逆数
逆数 (ぎゃくすう, multiplicative inverse, reciprocal) とは、ある 0 でない数に対し、乗算 (掛け算) した結果が 1 になる数である。すなわち、 0 でない数 <math>a</math> に対する逆数は通常、<math>1/a</math> あるいは <math>\textstyle a^{-1}</math> と表される。
- <math>a \times \frac{1}{a} = \frac{1}{a} \times a = 1</math>
この関係からも分かる通り、分数 <math>a/b</math> の逆数は単に上下を入れ替えた <math>b/a</math> となる。
詳細
0 でない数 <math>a</math> に対して、
- <math>a \times b = b \times a = 1</math>
となるような数 <math>b</math> を <math>a</math> の逆数と呼ぶ。<math>a</math> の逆数 <math>b</math> は、<math>1/a</math> または <math>\textstyle a^{-1}</math> と表す。このような逆数が存在する場合、同様に <math>a</math> は <math>b</math> の逆数であるとも言える ( <math>\textstyle a=b^{-1}</math> )。
簡単にいくつか例を挙げると、9 の逆数は 1/9 であり、1/9 の逆数は 9 である。また、0.1 の逆数は 10 であり、10 の逆数は 0.1 (つまり 1/10) である。
また、<math>a</math> が 0 であるとき、任意の数 <math>b</math> との積は <math>ab=0</math> となるから、0 については逆数が存在しない。
1 は乗法の単位元であるから、逆数 <math>\textstyle a^{-1}</math> は <math>a</math> の乗法における逆元になっている。一方、加法における逆元は反数である。
0 ではない有理数、実数、複素数においては、逆数は必ず存在する。ただし、自然数、整数においては逆数は必ずしも存在しない (例えば有理数 2 の逆数は 1/2 = 0.5 だが、0.5 は整数でも自然数でもない有理数である)。
一般に、有理数、実数においては、正の数の逆数は正であり、負の数の逆数は負である (グラフを参照。第2象限および第4象限には値が存在しない)。また、複素数の逆数は複素数である。実際、<math>u,v</math> を実数、<math>i</math> を虚数単位 として、複素数 <math>z=u+iv</math> の逆数 <math>\textstyle z^{-1}</math> は、
- <math>z^{-1}=\frac{\bar{z}}{z\bar{z}}=\frac{u}{u^2+v^2}-i\frac{v}{u^2+v^2}</math>
であって、これは複素数である。ここで <math>\bar{z}</math> は、複素数 <math>z</math> の共役複素数 <math>u-iv</math> を表す。
合同式での逆数
テンプレート:Main 合同式において逆数を考えることができる。a × b を m で割ると1余るとき、b をa の m を法とする逆数と呼ぶ。合同式で表すと以下のようになる。
- <math>a \times b \equiv 1 \pmod{m}</math>
例えば、 4 × 2 ≡ 1 (mod 7) となるので、法7において2は4の逆数である。通常の逆数と同様、逆数の逆数は同じ数であり、0の逆数は存在せず、1や-1の逆数はそれ自身である。合同式の性質から、m の倍数の逆数は存在せず、(m の倍数 ± 1) の逆数はそれ自身になる。
定義上、a は m と互いに素である必要がある。つまり、一般に合同式での逆数は存在するとは限らない。例えば、 7 × b ≡ 1 (mod 42) や 12 × b ≡ 1 (mod 4) を満たす b は存在しない。
素数 p を法とする場合、0以外の全ての元が逆数を持つ。法17を例とすると次のようになる。
元 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
逆数 | なし | 1 | 9 | 6 | 13 | 7 | 3 | 5 | 15 | 2 | 12 | 14 | 10 | 4 | 11 | 8 | 16 |
合同式での逆数はオイラーの定理によって計算できる。a に逆数 b が存在するならば
- <math>a \times b \equiv 1 \equiv a^{\varphi (m)} = a \times a^{\varphi (m) - 1} \pmod{m}</math>
なので、
- <math>b \equiv a^{\varphi (m) - 1} \pmod{m}</math>
(ここで <math>\varphi</math> はオイラーのφ関数)であり、逆に a と m が互いに素であれば、この式によって逆数が与えられる。特に、m が素数の場合以下のようになる(フェルマーの小定理から直接導かれる)。
- <math>b \equiv a^{m - 2} \pmod{m}</math>
また、ユークリッドの互除法によっても効率的に求めることができる。定義式は、以下のテンプレート:仮リンク(ディオファントス方程式の一種)が b と n について整数解を持つことと同値である。
- <math>a \times b + m \times n = 1</math>
この式の解は、a と m が互いに素である場合に求まる。
日本における学校教育
日本の小学校では、小学6年生で分数の掛け算・割り算について学習する際に、逆数について学習し、<math>a</math> (実際には具体的な数を用いる) で割ることと <math>1/a</math> を掛けることが同じ結果を得ることなどを学ぶ。この事は中学校の課程で、加法における逆元、つまり負の数について学ぶ準備になっている。