教育実習

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教育実習(きょういくじっしゅう)とは、教育職員免許状の授与を受けるために修得する科目のこと、または、その科目の内容として各学校で行われる実習のことである。

概要

原則として、教育実習は、各学校の教諭養護教諭および栄養教諭を除く)の免許状をはじめて取得する際に行う。

教育職員免許法第5条・別表第1、教育職員免許法施行規則第6条などの規定により定められている(ただし、高等学校教諭・工業は特例により教育実習不要)。

教職課程(教員養成課程)を設けている大学短期大学教員養成機関などにおいては、教育実習引き受け校での2週間から4週間程度の実習ならびに事前事後の講義演習・指導を含めて「教育実習」科目として開講している(履修科目上は、事前事後指導と実習そのものを分けているケースもある)。単位数としては、事前・事後指導分が1単位、実習本体が、正味10日間(いわゆる、「2週間の実習」と全くの同一ではない点に注意)の実習が2単位、3週間の実習が4単位とされる(ただし、カレンダー上の理由や実習先の学校の事情などにより、単位数としては変わらないものの、あらかじめ期間を延長設定する場合がある)。

なお、養護教諭の免許状授与にかかわる科目は、教育実習ではなく養護実習である。また、栄養教諭の免許状授与にかかわる科目は、栄養教育実習と呼ばれる。そして、特別支援学校の教諭の免許状授与にかかわる科目は、障害者教育実習と呼ばれる[1]

免許法施行規則の改定により、2000年4月以降大学入学者は、実習本体とは別に事前事後指導の1単位の履修が必修となっている(それ以前のケースでも、「教育実践研究」などの科目名による2単位科目が事実上課される形で行われてはいたが、明示される形となった。事前事後指導の科目名については、各大学の裁量により異なり、「教育実践研究」や「教育実習の指導」・「教育実習I[2]」の名称を使う場合もある)。

実習校

教育実習の受け入れ校(実習校)については、通常、実習を受ける本人が受け入れ依頼をして内諾を得ることとなっている(学校あるいは地域によっては、在籍する大学等の事務を通して各都道府県教育庁などに一括申請する形で申し込むところもあり、併せて、当該地域の教員採用試験の受験を前提としている地域もある。また、高等学校卒業までに、実習予定地の学校が所在する都道府県に在住していたか否かなどの条件を課する場合もある)。多くは母校や居住地近くの学校に依頼することになるが、学校には教育実習生を受け入れる義務はない。学校行事等との兼ね合いやその他の理由により、実習受け入れを断ったり、特定の時期や期間でのみ受け入れが可能であるなど、様々である。これは、あくまでも学校における正規の教育活動が優先であるためである。学校によっては、教育実習生に学校行事での対応を体験させることもあるが、従来は現地の職員により運営されるものであり、教育実習は学校からの「厚意」によって実現しているといえる。

実習校の確保

実習校の確保は、基本的には実習の前年度に学生個人で交渉(通常は、この際に得た内諾を以って、大学側が正式に依頼する)するが、自治体によっては希望者を一括して取りまとめて実習校を指定したり、職業高校などでは大学から依頼を直接受けるケースもある[3]。教員養成系大学にあっては、教育実習は必修科目となっており、大学が指定した附属学校等で実習を行う。特別支援学校を対象とした、障害者教育実習の場合は、近年の免許取得希望者の増加から、大学に希望校(および教育領域)を提示し、そのうえで大学が可否を判断するケースもあり、個人での交渉が不可能とするケースもある(実習生予定者が、実習校の出身県であることや同自治体の採用試験の受験を必須としたうえで、大学を通して認めるというケースもあるため、条件によっては実習自体が困難となる場合もある)。

受講可能な実習校

実習校の校種は、取得しようとする免許状の校種ないしは年齢的に隣接する校種でなければならない。例えば、高等学校の免許を取得するのならば高等学校または中学校で実習することになる。隣接校種での実習が可能なため、場合によっては複数の校種の免許状を同時に取得することができる。一方、中等教育の免許状を取得する場合であっても、法令上は取得しようとする免許状の教科について実習を行う必要はない。しかし、免許状を取得しようとする教科以外の教科の授業をあえて担当することは、指導教諭・実習生とも負担になるだけであり益がないため、通常は行われない。ただし、高校の商業・農業・福祉・工業・看護・水産・韓国語・中国語・ロシア語といった専門教科の場合は、授業を行う高校が相対的に少ないこともあり、他の似たような内容の教科に振り替える場合がある(商業の場合は、商業高校出身者以外で、他教科の免許を取得しない・課程認定されていないためできないという場合については可能性としてありうるが、通常は商業高校出身者が商業の免許状というケースが多いため、他教科で振り替えを行うケースはあまりないとされる。商業高校出身者以外で他教科の免許と同時取得を希望する場合は、そちらの教科で実習を行うことが、事実上の暗黙の了解事項とされる)。

実習の実際

教育実習生は、実習期間中実習校の校長および指導教諭の指導を受け、教育活動のほぼすべての領域に参加する。中等教育においては実習生が希望する教科・科目を実習校が受け、その実習校の判断により担当教科・科目、クラスの配置が決まり、実習高教諭より教科指導教諭、学級(ホームルーム)指導教諭の決まる。

  • 説明、講話
  • 学級活動・ホームルーム活動
    • 学級・ホームルームにおける児童・生徒への連絡報告指導を担当する。具体的には、学級担任とともに朝、帰りの学級活動・ホームルーム活動や給食清掃などの指導を行う。
  • 授業参観
    • 指導教諭の指導のもとに授業を見学する。
  • 教材研究
    • 指導教諭の指導のもと、実習で担当する授業の教材研究学習指導案の作成、その他必要な授業の準備などを行う。
  • 教科指導
    • 指導教諭の指導のもとに実際の授業や、宿題・提出物等の点検・添削を行う。
  • 研究授業
    • 学校が指定したスケジュールのもとに実習生の授業を公開する。他の教職員、実習生や大学の担当教員が見学する場合もある。
  • 合評会
    • 研究授業等の総括・反省を行い、研究協議する。校長・教頭・指導教諭ならびに、研究授業を見学した教員が参加する。
  • 校務
    • 指導教諭の指示のもとに、学校運営で必要な事務や作業等を行うこともある。
  • その他
    • 課外活動や部活動学校行事等における児童・生徒の指導を行うこともある。

問題点

実習期間の問題

実習期間が2週間から4週間程度と短いためにどうしても教科指導が中心となってしまう。それ以外の校務を実習できないこと、また実際に採用されて教員として現場に就くまでのブランクが少なからず存在することなどから、研修期間としてその意味が十分果たせているのかどうか疑問の声もある。ちなみに、ソ連の教育実習は1年間(学校9ヶ月、ピオネール3ヶ月)だった。

教員志望者でない者の実習

教員志望ではないが教員免許状を取得するためだけ、あるいは単位を稼ぐためだけに教育実習に臨む実習生も少なからず存在する。

実習校にとって教育実習は、学校現場における正規の教育活動の一部を、将来教員として共に勤務することを期待し、後輩育成の機会として「契約」ではなく「厚意」で受け入れる側面が大きい。したがって、教員として勤務する意志のない学生が教育実習を依頼することは、現場の教職員に対して不謹慎と取られ、せっかく自らの教材研究の時間等の合間を縫って指導しても後輩育成につながらない。このような腹立たしさを覚える教員も少なくなく、実習受け入れ拒否の理由にも挙げられている。これらを指して一部では「実習公害」という言い方もされている(このことは、学校が民間企業に職場体験を依頼してくるのも同様である)。とは言っても21世紀になり、民間企業でも教員免許所持の応募者を求める教育産業も増え、正規の学校教師希望者のみしか実習を受け入れないというのは時代錯誤の制度だとも言える(教員免許更新制では、教員免許が失効しても、公立学校の教員採用試験は受験できるため、教員採用試験に合格すれば、更新講習に参加可能となり、失効した教員免許を復活させ更新することが可能なため、特に問題はない)。

しかし、教育実習は、教育現場を体験することで学生のうちに教職に対する適性や意欲を見極めることも可能にする制度であるという意義は存在する。

地方の教員採用状態

なお、都市部を除く自治体では教員採用試験は狭き門であり、教員免許状を受けても、正規の教員として勤務できる保証は無く、臨時的任用(非正規)でも機会を得ることは容易ではない。そのため、教員として働くことを希望してもそれが実現しないケースも多い。

関連項目

注釈

  1. 小学校、中学校ないし高等学校での教育実習とは別途行う必要があり、そちらと区別するため「障害者」と冠する。
  2. IIが実習本体相当。
  3. ただし、大学側のカリキュラム上、実習に必要な条件を早期に満たした場合など、条件がそろえば実習を行う年度内に行う実習の交渉を行うことを認めているケースもあるが、きわめてレアなケースである。

外部リンク