向精神薬

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向精神薬(こうせいしんやく、テンプレート:Lang-en-short)とは、中枢神経系に作用し、生物精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称である。脳に対する作用の研究が行われている薬物である。主として、精神医学の分野で研究され、精神科で用いられる精神科の薬[1]、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のようなテンプレート:仮リンクが含まれるテンプレート:Sfn。こうした物質は精神薬理学の研究対象である。

向精神薬に関する条約にて指定された薬物が、付表IからIVまですべてが「国際条約上の向精神薬」であることは、この条約の1条(e)で定義される通りである。各国は条約に批准しているため、薬物を管理するための同様の法律を有する。狭義の「日本の法律上の向精神薬」は、麻薬及び向精神薬取締法で個別に指定された薬物を指す。薬物乱用の懸念があるメチルフェニデートのようなや精神刺激薬、ベンゾジアゼピン系バルビツール酸系の抗不安薬・睡眠薬・麻酔薬・抗てんかん薬の一部が、日本の同法における第一種向精神薬から第三種向精神薬に指定されている。これは国際条約の付表IIからIVに相当する。向精神薬に関する条約において付表Iに分類されているLSDなどを、日本の法律上は麻薬に分類している点が、国際法と日本法で異なる。

精神刺激薬(Stimulant)は、中枢神経系を活性化させる薬物の総称で、コカインニコチンカフェインアンフェタミンメタンフェタミンMDMAテンプレート:Sfnメチルフェニデートテンプレート:Sfnが含まれる。心拍や呼吸を増加するテンプレート:Sfn。慢性的な使用により統合失調症様の精神刺激薬精神病を呈する。

抑制剤(Depressant)は、その反対に中枢神経系を抑制する作用を持つ。アルコール有機溶剤ベンゾジアゼピン系薬、ヘロインアヘンモルヒネといったオピオイド系の薬物や大麻が含まれるテンプレート:Sfn。抗不安作用や鎮痛作用がある。過量服薬すると呼吸中枢を抑制して死亡するものも多い。

幻覚剤(Hallucinogen)は、幻覚作用を持つ薬物で、典型的にはLSDのような薬物である。しかしながら、大麻やMDMAは幻覚特性を持つためここにも分類されるテンプレート:Sfn。これらの薬物では不快な離脱症状を避けるための使用が認められず、そうしたことを理由に医療を求めるのはまれである[2]

歴史

古来から、精神に何らかの作用を及ぼす植物が用いられてきた。

1950年代半ばまで

20世紀初頭には、その頃登場したバツビツール酸やモルヒネといった薬物が用いられた。1943年にLSDが合成され医薬品として販売されるに至ると、この薬物による研究も盛んになった。

近代の精神薬理学の幕開け

ジョン・ケイドによるリチウムの抗躁作用の発見あるいはクロルプロマジンの合成と治療効果の発見をもって、近代における精神薬理学の幕開けとされる。

1949年ジョン・ケイドリチウムの抗躁作用を見出す。1952年には、フランスの精神科医ジャン・ドレー (Jean Delay) とピエール・ドニカー (Pierre Deniker) がクロルプロマジン統合失調症に対する治療効果を初めて正しく評価し、精神病に対する薬物療法の時代が幕を開けた。

1957年には、ベルギーの薬理学者パウル・ヤンセン (Paul Janssen) がクロルプロマジンより優れているとされる抗精神病薬ハロペリドールを開発する。1957年に、スイスの精神科医ローラント・クーンによってイミプラミンが、精神賦活作用を有することが見いだされ、うつ病の薬物療法への道が開かれた[3]

1960年頃までに、初のベンゾジアゼピン系の抗不安薬であるクロルジアゼポキシドと、その類似の化学構造を持つジアゼパムが販売されるようになる。

国際条約と薬物の管理

1971年には、国際条約である向精神薬に関する条約が、LSDや、覚醒剤バルビツール酸系/ベンゾジアゼピン系といった乱用の危険性のある向精神薬について公布される。

新世代の精神科治療薬とデザイナードラッグの台頭

1984年には、新しい世代の抗精神病薬である非定型抗精神病薬リスペリドンが開発される。また、抗うつ薬でも、新世代のSSRI抗うつ薬が販売される。このころまでには、ベンゾジアゼピン系の薬物の依存症や副作用が問題となり、1996年にも、世界保健機関も30日までをめどに処方すべきとする報告を行った[4]非ベンゾジアゼピン系の薬剤が販売されるに至る。

また1980年代より、既存の薬物の化学構造を修正したデザイナードラッグが合成されるようになり、その流通が問題視されるようになる。

2007年には、日本において、リタリンの不適切処方問題が表面化。うつ病がリタリンの適応症から外される。翌年に流通規制制度を設ける。

製薬開発の停滞と規制管理の失敗

アメリカ合衆国では、各製薬会社による精神科治療薬を含めたテンプレート:日本語版にない記事リンクの使用を勧める違法なマーケティングは、数億ドル以上の史上最高額の罰金を更新し続けている[5][6]

新世代の精神科の治療薬は、基本的にお互いを模倣した薬剤が多くあり、メディアにおいて「模倣薬」(me too drug)と称される[7]。似たような10種類の新しい非定型抗精神病薬と、似たような6種類のSSRI抗うつ薬が販売されており、さらにこれらの薬剤は精神疾患に対し十分な反応を示しておらず、耐えがたい副作用があるため、これまでとは違った薬剤の研究が必要となっている[7]

2009年ころより、大手製薬会社は精神疾患の治療薬の開発から撤退し始めた[8][9]。2011年の欧州神経精神薬理学会 (ECNP, European College of Neuropsychopharmacology) の会談で、会長のデビッド・ナットはこの状況に対し「精神薬理学の暗黒の日々である」と述べ、『ネイチャー』はその取材記事に「精神薬理学の危機」という題名をつけた[10]。新しい薬はない[11]アメリカ国立精神衛生研究所 (NIMH) 所長のトーマス・インセルも同様の状況に触れている[12]

日本では、2010年に厚労相が「うつ病などに対する薬漬け医療」について、自殺・うつ病対策プロジェクトチームにて大量処方過量服薬の防止について検討していることに言及した[13]

過剰摂取による死亡は、英米で交通死亡者数を上回り、国際的な懸念となっている[14][15]。アメリカでは、2010年には38,329人の薬物過剰摂取による死亡があり、その過半数は一般医薬品や違法薬物ではなく処方せん医薬品であり、全体の74.3%が意図しない死亡である[16]

ファイル:MilitaresMichoacán.jpg
薬物戦争は、人類に多大な損害をもたらした。アメリカ合衆国が主導した薬物戦争にもかかわらずラテンアメリカは依然としてコカインの最大規模の生産地であり、メキシコでは薬物に関連した暴力により死者は6年間で6万人を上回り、この政策が薬物の流通を制限するという証拠は乏しい[17]。このためこれらの国の大統領は、国連の総会において合法化の提案を行っている[17]

2011年6月、テンプレート:日本語版にない記事リンクは、薬物戦争に関する批判的な報告書を公表し、「世界規模の薬物との戦争は、世界中の人々と社会に対して悲惨な結果をもたらし失敗に終わった。国連麻薬に関する単一条約が始動し、数年後にはニクソン大統領がアメリカ政府による薬物との戦争を開始したが、50年が経ち、国家および国際的な薬物規制政策における抜本的な改革が早急に必要である」と宣言した[18]。このコフィー・アナン国連前事務局長ら参加する委員会は、各国に大麻の合法化や、薬物依存症者に対しては罰するより効果的である医療の提供などこれまでの薬物政策の見直しを求めた[19]

2013年の薬物乱用防止デーにおいて国連は、司法だけでなく人権や公衆衛生、また科学に基づいた予防と治療の手段が必要であり、2014年にも高度な見直しを開始することに言及しており、加盟国にもあらゆる方法を考慮した、幅広い開かれた議論を行うことを強く推奨している[20]

デザイナードラッグと呼ばれる新規向精神薬が問題になっているが、売買したり使用する人々を投獄するための証拠を欠いており、堅牢な証拠もなく規制しそして処罰を課すことによって、何が脅威であるかの説明を欠いたままの処罰となってしまう[21]。イギリスではたった1件しか報告されていない死亡例をメディアで大々的に報道し、薬理学的に確かな知識もなく規制したことにより、使用者はさらに危険性の高い薬物の使用に舞い戻った[21]。化学構造の類似性に基づいて規制することは不可能であり、合成THCのような新しい治療薬の開発を妨げる[21]

用途

鎮痛薬

テンプレート:Main 鎮痛薬(analgesic)は、中枢神経系に対して抑制的に作用する薬物である。乱用の危険性がある。モルヒネコデインのようなオピオイド系の薬物がある。

精神科の薬

テンプレート:Main

向精神薬には、精神疾患の治療のために処方される処方せん医薬品の群が存在する[1]。その一部が日本の麻薬及び向精神薬取締法における向精神薬に指定されている。

ファイル:Risperidone.jpg
抗精神病薬の代表「リスペリドン」
ファイル:ベンゾジアゼピン.JPG
ベンゾジアゼピン系抗不安薬(左ユーロジン、メイラックス、デパス、ソラナックス)
ファイル:Luvox25.jpg
抗うつ薬の代表「ルボックス」
抗精神病薬 (Antipsychotic)
主に統合失調症の症状の対症療法での治療薬を指し完治させるものではない。ベゲタミンに配合されているクロルプロマジンもここに分類される。統合失調症に有効な抗精神病薬は、全てがドーパミンD2受容体ファミリーに親和性を示し、ドーパミンのはたらきを抑制、あるいはコントロールする。
抗うつ薬 (Antidepressant)
うつ病強迫性障害社交不安障害の治療に用いられるもので、主要な作用は、セロトニンが少なくなっている状態に対してセロトニンを再利用する作用をもたらすことである。第1世代・第2世代の抗うつ薬である三環系抗うつ薬、第2世代の四環系抗うつ薬、第3世代の選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)、第4世代のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI) がある。新しいモノアミン酸化酵素阻害薬 (MAOI) であるRIMA (Reversible inhibitors of monoamine oxidase type-A) という新薬もある(日本国内では未認可)。
気分安定薬 (Mood stabilizer)
双極性障害における躁病うつ病の波を安定化させる治療薬である。
精神刺激薬 (Stimulant)
メチルフェニデートアンフェタミンのように、突然強い眠気を催すナルコレプシー注意欠陥・多動性障害 (ADHD) の治療薬として処方される。メチルフェニデートやアンフェタミンは、ドーパミンの受容体に結合する。
抗不安薬 (Anxiolytic)
不安や緊張を鎮める作用があるベンゾジアゼピン系が多い。
抗不安薬としてのベンゾジアゼピンは、後に抗うつ薬に置き換えられた。
睡眠薬 (Hypnotic)
不眠症に対し、睡眠を誘導する治療薬として用いられる。
バルビツール酸系など、強い催眠作用のある薬物で、従来、睡眠薬として用いられた。
ベンゾジアゼピンへと、バルビツール酸系よりも危険性が低いとして置き換えられた。
非ベンゾジアゼピン系へと、ベンゾジアゼピンよりも危険性が低いとして置き換えられた。しかし、非ベンゾジアゼピン系の安全性についても議論がある。
抗ヒスタミン薬は、薬局で購入できる医薬品として認可されている。しかしまた、安全性について議論がある。

議論

1996年、テンプレート:仮リンクテンプレート:仮リンク所長とイェール大学テンプレート:仮リンク博士は「向精神薬の長期投与は、ほとんど全ての自然刺激の耐久力や回復力の限界を確実に越えるようで、神経伝達物質の機能に混乱を引き起こしますテンプレート:Refnest」と述べている[22]

1998年、ミシガン大学エリオット・ヴァレンスタイン博士は「生きている人間の脳の化学的な状態を評価するための検査法は、存在しないのが現実だテンプレート:Refnest」と述べている。精神科医などは、向精神薬は「脳内化学物質の不均衡」を正すと説明するが、科学的な根拠があるわけではない。また、専門家の間では、「脳内化学物質の不均衡」説は辻褄が合わないことが古くから知られており、向精神薬の処方には合理的な理由がないのが実情である[23]

2002年、アメリカ精神医学会企業献金委員会のステファン・ゴールドフィンガー(Stephen Goldfinger)委員長は、製薬会社による精神科医の囲い込みについて、「製薬会社は道徳観念のない一団です。彼らは慈善団体ではありませんから、操り糸も付けずに大金を寄付するなど到底あり得ませんテンプレート:Refnest」と述べている[24][25]

2003年、アメリカ精神医学会スティーブン・シャーフスタイン副会長は、精神保健システムが細分化される理由について、「生き残るために、私たち(精神科医)は金のあるところに行かねばなりませんテンプレート:Refnest」と証言している[26]。日本では医師法第17条によって診療を行う者が医師に限定されているが、アメリカ合衆国では医師ではないサイコロジストにも法的に診療が認められている。精神医学を使う薬物療法中心の精神科医と臨床心理学を使う心理療法中心のサイコロジストに分かれており、商売上の競合がある。また、精神科医は心理療法のトレーニングをほとんど受けていない[27][28]。精神科医にとって細分化とは、DSMで精神障害の種類を増やし、様々なサービスを生み出し、薬物療法を推進することを意味している。

2004年、カーディフ大学デイヴィッド・ヒーリー(David Healy)博士は「今日にいたるまで、うつ病でのセロトニン異常が証明されたことは一度もない」と述べている。また、健康な人にSSRIを投与すると焦燥、不安、自殺傾向などを示すことがある。この事実は、1980年代に製薬会社の研究によって証明されている。健康なボランティアに対して行われた「ゾロフト」の試験では、かなり重症化し、第1週のうちに全員脱落している。SSRIを服用する人の大部分は、内因性のうつ症状を持つ人よりむしろ、健康なボランティアにずっと近い人々である[29]

The New England Journal of Medicine』の前編集長であり、ハーバード大学医学大学院で上級講師を務める内科医のテンプレート:仮リンクは「昔々、製薬会社は病気を治療する薬を売り込んでいました。今日では、しばしば正反対です。彼らは薬に合わせた病気を売り込みますテンプレート:Refnest」と述べている。一例として、月経前不快気分障害は、「プロザック」の名称を「サラフェム」と変更しただけの薬を月経前症候群用に販売し、生まれた診断名である[30]

2005年、メディアに追求されたアメリカ精神医学会スティーブン・シャーフスタイン会長は、『People』誌で、「脳内化学物質の不均衡」の証明について、「明確な検査法は存在しませんテンプレート:Refnest」と認めている[31]。脳スキャン技術による診断の目処も立っていない[32]

有害な精神科治療を調査したボストン・グローブ紙の連載で、1998年、ピューリッツァー賞の最終候補に残ったこともある医療ジャーナリストテンプレート:仮リンクによれば、研究文献を調べると、抗精神病薬抗うつ薬抗不安薬ADHD治療に使われる「リタリン」のような精神刺激薬の全てに共通のパターンが見られる。短期間、たとえば、6週間であれば、対象症状について、偽薬よりわずかに上回る効果を得られる可能性があるが、長期間になると、全ての対象症状で偽薬を投与された患者より悪化し、慢性化、重症化している。また、かなり著しい割合で、新たな精神症状やより重い精神症状が薬物自体によって引き起こされている [33]

2006年、DSM-IVの作成に関与した精神医学の専門家の56%(170人中95人)に、向精神薬を販売する製薬会社と金銭的なつながりがあったことが判明した。感情障害精神病性障害(psychotic disorders)の作業グループでは100%であった。マサチューセッツ大学臨床心理学者であるリサ・コスグローヴ[34]博士は「精神医学の分野における金銭的なつながりがどれ程ひどいのか、私は大衆が気づいているとは思いませんテンプレート:Refnest」と述べている[35][36]

ニューヨーク州立大学テンプレート:仮リンク博士は「自然科学事業の健全性は、私たちが『科学的』と呼ぶ活動に従事する各人が、真実を探求して真実を語る、また、誤った説明と虚偽の『事実』を暴いて排除するという科学的共同体の約束で成り立っています。対照的に、宗教の安定性、精神医学の偽装信仰、いわゆる行動科学は、議論の余地のない教義としきたりに対する担い手の忠誠、それに基づいた集団の繁栄に害を及ぼすような真実を語ることへの拒絶から成り立っていますテンプレート:Refnest」「プロフェッショナルの信頼性を保つために、精神医学の歴史家、精神科医のような者は、が実在するのと同じ感覚で、心の病は実在すると信じるか、信じているふりをしなければなりません。その結果、彼らは鼻の先にある現実を見る危険を冒すことができませんテンプレート:Refnest」と述べている[37][38]

2009年、偽薬効果を研究するハル大学アービング・カーシュ博士は「支持できる証拠が乏しいどころか、化学物質不均衡説は間違いでしかないと膨大なデータが語っている」と述べている。抗うつ薬には不活性プラセボ(副作用のない偽薬)を若干上回る程度の効果しかなく、両者の差は副作用の有無だと指摘している。副作用が起きると本物だと分かり、被験者の期待が高まるからである。活性プラセボ(副作用のある偽薬)を用いた臨床試験では、抗うつ薬との間に有意な差は見られなかった。また、禁断症状が出る可能性があり、「医師に相談することなく抗うつ薬の服用を中断しないこと」と警告している。急な断薬ではなく、徐々に減薬することが重要である。『Coming Off Antidepressants: Successful Use and Safe Withdrawal』(Joseph Glenmullen、2006年)は抗うつ薬を中止する方法が分かる優れた一冊である[39]

2010年、抗うつ薬の効果について、医師側から二つの反論がある。一つは、アメリカ食品医薬品局偽薬より効果があると示す2件の臨床試験を要求しており、効果のない薬を承認するはずがない、という反論である。しかし、2件であり、他の大多数の臨床試験が効果がないと示していても良い。また、要求は統計的有意差であり、臨床的有意差(医薬品と偽薬の効果の差)の大きさは考慮されていない。もう一つは、医師は臨床現場で効果を確認している、という反論である。しかし、医師は偽薬を使うことがほとんどないため、偽薬に1錠4ドルする薬と同程度の効果があるとは考えない。また、専門家は抗うつ薬に効果がないとは言っていない。何も処方しないより偽薬を処方したほうが効果があり、抗うつ薬には偽薬程度の効果がある。問題としているのは抗うつ薬の効果が偽薬効果か否かである。「ゾロフト」を製造するファイザー社のスポークスパーソンは、抗うつ薬が「一般に偽薬と区別できないことテンプレート:Refnest」は「アメリカ食品医薬品局、学界、製薬業界でよく知られている事実ですテンプレート:Refnest」と述べている[40][41]

2012年、DSM-IVアレン・フランセス編纂委員長は「精神医学における生物学的検査というのは未だにありません」「誤解を招きやすい考えの一つが、精神科の問題はすべて化学的アンバランスによるもので、服薬で病気が治るという考え方です。この考えによって、製薬会社は過去30年にわたって薬を売ることができたわけです」と述べている。精神科の軽度~中程度の症状には、心理療法が少なくとも薬物療法と同じくらい効果がある。心理療法のほうが持続効果は長く、副作用も少ないが、非常に多くの人が必要のない薬物療法を受けている[42]

2013年、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の松本俊彦室長は「精神科では依存性のある薬を使わざるを得ない場面もあるが、漠然とした投薬や診察なしの投薬は避けるべきだ」と指摘している。睡眠薬精神安定剤として、多くの診療科で処方されるベンゾジアゼピン系薬剤は依存性の高さが指摘されている。薬物依存症について、精神科医からは「内科などの不適切な処方が問題」との意見が出ていたが、同センターなどの調査によれば、依存症の専門外来を受診した患者の84%は精神科治療によって引き起こされている[43][44]

乱用

テンプレート:Main 向精神薬は、薬物乱用の危険性があるものが多い。向精神薬に関する条約における薬物乱用とは、精神的依存と身体的依存のどちらか、あるいは両方において薬物が用いられることである[45]。乱用されやすい向精神薬は、この国際条約の管理下にある。

医学的には、アメリカ精神医学会(APA)による『精神障害の診断と統計マニュアル』の第4版(DSM-IV)では、物質乱用(Substance Abuse)の診断分類があり、アルコール、アンフェタミン類、大麻、コカイン、幻覚剤、アヘン類、鎮静剤、睡眠剤、または抗不安薬、他に、その他の物質に分類している[46]。著しい苦痛や機能の障害を引き起こすなど重症であり、そして反復的にそうした結果が起きている場合である[46]

世界保健機関によれば、有害な使用(Harmful use)の診断名であり、精神や身体の健康に実際に害があるような物質の使用パターンである[47]。世界保健機関によれば、乱用の用語は、いかなる使用も不可であるとも用いられるため、その曖昧さゆえにこの語は依存を生じうるような物資では使われないということであるテンプレート:Sfn。有害な使用には、社会的に否定的な結果が生じたり、文化的に承認されないといったものは含まない[47]

依存性

テンプレート:Main 向精神薬の多くは薬物依存症の危険性があるものが多い。

薬物依存症の可能性は、個々の物質ごとにそれぞれ異なる。摂取量、摂取頻度、物質、投与経路、薬物動態などが、薬物依存形成の要素である。

医学雑誌『ランセット』に示された、20の薬物についての身体的依存、精神的依存、多幸感の平均尺度が0~3の範囲で示された。カフェインは研究に含まれていない。[48]

薬物 平均 多幸感 精神的依存 身体的依存
ヘロイン 3.00 3.0 3.0 2.9
コカイン 2.37 3.0 2.8 1.3
アルコール 1.93 2.3 1.9 1.6
たばこ 2.23 2.3 2.6 3.0
バルビツール酸 2.01 2.0 2.2 1.8
ベンゾジアゼピン 1.83 1.7 2.1 1.8
アンフェタミン 1.67 2.0 1.9 1.1
大麻 1.47 1.9 1.7 0.8
LSD 1.23 2.2 1.1 0.3
エクスタシー 1.13 1.5 1.2 0.7

アンフェタミン、コカイン、ある種の抗不安薬のように、短時間作用型の薬物は依存や乱用を発現させる可能性が特に高い[2]アルコールと、ベンゾジアゼピン系バルビツール酸系の鎮静催眠薬からの離脱は、発作を起こし致命的となる可能性がある[49]。逆に大麻や、幻覚剤のように不快な離脱症状を回避するための摂取というものが起きない薬物もあり、治療を求めるのはまれであり、幻覚剤ではほとんどが短い乱用及び依存のあと、元の生活様式に復帰する[2]。LSDやシロシビンでは、実質的に誰も依存症にならない[50]

過剰摂取と致死性

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ファイル:Drug danger and dependence ja.svg
縦軸:依存性:上に行くほど依存性の可能性の高い物質。横軸:右に行くほど活性量と致死量が近い。[51]

薬物によって、過剰摂取した際の危険性は異なる。ヘロインやモルヒネ、アルコール、ベンゾジアゼピン系の薬物やこれらの薬物を併用することは、過剰摂取の危険性を高める[52]。逆に、大麻やLSDやシロシビンでは図のように安全係数が高く、重症例、死亡報告はほとんどない[53]

過剰摂取による死亡数の増加は国際的な懸念であり[15]、アメリカでの2010年度の過剰摂取による死亡は、過半数の死亡が処方せん医薬品によるものであり、74.3%が意図しない死亡である[16]

死亡者数

テンプレート:Seealso 2009年アメリカでは、タバコに起因する443,000人の死亡があり、アルコールでは98,334人であり、他の薬物では37,485人であるテンプレート:Sfn。2008年に処方薬の過剰摂取による死亡が20,044人テンプレート:Sfn、違法薬物の使用に起因する死亡は16,044人であるテンプレート:Sfn

タバコでは、がん(41%:毎年約16万)や心血管疾患(33%)が多くテンプレート:Sfn、アルコールでは急性の死亡では運転事故(14%:毎年約1万4千)、他殺(8%)、自殺(7%)、転落死(5.6%)、慢性ではアルコール性肝疾患(12%)などでテンプレート:Sfn、暴力や事故に関連する急性の死亡も多いことがタバコによる死亡とは大きく異なる。処方薬ではオピオイド、違法薬物ではヘロインによるものが多いテンプレート:Sfn。2010年の医薬品の過剰摂取による死亡は、オピオイド系鎮痛薬が16,651人、ベンゾジアゼピン系薬が6,497人、抗うつ薬が3,889人と上位3位を占め、抗てんかん薬抗パーキンソン病薬が1,717人、抗精神病薬が1,351人である[16]

イギリス薬物政策委員会(UKDPC)は、毎年の死亡者数は115,000人が喫煙、アルコールが35,000人、違法薬物は2000人であり、アルコールとタバコは違法薬物よりも有害であると結論している[54]。2010年のイギリスにおける薬物に関連する死亡は、合計2597人であり、すべてのベンゾジアゼピン系薬物で307人、鎮痛薬のトラマドールが132人、合法ドラッグによるものが22人などを含んでいる[55]

日本のタバコによる死亡者数を日本学術会議は毎年11万人以上とし[56]、アルコール関連の3学会によれば、2008年の推計でアルコールに関連して34,988人が死亡している[56]

法律と規制管理

国際条約と日本法の照合
国際条約 規制物質 日本法
麻薬に関する単一条約 あへん あへん あへん法
大麻 大麻 大麻取締法
麻薬 麻薬 麻薬取締法
向精神薬に関する条約 向精神薬 付表I (日本法の)麻薬
向精神薬 付表II 第1種向精神薬
付表II一部の覚醒剤 (日本法の)覚せい剤 覚せい剤取締法
向精神薬 付表III 第2種向精神薬 麻薬取締法
向精神薬 付表IV 第3種向精神薬
対象外 タバコアルコールカフェイン

日本

日本においては以下の通りに法的に管理されている。なお、日本の法律上の便宜により、「麻薬」と「向精神薬」に分類されるが、医学的な分類ではない。(この違いについては、麻薬を参照)

医学的な麻薬 (Narcotics) はテンプレート:Sfn麻薬及び向精神薬取締法あへん法にて法律上の麻薬と定められ、広義の麻薬である大麻はテンプレート:Sfn大麻取締法にて別個に大麻として管理下にある。日本では、幻覚剤も麻薬及び向精神薬取締法にて、法律上の麻薬として定められている(幻覚剤は、北米では麻薬には分類されないテンプレート:Sfn)。これらの類似構造を持つデザイナードラッグの一部は、薬事法にて指定薬物に指定され規制されており、さらに類似構造を規制する目的で包括指定が行われている。これら以外の何の法的制約のないものが、脱法ドラッグである。

メチルフェニデートなどの精神刺激薬や、ベンゾジアゼピン系の鎮静催眠剤などは、麻薬及び向精神薬取締法にて、日本の法律上の第一種から第三種までの向精神薬として規制されている。それとは別に、薬事法にて習慣性医薬品が定められ、ベンゾジアゼピン系睡眠薬オピオイド系の鎮痛薬を中心としている。

例外的に精神刺激薬の一部は、覚せい剤取締法にて、アンフェタミン(フェニルアミノプロパン)、メタンフェタミン(フェニルメチルアミノプロパン)、別表にて8種、また別表にてその原料が規制薬物と定められる。

渡航

日本の麻薬及び向精神薬取締法などによって、法律上の麻薬や向精神薬として規制管理下にある薬物は、調剤・検査目的以外での製造や、輸出入はすることができない。例外として、医師の処方箋がある場合や、自己利用目的として1か月分以内の分量である場合は、携帯して出入国ができる。

しかし、渡航先の国の薬物を規制する法律が、日本の法律と異なる場合がある。フルニトラゼパムは、たとえ個人利用目的でもアメリカおよびカナダへ持ち込むことは禁止されている。所持していると逮捕される可能性もある場合があり注意が必要である[57]。不法所持でないことを証明するために、英文の医師による薬剤携行証明書を携行しているのが望ましい。

向精神薬に関する条約によって国際的に規制されている薬物は、渡航先の法律では厳重な管理下であることがあり得る。

輸入

日本の麻薬及び向精神薬取締法などによって、法律上の麻薬や向精神薬として規制管理下にない薬物は、個人輸入が可能である[58]。その場合、劇薬や処方箋医薬品であれば、1か月分以内の分量に限られ、それ以上であれば医師の処方せんや地方厚生局薬監証明が必要である[58]

日本の法律における向精神薬の一覧

医療用に指定された向精神薬は、麻薬及び向精神薬取締法にて、医療上の有益性・乱用の危険性を考慮して以下のように等級分けされ規制されている。

アメリカ合衆国

テンプレート:Main アメリカ合衆国では、規制物質法 (Controlled Substances Act) により、スケジュールIからスケジュールVまでの5段階で規制される。

  • スケジュールIは、ヘロインのような、乱用と危険性を示し、医療利用の可能性がない物質である。詳細はList of Schedule I drugsである。
  • スケジュールIIは、アンフェタミン、メチルフェニデート、短期作用型のバルツビールのような、医療利用が示されるが、危険性の高い物質である。詳細はList of Schedule II drugsである。
  • スケジュールIIIは、コデインのような危険性が少し弱い物質である。詳細はList of Schedule III drugsである。
  • スケジュールIVには、ベンゾジアゼピンなどが入る。詳細はList of Schedule IV drugsである。
  • スケジュールVは、鎮咳剤など限定的な危険性を示す物質である。詳細はList of Schedule V drugsである。

フルニトラゼパム(アメリカにおける通称ロヒプノール)には、前向性健忘の可能性があるため、医療用として未承認のまま、1984年11月5日にスケジュールIVに位置付けられ、1996年3月には、科学的また医学的な評価を行いそのままにされている[59]。つまり薬物規制下にあるが、医療用に認可されていないので、用いることができない。

テンプレート:日本語版にない記事リンクが、デザイナードラッグを規制している。

イギリス

テンプレート:Main イギリスでは、1971年薬物乱用法 (Misuse of Drugs Act 1971) によって、A、BおよびCのクラスに分類され規制されている。詳細は、en:Drugs controlled by the UK Misuse of Drugs Actである。

乱用の潜在性によって、ヘロインのようなクラスA、アンフェタミンのようなクラスB、一般的な精神科の処方薬を含むクラスCに分けられる。

注釈

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脚注

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参考文献

包括的な文書

その他の関連書

関連項目

外部リンク

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