自然債務

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テンプレート:Ambox 自然債務(しぜんさいむ)とは、債務としての最低限の効力(給付保持力)しかもたない債務のこと。

概要

債務の中には、裁判手続によって実体法上の権利の存否を判断してもらうことができず(訴求力がない)、よって債務の内容を強制的に実現することもできない(執行力がない)が、債務者が自らすすんで履行した場合には、有効な履行として債権者は履行された給付を返還する義務を負わない(これを給付保持力という)ものが存在する。このような債務を伝統的に自然債務という[1]

起源

自然債務の歴史的な起源は、ローマ法まで遡る。日本法においては、旧民法(いわゆるボアソナード民法(1890年明治23年)公布、施行されないまま1898年(明治31年)に廃止)の明文で規定されていた概念であるが、現行民法(1898年(明治31年)施行)の明文からは削除されており、これを直接規定した条文はない。

判例

日本の判例上は、「カフェー丸玉女給事件」(大審院判決昭和10年4月25日 法律新聞3835号5頁)において、「自然債務」が認められたとされる。もっとも大審院は「特殊の債務関係」としか言っておらず、「自然債務」という術語を直接に用いているわけではない。

自然債務の具体例

自然債務の具体例は次のようなものである[2]

  1. 徳義上(道義的責任)の支払債務
  2. 消滅時効にかかった債務
  3. 不法原因給付に基づく債務(民法708条
  4. 民事訴訟の勝訴判決後に訴えが取下げられた債務
  5. 破産決定後に免責決定を受けた債務(破産法253条1項)

なお、我妻榮は、利息制限法上の制限利息を超過して支払われた利息について、自然債務であるとするが、判例上は、不当利得として返還請求の対象になっており、自然債務として扱われていない。

自然債務否定説

消滅時効にかかった債務については相殺において自働債権となりうること(民法508条)、また、不法原因給付に基づく債務については給付の受領の効力を問題としているわけではなく政策的考慮によるものであるなど、債務の態様ごとに個別具体的に検討されるべきであるといった点から「自然債務」という概念を使う必要はないとする説がある[3]

脚注

  1. 内田貴著 『民法Ⅲ 第3版 債権総論・担保物権』 東京大学出版会、2005年9月、114頁
  2. 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、28頁
  3. 川島武宜著 『債権法総則講義 第1』 岩波書店、1949年、53頁以下

関連項目