熱中症
テンプレート:Infobox Disease テンプレート:Infobox Disease 熱中症(ねっちゅうしょう、hyperthermia、俗に heat stroke, sun stroke ということが多い)は、暑熱環境下においての身体適応の障害によっておこる状態の総称[1]。
主な熱中症の症状として、めまい、失神、頭痛、吐き気、気分が悪くなる、体温の異常な上昇、異常な発汗(または汗が出なくなる)などがある。また、熱中症が原因で死亡する事もある。特にIII度の熱中症においては致死率は30%に至るという統計もあり、発症した場合は程度によらず適切な措置を取る必要がある。
屋内・屋外を問わず高温や多湿等が原因となって起こる。日射病とは違い、室内でも発症するケースが多く、年々増加傾向にある。高温障害で、日常生活の中で起きる「非労作性熱中症」と、スポーツや仕事などの活動中に起きる「労作性熱中症」に大別することが出来る。下記の熱中症の分類は臨床医療の現場で混乱を招くため、熱中症I度・II度・III度と記すように日本神経救急学会の熱中症検討委員会により改定された。
熱中症については厚生労働省[2][3]、文部科学省、環境省[4]でそれぞれ指導・対策が公表されている。
目次
熱中症の分類
熱中症の重症度分類(日本神経救急学会による)
- I度(軽症 日陰で休む。水分補給。衣服を緩めるとともに体を冷やす。)
- II度(中等症 病院にかかり補液を受ける必要がある)
- III度(重症 救急車で救命医療を行う医療施設に搬送し入院治療の必要がある)
- III度熱中症の診断基準は
- 暑熱への曝露がある
- 深部体温40℃以上または腋窩体温38℃以上
- 脳機能・肝腎機能・血液凝固のいずれかひとつでも異常徴候がある
- の3つを満たすもの。血液凝固は体温の過度の上昇によって体タンパク質が壊れ内出血をした結果、内出血を止めるために血液が凝固するために起こる。言い換えれば、熱射病になった後に起こる症状である。
熱中症の種類(旧分類)
従来は下記のような用語が用いられていた。
- 熱失神(heat syncope)
- 熱痙攣(heat cramps)
- 熱疲労(heat exhaustion)
- 熱射病(heat stroke) → 日射病(sun stroke)とは別モノである[6]
熱失神 | 熱痙攣 | 熱疲労 | 熱射病 | |
---|---|---|---|---|
意識 | 消失 | 正常 | 正常 | 高度な障害 |
体温 | 正常 | 正常 | 〜39℃ | 40℃〜 |
皮膚 | 正常 | 正常 | 冷たい | 高温 |
発汗 | (+) | (+) | (+) | (-) |
重症度 | I度 | I度 | II度 | III度 |
熱失神
- 原因
- 直射日光の下での長時間行動や高温多湿の室内で起きる。発汗による脱水と末端血管の拡張によって、脳への血液の循環量が減少した時に発生する。
- 症状
- 突然の意識の消失で発症する。体温は正常であることが多く、発汗が見られ、脈拍は徐脈を呈する。
- 治療
- 輸液と冷却療法を行う。
- 分類
- I度
熱痙攣
- 原因
- 大量の発汗後に水分だけを補給して、塩分やミネラルが不足した場合に発生する。
- 症状
- 突然の不随意性有痛性痙攣と硬直で生じる。体温は正常であることが多く、発汗が見られる。
- 治療
- 経口補水液(水1Lに対し砂糖40g、塩3g)の投与を行う。
- 分類
- I度
熱疲労
- 原因
- 多量の発汗に水分・塩分補給が追いつかず、脱水症状になったときに発生する。
- 症状
- 症状は様々で、直腸温は39℃程度まで上昇するが、皮膚は冷たく、発汗が見られる。
- 治療
- 輸液と冷却療法を行う。
- 分類
- II度
熱射病
- 原因
- 視床下部の温熱中枢まで障害されたときに、体温調節機能が失われることにより生じる。
- 症状
- 高度の意識障害が生じ、体温が40℃以上まで上昇し、発汗は見られず、皮膚は乾燥している。
- 治療
- 緊急入院で速やかに冷却療法を行う。
- 分類
- III度
熱中症の原因
環境
- 前日より急に温度があがった日。
- 温度がそれほど高くなくても多湿であれば起こりやすい(なぜなら、汗による蒸散ができず、体内の熱を発散できなくなるため)。
- 涼しい室内で作業をしている人が、急に外に出て作業した場合(暑さに慣れていないため)。
- 作業日程の初日 - 数日間が発症しやすい。
- 長時間にわたる屋外でのスポーツや行動、屋内でも防具や厚手の衣服での行動[7]。
- 統計的にかかりやすい時間帯は、午前中では10時頃、午後では13時から14時頃に発症件数が多く、季節は梅雨明け後に多い。また、スポーツでは登山、野球がもっとも多い[7]。学校の運動部活動では野球が最も多くなり、サッカー、テニスの順に多い[8]。
素因
- 5歳以下の幼児
- 65歳以上の高齢者
- 肥満者
- 脱水傾向にある人(下痢等)
- 発熱のある人
- 睡眠不足
- 遺伝的素因…CPT-2と呼ばれるエネルギー代謝・産生に関係する酵素に特定のSNPをもつと、高体温でのエネルギー代謝がうまくいかなくなる。インフルエンザ脳症も同様のSNPでなりやすい[9]。
熱中症の予防と応急措置
熱中症の予防法
- 暑熱馴化を行う。
- 出来るだけ薄着として、直射日光下では帽子を被る。
- 吸湿性や通気性の良い衣類を着用する。
- 湿度が低い場合でも、気温が35℃(乾球温度計)以上の場合は特別な場合をのぞいて運動を禁止する。31℃以上の場合は激しい運動は中止し、体力の弱いものや暑さになれていない者などには禁止する。
- 湿度が高い場合は、27℃以上で運動を禁止、24℃以上では激しい運動を中止し、体力の弱いものや暑さになれていない者などには禁止する。
- 27℃以上では室内外の冷却や、直接的な体内や体表面の冷却により体感温度を下げ、体内の水分・塩分が失われないような環境を作ることが一番重要な予防法となる。
- 体感温度を下げる方法として、日射を防ぐ、通風を確保する、扇風機の風を作業場所へ向ける、スポット冷房する、作業服の内部へ送風する(そのような機能を持った作業服を着用する)、蓄冷剤を利用する、水の気化熱を利用して体温を下げるなどの工夫を行う。手や顔を洗って水で湿らせたり、低温や水のシャワー(急に冷水を浴びる場合は心臓への負担等十分な注意が必要)を浴びる。屋外においてはミストなどを利用することで、発汗させずに体感温度を下げることが効果的である。
- 冷たいものを摂取することで、体内からも冷やす。多量に摂取した場合、おなかを壊す場合もあるので摂取量には注意が必要である。
- 暑いときの運動として水泳を取り入れる。
- 水中での運動をしている限り、熱中症の可能性はとても低いが、水中以外で補強運動などが行われる場合は他の運動時並の注意が必要[10]。
体感温度を下げられない環境下において、発汗がやむをえない場合は、発汗の量に合わせた水分・塩分補給が必要である。また、発汗量が少ないにもかかわらず多量に水分補給をしすぎた場合、逆に水中毒を発症する可能性がある。水分補給は多すぎず少なすぎず、適度な量の水分補給を行うことが重要である。
- 運動・就労前に内臓(胃など)の負担にならない程度に適度の水分を取る。
- 発汗によって失った水分と塩分の補給をこまめに行う。スポーツドリンクなど塩分と糖分を飲みやすく配合した飲み物も良い。ただし、家庭内など比較的運動していない場合に多量に摂取すると、ペットボトル症候群の危険もあるため糖分の摂取には注意する必要もある。
- 塩分の補給には味噌汁やスープなど塩気の感じられる飲料が体液と塩分(塩濃度)が近く最適である。ただし、水だけを飲みすぎると体内の塩分濃度が薄まるだけでなく尿としても水分等が排出されてしまい、脱水症状を引き起こすので適度な電解質の補給も必要である[11]。
普段から体調管理につとめる。
- 睡眠を十分に取る。
- 十分に休憩を取りながら作業する(休憩により体温を十分に下げる)。
熱中症の応急措置
冷却と経口摂取による水分補給が基本となるが、経口摂取が難しければ点滴を行う。具体的な処置例を以下に列記する。
- 経口補水液またはスポーツドリンクなどを飲ませる。ただし、冷たいものを大量に飲ませると胃痙攣がおきることがあるので注意が必要。また、スポーツドリンクではナトリウム濃度が低いため、病的脱水時にこれを与えると低ナトリウム血症から水中毒を誘発する可能性がある。特に乳幼児等には注意が必要で、経口補水液の投与が望ましい。手近な物としては味噌汁などが極めて有効である。夏場の重労働などでは早め早めの飲用がトラブルを防ぐ重要なポイントになる。経口塩分の過剰摂取には短期的に生命の危険になる可能性はほとんどない(心不全等を除く)ため、量は多目でよい。
- 霧吹きで全身に水を浴びせて、気化熱によって冷やす。霧吹きがないときは、口に水を含んで吹きかけても良い。そのときの水は冷たくなくて良い。一気に水をかけるとショックが大きいので、冷たい缶ジュースや氷枕などを腋の下、股などの動脈が集中する部分にあてて冷やすのが良い。
- 涼しい場所で休ませる。木陰やクーラーの効いたところで衣服を緩めるのが良い。近くにそのような場所がないときは、うちわなどで早急に体を冷やす。
- 速やかに病院などに連れて行く。躊躇せずに救急車を呼ぶ。移動させるのに人手が必要と思えば大声で助けを呼ぶ。
- 汗をかいていないとしても、体温が高くなくても熱中症の可能性はある。脱水していれば、汗をかくことができない。
- 体温調整が出来なくなっているためか、高温多湿の体育館内での運動中などに寒気を訴える場合があり、そういったときは熱中症の兆候を疑ってみた方がよい。
- 自覚症状で熱中症だと感じることはまずない。自分で大丈夫だと思っても「おかしい」と思った時にはもう遅い可能性があるので、上記を参考に十分注意する必要がある。
熱中症との誤認
注意が必要なのは糖尿病、高血圧の既往歴を有する場合で、低血糖発作、心筋梗塞や脳梗塞などの血管梗塞の症状を誤認し適切な対応が遅れる例が報告されている[12]。
ペットの熱中症
イヌは汗腺が少ないため特に5月から10月にかけて熱中症にかかりやすいとされている[13]。散歩の際には地面から体までの距離が人よりも近く舗装道路からの反射熱がイヌに大きな影響を及ぼすため注意が必要とされている[13]。
脚注
- ↑ 日医雑誌 2012;141(2): 259-263.
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 5.0 5.1 5.2 朝日新聞DIGITAL「熱中症 暑さ、甘く見るな」
- ↑ かつては高温多湿の作業環境で発症するものを熱射病、日光の直射で発症するものを日射病と言い分けていたが、その発症メカニズムは全く同じものであり、最近では熱射病の用語に統一されつつある。
- ↑ 7.0 7.1 テンプレート:Cite web
- ↑ 熱中症予防マニュアル・東京都教育委員会
- ↑ [1]
- ↑ 水泳の水分補給「熱中症、熱射病、日射病のHP」
- ↑ STOP熱中症「かくれ脱水」JOURNAL
- ↑ 猛暑で増えるニセ熱中症 -脱水で起こる、心筋梗塞・脳梗塞- 日経メディカルオンライン 記事:2011年7月14日 閲覧:2011年7月15日
- ↑ 13.0 13.1 テンプレート:Cite news
関連項目
外部リンク
- 日本赤十字内関連ページ
- 日本体育協会内関連ページ
- 熱中症予防啓発資料(独立行政法人日本スポーツ振興センター内関連ページ)
- 子供たちを熱中症とケガから救え!(一般社団法人SAVE OUR KIDS)
- 熱中症予防対策の落とし穴 体力科学 Vol.56 (2007) No.1 P42