ミョルニル

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ファイル:NKS 1867 4to, 94v, Thor.jpg
18世紀の写本『NKS 1867 4to』に描かれた、トールとミョルニル。
ファイル:Mjollnir.png
エーランド島で出土した、ミョルニルを象ったペンダント。

ミョルニル古ノルド語Mjǫlnir, Mjöllnir ミョッルニルとも。IPA[mjolnər])とは、北欧神話に登場する神トールが持つウォーハンマー)である。

名称は古ノルド語で「粉砕するもの」を意味し[1]、思う存分に打ちつけても壊れることなく、投げても的を外さず再び手に戻る、自在に大きさを変え携行できるといった性質を持つが、柄がかなり短いという欠点もあった[2]

再話ではミョルニルはしばしば真っ赤に焼けているとされ、これを扱うためにはヤールングレイプルという製の手袋が必要だとされる[3]

神話

ミョルニルはドワーフの兄弟ブロックとエイトリ(シンドリ)が、イールヴァルディの息子たちよりも優れた物を作り出せるかという競い合いの際にグリンブルスティドラウプニルと共に作られ、トールに献上され[2]、彼の所有物となり、多くの巨人を打ち殺したため、霜の巨人や山の巨人はミョルニルが振り上げられる音でそれが分かるといわれる[4]

その威力は凄まじく、一撃で死亡しなかった生物は世界蛇ヨルムンガンドぐらいであり(『ヒュミルの歌[5])、スカルド詩の『トール讃歌』では、巨人のゲイルロズがトールにミョルニルを持たずに自分の屋敷に来るようにと告げたという話が詠われている。

ミョルニルは相手を打つためだけに使われるものではなく、トールの戦車を引く2頭のヤギ(タングリスニとタングニョースト)を屠って食料とした後に生き返らせる際に振るわれたり[6][注釈 1][注釈 2]バルドル葬儀の際、儀式を聖別するためにも用いられた[7]。 『スリュムの歌』ではスリュムという巨人がミョルニルを盗み、フレイヤとの交換を要求するが、フレイヤに変装した花嫁姿のトールを聖別するために、隠していたミョルニルを花嫁(トール)の膝に乗せたため、ミョルニルを取り返されて頭を砕かれるという顛末が描かれている[8]

文化

ミョルニルを象ったレプリカはスカンディナヴィアの広い地域でポピュラーで、結婚式をはじめとする祭式で使われるテンプレート:要出典1925年頃のゴットランドでは新婚家庭において、新婚夫婦が子宝に恵まれるように、ベッドにこのレプリカが置かれたというテンプレート:要出典キリスト教の伝来期においても、十字架に匹敵するほど人気があり、よく身につけられていた。そのため、トールはキリスト教におけるイエス・キリストのような役割を持つといえるテンプレート:要出典。それ以後も、宝石店などで北欧神話に関心を持つ人々のためにアクセサリーとしてミョルニルのレプリカが売られている。これは、キリスト教の宣教師が首から下げていた十字架をまねた物といわれるテンプレート:要出典

ミョルニルは男性器を象徴しているともいわれる。

脚注

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注釈

  1. しかし骨の髄を傷つけてしまうとその骨は傷んだままとなり、完全に生き返らせることは不可能となる。
  2. この能力はケルト神話に登場する巨神ダグザの持っていた棍棒と同じ能力である。

出典

参考文献

  • スノリエッダ』「詩語法」訳注」谷口幸男訳、『広島大学文学部紀要』第43巻No.特輯号3、1983年。
  • V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。
  • 松村一男『世界の神々の事典 神・精霊・英雄の神話と伝説』学研〈Books Esoterica 事典シリーズ 5〉、2004年、ISBN 4-05-603367-6。

関連項目

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  1. 『エッダ 古代北欧歌謡集』51頁。
  2. 2.0 2.1 スノッリのエッダ』の「詩語法」より(『「詩語法」訳注』41-43頁。
  3. 『少年少女世界の名作文学 第39巻 北欧編2』、1967年、小学館、ASIN B000JBPPIW、371頁(篠原雅之「北欧神話」(トールの失敗))。
  4. 「ギュルヴィたぶらかし 21章」(『エッダ 古代北欧歌謡集』243頁)
  5. 『エッダ 古代北欧歌謡集』77-78頁。
  6. 『ギュルヴィたぶらかし』(『エッダ 古代北欧歌謡集』261頁)など。
  7. 『ギュルヴィたぶらかし』(『エッダ 古代北欧歌謡集』272頁)。
  8. 『エッダ 古代北欧歌謡集』89-92頁。