地層処分

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地層処分(ちそうしょぶん)とは、原子力発電所から発生する使用済み燃料の再処理の際に発生する高レベル放射性廃棄物やTRU廃棄物の最終処分方法の一つである。放射性物質の濃度が高く、半減期の長い放射性物質を含むため、人が触れるおそれのない深部地下にこれを埋設することであり、低レベル放射性廃棄物の処分である「浅地中処分」とは区別される。

放射性物質の生物生息環境からの隔離

原子力発電核兵器開発などの工程で生じた高レベル放射性廃棄物はその生物に与える脅威から、生物相からの隔離が必要となる。生物相からより離れた実用的な手段として地層処分が20世紀後半から考慮されている。地層処分においてはいかに人類を含む生物生活環境からこれら廃棄物を遠ざけるかが考慮され、何段階にもおよぶ防御(バリア)を施した埋設処分が検討されている。高レベル放射性廃棄物はガラスによって固化し(ガラス固化体)、30年から50年の中間貯蔵を経た後に、オーバーパックと呼ばれる金属などの容器に封入され地下深部に埋設される。地層処分の安全性を確保するため、人工バリアと天然バリアと呼ばれる多重バリアシステムの概念が用いられている。 処分施設の計画や建設が進行中である。(2011年時点で高レベル放射性廃棄物の為の地層処分施設に完成したものはない。)

放射性廃棄物の処分方法

放射性廃棄物の処分には以下の地層処分浅地中処分がある。 テンプレート:放射性廃棄物の区分と処分方法

テンプレート:放射性廃棄物の処分方法

多重防御(バリア)

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地層処分の概念

日本では地層処分において以下の4段階の遮蔽措置(バリア)が検討されているが最終決定には至っていない。 人工バリアは放射性物質を生物環境から隔離するために設けられる障壁のうち、最も内側にある第一から第三の機能である。

  • 第一バリア ステンレス容器に封入したガラス固化体

使用済み核燃料の再処理工場から出る高レベル放射性廃棄物は濃縮されガラスに融解させステンレス製(肉厚約5mm)のキャニスター(直径約43cm、高さ約134cm、容量170リットル)の中で固化する。ステンレス製キャニスターの肉厚約5mmは貯蔵期間中の腐食を考慮し余裕を持たせている。ガラス固化体(正味体積150リットル、正味重量約400kg)は発熱量が、平均2.0kW(最大2.5kW)であり、30~50年間冷却の為に地上施設で管理貯蔵された後に地層処分される [1]

  • 第二バリア オーバーパック

地層処分に際してはガラス固化体の入ったステンレスキャニスターは直径約80cm、高さ約170cm、壁厚約19cm、重さ6トンのオーバーパックと呼ばれる金属容器に収納・密閉される。材料には炭素鋼、チタン、銅が検討されている。 このオーバーパックにより1000年間の遮蔽を目指している[2]

  • 第三バリア 緩衝材

さらにその周りを厚さ約70cm粘土製の緩衝材ブロックで囲み、地下水や放射性物質の漏出を遅延させる。

  • 第四バリア 天然バリア

最後のバリアが地下数百メートルという岩盤による遮蔽である。第一・第二バリアが腐食・破損し放射性物質の漏洩が始まってからも地層により地上への拡散を何万年も押さえ込めるという想定である。

地層の選択

20世紀後半から各国で様々な試行が繰り返されている。岩塩層、泥岩層、花崗岩層などが候補地に選ばれ試験施設が建設された。(および建設中) 岩塩層はその可塑性(Plasticity)による亀裂自動修復効果が期待されているが同時にその可塑性による岩塩ドームの崩落など不安定性も憂慮されており、また耐水性に難がある。泥岩層は岩塩層同様に展延性(Ductility)による亀裂修復効果が期待されている。花崗岩層は岩塩層や泥岩層に比べその堅牢性、安定性が評価されているが亀裂の修復は期待できないなど一長一短がある。

処分地の管理

地層処分地は一定期間を立体的保護区として監視し、特定行為の制限などの対策を講じる。時間の経過に従い管理の度合いを段階的に排除し、最終的には人間の管理から離れることになる。

高レベル放射性廃棄物は30~50年間の中間貯蔵の後、深地層埋設処分される。埋設地選定・施設建設から数10年から100年間の操業(廃棄物の搬入)された後に、施設は埋戻しされ地層処分作業は終了するが、埋設地周辺の管理はその後長期にわたり継続される予定である。

高レベル放射性廃棄物の放射能は時間とともに減衰するが無害のレベルまで崩壊するには数万年以上の時間が必要であり、地層処分の不確実性によるリスクは期間の増大とともに増えていく。地層処分が検討され始めた当初は、施設封鎖後1000年間程の情報管理が必要と考えられていたが、現在では「可能な限り長期間」とより長い努力目標に変わってきている。仮に1000年間の情報継承としても、日本の歴史にたとえると平安時代の終わり(1192年頃)から幾多の災害・戦争・政変などを乗り越えた現在よりもさらに100年以上先の、22世紀の終わり(2192年頃)まで埋設施設の情報を引き継ぐ事に相当する。たとえ情報が引き継げたとしても民族や国家が滅亡するというケースもあり、存続していたとしても22世紀には世界人口の減少が始まり、世界的な超高齢社会に突入するという予想もされているため、これらの可能性も考慮されなければならない[3]

米国ではユッカマウンテンの処分施設(2011年時点で計画凍結)の管理期間を百万年としていた。ヨーロッパ各国では地層処分施設の管理期間を十万年としている[4]。十万・百万年という地質時代の規模での管理を想定した場合、施設の継承はもとより情報の継承すら困難が予想されるため、後述のような対策が行われているが、その有効性については不明な部分が多い。

放射能の経時変化

日本で計画されているステンレス製のキャニスター1本のガラス固化体(正味体積150リットル、正味重量約400kg)の放射能は約4x1015ベクレル(最大4.5x1016ベクレル)で、その放射能は50年(一次冷却保管)後に半減、100年後に1/10、1000年後に1/400、1万年後に1/2000、10万年後に1/6000の約7x1011ベクレル、100万年後に1万分の1の約3.5x1011ベクレル、5000万年後に5百万分の1、10兆年後に5.5x108ベクレルへと減少していく[5]。(注意 記述の放射能の減衰の数値は原典のグラフを目測したもので正確な数値ではない。)

高レベル放射性廃棄物の在庫

2009年の時点でのガラス固化体の日本での在庫は日本原燃・再処理事業所に1445本、東海研究開発センターに247本であった。東海研究開発センターには他にガラス固化処分待ちの380立方メートルの高レベル放射性廃液があった。

処分地に関する記録の保存

将来世代による処分地への意図しない接触を抑止し、意図的な接触を行うか否かの意志決定に資する目的で、遠い将来まで残しうる記録媒体の開発、および方向性は逆であるが考古学的な視点を含めた記録保存の研究も行われている。保存されるべき情報のレベルは以下のように区分される[3]

  1. 初歩的情報(「何らかの人造物がそこに存在する」)
  2. 警告情報 (「何らかの人造物が存在し、それは危険なものである」)
  3. 処分場に関する基本情報 (5W1Hに関する情報)
  4. 処分場に関する総合情報 (詳細な記述、図表、グラフ、地図、ダイヤグラム等)
  5. さらに詳細な情報

日本における地層処分

地層処分の研究開発は、1976年より実施されている。1992年に動力炉・核燃料開発事業団(現:日本原子力研究開発機構)が日本における地層処分の技術的可能性を示した。地層処分の技術的な信頼性を高めるために茨城県東海村に地層処分基盤研究施設(放射性同位元素を使用しない施設)における研究開発を1993年より実施した。さらに、地層処分放射化学研究施設(放射性同位元素を使用可能な施設)を建設・開設した。両施設における研究成果をとりまとめ、核燃料サイクル開発機構(現:日本原子力研究開発機構)は1999年に地層処分の技術的信頼性を示した。この成果を受けて実際の日本の地下深部に関わる研究を実施するため、2001年幌延深地層研究センターを、2002年瑞浪超深地層研究所岐阜県瑞浪市)の建設に着工し、地層処分や深部地下環境に関わる研究が実施されている。

高レベル放射性廃棄物は1996年3月時点でガラス固化体に換算して1万2千本相当が溜まっており、2030年には7万本相当になると試算されており地層処分施設では5.6~7km2の用地を必要と見積もられている[6]

2010年3月末時点で日本国内には処理の済んだガラス固化体1338本が日本原燃六ヶ所高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで保管されている。日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターには200リットルドラム缶換算で28836本相当の処理待ちの廃棄物が保管されている[7]

処分地の選定

2002年より、原子力発電環境整備機構(NUMO)が地層処分を行う場所を公募開始。2028年までに調査を終えて処分地を決定、2038年までに処分を開始するタイムスケジュールとなっている。

処分場の設置に当たっては、関連施設の誘致などが見込まれ、疲弊した地方の自治体には興味を示すところは少なくないとされる。ただし、誘致を表面させた場合、周辺自治体等からの猛反発は避けられず、水面下での検討を余儀なくされている。

地層処分に関して自治体への援助は、その地域の「文献調査」(過去の地震等の調査)の実施に対して年間2億1,000万円が交付される。また「概要調査地区」(地層の実際の調査)では年間20億円の電源立地交付金が給付される。地方交付税の大幅削減の状況下で財政再建に苦しむ自治体ではこの交付金目的で調査に応じる場合も予想されている。

原子力発電環境整備機構では公募開始後、応募があれば対応するという受け身の活動であったが、2005年以降は要員を増強し地方へ長期出張して説明会・勉強会を実施するなど能動的応募獲得活動に移っている。下記の検討・応募状況以外にも多くの自治体から原子力発電環境整備機構(NUMO)への問い合わせがある[8]

施設検討・応募状況

括弧内は2011年の推計人口、廃止自治体は廃止時の人口。

  • 福井県和泉村 (731人) 2003年4月、応募検討が報道された。2005年11月に大野市へ編入消滅。
  • 高知県佐賀町 (3907人) 2003年12月、応募検討が報道された。2006年3月黒潮町へと合併消滅。
  • 熊本県御所浦町 (3790人) 2004年4月、応募検討が報道された。2006年3月天草市へと合併消滅。
  • 鹿児島県笠沙町 (3838人) 2005年1月、応募検討が報道された。2005年11月南さつま市へと合併消滅。
  • 長崎県新上五島町 (21518人) 2005年7月、応募検討が報道された。
  • 滋賀県余呉町 (3615人)
2005年10月に首長が、町の財政再建のため、受け入れの検討を表明。町の一般会計予算の規模は20数億円/年間であり、電源立地交付金はその全予算に匹敵する。しかし近畿一円の水源の琵琶湖に隣接する余呉町への放射性廃棄物移入は安全性リスクが高く、県が反対し町は一時誘致を撤回。
2006年9月、町は再度誘致を表明。しかし同年12月、町民の理解も得られず誘致断念。2010年1月長浜市へ編入消滅。
2006年に調査候補地に応募。しかし住民の理解が得られていないとして応募差戻しとされた。
2007年1月に再度調査候補地に応募。反対派候補の町長当選により4月に応募取り下げ。

各国の施設

深地層への放射性廃棄物の保管は20世紀後半から各国で研究・試験がおこなわれてきた。主な施設を以下にあげる。貯蔵施設には将来の搬出を考慮したものと搬出を考慮しない永久埋設がある。より詳細は英語版en:Deep geological repositoryを参照。

アメリカ合衆国

ファイル:WIPPFacility.jpg
米国WIPP施設概要
  • ユッカマウンテン放射性廃棄物処分場英版ネバダ州)は、当初は1998年に操業開始の計画だったが、地元の強い反対などで大幅に遅れ、2002年に建設地が正式決定された。NRCは予備審査を経て、3年以上かけて正式審査に入る。廃棄物の受け入れを始めるのは早くても2020年ごろの予定であった。米国環境保護庁(EPA)は2001年6月にユッカマウンテンの処分場の管理期間を一万年とすると発表したが直後から原子力・環境団体とネバダ州政府がEPAの規定を巡り法廷闘争に入った。2004年6月に連邦高裁はEPAの基準は米国科学アカデミーの勧告と矛盾しており一万年は短すぎると判断した。2009年2月に判決に基づきEPAでは管理期間を100万年に変更した[11]。ユッカマウンテンに計画中の処分場は100万年後までの安全を考慮して審査される。
同処分場は、原子力発電所から出る使用済み核燃料などの高レベル廃棄物7万トンの容量を予定していた。2008年3月、米エネルギー省が、米原子力規制委員会(NRC)に建築認可を申請。建設予定地は、ラスベガスの北西約140キロの砂漠地帯である。しかし、2011年4月に第44代大統領バラク・オバマは施設開発予算を凍結した[12]

フィンランド

ファイル:Onkalo-kaaviokuva.png
オンカロ廃棄物貯蔵施設の図解
  • オンカロ廃棄物貯蔵施設(Onkalo waste repository)を最終処分地として決定[12]。2004年に掘削を開始し、2011年現在第二期工事中である。花崗岩に囲まれた地下520メートルの場所に100年分の廃棄物の保管を可能にする施設で2020年に操業を開始する予定である。100年後の2120年には施設は埋没処理され、閉鎖される予定となっている。

ドイツ

ファイル:Schnitt-Schachtanlage Asse.svg
ドイツSchacht Asse IIの断面図
  • Schacht Asse II (岩塩層、地下750メートル、1965年試験開始-1995年閉鎖)

岩塩坑道を流用したもので閉鎖までにウラン・プルトニウムを含む中・低レベル放射性廃棄物が搬入された。 低レベル廃棄物ドラム(容量100~400リットル)125787本、ウラン・プルトニウムを含む中レベル廃棄物容器(容量200リットル)。 搬入時点での放射能は累計4.6x1015Bq(ベクレル)にのぼる。(参考値:チェルノブイリ原発事故による放射性物質放出量推定14x1018

20世紀末から地下水浸出とその放射能汚染、岩塩ドーム崩落が危惧されており2008年時点で一日11.8立方メートル地下水が流入しており、地下構造物の強度の劣化も観測されており、安定化遮蔽作業が継続されている。

  • Morsleben (岩塩層、地下630メートル、1971年搬入開始-1998年閉鎖)

岩塩坑道を流用したもので閉鎖までに中・低レベル放射性廃棄物総量36753立方メートル、0.38x1015Bq(ベクレル)が搬入された。こちらもSchacht Asse II同様に地下水浸出、岩塩ドーム崩落が危惧されている。岩塩ドーム崩壊などの防止の為の施設の安定化遮蔽作業はen:salt-concreteの流し込み等によって行われており(2011年継続中)費用は22億ユーロと見積もられている。

  • Gorleben (岩塩層、計画保留)
  • Schacht Konrad (堆積岩、地下800~1300メートル、建設中)

閉鎖された鉄鉱石の坑道で2013年の操業開始を目指し改装中である。中・低レベル放射性廃棄物総量30300立方メートルの容量を持つ。

フランス

ファイル:ANDRA bloc laboratoire-2004-09.svg
フランス(ANDRA)のMeuse/Haute Marne地下試験施設
  • ムーズ・オート=マルヌ地層研究所の地下試験施設で地下約500メートルの泥岩層にトンネルを掘削中である。2007年の時点で横坑の約500メートルのトンネルが掘削されており、2015年に工事が終了する予定である。

スウェーデン

モンゴル

有力なウラン産出国であるモンゴル[13] において核廃棄物処分場を建設する構想が国際協調の名の下に検討された。2010年9月に米エネルギー省とモンゴル政府の協議が始まり[14]、2011年2月には日本が参加、その後アラブ首長国連邦(UAE)も加わり秘密裏に交渉が続いでいたが、計画が報道されモンゴル国内で反対の動きが高まり、2011年9月には計画は撤回された [15]

脚注

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参考文献

  • 島崎英彦・吉田鎮男・新藤静夫編 『放射性廃棄物と地質科学 - 地層処分の現状と課題』 東京大学出版会1996年、ISBN 978-4130667029

関連項目

外部リンク

  • 日本原燃「ガラス固化体の性状」閲覧2011-11-3
  • 地層処分実規模試験施設「人口バリアとは」閲覧2011-10-21
  • 3.0 3.1 テンプレート:Cite web
  • IAEA-TECDOC-1243 ”The use of scientific and technical results from underground research laboratory investigations for the geological disposal of radioactive waste Sep-2011”閲覧2011-10-20
  • 原子力環境整備促進・資金管理センター「ガラス固化体の放射能の経時変化」閲覧2011-10-21
  • 原子力委員会「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方について平成10年5月29日」閲覧2011-10-22
  • 原子力安全基盤機構「原子力施設運転管理年報平成22年版(21年度実績)」閲覧2011-10-23
  • 資源エネルギー庁「高レベル放射性廃棄物と地層処分について」閲覧2011-9-4
  • 『「原発のごみ」最終処分場、福島・楢葉町が誘致検討』 朝日新聞 2009年3月15日
  • 米国エネルギー省「How Will Future Generations Be Warned?」閲覧2011-9-1
  • 朝日新聞「原発ごみ処分場の審査、100万年後まで考慮 米規制委 2009年2月19日」閲覧2011-10-20
  • 12.0 12.1 12.2 『諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について』 2008年2月 (財)原子力環境整備促進・資金管理センター
  • JAIF日本原子力産業協会 「モンゴルとの協力」閲覧2011-8-29
  • ニューズウィーク 「アジアの核廃棄物はモンゴルへ」閲覧2011-8-29
  • 毎日新聞「核処分場:モンゴル政府、計画を断念 反対高まり、日本に伝達」2011年10月15日付閲覧2011-11-8