消滅時効

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テンプレート:Ambox 消滅時効(しょうめつじこう)とは、一定期間行使されない場合、権利を消滅させる制度で、取得時効とともに時効の一つである。消滅時効により権利が消滅することを時効消滅という。

  • 民法について以下では、条数のみ記載する。

概要

債権は10年、それ以外の財産権(ただし所有権を除く)は20年の時効期間が経過すると消滅する(167条)。

除斥期間との比較

消滅時効に類似した制度に除斥期間があるが、以下の点で異なる。

  • 援用の必要性
消滅時効は援用を必要とするが、除斥期間は援用を必要としない。
  • 効果の遡及効
消滅時効の効果は遡及するが、除斥期間の効果は遡及しない。
  • 起算点
  • 中断の有無

消滅時効の適用範囲

  • 時効消滅する権利
債権などの財産権(所有権や占有権などを除く)
  • 時効消滅しない権利
所有権占有権など

消滅時効の要件

消滅時効の対象となる権利は消滅時効の起算点から一定の時効期間が経過したときに消滅する。

具体的には①権利を行使し得る状態になったこと、②その時から一定の期間(時効期間)が経過したこと、③援用権者が相手方に対して時効援用の意思表示をしたことである。

消滅時効の起算点

  • 消滅時効は権利を行使することができる時を起算点として、この起算点から進行する(166条1項)。
  • 起算点の具体例
    • 確定期限付の債務 - 確定期限の到来時
    • 不確定期限付の債務 - 不確定期限の到来時
    • 期限の定め無き債権 - 債権が成立したとき
    • 債務不履行による損害賠償請求権 - 本来の債権について履行請求できるとき
    • 契約解除による原状回復請求権 - 契約解除時
    • 返還時期の定めの無い消費貸借 - 債券成立後、相当期間経過後
    • 不法行為に基づく損害賠償請求権 - 被害者が損害及び加害者を知ったとき

割賦払債務の起算点

  • 即時進行説
  • 債権者意思説

時効期間

  • 債権の時効期間は10年間である(167条1項)。
  • 債権以外の財産権の時効期間は20年間である(167条2項)。

※権利関係の早期安定が必要とされる場合には法令で時効期間が短縮される場合(短期消滅時効)がある。

短期消滅時効

民法や商法には、権利関係を迅速に確定するために、より短い期間で時効が成立する場合がある。これを総称して短期消滅時効というが、以下のような例がある。

5年
追認できる時からの取消権(126条
年金・恩給・扶助料・地代・利息・賃借料(169条
財産管理に関する親子間の債権(832条
商事債権(商法第522条
相続回復請求権 相続権を侵害された事実を知ったときから(884条
金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利(地方自治法第236条
労働者の退職手当(労働基準法第115条後段)
3年
医師・助産師・薬剤師の医療・助産・調剤に関する債権(170条1号)
技師・棟梁・請負人の工事に関する債権 工事終了のときから(170条第2号)
弁護士弁護士法人公証人の職務に関して受け取った書類についての義務に対する権利(171条
不法行為に基づく損害賠償請求権 損害および加害者を知ったときから(724条製造物責任法第5条)
為替手形の所持人から引受人に対する請求権(手形法第70条第1項)
約束手形の所持人から振出人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号、なお、同法第78条第1項参照)
2年
弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関する債権(172条
生産者・卸売または小売商人の売掛代金債権(173条1号)
居職人・製造人の仕事に関する債権(173条第2号)
学芸・技能の教育者の教育・衣食・寄宿に関する債権(173条3号)
詐害行為取消権:債権者が取消しの原因を知った時から(426条
労働者の賃金(退職手当を除く)・災害補償その他の請求権(労働基準法115条前段)
1年(174条は、1年の短期消滅時効についての規定)
月又はこれより短い期間で定めた使用人の給料(174条1号)
労力者(大工・左官等)・演芸人の賃金ならびにその供給した物の代価(174条第2号)
運送費(174条第3号)
ホテルや旅館の宿泊料・キャバレーや料理店などの飲食料(174条第4号)
貸衣装など動産の損料(174条5号)
売主の担保責任:買主が事実を知った時から(566条
遺留分減殺請求権:減殺すべき贈与遺贈があったことを知った時から(1042条
運送取扱人の責任(商法第566条第1項)
陸上運送人の責任(商法第589条・商法第566条第1項準用)
海上運送人の責任(商法第766条・商法第566条第1項準用、国際海上物品運送法第14条第1項)
船舶所有者の傭船者、荷送人、荷受人に対する債権(商法第765条)
為替手形の所持人から裏書人や振出人に対する請求権(手形法第70条)
約束手形の所持人から裏書人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号)
支払保証をした支払人に対する小切手上の請求権(小切手法第58条)
6ヶ月
約束手形・為替手形の裏書人から他の裏書人や振出人に対する遡求権または請求権(手形法第70条第3項)
小切手所持人・裏書人の、他の裏書人・振出人その他の債務者に対する遡求権(小切手法第51条)

確定した権利の時効期間

確定判決や確定判決と同一の効力を有する公的手続(裁判上の和解調停など)によって確定した権利については、時効期間が10年より短く定められている場合であっても、その時効期間は10年となる(174条の2)。この場合には確定したときから改めて10年間の時効が進行することになる。

国および地方公共団体との間の金銭債権の時効

国の金銭債権・金銭債務については、消滅時効の特則があり会計法に以下のように規定がある(強調は引用者による)。地方公共団体の金銭債権・金銭債務についても、地方自治法第236条に同様の規定が置かれている。

第30条
金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、5年間これを行わないときは、時効に因り消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
第31条
金銭の給付を目的とする国の権利の時効による消滅については、別段の規定がないときは、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
金銭の給付を目的とする国の権利について、消滅時効の中断、停止その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し、適用すべき他の法律の規定がないときは、民法の規定を準用する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
第32条
法令の規定により、国がなす納入の告知は、民法第153条(前条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、時効中断の効力を有する。

税金に関する過誤納金、社会保険料の還付金、労災保険の保険給付を受ける権利などについては個別の法律に規定があり、おおむね2年間で消滅時効にかかる。国債については国債ニ関スル法律(明治39年法律第34号)に特則があり、同法第9条により、元金は10年間、利子は5年間で消滅時効にかかる。

関連項目