ギョウジャニンニク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:生物分類表

ギョウジャニンニク(行者葫、学名:Allium victorialis subsp. platyphyllum)はネギ属多年草北海道や近畿以北の亜高山地帯針葉樹林、混合樹林帯の水湿地に群生しており、そのほとんどの繁殖地は国立公園などの自然保護区である。キトピロなどとも呼ばれる(後述)。ヨーロッパ産の基本亜種A. victorialis subsp. victorialisは、ヨーロッパの多くの高山に広く分布している(#生息地域参照)。

概要

長さ20 - 30 cm[1]、幅3 - 10 cmの葉[1]で強いニンニク臭を放ち[1]、地下にラッキョウに似た鱗茎を持つ、葉は根生、扁平で下部は狭いさやとなる。初夏、花茎の頂端に、白色または淡紫色の小花を多数つける。種子のほかにも不定芽でも増殖する。生育速度が遅く播種から収穫までの生育期間が5年から7年と非常に長いことから、希少な山菜とされ、市場に出回っているものは少量にもかかわらず高値で取引される傾向にある。

生息地域

ギョウジャニンニク(A. v. subsp. platyphyllum、日本産の亜種)は、日本では北海道から奈良県[1]にかけて見られ、さらには千島列島樺太、そしておおよそアムール川系流域にあたる極東ロシアや中国の多くの省にかけても広く分布し、朝鮮半島でも見られる。また、アリューシャン列島の最西端のアッツ島に原産するほか列島の別の島にも移植されたと考えられていて[2]、分布図にはかろうじて北米も含まれる。

ヨーロッパが原産のvictorialis亜種は、アルプス地方・ジュラ山脈系・カルパチア山脈系などヨーロッパの山地に広く分布し、さらにはロシア西部からコーカサスカザフスタンモンゴルインド亜大陸にも生息地が広がっている[3][4]

名称

ギョウジャニンニクという名前の由来は、山にこもる修験道行者が食べたことからとも[1]、逆にこれを食べると滋養がつきすぎて修行にならないため、食べることを禁じられた[※ 1]からとも言われている。

キトビロ、ヤマビル(山蒜)またはヤマニンニクなどの別名がある。キトビロ(もしくはキトビル、キトピロ)がさらになまって、ヒトビロ、ヒトビルというような発音になることもある。また、北海道では、この植物を俗に「アイヌネギ」と呼ぶことがある。

アイヌ語における呼び名はキト (kito)、またはプクサ (pukusa) である。「キトピロ」をアイヌ語として紹介している文献・サイトもあるが、信頼できる文献で、キトピロを正式なアイヌ語として紹介している文献はない。(たとえば知里真志保『分類アイヌ語辞典植物編』などを参照。)知里真志保はkitoの語源が「祈祷蒜」としているが、kitoを含むアイヌ語地名が各地に見られ、pukusaを使用する地域でもkitoが出現する地名が見られることから、kitoの方がより古い語彙であると考えられる。よってキトビロのキトは日本語起源というよりも、アイヌ語起源である可能性が高い。ビロは、日本語の「ひる(蒜=ネギ・ニラ類を指す古語)」がなまったものと思われる。

古く「あららぎ」と呼ばれたとされるが、この言葉は一般的にはノビルを指すと解釈される。本種は本州では山深くにしか育たないため、往時の日本人にとっては、里に生えるノビルのほうがずっと親しみのある食材であったであろう。

ヨーロッパ種の名称については#まじない的な利用参照。

食利用

おおよそ、5月上旬から中旬頃の山菜として知られており、葉茎を主に食用として用いるが、しょうゆ漬けにして保存したり、生のままやおひたしギョウザ、卵焼きに混ぜるなどして食べる。茎の太さが1 cm程度でまだ葉の開かない状態のものが、味、香り共に濃く珍重される。特に軟白栽培した物が人気がある。

ニンニクよりもアリシンを豊富に含んでおり、抗菌作用ビタミンB1活性を持続させる効果があり、血小板凝集阻害活性のあるチオエーテル類も含むため、血圧の安定、視力の衰えを抑制する効果がある。成分を利用した健康食品も販売されている。ニンニクの成分に近いためか、食べたときの風味もニンニクに近く独特の臭いを持ち、極めて強い口臭を生じることがある。この匂いの発生は人間にかぎらず、乳牛放牧中に食べることによって牛乳がにんにく臭くなる問題が発生することがある[5]

アイヌ民族は春先に大量に採集し、乾燥保存して一年間料理の食材として利用していた。オハウ(汁物)の具としたり、ラタシケプ(和え物)に調理して食べる。

西洋でもラムソン(ワイルドガーリック又はベアラウフ・熊ネギ)と呼ばれる野生種の植物を食べる習慣があり、形や香りがよく似ていることから、これらをギョウジャニンニクとして紹介する場合がある。しかし、ラムソンの学名は Allium ursinum で、ギョウジャニンニクと同じくネギ属の植物だが別種である。

類似毒草の注意

バイケイソウ類、イヌサフランスズランなどの毒草と間違えやすい[6]。特にスズランとの区別に注意する必要がある。特有の臭いの有無で判別可能である。

栽培

1990年頃から北海道や日本海側の雪の多い地域で園芸栽培されている。ギョウジャニンニク栽培圃場に発生する病害[7]も報告されている。播種から収穫までは4年程度必要。

品種改良

宇都宮大学農学部藤重宣昭助教授(当時)のグループにより、ギョウジャニンニクとニラを交配した「行者菜(ぎょうじゃな)」が開発された。外観はニラに近いが、ギョウジャニンニクから受け継いだ形質として、茎が太いのが特徴で、ニラ同様1年で収穫が可能。2008年から山形県長井市で販売が開始されている[8]

まじない的な利用

さらにアイヌの民間信仰では、その独特の臭気は魔物を祓う力があるとされ(天然痘などの)伝染病が流行した際は、村の入り口に掲げ、病魔の退散を願った[9]。西洋の吸血鬼ニンニクを忌み嫌う逸話と相通じるものがある。

昔のヨーロッパでも、本種は欧州の山岳地帯の人々によって薬用や呪物崇拝の物具(護符)として栽培されていた[10]。そもそもドイツ語で一名Siegwurz つまり「勝利の山野草」と呼ばれていて、護符として身につければ不浄な精霊の攻撃から身を守るとされており、例えばボヘミア地帯などでも信心されていた[11]。学名の A. victorialis は、この「勝利の山野草」という俗名にちなんだものである。

参考画像

関連書籍

脚注

文中注釈(※)

テンプレート:Reflist

典拠

テンプレート:Reflist

外部リンク

テンプレート:Sister テンプレート:Sister

  • 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 テンプレート:Cite book 大井次三郎による「ギョウジャニンニク」の項
  • 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「efloras-na」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  • テンプレート:Cite book
  • 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「grin」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite web
  • ギョウジャニンニクに発生した新病害、白色疫病とすすかび病(新称)農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所
  • テンプレート:Cite web
  • テンプレート:Cite book "酒を得る前の樺太アイヌはお祈りのときに、ギョウジャ二ン二ク(プクサ)..を用いたという。これは強烈な臭気を発するので、その臭気を嫌う伝染病などは近づかないので、流行り病があると村の入り口や家の軒に下げておくことがある。"
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite journal

  • 引用エラー: 「※」という名前のグループの <ref> タグがありますが、対応する <references group="※"/> タグが見つからない、または閉じる </ref> タグがありません