馬刺し
馬刺し(うまさし、ばさし)とは、馬の肉を薄く切って生で食べる日本料理のことである。「馬肉の刺身」の略称である。一般的には熊本県の郷土料理として認知されている[1][2] 。
馬肉そのものについては「馬肉」を参照のこと。
概要
馬刺しには、大別して「トロ」や「霜降り」、「赤身」があり、また一頭あたりから採れる量が少ないので珍重される「タテガミ刺し」や「こうね(タテガミの脂)」のほか、匂いがほとんどない「レバ刺し」や「タン刺し」などもある。(レバ刺しは、集団食中毒が確認されたため未加熱品は食べられなくなった)「トロ」と呼ばれる部分は、バラ肉の極上部位であり、赤身に霜がふっている部分を「霜降り」と呼ぶ。また、馬のあばら部分の3層肉は「ふたえご」と呼ばれ、コリコリとした食感がある。流通は、冷蔵の他、食中毒防止などの観点から冷凍でも行われている。
馬刺しは、おろしショウガやおろしニンニク、刻みネギなどを薬味に醤油につけて食べるのが一般的である。また、馬刺しや炙った馬刺しをのせた寿司としても親しまれ、回転寿司などでも見かけるようになった。牛と異なり馬肉の油脂の融点は低く、口内の温度でも十分溶けるため、霜降り肉でも刺身で美味しく食べられる。他に小さく刻んだ馬肉を少しの醤油と納豆とあわせて食べる桜納豆がある。赤身肉に人工で「さし」を入れて霜降り肉とした肉も流通している[3]。
馬肉食の習慣のある地域は古来から馬の名産地であり、馬の生産と直結した文化が根付いていたと考えられる。日本国内で馬肉を生で食べる習慣は、青森県、福島県、熊本県、長野県、山梨県などで存在[4]しており、このうち熊本県産が全国馬肉生産量の4割を占めており日本一の産地となっている[4]。意外と知られていないが、馬刺しとして提供する馬肉はもともと馬肉用に飼育された品種の馬であり、競馬で不要となったものを馬刺しにするというのは誤りである。
馬刺しの消費量は約2万3000トン[5]であるが、日本で流通している馬刺し用肉の多くは輸入物、あるいは生体を輸入して国内肥育したものであり、純国産はわずかである。
日本の馬肉輸入は、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、アメリカであり現在シェア60%の会社がオーストラリアから輸入している。世界では、およそ主要14カ国で毎年70万トンが生産されており、生産国は上位から中国、メキシコ、カザフスタン、イタリア、アフガニスタン、モンゴルとなっている。
生食用加工施設
1998年9月11日に出された厚生省(当時)からの通知「生食用食肉等の安全性確保について[6]」により、その生食用食肉の衛生基準に適合していると畜場から生食が認められた馬刺しが出荷されている。2012年生食用レバーの取り扱い実績は4か所のみである[7]。
- 福岡県 県南食肉センター
- 福岡県 うきは市と畜場
- 熊本県 千興ファーム食肉センター
- 熊本市 熊本市食肉センター
これらの工場は、衛生管理の水準が高く国際基準を満たしている[2]。
住肉胞子虫による食中毒
衛生基準に適合した「生食用加工施設」で処理された加工品であれば細菌による食中毒の心配はないが、食肉処理過程で細菌汚染される可能性がある。また「加熱用」の馬肉を「生食用」として販売する事件が発生している[8]。
住肉胞子虫Sarcocystis fayeriに感染した馬の馬刺しによる食中毒の可能性が示唆されており[9]、2011年4月25日、厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒・乳肉水産食品合同部会において報告された。S. fayeri の検査法が、2011年8月23日に「S. fayeri の検査法(暫定法)」が通知されている[10]。
厚生労働省によると中心温度マイナス20度では48時間以上の冷凍を行う事によってこれらのリスクは低減するとしている[11]。
熊本県では、2011年5月に県内に所在すると畜場で県及び市職員が大腸菌やサルモネラ菌などの病原菌が無いかを確認した上で出荷している事を公表している[12]が、同年9月には熊本市の食肉処理業者よりカナダ産馬のウデ肉を冷凍処理せず販売したケースでこれを食べて食中毒となった一人は馬刺しによるものとされた[13]。
予防策
-20℃(中心温度)で48時間以上、-30℃(同)で36時間以上、-40℃(同)で18時間以上、急速冷凍装置を用いた場合は-30℃(同)で18時間以上を保持、液体窒素に浸す場合は1時間以上保持[14][15]。
脚注
関連項目
外部リンク
- 馬肉中に含まれる住肉胞子虫の危害性消失条件の検討による生食用馬肉を共通食とする食中毒事例の発生防止対策に関する研究 食品衛生学雑誌 Vol.54 (2013) No.3 p.198-203テンプレート:Link GA