糠漬け
糠漬け(ぬかづけ)は米糠を乳酸発酵させて作った糠床(ぬかどこ)のなかに食材を漬け込んで作る日本を代表する漬物の一つ。
糠味噌漬け(ぬかみそづけ)・どぶ漬け・どぼ漬けとも呼ばれ、また漬け込む方法のことを指す場合もある。
概説
日本の食文化であり、江戸の食文化である。一般に胡瓜・茄子・大根といった水分が多い野菜を漬けこむことが多いが、肉、魚、ゆで卵、蒟蒻などを漬けてもよい。あまり漬かっていないものは浅漬け、一夜漬けと呼ばれ、漬かりすぎたものは古漬け、ひね漬けなどと呼ばれる。また、干した大根を糠に漬けたものを沢庵という。
以前テンプレート:いつはどこの家庭にも糠床(ぬかどこ)があり糠漬けを作っていたが、近年テンプレート:いつ、糠床の手入れの面倒さや臭いの問題からスーパーマーケット等小売店で買って済ませる人が多い。しかしながら糠漬けは現代でも人気のある食べ物であり、ご飯、味噌汁、糠漬けの朝食を日本人の原風景の一つと考える人も多いテンプレート:誰。酒の肴としてもよく食べられている。
歴史
現在の形の糠漬けができたのは江戸時代初期とされている。江戸において、納豆などと共に健康を維持するための簡単な料理として食べられていた[1]。
元来、奈良時代に須須保利(すずほり)という漬床として臼で挽いた穀類と大豆を使った漬物があった。 江戸時代から、精米の際に出る米糠をこの穀類と大豆の代わりに使ったのが糠漬けである。
糠のビタミンB1が野菜に吸収されるのを利用して、当時流行していた脚気の被害をある程度防いだと考えられている。
製法
まず糠床を作る。適量の糠(炒ってから使う場合もある)に一度煮沸してから冷した15%濃度の食塩水を加える。水の量は糠床が味噌よりもやや固めになるぐらいである。唐辛子、昆布とともに壺やタッパー等に詰め、表面を平らにならして糠床の準備ができる。これに野菜くずを1週間ほど毎日取りかえて漬けると野菜についていた乳酸菌等が繁殖し、一応、完成である。しかし、この段階では糠床は熟成していないため、漬物の風味は少ない。野菜を漬けこみ毎日手入れすることで発酵がすすみ、風味が増していくのである。夏場なら2ヶ月、冬場なら4ヶ月ほどでおいしい糠床が完成する。風味付けに果物の皮を漬ける人もいる。
もっとも、大型食料品店などで熟成済みの糠床が入れ物ごと売られているので、これを利用すれば手間がかからない。また、熟成した糠床を少量分けてもらうこと(床分けという)で短期間で熟成した糠床を作ることもできる。他にも乳酸菌入りやビール酵母入りの糠や、糠漬用乳酸菌・ビール酵母そのものも売られている。
完成した糠床によく洗って塩で揉んだ野菜を漬けると糠漬けの完成である。漬けこむ時間は野菜の大きさや季節によっても変わるが、丸のままの胡瓜なら半日ほどで漬けあがる。あまり漬かっていなければ醤油をたらして食べ、漬かり過ぎている場合は細かく刻んで軽く絞り、お茶漬けやチャーハンの具にしてもよい。普通は洗ってから切って食べるが、洗わずに糠味噌のついたまま食べる場合もある。
糠漬けの味を手軽に早く実現する方法としてヨーグルト漬けがしばしばメディアで紹介された。ただし、植物と乳では繁殖する乳酸菌の種類が違うため、糠床にヨーグルトを入れても、熟成しない。
どうしても床を速成したい場合、スーパーなどに売っている糠つきの漬物を買ってきて洗わずに漬け込むと良い。糠についている菌で速成が可能(それでも1ヶ月はかかる)。
手入れ
糠床は、空気に触れていた部分から菌のバランスが崩れて腐敗や変色・カビの増殖など劣化が進む。そのため、毎日底からかき混ぜて表面部分を奥へと混ぜ込む。特に夏には1日2度かき混ぜる場合もある。混ぜ終わったら平らにならし、ふちについた糠を拭きとって蓋をする。
また糠床は野菜から出た水分で水っぽくなるので、凹みを作って、たまった水気をお玉で掬い取ったり、布巾で吸い取るか、または糠と塩を新たに加えるなどして適当な水分含有量を維持する。野菜や廃水と一緒に塩が溶け出すので、適宜塩を投入して塩分を維持するなど、糠床の状態を常時良好に保つには、経験が必要である。
旅行などでどうしても長期間手入れができないときには表面に塩を多めに振って冷蔵庫に入れておくとしばらくは腐敗が防げる。発酵が進み過ぎて糠漬けが酸っぱくなったときは卵の殻を砕いて入れる。茄子の皮の色を綺麗に出したいときは鉄釘か専用の鉄製器具が売られているのでそれを入れておく。鉄釘を入れる場合、先端が尖ったまま入れてしまうとかき混ぜるときに負傷する恐れがあるので、手を傷つけない程度に丸めておく必要がある。強い刺激臭(セメダイン臭やシンナー臭とも形容される)がする場合は、塩水を入れてよくかき混ぜるとよい。
なお、きちんと手入れされた糠床は不快ではないが若干独特の発酵臭がするため、冷暗所で換気のよいところに置いた方がよい。
糠床のかき混ぜについては、家や伝統により毎日ではなく1週間に1度や、長い場合で夏場に床を空けるときからまた寝かせる冬場まで漬けるときのみ混ぜる所もある。
成分
糠漬けは保存食品であり塩分が多いが、同時にカリウムも多く含まれている。カリウムは余分なナトリウムを体外に排出する作用があるため、塩分の過剰摂取が緩和される。糠に存在するビタミンB1と植物性乳酸菌が食材に含まれるようになる。うまみ[2]も含まれるようになり香りが付くので食が進み、食物繊維が多い野菜も食べやすくなる効果がある。
糠漬けされた食品一例
- かくや 桶から出すのを忘れたり、漬かりすぎた「古漬け」をよく洗い、細かく刻んで水気を絞ってから醤油・おろしショウガ・削り節等で和える素朴な料理。名称は、発明した覚弥という徳川家康の料理番の名前に由来するとも伝わる。塩がきつい場合は、先に水で塩出しする。
- 沢庵漬け
- へしこ
- 河豚の卵巣の糠漬け
- 鰯のぬか炊き
- 糠イワシ(こんかイワシ) - 石川県、イワシを糠に漬けた保存食。
- 糠ニシン - 北海道、ニシンを糠に漬けた保存食。
- 糠サンマ - 糠ニシンの派生、サンマを糠に漬けた保存食。
- 糠ホッケ - 糠ニシンの派生、ホッケを糠に漬けた保存食。
脚注
関連項目
外部リンク
- 全日本漬物協同組合連合会 - 漬物の歴史を解説している。
- 知識の宝庫!目がテン!ライブラリー - 須須保利を再現している。