マルチロール機

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マルチロール機(マルチロールき)とは、複数の用途での運用が可能(Multirole)な航空機のことである。 従来において、戦闘機攻撃機爆撃機)・偵察機電子戦機空中給油機等により別々に行われていた複数の任務のいくつかをひとつの機体で遂行可能な軍用機は特にマルチロールファイター(多用途戦闘機、多任務戦闘機)と呼ばれる。

一方、空対空戦闘と対地攻撃の2つを主任務とするものはデュアルロールファイター戦闘爆撃機戦闘攻撃機)と呼ばれることもある。

マルチロールファイター登場までの流れ

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戦闘爆撃機の登場

ファイル:P-47-2.jpg
制空戦闘機・戦闘爆撃機としても使用されたP-47

マルチロール機は、第二次世界大戦時に主に活躍した戦闘爆撃機を先祖とする。開戦当初は多くの航空機のエンジン出力が1,000 hpに届かなかったこともあり、空対空戦闘を主任務とする戦闘機、特に単発機に爆弾を搭載して対地攻撃能力を持たせることは困難であった。

しかし、大戦中期に入るとエンジンの性能が飛躍的に向上し、後期には2,000 hp以上の大出力エンジンを備える機体までが出現した。これ以前には新型機の登場により余剰となった、性能がやや劣る戦闘機に爆弾及びロケット弾を搭載させて運用していたが、大出力エンジンの登場によって、Fw 190の一部の型式やP-47のように、制空戦闘機として第一線級の能力を持ちながら、専任の攻撃機と同等の対地攻撃能力をも備えた戦闘爆撃機(ヤーボ)が現れた。これらが後のマルチロール機につながっていく。

とはいえ、いわゆる「戦闘爆撃機」は、専任の攻撃機や爆撃機が存在する以上は、まだまだ補助的な任務、あるいは戦闘機としても爆撃機としての性能もほどほどの中途半端な万能機に過ぎなかった。テンプレート:要出典範囲テンプレート:-

戦闘爆撃機の大型化

やがてF-105F-111のように、小型爆撃機を不要にするほどの爆撃能力をもった戦闘爆撃機が登場する。これら機体の登場によって、アメリカ空軍B-66のような小型爆撃機を廃止し、爆撃機は大型の戦略爆撃機に一本化し、戦術爆撃についてはこれら戦闘爆撃機に委ねる事となる。しかしこれら大型化した戦闘爆撃機は、爆撃機としての性能を追求し過ぎた結果、戦闘機としての性能がおざなりになり、F-111に至っては戦闘機としての使用が不可能になるという行き過ぎも生じてしまった。

ファイル:F-4E with Pave Track laser at Eglin AFB 1976.JPEG
万能性に優れ、傑作戦闘機と評価されるF-4

だが、航空技術の発達は、徐々に戦闘機の能力を向上させ、戦闘機としても爆撃機としても、双方の任務も十分にこなせるまでに発展していく。ベトナム戦争の時代に現れたアメリカ軍の大型戦闘機F-4は、低翼面荷重で大型機でありながら戦闘機としての格闘戦能力も高く、同時に爆弾搭載能力も十分にあった。爆弾を搭載してもなおミサイル4発の搭載も可能で、戦闘機としても爆撃機としても双方に十分使える機体であった。欠点は固定機関砲を搭載しない事だが(後づけで機関砲を搭載すると、当然ながらその分爆弾も積めず、機銃自体の命中精度にも影響を及ぼす)、その欠点もF-4Eにおいて改善された。

しかしながらF-4戦闘機はアメリカ海軍においては、戦闘爆撃機としての運用は限定された。航空母艦で運用する機体には数の制限があるため、本来であれば単一機種で複数任務がこなせるのが理想ではあるが、同時に航空母艦で運用する以上は重量の制限があり、このような大型機に大量の爆弾を搭載するのが困難であったからである。そのためA-6A-7といった艦上攻撃機を、戦闘機とは別に運用する状況が続いた。 テンプレート:-

航空機の性能向上と戦闘機のマルチロール化

ファイル:USMC FA-18 Hornet.JPEG
現代の代表的なマルチロール機 F/A-18

1974年に初飛行したアメリカ空軍のF-16は、格闘戦重視の軽戦闘機であるが、同時に対地攻撃能力も十分なものを持っていた。航空技術の進歩は、小型機であってもかつての大型機並みの搭載能力を得るに至ったのである。

そして空軍に遅れて海軍でも、F/A-18が登場し、戦闘機と攻撃機の一本化がなされた。当初は一つの機体をベースに、F-4の後継であるF-18(制空戦闘・対空戦闘主任務)と、A-7の後継のA-18(対地攻撃主任務)の2機種として開発が進められたが、単一の機体で任務に合わせた運用を行う戦闘攻撃機としてF/A-18の一機種が完成した。

制空戦闘機F-15A/B/C/Dの発展型F-15Eは、「同じなのは外型だけ」と揶揄されるほど機体構造を大幅に強化して(構造の実に6割が見直されている)、最大離陸重量を約1.2倍に、兵装搭載量は実に約1.36倍の10.4トンに拡大させている。レーダーや航法用・照準用外装ポッドから得られた情報を基に描画される地上マッピング機能が強化され、優れた対地攻撃能力を獲得している。機体構造の強化は運用寿命にも好影響を与え元の8000飛行時間から16000飛行時間へと倍増させている。このマルチロール化によって機体のカウンターエア能力は一切妨げられていない。アメリカ空軍は配備後一貫して対地上攻撃ミッションだけに専任させている。このためカウンターエア能力を発揮する場を得られなかっただけである。運用する飛行隊はカウンターエアミッションの訓練も怠りなく実施している。

これら、戦闘機としても爆撃機(攻撃機)としても様々な任務をこなす事ができる機体は、マルチロール機と分類されている。 テンプレート:-

冷戦崩壊によるアメリカ軍の任務の変化

ソ連崩壊によって冷戦が終結すると、空対空戦闘のみを主任務とする純粋な制空戦闘機はその必要性が低下した。この影響を受け、アメリカ海軍では前述のF/A-18戦闘攻撃機に航空戦力が一本化される状況にある。重攻撃機と言えるA-6の後継として当初予定されていたA-12が予算問題で開発を断念し、A-6のアップグレード計画も同様の問題で中止されたため、2013年現在アメリカ海軍は、F/A-18C/Dと改良型のE/Fの二種類のF/A-18を主軸に航空打撃兵力を運用している。F/A-18には空中給油能力もあり、さらにはEA-6Bの後継としてEA-18Gが開発されており、F/A-18シリーズはいっそう多様な任務をこなす機体となることが予想される。なおF/A-18E/FはかつてのF-4を凌ぐ重量級の機体となったが、空母の発達(ニミッツ級への統一)が、この大型の機体をマルチロールとして運用する事を可能とした。

純粋な艦上戦闘機であったF-14も、末期には対地攻撃能力を向上させる改修が進められ、攻撃機としての運用も可能となった。しかし運用維持費の高さ、可変翼のためハードポイント増加が限られ対艦ミサイルを搭載出来なかったことからマルチロール化に失敗。F/A-18にその座を譲り退役を余儀なくされた。

アメリカ空軍のF-22は、当初は制空戦闘機として開発されていた。しかしながら、後には対地攻撃性能が付与され、大型爆弾が搭載出来ない等の制約はあるものの、ステルス性スーパークルーズ能力を備える事は対地攻撃任務においても有用であると期待されている。

2013年現在、アメリカ軍以外でも数カ国の空軍や海軍海兵隊への採用が決定しているF-35統合打撃戦闘機シリーズも、戦闘攻撃機としての運用も可能なマルチロール機である。 テンプレート:-

それ以外の国のケース

ユーロファイター タイフーンの開発から脱退したフランスが独自に開発したラファールや、スウェーデンで開発されたJAS 39は、当初から多様な任務をこなすことを前提に開発されたマルチロール機である。現在、アメリカの様な軍事大国ではない国が独自の戦闘機を開発する場合、限られた予算と開発資源を有効に活用する観点から、マルチロール機化が促進される傾向にある。また、トーネード IDSやタイフーンのように、複数の国が共同開発した機体も、各国の異なる要求仕様を一機種で満たすためにマルチロール機化する傾向にある。

日本航空自衛隊の場合は、「専守防衛」の方針上、攻撃機や爆撃機という名称の機体が制式採用しにくい情勢にあった。そのためF-1支援戦闘機という名目で採用したが、実際には他国では攻撃機とされる性格の機体であり、戦闘機としての能力は限定的であった。後継機のF-2は、戦闘機・攻撃機の双方の能力を両立させたマルチロール機となった。平成17年度より航空自衛隊は支援戦闘機の区分を廃止し、単に戦闘機と呼称している。

主なマルチロールファイター

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