鉄斎美術館

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ファイル:Tessai museum02s2048.jpg
清荒神清澄寺本堂の北東奥にある

鉄斎美術館(てっさいびじゅつかん)は、兵庫県宝塚市清荒神清澄寺境内にある美術館1975年4月に開館。第三十七世法主・坂本光浄が収集した、清荒神清澄寺所蔵の南画家富岡鉄斎コレクションを、広く公開展示することを目的に開設された個人美術館である。

沿革 光浄と鉄斎

坂本光浄は同寺の興隆に尽くした人物だったが、これと同じくらい懸命に取り組んだのは、鉄斎の作品集集だった。光浄が入山した当時、宝塚はようやく宝塚歌劇団が出来たくらいで、光浄はこの地に宗教と文化の花を咲かせたいと願っていた。そんな折、信徒総代で鉄斎と親交のあった西宮の酒造家・辰馬悦叟から、「世の中の流行に動かされず、常に無欲である人格者鉄斎の作品を集めること」を勧められる[1]。そして、辰馬から贈られた「山水図」がコレクション第一号となる。

光浄は修行の傍ら、鉄斎の研究と作品収集に努め、大正11年(1923年)ツテを辿って京都の鉄斎を訪ねた。直接鉄斎にあった光浄は、更に鉄斎の人格と芸術に惚れ込んでいった。やがては鉄斎を清澄寺に招くため、客殿「百錬堂」を建て、同時に茶室「春光庵」も設けられた。百錬は鉄斎後年の号に因み、春光は鉄斎の妻・はる(春子)と、自身の名から取った名付けである。鉄斎は既に高齢だったため、清澄寺来訪は叶わなかったが、代わりに最晩年の作品12点が贈られ、光浄が書の手本を乞うと、鉄斎は『前赤壁賦書』三冊本を届けた。この『前赤壁賦書』は、鉄斎が三日三晩で書き上げ、装丁も鉄斎自身の手による。鉄斎は亡くなる三日前、光浄へ感謝の手紙を書いており、感激した光浄は鉄斎顕彰を新たに決意する。

光浄はその後、鉄斎芸術の公開と振興のため、世界各地で巡回展を行い、フランスギメ美術館バチカン美術館アメリカボストン美術館カーネギー研究所モスクワ東洋文化博物館東京国立博物館東京国立近代美術館などに作品を寄贈、その総数は65点になる。これで鉄斎の芸術を世界に広く発信することは出来たが、未だ鉄斎芸術の本質を伝えることは出来ていないと感じ、昭和41年(1966年)研究委員会を発足、翌年には鉄斎研究所を設立、研究誌『鉄斎研究』を発行を目指す。この第1号が出る直前、光浄は95歳で遷化したが、この企画は次代にも引き継がれた(後述)。その間の昭和50年に鉄斎美術館は開館。更に平成11年(1999年)美術館に併設された新収蔵庫が完成し、現在に至っている。

研究誌『鉄斎研究』

『鉄斎研究』は富岡鉄斎の作品に付された賛文の読解・研究を目的とした研究誌。昭和44年(1969年)から平成8年(1996年)まで、途中休刊を挟みながら第71号まで刊行され、鉄斎を研究する上で欠かすことの出来ない資料である。

鉄斎が「自分の画を見るなら先ず賛を読んで欲しい」と語っていたことはよく知られているが、その賛文を読みこなすのは極めて難事である。鉄斎の書体は癖が強く、年とともに変化し、古字篆字隷字・奇字・俗字などを自由に織り交ぜる上に、脱字が散見される。そのため必ず原典を確認しなければいけないが、その原典も稀覯本が多く入手が困難な上、入手できても今度はそれを正しく読みこなすのも難しい。それでも碩学や関係者の協力を得て、該博な知識を持つ鉄斎の讃文の元となる典籍を丹念に調べ上げ、掲載された作品数は1900点になる。その中には若干の贋作が含まれるものの、それも研究という視点からすれば十分参考になるであろう。

所蔵品

鉄斎美術館は「聖光殿」の名ももち、前庭の左右には鉄斎とはるの出生地などの名石が配されている。収蔵する鉄斎作品はおおよそで、絵画580点、書90点、清水六兵衛が作陶した陶器や木製・竹製の器物に鉄斎が絵付けたした器玩が100点、粉本350点、書簡が約50点、筆録300点、愛蔵本300点、愛蔵品100点、に及ぶ。現在は、鉄斎の周辺資料の収集にも力を入れているという。他にも、同じ鉄斎愛好家という間柄から、陶芸家荒川豊蔵とも交流し、豊蔵の半世紀に亘る作陶の歩みが概観できる270点余の作品を蒐集、平成5年(1993年)には豊蔵の地元にある岐阜市歴史博物館に20点の作品を寄贈している。また、地元兵庫の書家で、やはり鉄斎の書に私淑していた森田子龍の書も、「鉄斎美術館」門標、「聖光殿」扁額など35点所蔵している。

年に4,5回の特別展を開催。入館料は、宝塚市立中央図書館内に設けられた「聖光文庫」の美術図書購入基金として、全額宝塚市に寄付されている。

建築概要

  • 竣工年― 1975年
  • 延床面積― 896m²
  • 所在地― 〒665-0831 兵庫県宝塚市米谷字清シ1 清荒神清澄寺山

交通

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

  • 新人物往来社編集・発行 『日本全国ユニーク個人美術館 西日本編』 2008年2月、pp.149-153。ISBN 978-4-404-03521-9
  • 森重光宣 「清荒神清澄寺お富岡鉄斎・荒川豊蔵・森田子龍」、奥田素子 「『鉄斎研究』・『鉄斎筆録集成』覚書」(『美術フォーラム21』VOL.19、2009年、pp.4-13。ISBN 978-4-925185-31-8)

関連項目

外部リンク

テンプレート:Sister

テンプレート:ウィキ座標2段度分秒

テンプレート:Art-museum-stub
  1. 悦叟自身も鉄斎の作品を収集しており、そのコレクションは、悦叟の孫が設立した辰馬考古資料館に所蔵されている。