心室中隔欠損

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テンプレート:Infobox disease 心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん; VSD: Ventricular septal defect)は、全先天性心疾患[1]の一つ。心室中隔に欠損孔が開き、シャントが生じている状態を指す。

概論

心室中隔欠損は、小児の先天性心疾患としては最多頻度のもので、ファロー四徴症などに合併することもある。ただし、年齢を経るごとに治癒や治療、死亡によって頻度が減少し、成人においては、先天性心疾患入院例の15%を占めるのみである。

本症は欠損孔の部位によって分類され、一般的にKirklinの分類が使用される。

Kirklin-I型
高位欠損漏斗部欠損Soto分類における右室流出路欠損Anderson分類におけるdoubly committed subarterial typeと同義。欠損孔が中隔壁の上方に位置しており、大動脈弁右冠尖に近いことから、弁の逸脱から大動脈弁閉鎖不全症を呈する恐れがある。アジア系民族では、全心室中隔欠損症の約30%を占める。
Kirklin-II型
膜様部欠損型。頻度は最多で、自然閉鎖の傾向が強い。
Kirklin-III型
心内膜床欠損型。頻度は最少である。ダウン症候群に合併する頻度の高い心奇形のひとつである。
Kirklin-IV型
筋性部欠損型。頻度は少なく自然閉鎖例が多い。

病態生理

本症の病態生理は、欠損孔の大きさによって左右される。

  1. 欠損孔が小さい場合
    雑音のみで血行状態はほぼ正常である。
  2. 欠損孔が中等度(1cm程度)の場合
    圧の高い左室から圧の低い右室への左→右シャントが発生し、肺血流量の増加と左室の容量負荷が生じる。肺動脈圧は正常ないし軽度上昇である。
  3. 欠損孔が大きい(2cm程度)場合
    右室圧は左室圧に等しくなり、肺高血圧を生じる。さらに肺高血圧が進展してアイゼンメンゲル症候群となると、シャントの方向が逆転して右→左シャントとなる。アイゼンメンゲル化の頻度はほぼ50パーセントで、この時点で原疾患への手術適応がなくなり、完治には心肺同時移植が必要となる。一方、アイゼンメンゲル化する以前の軽症例のうち、肺体血流比が1.5以上であった場合は手術による治療が可能である。

所見

臨床所見

自覚症状
軽度の欠損孔の場合は、自覚症状はほぼ皆無である。
中等度の欠損孔の場合は、軽度の易疲労性や動悸が見られるほか、ときに呼吸器感染の反復が見られる場合がある。
高度の欠損孔の場合は、易疲労性などの自覚症状のほか、乳児期から心不全や体重増加不良を認める。
聴診
聴診においては、胸骨左縁の逆流性収縮期雑音が特徴的である。最強点の高さは欠損部位によって変わり、Kirklin-I型においては第2〜3肋間と高いため、肺動脈弁狭窄などとの鑑別が重要である。一方、Kirklin-II〜IV型においては第4肋間と低く、比較的鑑別は容易である。強度は、Levineの6段階分類法で2〜5度である。
また、シャント量の増大でII音の分裂およびIII音の出現、肺高血圧の進展でII音の亢進と拡張期Graham Steell雑音(肺動脈弁閉鎖不全による)の出現がありうる。
その他
外見上、胸郭において吸気性陥没、頻呼吸が見られる場合がある。

検査所見

ファイル:Ventricular Septal Defect.jpg
心臓超音波検査像。カラー・ドップラー・モードで、左心室(画像の右側)から右心室(画像の左側)への流れが描写されている。
胸部X線
中等度ないし高度の欠損孔の場合は、左-右短絡に伴う肺血流量増加所見(肺血管陰影の増強、左第4弓の突出、左房・左室拡大)が認められる。アイゼンメンゲル化した場合は、さらに第2弓が突出する。
心電図
中等度の欠損孔の場合は左室肥大、高度の欠損孔の場合はさらに右室肥大を示す。また、Kirklin-III型(心内膜床欠損型)においては左軸偏位を呈する。アイゼンメンゲル化した場合は左室肥大がなくなり、右室肥大のみが残る。
心臓超音波検査
断層法において、中〜高度欠損孔は心室中隔の孔として観察される。また、カラー・ドプラー法により短絡血流を描出できるほか、肺動脈圧の推定も可能である。
心臓カテーテル検査
中〜高度欠損孔においては、右室において酸素飽和度のステップアップ、肺血圧の上昇を認める。また、左室造影を行なうことで短絡が造影され、左室の容積と駆出率が求められる。

治療

内科的治療

内科的治療は、本症に合併した心不全感染性心内膜炎(IE)、呼吸器疾患などに対して行なわれる。左室・左房の容量負荷を除去するための利尿薬が第一選択となり、フロセミドスピロノラクトンを1〜3mg/kg/日投与する。頻脈がある場合にはジゴキシン、末梢冷感が強く僧帽弁逆流などを合併する場合にはACE阻害薬が併用されうるが、心不全の増悪などについて注意を要する。

また、IE予防のため、抜歯など菌血症のリスクを伴う処置の際には、抗菌剤の予防投与を行う。

なお、アイゼンメンゲル化して外科治療の適応外となった症例に対しては、肺高血圧への対症療法として、酸素投与や亜硝酸剤、カルシウム拮抗薬などが用いられる。

外科的治療

外科的治療が考慮されるのは以下の場合である。

  1. 小欠損孔において感染性心内膜炎(IE)を合併した場合。
    : IEの治癒より6か月が経過して以後に手術を行う。
  2. Kirklin-I型(漏斗部欠損)に大動脈弁逸脱や大動脈弁閉鎖不全、バルサルバ洞動脈瘤を合併した場合。
  3. 中〜高度欠損孔で肺/体血流比が1.5以上、左-右短絡率が33%以上の場合。

なお、肺高血圧が進展して肺/体血流比が1.5以下となっている場合は、アイゼンメンゲル症候群となっていることから、外科的治療の適応はなくなり、完治には心肺同時移植が必要となる。

また、Kirklin-I型において大動脈弁右冠尖が逸脱し、大動脈弁閉鎖不全症を生じる場合には、欠損孔の閉鎖術を行う。この場合、欠損孔が逸脱した大動脈弁に覆われて短絡血流が消失することもあるが、成人したのちにバルサルバ洞動脈瘤破裂として急性発症する危険があるため、注意が必要である。

脚注

  1. 弁置換手術などの術後にも生じることがある

参考文献

関連項目

テンプレート:心血管疾患