猪野健治
テンプレート:存命人物の出典明記 猪野 健治(いの けんじ、1933年11月7日‐)はフリージャーナリスト。右翼、ヤクザ、マスコミなどをテーマにしている。日本ジャーナリスト専門学校講師を務めた事が有る(編集者専攻科、猪野ゼミ担当)。
著書『やくざと日本人』で知られる。
目次
『やくざと日本人』
本書は松岡正剛をして「日本で唯一の日本人の手によるやくざ通史[1]」と呼ばしめた古典的名著。1973年に三笠書房から発売され、1993年に現代書館で復刊、1999年には筑摩書房から文庫版が発売されている。
- 目次
- 第1章 カブキ者と遊侠無類
- 第2章 火消人足全盛時代
- 第3章 アウトローの本流・博徒
- 第4章 博徒指導の秩父困民党一揆
- 第5章 近代やくざの登場
- 第6章 テキヤの社会主義運動
- 第7章 やくざと政治権力
- 第8章 血と泥の叛逆―谷川康太郎論
- 終章 暴力団の現実的意味
- 補遺 あとがきにかえて
- この目次の前段に異常に迫力のある「まえがき」がある。
- 鈴木邦男は「この本は、やくざ、任侠という側面から日本人の<心情>の歴史を問い直す。読む者は皆、自分の確信や考えを打ち砕かれるだろう。驚き、反撥し、頭が混乱するだろう。やっぱり、怖い本だ。しかし、本の使命は本当はそこにこそある」と「解説」の中で述べている。
カプランとデュブロとの比較
80年代に米国でベストセラーになったカプランとデュブロ『YAKUZA』に大きな影響を与えた。両書の相違点を指摘すると、以下のようになる。
やくざの出自
カプランとデュブロがヤクザはその発生当初から被差別身分出身者が多数を占めていたと述べているのに対し、猪野健治は被差別民がヤクザの主流になったのは戦後の事で、古い時代においては「彼等はやくざになることさえ許されなかった」としている。
日本社会内でのやくざの位置づけ
カプランとデュブロがヤクザこそが日本近代史を実質的に動かしてきた黒幕であるとしているのに対し、猪野健治はヤクザは政治家や巨大資本に利用されて動く従属的存在であるとした。
やくざの分類
両者ともやくざを博徒(ばくち打ち)、テキヤ(露天商)、愚連隊(戦後に誕生した暴力集団)の3つに大別している。カプランとデュブロは、日本ではヤクザ、右翼、建設会社の3つはほぼ同一のものであり区別が付かない、として岸信介、笹川良一、児玉誉士夫なども広義でのヤクザに分類している。一方、猪野は彼らには言及していない。
やくざに対する視線
カプランとデュブロがヤクザの暴力性や残忍性を詳しく記述し徹底的に批判しているのに対し、猪野健治はやくざは他に行き場の無い若者の受け皿になっているとし、やくざを盲目的に非難する事は差別に加担する事になるとしている。その具体例として猪野は、大阪府八尾市の未解放部落では、平均寿命が昭和25年にようやく30歳を超えた事、福岡県の劣悪な労働条件の炭鉱では炭鉱夫の半分以上が部落出身者である事、奈良県では部落民の子弟は長期欠席児童となる確率が部落外の児童の12倍にも達している事などを挙げ、日本社会に「やくざとなるか土方になるか」しか、選択肢の無い若者が多く存在する事がやくざの温床であるとする。カプランとデュブロもヤクザ巨大化の背景に出自差別や欠損家庭の問題がある事は認めている。
海外でのヤクザ
カプランとデュブロはヤクザの日本国外での暗躍にも多く言及している。戦前の日本が頭山満(戦前の福岡の暗黒街に君臨した大物右翼)をはじめとする裏社会の勢力が国政に関与するようになった事により軍国主義化し、海外拡張政策を取るようになった事、GHQ占領期には占領軍右派がヤクザを利用して日本の共産化を防いだ事、戦後は日本の経済発展とともにヤクザが海外進出し東南アジア、ハワイ、カリフォルニア州などで売春や薬物売買などで利益を上げている事などを述べている。一方、猪野健治は海外でのヤクザの活動についてはほとんど述べておらず、代わりにカプランとデュブロが全く述べていない火消人足、秩父困民党事件、柳川組などについても言及し、日本におけるやくざについてより詳しく述べている。
著書
- 猪野健治アウトロー選集全5巻(現代書館)
- 「ヤクザと日本人」(現代書館、1993年、ISBN 4768466346:筑摩書房-ちくま文庫、1999年、ISBN 4480034846)
- 「やくざ戦後史」(筑摩書房-ちくま文庫、2000年、ISBN 4480035486)
- 「関東義侠伝」(徳間書店)
- 「新宿残侠伝」(現代史出版会)
- 「実録・人生劇場」(双葉社)
- 「侠客の条件―吉田磯吉伝」(双葉社-双葉新書、1977年:筑摩書房-ちくま文庫、2006年、ISBN 4480422765)
- 「東京闇市興亡史」(草風社=編著)
- 「興行界の顔役」(筑摩書房-ちくま文庫、2004年 ISBN 4480039791)
- 「日本の右翼」(日新報道)
- 「右翼・民族派事典」(国書刊行会)
- 「右翼・民族派総覧」(21世紀書院)
- 「右翼-for BIGINNERSシリーズ」(現代書館=宮谷一彦と共著)
- 「評伝・赤尾敏」(オール出版)
- 「五大教祖の実像」(八雲井書店=佐々木秋夫・梅原正紀と共著)
- 「民族宗教の実像」(現代ペン社=梅原正紀と共著)
- 「電通公害論」「続電通公害論」(日新報道=編著)
- 「編集取材の知識100」「雑誌記者入門」(みき書房)
- 「雑誌編集者」(実務教育出版)
- 「天下り官僚」「買占め黒書」(日新報道)
- 「官僚の商法」「ゴーストライター」(エフプロ出版)
- 「日本反政治詩集」(立風書房=向井孝・寺島珠雄と共編)
論文
脚注
- ↑ 松岡正剛の千夜千冊『やくざと日本人』猪野健治