ロキ

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自分が工夫した魚網をもったロキ。18世紀のアイスランドの写本『SÁM 66』より。

ロキテンプレート:Lang-non)は北欧神話に登場する悪戯好きの。その名は「閉ざす者」、「終わらせる者」の意[1]。神々の敵であるヨトゥンの血を引いている。巨人の血を引きながらもオーディンの義兄弟となってアースガルズに住み、オーディンやトールと共に旅に出ることもあった。男神であるが、時に女性にも変化する[注釈 1]。 美しい顔を持っているが、邪悪な気質で気が変わりやすい。狡猾さでは誰にも引けを取らず、いつも嘘をつく[2]。「空中や海上を走れる靴」[3](「陸も海も走れる靴」[4]または「空飛ぶ靴」[5]とも)を持っている。

元は火を神格化した存在だったと考えられており、ロキをモデルとした『ニーベルングの指環』のローゲはその点が強調されている[6]

なお、巨人の王ウートガルザ・ロキおよびその宮殿で相まみえるロギとは別人である。

家族

北欧神話序盤

巨人出身ながらも、オーディンの義兄弟となり、アースガルズで暮らしている。北欧神話最大のトリックスター[12]という説もあるが、後述の邪悪な面を見せる事からキリスト教の伝播に伴い、サタンの影響を受けたとの説もある[13]

アースガルズに厄介事を持ち込む一方で、オーディンの槍グングニルを始めとしてトールの槌ミョルニルフレイの船スキーズブラズニル、黄金を生み出す腕輪ドラウプニル等を騙して作らせた(『詩語法』[14])り、小人アンドヴァリから黄金を奪う(『レギンの言葉[15]など)して神々を窮地から救い出すなどの役に立つ一面も持つ。最も仲がよいとされるのは雷神トールで、連れ立って巨人の国を冒険している(『ギュルヴィたぶらかし[16]、『トール讃歌』など)。その際トールはロキの悪知恵によって何度も窮地を逃れる[17]。アングルボザとの間に生まれた3人の子供はどれも怪物の姿だったため、大蛇ヨルムンガルドは海に投げ捨てられた。また狼フェンリルは、のちに妖精が作った紐グレイプニルで縛られた。半身が腐っているヘルは、冥界ヘルヘイムに投げ落とされそこの支配者になった[9]。雌馬に化け、馬のスヴァジルファリとの間に8本脚の馬「スレイプニル」をもうけている[18]ウートガルズの宮殿ではロギと早食い競争で勝負したが、ロキは彼の前に完敗した。なぜならば、ロギの正体は野火だったからである[16](『ギュルヴィたぶらかし』)。

スルトの妻シンモラが持つ剣、レーヴァテインはロキがニヴルヘイムの門でルーン文字を唱えて作り上げたとされている。

北欧神話中盤「バルドル殺害後」

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18世紀の写本『NKS 1867 4to』に描かれた、ヘズをそそのかしてバルドルを殺害させたロキ。
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拘束されたロキと、毒蛇が垂らす毒を器に受けているシギュン。Christoffer Wilhelm Eckersbergによる。(1810年)

ヘズをそそのかしてバルドルを殺させ、また老婆セック(ソック)に変身してバルドルが甦らないように仕向けた(『ギュルヴィたぶらかし』[19])。神々の宴に乱入し、そのことを明かすとともに、集まっている神々の過去の罪や恥辱を一人ずつ暴きたて巧みに罵倒する(『ロキの口論[20])。のちに神々に捕らえられ、巨大な岩に息子ナリの腸で縛られて洞穴に幽閉される。そこは蛇の毒液が滴り落ちる場所で、いつもは妻のシギュンが器を持ってそれを防いでいる。しかし、その器がいっぱいになり彼女が捨てに走るとき、一瞬だけ頭に毒液があたり彼は苦痛のあまり大声で叫び身を捩るという。その影響で地上に起きるのが地震であるとされる[21]ロキの捕縛)。

北欧神話終盤「ラグナロク」

ラグナロクにおいては戒めがはずれ、巨人族を率いてアース神族を滅ぼすために出陣し、最後はヘイムダルと相打ちになった[22]

ロキの呼称

ロキの呼び名としては以下のものがある。

  • ずる賢い者
  • トリックスター
  • 変身者
  • 空を旅する者
  • 狡知の神
  • 女巨人 セック
  • 人々の恐れ
  • 閉じる者
  • 終える者
  • 狼の父[23]
  • フヴェズルング[24]
  • 大きく成長したもの(ロプト)[23]
  • ラウフェイの息子[25]
  • ビューレイストの兄弟[26]、ビューレイプトの兄弟[24]

脚注

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注釈

  1. 『ロキの口論』第23節では、ロキが8年間乳搾り女となって子供ももうけたというエピソードが語られている(『エッダ 古代北欧歌謡集』83頁)。
  2. 同じく『ロキの口論』第9節では、オーディンとロキの2人が血を混ぜたとの会話がある。松谷健二によると、これは義兄弟の契りを交わしたことを指しているという(『エッダ/グレティルのサガ』36、44頁)。また谷口幸男の説明によれば、それは友人同士が血盟を誓う際に体に傷を付けて血を流して足跡に血を流した風習を指しているという(『エッダ 古代北欧歌謡集』81、87頁)。
  3. 同じく『ロキの口論』第16節では、イズンブラギに「ロキとは実子と養子の仲」と呼びかけている。松谷健二は、ここは研究者によって意見の分かれる箇所であるものの、ブラギがオーディンの実子とされていることから、ロキをオーディンの養子としてとりなしたのではないかと考えている(『エッダ/グレティルのサガ』37、45頁)。
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リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』には、ロキに相当する火神ローゲが登場する。画像は、第1日『ワルキューレ』のラスト、ブリュンヒルデの眠る岩山を守る炎となるべくヴォータン(オーディンに相当)の召還に応じて現れたローゲ。(アーサー・ラッカムによる。)

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脚注

参考文献

  • キーヴィン・クロスリイ-ホランド『北欧神話物語』山室静米原まり子訳、青土社、1991年新版、ISBN 978-4-7917-5149-5。
  • 「スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」『広島大学文学部紀要』第43巻No.特輯号3、谷口幸男訳、1983年。
  • 健部伸明と怪兵隊『虚空の神々』新紀元社〈Truth in Fantasy 6〉、1990年、ISBN 978-4-915146-24-4。
  • H.R.エリス・デイヴィッドソン(en)『北欧神話』米原まり子、一井知子訳、青土社、1992年、ISBN 978-4-7917-5191-4。
  • V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。
  • 『エッダ/グレティルのサガ』松谷健二訳、筑摩書房〈ちくま文庫〉、1986年、ISBN 978-4-480-02077-2。
  • 松村一男『世界の神々の事典 神・精霊・英雄の神話と伝説』学研〈Books Esoterica 事典シリーズ 5〉、2004年、ISBN 4-05-603367-6。
  • 山北篤『西洋神名事典』新紀元社〈Truth in Fantasy 事典シリーズ 4〉、1999年、ISBN 4-88317-342-9。
  • 山室静『北欧の神話 神々と巨人のたたかい』筑摩書房〈世界の神話 8〉、1982年、ISBN 978-4-480-32908-0。

関連項目

テンプレート:北欧神話

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  1. 『虚空の神々』317頁。
  2. 『エッダ 古代北欧歌謡集』248頁(『ギュルヴィたぶらかし』第33章。
  3. 『「詩語法」訳注』43頁(第43章)。
  4. 『虚空の神々』320頁。
  5. 『北欧神話物語』221、223、226頁(「二十六 オッタルの賠償金」)。
  6. 『西洋神名事典』225頁。
  7. 7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 7.6 『エッダ 古代北欧歌謡集』248頁。
  8. 8.0 8.1 『エッダ 古代北欧歌謡集』259頁。
  9. 9.0 9.1 『エッダ 古代北欧歌謡集』248-249頁。
  10. 『エッダ 古代北欧歌謡集』87頁。
  11. 『エッダ 古代北欧歌謡集』274頁。
  12. 『北欧神話』(デイヴィッドソン)213頁。
  13. 『北欧の神話』143頁。
  14. 『「詩語法」訳注』41-43頁。
  15. 『エッダ 古代北欧歌謡集』133-134頁。
  16. 16.0 16.1 『エッダ 古代北欧歌謡集』260-268頁。
  17. 『世界の神々の事典』168頁。
  18. 『エッダ 古代北欧歌謡集』250頁。
  19. 『エッダ 古代北欧歌謡集』270-273頁。
  20. 『エッダ 古代北欧歌謡集』80-87頁。
  21. 『エッダ 古代北欧歌謡集』87、274頁。
  22. 『エッダ 古代北欧歌謡集』276頁。
  23. 23.0 23.1 『エッダ 古代北欧歌謡集』81頁。
  24. 24.0 24.1 『エッダ 古代北欧歌謡集』14頁。
  25. 『エッダ 古代北欧歌謡集』85頁。
  26. 『エッダ 古代北欧歌謡集』277頁。