノウンスペース(既知宇宙)」を舞台としている。このノウンスペースで人類は10を超える異星人種と太陽近辺の星々を共有統治している。なかでも「クジン人」や「ピアスンのパペッティア人」は作品中の主要キャラクターとしてしばしば登場している。『リングワールド』シリーズもノウンスペースの設定内の話である。肉体的にも精神的にも人類と全く異なる異星種族を考案する才能はニーヴンの強みの1つとされている。
また、ファンタジーにおいては、マナと呼ばれる神秘的なエネルギーを魔法の源たる有限の資源と設定して、それが枯渇しつつある古代世界を舞台にした『魔法の国が消えていく』などのシリーズを発表している。このマナの設定は、後に多くのファンタジーやゲームなどに流用されている。
《ドラコ亭夜話》シリーズの短編では、もっと奇妙な世界を様々な種族が集まるバーの主人の視点で描いている。
短編集『ガラスの短剣』に収録された表題作以外の作品は《タイムハンター・スヴィッツ》シリーズに属し、長編 Rainbow Mars(1999) も同じシリーズである。
近年は、その作品の多くをジェリー・パーネルやスティーヴン・バーンズらと共作している。
また、グレッグ・ベアの長編『天空の劫火』(The Forge of God) の登場人物、ローレンス・ヴァン・コット (Lawrence Van Cott) は、ニーヴンをモデルにしている。
影響
ニーヴンがSFというジャンルにもたらした最大の貢献はリングワールドの考案である。これは地球の公転軌道とほぼ同じ直径の巨大な環状の構造物である。これはニーヴンがダイソン球を効率化しようと考えて生み出したもので、回転させることで擬似重力を発生することができる。回転するダイソン球の場合、回転軸と赤道付近では擬似重力に大きな違いが生じるため大気が偏ってしまうが、リングワールドであればそのような問題はないし、建設に要する資材も少なくて済む。後にリングワールドは力学的に不安定であることが指摘された。すなわち、一度リングの中心が恒星とずれてしまった場合、恒星の重力によってずれが大きくなっていく。ニーヴンはこれを逆手にとって続編『リングワールドふたたび』のプロットの要素とした。
イアン・M・バンクスはこれを発展させた Orbital というより小さな構造体を小説に登場させている。アレステア・レナルズも2008年の小説 House of Suns にリングワールド的構造体を登場させている。ビデオゲームの HALO は、その名称自体が物語に登場する巨大環状建築物を指している。
オリジナルのマジック:ザ・ギャザリングには「ネビニラルの円盤」というカードがあったが、"Nevinyrral" とは "Larry Niven" を逆に綴ったものである。これは「魔法の国が消えていく」のシリーズに登場する、周囲のマナを消費し尽くして魔法を無効化する回転する円盤がアイデアの元になっている。
政策への関与
2007年、ジェリー・パーネルを代表とするSIGMAというSF作家集団がアメリカ国土安全保障省に対して今後のテロの傾向などを予測するといった助言を行い始めた[3]。これにニーヴンも参加している。
ニーヴンはロナルド・レーガンが戦略防衛構想(スターウォーズ計画)を立案する際のアドバイザーだった。このことはBBCのドキュメンタリー Pandora's Box で明かされている[4]。
その他
「スーパーマンの子孫存続に関する考察」でニーヴンは、スーパーマンと人間の女性が子を持つことの困難さを現実世界の物理学の範囲でユーモラスに解説している。
ニーヴンは作品の題名に二重の意味(ダブル・ミーニング)を持たせることが多いが、日本語訳するとそれがなかなか伝わりにくいこともある。例えば短編「銀河の<核>へ」は原題が " At the Core" であり、決して "To the Core" ではない。その意味は最後の一文で判明する。『インテグラル・ツリー』には積分法の記号(インテグラル)によく似た形状の木が出てくるが、その木は同時にそこに住む生き物にとって「不可欠 (integral)」なものでもある。
ニーヴンの法則といえば日本では「タイムトラベルと過去の改竄が可能な世界では、タイムマシンは決して発明されない」というものが有名だが、「ニーヴンの法則」と名付けられたものはいくつかある。詳しくは Niven's Laws(en) を参照。
作品一覧
(加筆希望)
長編
「ノウンスペース」もの
- プタヴの世界 (World of Ptavvs, 1966)
- 中性子星 (Neutron Star, 1967) - 短編集 – ヒューゴー賞の短編小説部門を受賞
- 地球からの贈り物 (A Gift from the Earth, 1968)
- リングワールド (Ringworld, 1970) – ネビュラ賞[1]、ヒューゴー賞の長編小説部門、ローカス賞を受賞[2]
- プロテクター (Protector, 1973)
- 太陽系辺境空域 (Tales of Known Space, 1975) - 短編集
- 不完全な死体 (The Long Arm of Gil Hamilton, 1976) - 短編集
- パッチワーク・ガール (The Patchwork Girl, 1980)
- リングワールドふたたび (The Ringworld Engineers, 1980)
- リングワールドの玉座 (The Ringworld Throne, 1996)
- リングワールドの子供たち (Ringworld's Children, 2006)
「ザ・ステート」もの
- 時間外世界 (A World out of Time, 1976)
- インテグラル・ツリー (The Integral Trees, 1984) - ローカス賞受賞[5]
- スモークリング (The Smoke Ring, 1987)
上記以外のもの
- 神の目の小さな塵 (The Mote in God's Eye, 1975) - ジェリー・パーネルと共著
- 神の目の凱歌 (The Gripping Hand, 1994) - ジェリー・パーネルと共著
- アヴァロンの闇 (The Legacy of Heorot, 1989) - ジェリー・パーネル、スティーヴン・バーンズと共著
- アヴァロンの戦塵 (Beowulf's Children, 1995) - ジェリー・パーネル、スティーヴン・バーンズと共著
- 無常の月 (All The Myriad Ways, 1971) - 短編集、ヒューゴー賞の短編小説部門受賞
- ホール・マン (The Hole Man, 1974) - 短編集、ヒューゴー賞の短編小説部門受賞
- インフェルノ -SF地獄篇- (Inferno, 1976) - ジェリー・パーネルと共著
- 悪魔のハンマー (Lucifer's Hammer, 1977) - ジェリー・パーネルと共著
- ドリーム・パーク (Dreampark, 1981) - スティーヴン・バーンズと共著
- アナンシ号の降下 (The Descent of Anansi, 1982) - スティーヴン・バーンズと共著
- 忠誠の誓い (Oath of Fealty, 1981) - ジェリー・パーネルと共著
- 降伏の儀式 (Footfall, 1985) - ジェリー・パーネルと共著
- 天使墜落 (Fallen Angels, 1992) - マイクル・フリン、ジェリー・パーネルと共著
ファンタジー
- ガラスの短剣 (Flight of the Horse, 1973) - 短編集
- 魔法の国が消えていく(The Magic Goes Away)
- 魔法の国がよみがえる(The Magic May Return)共著 - 短編集
- 魔法の国よ永遠なれ(More Magic)共著 - 短編集
未訳
- A Hole in Space (1974) - 短編集
- Limits (1985) - 短編集
- The Barsoom Project (1989) - スティーヴン・バーンズと共著
- N-Space (1990) - 短編集
- Achilles' Choice (1991) - スティーヴン・バーンズと共著
- Playgrounds of the Mind (1991) - 短編集
- Crashlander (1994) - 短編集
- The California Voodoo Game (1992) - スティーヴン・バーンズと共著
- The Dragons of Heorot (1995) - ジェリー・パーネル、スティーヴン・バーンズと共著
- Destiny's Road (1997)
- Rainbow Mars (1999)
- The Burning City (2000) - ジェリー・パーネルと共著
- Saturn's Race (2001) - スティーヴン・バーンズと共著
- Fleet of Worlds (2007) - Worlds シリーズ(パペッティア人の世界1) エドワード・M・ラーナーと共著
- Juggler of Worlds (2008) - Worlds シリーズ(パペッティア人の世界2) エドワード・M・ラーナーと共著
- Destroyer of Worlds (2009) - Worlds シリーズ(パペッティア人の世界3) エドワード・M・ラーナーと共著
- Betrayer of Worlds (2010) - Worlds シリーズ(パペッティア人の世界4) エドワード・M・ラーナーと共著
- Fate of Worlds (2012) - Worlds シリーズ(パペッティア人の世界5) エドワード・M・ラーナーと共著