角度
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角度(かくど)とは、角(かく)の大きさを表す量・測度のことである。なお、一般の角の大きさは、単位の角の大きさの実数倍で表しうるとされる[1]。
角は広義には諸々の線や面の2つが交わって、その交点や交線の周りにできる図形を指す。2つの線や面が交わって角を作ることを角をなすという。さらに広義には、交わる2つのうちの片方もしくは両方が高次元空間中の超平面でもよい。多くの場合は、単に角と言えば平面上の図形に対して定義された平面角を指し、さらに狭義には直線同士の交わりによりできる図形を指す。この場合の角度とは、同じ端点を持つ2つの半直線の間の隔たりを表す量といえる。また、直線以外の曲線や面などの図形がなす角の角度も、何らかの2つの直線のなす角の角度として定義される。
立体的な角として立体角も定義されているが、これは上記の定義には当てはまらない。その大きさは単に立体角と呼ばれることが多く、角度と呼ばれることはほとんどない。
以下、本項目においては平面角を扱う。
目次
定義
直線のなす角
1つの定まった値の角度を伴う角(かく)の定義は、平面 α 上の1点 O とそれから出る2つの半直線、およびそれらにより平面 α が分割されて生じる2つの領域のうちの一方 α1、の三者からなる図形、というものである。ただし後述のように、この定義は数学における主要な定義とは微妙に異なる。
なお、このとき点 O を角の頂点 (vertex)、 2つの半直線を角の辺 (side) という[2][3][4]。
ここで頂点 O を中心とする半径 r の円を考えると、無限領域 α1 の一部でありこの円と上記2つの半直線で囲まれた有限領域である扇形ができる。この扇形の弧の長さは半径 r に比例し面積は r2 に比例するが、その比例係数が角度になる。従って角度の大きさは扇形の弧と半径の比で定義するのが一般的である。
ここで2つの半直線が最初は同じものとして重なっており、一方が、その端点を点 O に固定されたままで領域 α1 内を徐々に移動(回転)していったものと考えると、角度はこの移動量(回転角)を示すものでもある。この観点からは角度は2つの半直線の開き具合を示す量ともいえる。実際、このような回転から角および角度を定義している事典もある[5]。
上記の点 O と2つの半直線が定まると、それらにより平面 α が分割されて生じる2つの領域にそれぞれ対応して2つの角が生じる。この2つの角のうち角度が大きいほうを優角[6][7][8][4][9]、小さいほうを劣角[8][4][10]と呼ぶ。明らかにどんな一組の頂点と2辺についても、その優角と劣角との角度の和は、2テンプレート:Π で一定である。
平面 α 上の1点で交わる2つの直線は平面 α を4つの領域に分け、それぞれの領域に対応する4つの角が生じる。これら4つの角を、この2つの直線のなす角という。1点で交わる2つの直線は同一平面上にあるので、"平面上の"という条件は実は必要がない。
ダフィット・ヒルベルトがその著書の"幾何学基礎論"において示した公理系[2]では、「端点を共有する 2つの半直線の組」(引用文献のままの表現ではない)として角を定義しており、日本でもこの主旨の定義を採用している数学辞典[6][3]や国語辞典[8][4][11]が多く、最も受け入れられた数学的定義と見なせる。
この定義の前記定義との違いは 2つの半直線が挟む領域を含めていないことである。ヒルベルトの公理系ではそのかわり、平面 α が角(2つの半直線)により分割されて生じる 2つの領域の一方を角の内部、他方を角の外部として区別している。角度の小さい領域が内部になるのだが、この段階では角度はまだ定義されていないため、別の方法での定義をしている。そして定理20で角の大小関係を定義している。すなわち、1辺を共有する2つの角のうち一方の角 θ1 の辺が他方の角 θ2 の内部にあれば、θ1 < θ2 であると定義する。すなわち、角の大小関係として劣角の角度の大小関係を採用したことになる。
ユークリッドの著作『原論』[12][13][14]では第1巻の定義8において、「互いに交わる2つの線 (line) の傾き (inclination)」(引用文献のままの表現ではない)と定義されている。"傾き"という語の解釈次第では2つの直線で分割された領域のいずれかを含むと解釈することも可能であり、そう解釈している辞典もある[15]。またこの定義と同じように「"傾き"である」という定義を採用している国語辞典もある[16]。またこの定義での2つの線は線(原論では定義2)であって直線(原論では定義4)ではないので、曲線も含まれる[12][17]。2つの半直線の傾きとしての角、つまりヒルベルトの定義による角は、定義9で直線角 (rectilinear) という名称で定義されている。
英英辞典には、2つの半直線の間の領域 (space) が角であるとするものもある[18]。
曲線のなす角
2つの滑らかな曲線が交わるとき、その交点におけるそれぞれの接線同士がなす角を、これらの曲線のなす角という。
平面のなす角
1つの直線 l で交わる2つの平面 α と β を考える。l 上の任意の1点 A を通り、l に垂直で、それぞれ平面 α および β 上にある直線を考え、この2直線のなす角を、平面 α と β のなす角という。この2直線は点 A で交わるので、角をなし、その角度は点 A を l 上のどこに取っても等しい。平面同士のなす角を二面角 (dihedral angle) ともいう。
分類
大きさによる分類
以下、角度 θ は弧度法で表す。0 から 2テンプレート:Π までの大きさの角を、その範囲により次のような名称で呼ぶ。ただし直角には定量的角度を使わない定義があり、ヒルベルトの公理系などで採用されている。
範囲 (rad) | 範囲 (°) | 名称 | 読み | 英語 | 一例 |
---|---|---|---|---|---|
0 < θ < テンプレート:Sfrac | 0 < θ < 90° | 鋭角 | えいかく | acute angle | 鋭角 |
θ = テンプレート:Sfrac | θ = 90° | 直角 | ちょっかく | right angle | 直角 |
テンプレート:Sfrac < θ < テンプレート:Π | 90° < θ < 180° | 鈍角 | どんかく | obtuse angle | 鈍角 |
θ = テンプレート:Π | θ = 180° | 平角 | へいかく | straight angle[7][5] | 平角 |
0 < θ < テンプレート:Π | 0 < θ < 180° | 劣角 | れっかく | 不明 (Inferior angle) | 劣角 |
テンプレート:Π < θ < 2テンプレート:Π | 180° < θ < 360° | 優角 | ゆうかく | reflex angle[6][7] | 優角 |
θ = 2テンプレート:Π | θ = 360° | 周角 | しゅうかく | perigon, round angle[6][7], full angle[19] | 周角 |
日本では、鋭角、直角、鈍角は中学までには学ぶ用語だが、それ以外の用語は高校教科書でも使われず、使用頻度は少ない。
英語で劣角に対応する用語は不明である。『科学技術45万語和英対訳大辞典』[20]では "inferior angle" という語を当ててはいるが、この語が英語圏で劣角の意味で広く使われている証拠は見つからない。研究社の新英和大辞典[7]では優角を "superier angle" または "major angle" ともいうとの記載はあるが、その反対語となりうる "inferior angle" および "minor angle" についての記載はない。
『図説 数学の事典』[5]では、テンプレート:Π < θ < 2テンプレート:Π の角を優角ではなく折り返り角と記しているが、原著はドイツ語であり、そこからの翻訳なので英語との対応は不明である。また θ = 2テンプレート:Π の角を周角ではなく全角と記している。
角同士の関係による分類
- 優角・劣角
- 始点を共有する2本の半直線が、平面からその一部を切り取るとき、切り取る部分の小さくない方を優角(ゆうかく、major angle)と呼び、そうでない方を劣角(れっかく、minor angle)と呼ぶ。優角と劣角の和は、周角に等しい。通常、特に断りのない限り、2本の半直線が成す角とは劣角を指す。なお、2本の半直線が平角をなすとき、特に優角、劣角と区別することはない。
- 補角・余角
- 鋭角に対し、合わせて直角となる角あるいは角度をその角の余角(よかく、complementary angle)という。
- 同様に、平角より小さい角度を持つ角に対し、合わせて平角となる角あるいは角度をその角の補角(ほかく、supplementary angle)と呼ぶ。
図形との関係による分類
- 外角・内角
- 多角形において、頂点を共有する2辺の成す角を、内角(ないかく、interior angle)という。また、これら2辺のうち一方を延長して作った、内角の補角を外角(がいかく、exterior angle)と呼ぶ。
- 多角形の内角の和は、多角形の頂点の数 n の関数であり、その大きさは (n − 2)テンプレート:Π に等しい。
- 多角形の外角の和は、多角形の頂点の数 n に関係なく、一定の値 2テンプレート:Π に等しい。
- 正 n 角形の1つの内角,外角の大きさは、上のそれぞれの値を n 等分して求められる。
- 錯角・同位角
- 2本の直線を考える。直線の両方と異なる点で交わる第3の直線を引くとき、この直線を横断線(おうだんせん、transversal)と呼ぶ。横断線から2本の直線が切り取る線分の両端にそれぞれ4つの角を生ずるが、このとき線分の両端からそれぞれ1つずつの角を選んで作る2つの角の組のうち、
- 横断線の反対側にできる角で、辺の一部を共有する角の組を錯角(さっかく、alternate interior angles)、
- 一方の角がその内部に他方を含むような角の組を同位角(どういかく、corresponding angles)と呼ぶ。
- 錯角,同位角のいずれか一方が等しければ、他方も等しく、元の2直線は平行線であることが分かる(平行線の成立条件)
- また、元の2直線が平行であるならば、錯角、同位角はそれぞれ互いに等しい大きさを持つ(平行線の性質)。
- 中心角・円周角
- 扇形の2本の半径のなす角を、中心角(ちゅうしんかく、central angle)という。すなわち円周角とは、円の円周から切り取った弧を、その円の中心から見込む角のことである。またこのとき、弧を除く円周上の1点から、弧を見込む角のことを、円周角(えんしゅうかく、angle of circumference)という。同じ弧を見込む中心角は、円周角の2倍の大きさを持つ。
- 円周を n 等分して n 本の弧に分けるとき、n 等分点を頂点とする正 n 角形の1つの外角と、n 本の弧の1つを見込む中心角の大きさは等しくなる。
単位系
平面上の角度には、単位量の決め方により次のような体系がある。
度数法
度数法は、平面を定点を端点とする半直線によって 360 等分する時、その等分された一つの角として定まる角度を 1 度 (°) として基本単位に持つ単位系である。更に、六十分法を用いて、 1° = 60′(分)、1′ = 60″(秒)として下位の単位を定める。定義の仕方から、全方位角は 360°である。
定義から、中心角が 1°の互いに合同な扇形を 360 個張り合わせると扇形の要を中心とする円ができる。円の相似性より、1度を1つの円を 360 個の互いに合同な扇形に分割した時の1つの扇形の中心角の大きさとして定めることもできる。
この体系は、暦における 1年の日数(≒360 日)に由来している。
他に、以下のような角度の単位がある。これらは円周の分割の数が異なるだけで、度数法と本質的には同じである。
弧度法
弧度法は扇形に対して、その弧の半径の長さに対する比を以って角の大きさを測る尺度とする。すなわち、弧の長さが半径と等しくなるときの中心角(扇形の要が2つの半径となす劣角)を 1 ラジアン (rad) とする(radian の訳語として弧度も用いられるが、ラジアンと呼ぶほうが一般的である)。全方位角は 2テンプレート:Π ラジアンである。
弧度法は単位円上の弧長で角度の大きさを表したものとも表現できる。あるいは、三角比を含む極限
- <math>\lim_{h\to 0} \frac{\sin h}{h} =1</math>
が成り立つような角度の単位系であると言っても構わない。
度数法の表示と比較して、円周率 テンプレート:Π を含むため初学者には親しみにくいが、微分、積分などの解析的操作を行うとき直接扱うことができるという大きな利点があり頻用される。角度の単位であると同時に、ラジアンは「長さの比」でもあるので、数学においては単なる実数の無次元数として扱われることが多い。
ラジアンは平面角の国際単位である。
勾配
勾配については、水平方向の単位長さに対する垂直方向の長さ(高さ)によって角度を示す方法もある。水平方向に対する垂直方向の長さの割合によって示す方法が道路や鉄道の勾配についてよく行われており、道路については百分率パーセント (%)、鉄道については千分率パーミル (‰) がよく用いられる。たとえば「10パーセントの勾配」とは水平方向に100メートル進むと10メートル上昇(または下降)する勾配を示す。45° は100% (1000‰) の勾配になる。尺貫法では、水平方向1尺に対する高さを寸で表したもので勾配を示していた。すなわち、45° の勾配は「10寸」となる。
時間表記
天文学の分野では時間を使って角度を表すことが多々ある。a時b分c秒を ahbmcs と表す。15倍すれば度数法での表記法と同じになる。
分、秒の単位が度数法での名称と同じなので、注意が必要である。
換算
各体系の単位には以下のような相互の関係がある。(単位記号なしはラジアン)
- 2テンプレート:Π = 360°, 1 ≒ 57.3°
- 1 R(直角)= 90° = テンプレート:Sfrac = 100g(グラード)
- 1g = 100cg(センチグラード)= 0.9° = 54′ = 3240″
- 1cg = 100cc(センチ・センチグラード)= 0.009° = 32.40″
- 1cc = 0.01cg = 0.32″
- 6400 mil = 360°
- 1h = 15°, 1m = 15', 1s = 15"
脚注
注釈
参考文献
- ↑ 日本数学会編集『岩波数学辞典・第2版』岩波書店、1975年,144頁
- ↑ 2.0 2.1 D.ヒルベルト (David Hilbert)、中村幸四郎(訳)『幾何学基礎論』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、(2005/12)、ISBN 4-480-08953-5
- ↑ 3.0 3.1 日本数学会『岩波数学辞典-第3版』岩波書店 (1985/12)、ISBN 4-00-080016-7
- ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 『日本国語大辞典-第六版』小学館 (2001/06)
- ↑ 5.0 5.1 5.2 W.Gellert(編)、藤田宏(訳)『図説 数学の事典』朝倉書店 (1992/12)、ISBN 4-254-11051-0
- ↑ 6.0 6.1 6.2 6.3 一松信、伊藤雄二『数学辞典』朝倉書店 (1993/06)、ISBN 4-254-11057-x
- ↑ 7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 竹林滋(編)『新英和大辞典-第6版』研究社 (2002/03)、ISBN 4-7674-1026-6
- ↑ 8.0 8.1 8.2 『広辞苑-第五版』岩波書店 (1998/11)、ISBN 4-00-080112-0
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ 松村明(編)『大辞泉』小学館 (1995/11)、ISBN 4-09-501211-0
- ↑ 12.0 12.1 エウクレイデス(著)、斎藤憲(訳)、三浦伸夫(訳)『エウクレイデス全集-第1巻 (1)』東京大学出版会 (2008/01)、ISBN 978-4-13-065301-5
- ↑ 中村幸四郎(著、訳)、寺阪英孝、他(訳)『ユークリッド原論-縮刷版』共立出版 (1996/6/1)、ISBN 4-320-01513-4
- ↑ ユークリッド原論のサイト、外部リンク参照
- ↑ 『岩波数学入門辞典』岩波書店 (2005/9/29)
- ↑ 『日本語大辞典』講談社 (1989/11)、ISBN 4-06-121057-2
- ↑ B.アルトマン (Benno Artmann)、大矢建正(訳)『数学の創造者-ユークリッド原論の数学』シュプリンガー・フェアラーク東京 (2002/11)、16頁、ISBN 4-431-70969-X
- ↑ 『オックスフォード現代英英辞典-第7版』オックスフォード大学出版局 (2005/11)、ISBN 4-01-075292-0
- ↑ Wolfram mathworld 外部リンク参照
- ↑ 日外アソシエーツ(編)『科学技術45万語和英対訳大辞典』日外アソシエーツ (2001/10)、ISBN 4-8169-1688-1
関連項目
外部リンク
- テンプレート:MathWorld
- ユークリッド原論、Clark大学D.E.Joyce教授のサイト
- ユークリッド原論、山口大学渡邉研究室
- ユークリッド原論、元東京大学松原望教授(相関社会科学・統計学専攻)
- ユークリッド原論、九州工業大学情報工学部・藤尾研究室