チャーチル歩兵戦車

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チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅳ Churchill Infantry tank)は、第二次世界大戦期のイギリス歩兵戦車多砲塔戦車A20を元にA22として小型化したもので、国威発揚のために首相ウィンストン・チャーチルの名を付けた。

概要

原型のA20はハーランド・アンド・ウルフ社で開発されたものであるが、A22への抜本的な改良はGM傘下の英国法人である中堅自動車メーカーのボクスホールが手掛け、量産も同社が行った。搭載エンジンのネーム「ベドフォード」は、本来ボクスホールの商用車部門のブランドである。

フランスに派遣したイギリス海外派遣軍戦車を含む大量の重機材をダンケルクの戦いにおいて遺棄して撤退したこと、同時にナチス・ドイツによる電撃戦により戦車の地上戦闘における重要性が増したことによる逼迫した戦車事情により、満足に性能テストもできないまま量産が開始され、1941年6月に部隊配備が開始された。特に超信地旋回も可能なメリット・ブラウン操行装置はトラブルを多発したが、メーカーの対策チームを前線に派遣するなどして対応、後に完全に改修されている。第二次世界大戦の末期まで生産と運用が続けられた。実戦からの情報をフィードバックして改良を重ねたため、多くの派生型がある。

ノルマンディー上陸作戦以降の西部戦線において制空権を掌握した連合軍とドイツによる機動戦はもはやなかった。第一次世界大戦の戦術から進歩していない設計思想のため機動戦が出来ないほどの低速ではあったが、大口径砲でないと打ち破れない重装甲を誇り、歩兵戦車としては十分に活躍した。堅実な歩兵戦車は、機動戦以外では戦術的に合理的な戦車となった。歩兵戦車という名前のとおり、鈍足でも歩兵が移動できる場所であれば必ず移動できる走破能力が優先された。

重量1トンあたり10馬力以下しかなく重量に対して馬力が不足しているが、低速ギアのギア比が大きいために低速での走破能力は高く、超堤能力[1]が120センチあり高い超堤能力のために誘導輪(フロントアイドラ)は他の戦車よりも高い位置についている。超壕能力[2]は370センチもあり不正地走破能力は突出して高く急斜面や湿地、森林といった悪路での機動力が高かった。

他の英軍歩兵戦車同様、チャーチルもソ連にMk.Ⅲ及びⅣの253輌がレンドリース法に基づいて輸送され、親衛重戦車連隊に配備されロシア語風に「チェールチリ」(Черчилль)と呼ばれた。これらは重量に見合った装甲の頑丈さや、ソ連製重戦車より勝る機械的信頼性が評価された。東部戦線での最初の活躍は、1943年1月の第48親衛重戦車連隊の配備車輌によるスターリングラード解放を巡る戦いで、以降もクルスクの戦いレニングラード解放エストニア解放[3]キエフ解放などで活躍している。しかし、その後の冷戦開始や反共主義者であるチャーチルの名を持つため、この事実は長い間隠蔽されていた。例えばクルスクの戦いで英雄的な活躍をしたとされるスクリプキン大隊の装備車輌は、ソ連の公式戦史(ML研究所・編『第二次大戦史』)などではKV-1重戦車とされていたが、実際はチャーチルであったことが、ソ連崩壊後の情報公開で判明している[4]

戦歴

ファイル:Bundesarchiv Bild 146-1973-113-02, Ungarischer Panzer, SS in PKW.jpg
クルスクの戦いで撃破されたソ連軍親衛重戦車連隊のチャーチルMk.Ⅳ

チャーチル歩兵戦車の初陣は、1942年8月のジュビリー作戦であった。第14陸軍直轄戦車大隊(カルガリー連隊)の37輌が三波にわたり投入(第四波は未投入)されたが、多くが水没または海岸で撃破または擱坐、上陸して戦闘に参加できたのはうち17輌だけであった。そして損害の大きさから作戦は中止され6輌のみが海岸に撤退できたものの、脱出し本国に生還できた戦車兵はわずか1名であった。しかし、敵砲火によって撃破されたものはわずか2輌に過ぎず、防御力の高さだけは立証された。

以後、主に歩兵支援に投入され、地味だが重要な存在となった。また、上記のようにソ連への援助車輌としても活躍した。

ノルマンディー上陸作戦では、ジュビリー作戦での失敗の反省から、第79機甲師団(通称テンプレート:仮リンク)がチャーチルをベースにした各種の特殊工作車輌を多数装備し、分散配備され活躍した。後に正式採用されたチャーチルAVREは、その重装甲と悪路走破性が重用され、歩兵戦車型が退役した後も長く用いられた。

バリエーション

Mk.Ⅰ
6ポンド砲が間に合わず、威力不足とは分かっていながら主砲を2ポンド砲にした型。当時2ポンド砲には榴弾が無かったため、副砲として車体前部に3インチ榴弾砲が取り付けられた。
Mk.Ⅱ
副砲の3インチ榴弾砲を取り除き、ベサ機銃に交換した。
Mk.Ⅱ CS
主砲を3インチ榴弾砲、副砲を2ポンド砲とした試作型支援戦車。
Mk.Ⅲ
ようやく、6ポンド砲が量産開始され、6ポンド主砲と砲塔・車体前部に機関銃装備という、最初の計画に沿った型。しかし当初は榴弾が用意されておらず、苦戦を強いられた。ソ連にも貸与されている。
MK.Ⅳ
Mk.Ⅲの溶接式砲塔を鋳造式にした型。ソ連にも貸与されている。
Mk.Ⅴ
Mk.Ⅱの発展型で、砲塔に95mm榴弾砲を装備した支援戦車。
Mk.Ⅵ
6ポンド砲の砲架を使い米軍の供与する砲弾を使用できるオードナンスQF75mm砲が開発され、これを搭載した型。ようやく徹甲弾と榴弾の両方が一つの砲で使用できるようになった。
Mk.Ⅶ
車体設計が大幅に変更された後期型。それまでの12.7mm厚の装甲板を溶接して車体を組み、内側からリベットで増加装甲を留める手間のかかる作り方を改め、全面的に溶接組みを取り入れた。砲塔前面装甲が152mm、車体側面も95mmの一枚板に強化され、A22Fという新たなナンバーが与えられた。しかしその分重量が増えたため、最大速度は20km/hに落ちてしまった。
Mk.Ⅷ
Mk.ⅦにMk.Ⅴの95mm榴弾砲を乗せた支援戦車。

派生型

チャーチルMK.Ⅳ NA75 (North Africa 75mm)
チュニジア戦線でチャーチルの主砲の欠陥(榴弾が用意されていない)が露呈したため、イタリア戦線の整備部隊の将校の提案で、アメリカから供与されていたシャーマンの損傷車輛から防盾ごと取り外した75mm砲をMK.Ⅳの砲塔に上下逆に移植したもの。チャーチルはシャーマンよりも車体が大きいため、安定性が増し射程が延びるなどテスト結果は良好で、200両ほど改造され、主にイタリア戦線で活躍した。
ファイル:The British Army in the United Kingdom 1939-45 H28352.jpg
チャーチル3インチガンキャリアー。ドーセット州ラルワースの装甲戦闘車両学校での撮影、1943年3月25日。
チャーチル3インチ ガンキャリア(A22D)
1941年9月に対戦車戦闘能力の高い大口径砲を搭載することが計画され、固定戦闘室に3インチ高射砲を搭載した駆逐戦車型。翌年2月に試作車が完成、24輌が生産されたが実戦には投入されていない。
スーパーチャーチル(A43 ブラック・プリンス
ドイツⅤ号戦車パンターⅥ号戦車の登場で、6ポンド砲では太刀打ちできなくなり、17ポンド砲を搭載し車体と履帯の幅を増した発展型。最大速度は17.7km/hと鈍足で、センチュリオンの量産開始で、試作6輌のみで計画は中止された。
チャーチル・クロコダイル
火炎放射戦車。Mk.Ⅶの前方機関銃の代わりに火炎放射器を乗せ、後ろに火炎放射用燃料を積んだ2輪トレーラーを引いている。主砲も持っており普通の戦車としても使える。最大射程は100mを超え、ドイツ軍の恐怖の的となった。
ファイル:Churchill Crocodile 01.jpg
チャーチル・クロコダイルによる火炎放射。
チャーチルAVRE
トーチカ等の障害物を破壊する280mmペタード迫撃砲を装備した戦闘工兵車[5]
コンガ
地雷原開削用ロケット弾を搭載した装軌式トレーラー[6]を牽引した型。
スネーク
爆薬筒を搭載した型。
オニオン
要塞の防壁に直接爆薬を取り付ける型。
ゴート
高所の障害物に爆薬を仕掛ける型。
カーペットレイヤー「ボビン
軟弱地にカーペットを展張して道を設営する。丸太製のカーペットを展開する「ログ」も存在する。
ファッシーンズ
対戦車壕等の穴に束柴を落とし道を開く型。
チャーチル架橋戦車(SBG)
チャーチルの車体に18mの戦車橋を乗せたもの。派生形としてARKが存在する。
チャーチルARV
装甲回収車型。

出典

  1. 超堤能力とは戦車が乗り越えられる障害物の高さのことで一般的な戦車で70~80センチ程度
  2. 超壕能力とは塹壕など地面にあいている穴や溝を越えられる最大幅のことで、一般的に戦車の車体長の半分弱ぐらいの能力を持つことが多い
  3. 月刊グランドパワー 2000年11月号 デルタ出版
  4. 月刊グランドパワー 2000年9月号 デルタ出版
  5. 『戦車謎解き大百科』2005年、光人社刊 齋木伸生著 ISBN4-7698-1249-3
  6. ユニバーサル・キャリアがベース
(現在はガリレオ出版より刊行)

関連項目

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テンプレート:第二次世界大戦のイギリス連邦の装甲戦闘車両テンプレート:Asbox