急降下爆撃

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テンプレート:出典の明記 急降下爆撃(きゅうこうかばくげき)は、軍用機の爆撃方法の一つ。

ファイル:急降下爆撃.png
急降下爆撃と水平爆撃の違い。同じ精度で投弾を行っても、急降下爆撃の方が着弾誤差が小さくなる。

急降下爆撃の利害得失

爆撃は通常、地表に水平に飛行しながら目標へ向けて爆弾を投弾する水平爆撃で行うが、急降下爆撃では目標に対して急降下しつつ投弾して爆撃を行う。

水平爆撃の場合、低空飛行で爆撃すると敵の対空砲火などによる攻撃で撃墜されたり、進路が狂って爆撃に失敗する可能性がある。高高度から爆撃を行なう場合には、地上などの固定された目標に対しても命中率は高くなく、まして艦船など移動する目標に対しては投弾から着弾までの時間が長くなり目標に退避する時間の余裕を与えるため命中率が極めて低くなるものである。

それに対し、急降下爆撃の場合、降下する機体のベクトルと爆弾の落下するベクトルが近いために命中率を高めることが可能となる。

ただし、この方法では水平爆撃と比べて、降下機動や急降下からの引起しなど機体にかかる負荷が大きくなる他、降下中に速度が過大にならないために特別な空力ブレーキを装着する必要がある場合もあり、急降下爆撃専用の機体(急降下爆撃機)を開発することが多かった。 また、通常の場合投弾高度は500〜900メートルとかなり低くなる。このことから爆弾の位置エネルギーは小さくなり、従って着弾時の運動エネルギーも小さいので、同一爆弾を使用しても、その貫徹力は一般に水平爆撃に比較して劣ることが多くなる。

投弾方法も主に

  • 先頭機に従って後続機が単縦陣に連なって順次急降下、投弾していく方法
  • 編隊全機が一斉に急降下する方法

の二つがあった。

前者は先行機の攻撃による着弾を見て後続機が照準を修正でき、目標の回避運動に対して柔軟に対応できるため命中率が高くなる反面、編隊全機が空中のほぼ一点を順次必ず通過するためそこに対空砲火を集中されると次々と被弾、撃墜される致命的リスクがあった。これは太平洋戦争前半まで旧日本海軍が使用した戦法である。

後者は先頭機の急降下開始と共に後続機も一斉に急降下に入り各機の照準にしたがって投弾する方法であるが、投弾タイミングが編隊全機でほぼ同じ為、目標が急激な回避運動をした場合全弾命中しないということもあり得る。しかし対空砲火は分散もしくは一部(多くは先頭機)に対して集中するため、被害が局限できるという利点があった。これはアメリカ海軍などが採用した戦法である。旧日本海軍も太平洋戦争後期にはこの戦法に変更している。

尚、旧日本海軍における急降下爆撃の降下角度は50° - 60°の間であった。この角度に関しては戦法の違いもあり、各国で若干の差異がある。降下角度が急になり過ぎると、操縦者の体が座席から浮き上がり操縦しにくくなるなど弊害が生じるため、完全な鉛直方向への急降下爆撃は困難である。

地上攻撃としての急降下爆撃

地上の目標に対しての急降下爆撃はその命中率の高さから第二次世界大戦ドイツによって多用された。ドイツ空軍の爆撃機部隊は戦略攻撃と戦術攻撃の双方を同一機材同一部隊でこなすことが求められており、兵力の効率的運用のためにHe111以降の制式爆撃機の全てに急降下爆撃の能力を要求した。

戦略攻撃戦力としては昼間精密爆撃の手段として急降下爆撃を採用した。

戦術攻撃戦力としての側面からは大砲の絶対数が少なかった為、ドイツ空軍はそれを補うために柔軟な攻撃が可能な急降下爆撃機を用いたのであるが、このことが大戦初期の電撃戦においては絶大なる効果をもたらした。

艦艇に対しての急降下爆撃

大抵の大型艦艇では上部構造が砲撃に耐えうるようになっているため、急降下爆撃に使用する爆弾では有効打とならず、急降下爆撃ではなく魚雷を使用する雷撃を併用して行うことも多い。これらは各国の戦術により異なる。

第二次大戦時は旧日本海軍アメリカ海軍は急降下爆撃を重視していたが、これは航空母艦の飛行甲板に先制打撃を与えることで洋上での制空権を奪取することを目的としていたことによる。

特に日本海軍における艦上爆撃機は対航空母艦用の兵器であった。艦爆による先制攻撃で敵航空母艦の飛行甲板を潰し、その上で艦上攻撃機(及び陸上攻撃機)が戦艦部隊を攻撃する構想である。実際セイロン沖海戦では第一航空艦隊の空母4隻の急降下爆撃隊がイギリス海軍の空母「ハーミズ」、重巡「コーンウォール」「ドーセットシャー」に対して平均命中率80%超を叩き出し、尚且つ被撃墜機無しで3隻とも撃沈するという離れ業を演じている。この命中率は回避運動をしている艦艇に対しての攻撃としては驚異的な命中率である。

米海軍においては、それに加えて索敵用の偵察機としての役目も期待されており、正規空母の飛行隊編制では艦爆装備飛行隊は爆撃飛行隊(VB)に加え索敵飛行隊(VS)の2個飛行隊が配されている。 これは偵察機を爆装した急降下爆撃機としておけば、敵艦隊を発見すると同時に奇襲的に敵航空母艦に殺到するチャンスがあるという考え方に基く。

対してイギリス海軍はどちらかというと雷撃を重視していたが、これは予想戦場を北海や地中海としていたため、敵機は航空母艦よりも陸上基地(複数)から出撃してくるものと考えられていたからである(ドイツイタリア共に、結局空母を実用化できなかった)。また、イラストリアス級航空母艦が装甲飛行甲板を備えたのもこの想定に基づく。

イギリス海軍の艦上機は艦隊防空用の単座艦上戦闘機、索敵と防空を兼務する複座艦上戦闘機、敵艦隊攻撃用の艦上雷撃機からなり、急降下爆撃は複座艦上戦闘機(後には艦上雷撃機も行なうようになるが)が余技として行なうものであった。

その後

防空システムの強化によって、艦艇・目的地への接近が困難となった上、爆撃コンピューターなどの機上電子機器の発達による命中率の向上、誘導爆弾や対地・対艦ミサイルの出現・発達により、現代の戦争では急降下爆撃の必要性はほとんどなくなったといえる。それでもF/A-18等急降下爆撃のできる現役機も存在する。

関連項目