阪急8000系電車

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テンプレート:鉄道車両 阪急8000系電車(はんきゅう8000けいでんしゃ)は、阪急電鉄1988年昭和63年)から製造した、神戸線宝塚線(総称神宝線)向けの通勤形電車である。

1989年昭和64年)1月1日宝塚線の初詣臨時特急で営業運転を開始した。[1]

本項では、解説の便宜上、梅田寄り先頭車+F(Formation=編成の略)を編成名として記述(例:8000以下8両編成=8000F、8035以下2両編成=8035F)する。

概要

本系列は、阪急電鉄の創立80周年を記念して製造された。本系列落成後、2000年代前半まではそれまでの阪急の看板車両であった6300系に入れかわる形で同社の広報誌などに掲載されていた。

本系列では前面デザインが大幅に変更され、それまでの丸みを帯びたものから、縁が一段飛び出した「額縁スタイル」と呼ばれるものとなり、窓は行先表示器を内部に納めた大型のものが、灯具は角型のものが採用され、全体的に角張った印象となった。この前面形状は、増備途中にさらなる変更が加えられている。また、8002F-8007Fは西寄りにセミクロスシート車が2両ある。

車体は前作の7000系をベースとしたアルミ製で、側窓は上下に50mmずつ拡大され、それまでの手動からドアに隣接するものは圧縮空気によるボタン式へ変更、その他は固定窓となっている。また、車体上の雨樋位置がわずかに高い、乗務員扉の窓も客室窓と同じくサッシュ式、乗務員扉横の手すりが無塗装ステンレスであるなど7000系とは微妙に仕様が異なる。

外部塗装は、それまで6300系のみに採用されていた「屋根肩部分のアイボリー色塗り分け」が採用され、初期の車両の前面窓下には金属製飾り板が取り付けていた。屋根肩の塗り分けはのちに7000系以前の系列にも波及したが、前面飾り板は採用されず、のちに本系列のものも撤去された(8005F以前の車両にのみ付けられ、8006F以降は新造時から取り付けられていない。)。

主回路制御は2200系で実用試験が続けられていたGTOサイリスタ素子による東芝VVVFインバータ制御が本格採用された。将来の速度向上にも対応できるように電動機出力は7000系の150kWから170kW×4基/両に向上され、2000系以来装備されていなかった定速制御装置を装備している(ただし、阪急部内では8000系以降はこの装置を「惰行制御装置」と呼んでいる)。なお、起動加速度は7000系の2.8km/h/sより少し落とされて2.6km/h/sとなった。また8両編成で4M4Tを基本としているが、3M5Tでも落成当時のダイヤで運行が可能な性能としていた。

阪急伝統のスタイルであった先頭車前面の車番の位置が前面貫通扉下部(貫通扉の窓下)から右側の窓下に変更されたのも本系列からで、後期増備車両においてデザイン変更が行われた際に採用された。この車番位置は京都線で運用されている8300系の他、8200系9000系9300系ならびに5000系7300系、7000系の更新工事に伴う前面改造にも採用されている。

形式

  • 8000形
梅田寄りの先頭に連結される制御電動車。パンタグラフVVVFインバータを搭載している。8001FはPMSM新型インバーター試験車。下記編成表ではMc1と表記。投入途中に制御機器、前面、パンダグラフが変更および前面の改造、さらには新機構の搭載など、本形式は様々なバリエーションがある。詳細は製造途中の変化および改造の節を参照。
  • 8100形(クロスシート車両は8102形)
新開地宝塚寄りの先頭に連結される制御電動車。VVVFインバータを搭載している。クロスシート車両では8102形と称す。下記編成表ではMc2と表記。
  • 8500形(クロスシート車両は8502形)
8100形の隣に連結される電動車。8000形から運転台を取り除いた構造をしている。クロスシート車両では8502形と称す。下記編成表ではM1と表記。また、M1とM2の形式と連結位置が7000系以前と逆になっている。[2]
  • 8600形
8000形の隣に連結される電動車。8100形から運転台を取り除いた構造をしている。下記編成表ではM2と表記。
  • 8550形
圧縮機静止型インバータ (SIV) を搭載する付随車。下記編成表ではT1と表記。
  • 8750形
付随車。特別な機器は搭載していない。下記編成表ではT2と表記。
  • 8150形
増結編成の新開地、宝塚寄りの先頭に連結される制御車。8550形に運転台を取り付けた構造をしている。下記編成表ではTcと表記。
  • 8040形
1997年に追加製造された8200系と同一の機器を搭載した制御電動車。梅田寄りの先頭に連結される。パンタグラフとVVVFインバータを搭載している。下記編成表ではMc1と表記。
  • 8190形
8040形と編成を組む、専用の制御車。宝塚寄りの先頭に連結される。圧縮機、SIVを搭載している。下記編成表ではTcと表記。

製造途中の変化

1本目の8000Fは宝塚線、2本目の8001Fは最初6両編成で神戸線に投入され今津北線運用に充当された。その後、梅田寄りから2両目と5両目に8601・8781を組み込み8両化。編成調整のため一時宝塚線で運用された時期もあった。

3本目の8002Fから8本目の8007Fまで(1989年 - 1992年)は編成の西(新開地・宝塚)寄り2両の座席がセミクロスシート構造で製造された。扉間が2人掛け×4脚×2列で、中央2列が転換式クロスシートとなり、8002F・8003F・8006Fが神戸線、それ以外の編成が宝塚線に投入された。なお、クロスシート部分はいすの数に対し窓が3つのままであるため、窓割りと合っていない。

1991年製造の8006Fからは前面の飾り帯が廃止された(既存の編成ものちに撤去)。

のちに宝塚線の8両編成をクロスシート車で統一する目的で8006Fと8000Fとが交換され、8000Fは神戸線用、8006Fは宝塚線用とされた[3]。8000Fはアンテナ1本、8006Fは宝塚線の他の編成と同じくアンテナ2本(片方は能勢電鉄妙見線日生線乗り入れ用)である。

1992年には再び全車ロングシート仕様にて8008Fと8020Fが神戸線向けに製造された。

8020Fは、他が8両編成で投入されたのに対し、6両編成で投入されたことから、阪急の流儀で各車の車両番号下2桁09 - 19を飛ばして8020 - と付番されている。当初は編成長が6両に制限される山陽電気鉄道本線須磨浦公園駅までの乗り入れや今津北線の普通運用にも充当されたこともあったが、阪神・淡路大震災後の1996年梅田寄りから2両目と6両目に新造された8620および8790を組み込んで8両編成となり、神戸線専用となった(2009年現在でも今津線には朝ラッシュ時の準急とその送り込みの回送で運用されている)。このうち8620および8790は室内の風洞形状が他の本系列と異なり、同時期に製造されていた8200系に近いものとなっている。また、この2両は伊丹駅で被災廃車となった3100系3109と2071系2087の代替製造という名目で製造された。

1992年から1993年にかけて、宝塚線の朝ラッシュ時の10両編成増発のために増結用の2両編成が6本製造された。電動車率の調整と連結されなくなった8550形が搭載していた機器の搭載のため、新開地宝塚寄りの先頭車はモーターを積んでいない新形式「8150形」が起こされた。また、8000形の車両番号はやはり阪急の流儀で下2桁21 - 29を飛ばして8030 - となっている。台車は当時廃車が進んでいた5200系の廃車発生品が流用されている(3300系 - 5000系の台車、FS369に類似。ただし、8155のみ台車は新造)。

1993年度製造の8033F以降は前面デザインが「額縁」に代わって中央部が「くの字」に膨らんだ形状に変更され、車番の位置が前面貫通扉下部から右窓下に変更された。また、この車両から前面の表示幕が大型化されている。

1997年には、さらに増結用編成が宝塚線用に2両編成3本製造された。電動機は200kW×3基/両、台車はモノリンク式ボルスタレス台車、集電装置はシングルアームパンタグラフと8200系と同仕様の機器を搭載していることから、車両番号はさらに下2桁36 - 39が飛んで8040 - となった。このグループは機器が大きく異なることから、狭義には「8040形」と別形式に区分されている。また、前面は8033Fを基調に、窓ガラスが下方に拡大され車番がガラス内に取り込まれた電照式となった。また、扉上部にLED式の車内案内表示装置が追加された。

改造

8002Fの新開地寄りの8102は、空気抵抗に対する実験的要素で前面下部のライト周りを一段高くした形状となっている(落成当初は通常形態で、これは後年の改造によるものである。8001Fの8001も同様の改造が行われていたが、新型VVVFインバータ試験の際に通常形態に復元された)。また、8001は2012年8月から東芝製GTO-VVVFインバータを取り外し、炭化ケイ素(SiC)を使用した東芝製の新型VVVFインバータに、主電動機を永久磁石同期電動機(PMSM)に換装し実用試験に供されている[4]。従来の誘導電動機とGTOサイリスタ素子を用いたインバータと比較して、力行の消費電力量約10%削減、回生電力量約85%増加、トータルで約50%の消費電力量削減結果を得られることが実証された[5]。これにより、1000系で本採用へと至った。

8008Fは阪神・淡路大震災ののちに集電装置が交換され、前面が額縁タイプの8両編成で唯一シングルアームパンタグラフ搭載するという特徴的な編成となった。

2007年9月、神戸線用の8001Fが全般検査出場した際に冷房装置キセ(カバー)が7000系リニューアル車と同じタイプのものに更新された。

2008年3月には、神戸線用の8031Fの梅田寄り先頭車8031の前面額縁の形状を変更する改造が行われ、車両番号の位置が前面貫通扉下部から左側運転席の窓下に変更された(新開地寄りの8151は変化なし)[6]。また、同年10月には8003F、2009年には8020F、2011年には8000Fの先頭車両の前面額縁を8031と類似する形状へ改造する工事が行われた。8000Fのみ車両番号の表記位置は改造前のままである。

2009年3月には、神戸線用の8008Fが全般検査出場した際にクーラーキセとパンタグラフが交換されている。パンタグラフはシングルアーム式のままであるが、5000系および5100系5128F、9000系、9300系と同様に集電舟2本タイプに変更されている。

2009年1月現在、8000F・8001F・8002F・8003F・8008F・8031Fのワイパーは銀色のものから黒色のものに交換されている。

在籍数

2010年2月現在、98両が在籍している。

神戸線用としては、8000F - 8003F・8008F・8020Fの8両編成6本48両と8031F - 8033F・8035Fの2両編成4本8両の計56両が西宮車庫に在籍している。

宝塚線用としては、8004F - 8007Fの8両編成4本32両と8030F・8034F・8040F - 8042Fの2両編成5本10両の計42両が平井車庫に在籍している。

運用

8両編成は神戸線・宝塚線ともにすべての種別に充当されている。

2両編成はおもに朝ラッシュ時に8両編成と連結しての10両編成組成に使用されるが、神戸線所属の8031F・8032F・8035Fは、普段は7000系の6両編成と連結し、本来の用途とは異なる8両固定編成として運用されている。

8031F - 8033Fは宝塚線配置であったが、神戸線の8連を増やす際に宝塚線から転属している。

テンプレート:TrainDirection 所属 備考
8000
(Mc1)
8600
(M2)
8550
(T1)
8750
(T2)
8750
(T2)
8550
(T1)
8500
(M1)
8100
(Mc2)
オールロングシート編成
8000 8600 8550 8750 8780 8650 8500 8100 神戸線 前面改造車
8001 8601 8551 8751 8781 8651 8501 8101 神戸線 クーラーキセ更新車
8001はPMSM、SiC適用のVVVFインバータ試験車
8008 8608 8558 8758 8788 8658 8508 8108 神戸線 シングルアームパンタ車 クーラーキセ更新車
8000
(Mc1)
8600
(M2)
8550
(T1)
8750
(T2)
8750
(T2)
8550
(T1)
8502
(M1)
8102
(Mc2)
セミクロスシート編成
8002 8602 8552 8752 8782 8652 8502 8102 神戸線 新開地寄り前面試験改造車
8003 8603 8553 8753 8783 8653 8503 8103 神戸線 前面改造車
8004 8604 8554 8754 8784 8654 8504 8104 宝塚線 2アンテナ車
(ラッシュ時間帯の特急日生エクスプレス」に使用される)
8005 8605 8555 8755 8785 8655 8505 8105 宝塚線
8006 8606 8556 8756 8786 8656 8506 8106 宝塚線
8007 8607 8557 8757 8787 8657 8507 8107 宝塚線
8000
(Mc1)
8600
(M2)
8550
(T1)
8750
(T2)
8550
(T1)
8750
(T2)
8500
(M1)
8100
(Mc2)
オールロングシート編成
8020 8620 8570 8770 8670 8790 8520 8120 神戸線 前面改造車
8000
(Mc1)
8150
(Tc)
7000
(Mc)
7500
(M')
7550
(T)
7550
(T)
7600
(M)
7100
(M'c)
 
8031 8151 7017 7517 7667 7677 7617 7117 神戸線 梅田寄り前面改造車
8032 8152 7014 7514 7664 7674 7614 7114 神戸線  
8035 8155 7023 7523 7763 7773 7623 7123 神戸線 中期型 方向幕更新車
テンプレート:TrainDirection 所属 備考
8000
(Mc1)
8150
(Tc)
 
8030 8150 宝塚線 クーラーキセ更新車
8033 8153 神戸線 中期型 方向幕更新車
8034 8154 宝塚線 中期型 方向幕更新車
8040
(Mc1)
8190
(Tc)
 
8040 8190 宝塚線 後期型
ボルスタレス台車、シングルアームパンタ車
LED式車内案内表示器、見えるラジオを設置
8041 8191 宝塚線
8042 8192 宝塚線

その他

ファイル:阪急8000系電車.JPG
エコトレイン 未来のゆめ・まち号・神戸線所属の8000F
  • 8000Fの編成が落成したのは1988年であったが、実際に営業運転を開始したのは翌1989年1月1日からだった。これは本系列がVVVFインバータ制御車であり、制御装置から漏洩する高周波ノイズが電気回路に与える影響を試運転時に様々な条件下で確認する必要があったためである。また、同編成は営業運転開始時から半月間デビュー記念のヘッドマークが取り付けられる予定であったが、同月7日昭和天皇崩御したため、当該ヘッドマークは同日の午前の運用をもって取り外された。
  • 8001Fは登場当時、車内に貼付された製造年を示すプレートに「昭和64年」と記載されていた。現在は、「平成元年」と記載されたプレートが貼付されているため、見ることができない。
  • 1995年1月17日阪神・淡路大震災神戸線が被災し、西宮北口駅 - 三宮駅間が不通となった後、西宮北口以西の部分復旧した区間ではモーターのメンテナンスが容易な本系列が集中投入された。
  • 2008年12月1日から2009年7月31日まで、8000Fと8007Fが「エコトレイン 未来のゆめ・まち号」として運行されていた。両編成には先頭車の側面半分まで環境をテーマにしたラッピングが施され、車内も環境をテーマにした広告が掲載されていた。[7]

参考文献・出典

  • 「HANKYU 8000」 阪急電鉄車両部 1989年[8]、1990年(クロスシート車導入による改訂)配布
  • 「阪急電車8000系 最新鋭車両ができるまで」 阪急クリーンカラー 1989年(VHSビデオ)
  • カラーブックス「日本の私鉄3 阪急」 保育社 1989年

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

テンプレート:阪急電鉄の車両
  1. 「鉄道ピクトリアル」1998年12月 No.663臨時増刊号より
  2. ただし、パンタグラフの搭載位置はこれまでと同じで、Mc1と神戸寄りから2両目の中間電動車にパンタグラフを2基搭載。
  3. ただし、8000Fは1995年の阪神・淡路大震災時の臨時ダイヤ(同年1月18日より6月11日まで実施)で神戸寄りに8000系を集中投入した際に神戸線に貸し出されていた実績がある。
  4. 【阪急】8000系8001F 運用復帰 - ネコ・パブリッシング「鉄道ホビダス」RMニュース 2012年8月24日
  5. 全閉型永久磁石同期電動機システムを鉄道車両に搭載し従来比約50%の省エネを実証 東芝ニュースリリース2012年10月23日
  6. 阪急8000系の全面形状に変化 | 鉄道ニュース | 鉄道ファン・railf.jp
  7. 阪急「エコトレイン未来ゆめ・まち号」運行開始 | 鉄道ニュース | 鉄道ファン・railf.jp
  8. 1989年版の「HANKYU 8000」は8000系運用開始20周年となった2009年に復刻の上で一般販売された。