小熊英二
小熊 英二(おぐま えいじ、1962年9月6日 - )は、日本の社会学者、慶應義塾大学教授。専攻は歴史社会学・相関社会科学。
来歴・人物
東京都昭島市出身。東京都立立川高等学校を経て、名古屋大学理学部物理学科を中退し、1987年東京大学農学部卒業、岩波書店入社(1996年まで在籍)。当初は雑誌『世界』編集部に在籍したが、営業部へ異動になった後に休職して、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻に入学、1998年「「日本人」の境界-支配地域との関係において」で学術博士号取得。1997年慶應義塾大学総合政策学部専任講師、2000年助教授、2007年教授。
父である小熊謙二はシベリア抑留を受け、1948年8月に日本へ帰国。その後、元日本兵の朝鮮系中国人が日本国政府を相手取ってシベリア抑留の戦後補償を求める訴訟の共同原告となっている[1]。
受賞歴
- 1996年 - 『単一民族神話の起源――<日本人>の自画像の系譜』でサントリー学芸賞社会・風俗部門。
- 2003年 - 『<民主>と<愛国>――戦後日本ナショナリズムと公共性』で第2回日本社会学会奨励賞著書の部、第57回毎日出版文化賞第2部門。
- 2004年 - 『<民主>と<愛国>』で第3回大佛次郎論壇賞。
- 2010年 - 『1968』で角川財団学芸賞受賞。
評価
膨大な文献を渉猟し、ナショナリズム、民主主義を中心に政治思想とその歴史を論じている。 方法論的には、社会学における構築主義の立場からの研究を行っている。日本の社会学者としては珍しく、膨大な量の文献にあたる研究を行う。
『単一民族神話の起源』『<日本人>の境界』においては、「日本=単一民族」説が戦後になって唱えられたものであり、植民地を保有していた戦前日本においては、「複数民族が共有する日本」が思想的に提唱されていたと主張した。
その後、『<民主>と<愛国>』を出版。小林よしのりや新しい歴史教科書をつくる会の戦後歴史認識を改めさせるということが執筆動機の一つであった[2]。戦後思想史の中では、一見、相反すると思われている「民主」と「愛国」という概念が、丸山眞男などの議論ではむしろ相性の良い概念として使われていることなどを紹介し、戦後日本におけるナショナリズムの多様性を主張した。
鶴見俊輔、小田実、吉川勇一らのベ平連について小熊は『<民主>と<愛国>』で高く評価しているが、大学紛争期の全共闘をはじめとする新左翼に対しては、批判的なスタンスを取っている[3]。そのため武井昭夫[4]、絓秀実[5]ら新左翼系言論人から、ベ平連についてはKGBから援助を受けていた事実があるとして[6]、鶴見俊輔による回顧的言説を無批判に受容し、その事実関係を検証しようとしないのは党派的ダブルスタンダードであると批判されている。
東日本大震災後は、反原発運動に積極的に参加し[7][8][9]、2012年8月22日、野田佳彦首相と反原発市民団体「首都圏反原発連合」の代表者11人(小熊英二を含む。ただし小熊は「首都圏反原発連合」のメンバーではない)との首相官邸における面会を、菅直人前首相とのパイプを使って実現させた[10]。
2014年8月に朝日新聞が、同紙による、いわゆる「従軍慰安婦」問題キャンペーンについて、「吉田〔清治〕氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します」とした際には[11]、「日本の保守派には、軍人や役人が直接に女性を連行したか否かだけを論点にし、それがなければ日本には責任がないと主張する人がいる。だが、そんな論点は、日本以外では問題にされていない。そうした主張が見苦しい言い訳にしか映らない」と[12]、吉見義明とともに同紙を擁護するコメントを寄せた。
著作
単著
- 『単一民族神話の起源――<日本人>の自画像の系譜』(新曜社 1995年)
- その英訳書:A Genealogy of 'Japanese' Self-images, by David Askew, (Trans Pacific Press, 2002)
- 『<日本人>の境界――沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮:植民地支配から復帰運動まで』(新曜社 1998年)
- 『インド日記――牛とコンピュータの国から』(新曜社 2000年)
- 『<民主>と<愛国>――戦後日本のナショナリズムと公共性』(新曜社 2002年)
- 『清水幾太郎――ある戦後知識人の軌跡』(御茶の水書房 2003年)
- 『市民と武装―アメリカ合衆国における戦争と銃規制』(慶應義塾大学出版会 2004年)
- 『対話の回路――小熊英二対談集』(新曜社 2005年)
- 『日本という国――よりみちパンセ』(理論社 2006年)
- 『1968』(全2巻、新曜社 2009年)
- 『私たちはいまどこにいるのか――小熊英二時評集』(毎日新聞社、2011年)
- 『社会を変えるには』講談社現代新書、2012 ISBN 4062881683
共編著
- (上野陽子)『<癒し>のナショナリズム――草の根保守運動の実証研究』(慶應義塾大学出版会 2003年)
- (鶴見俊輔・上野千鶴子)『戦争が遺したもの』(新曜社 2004年)
- (姜尚中)『在日一世の記憶』(集英社新書 2008年)
- 『平成史』編著 貴戸理恵,菅原琢,中澤秀雄,仁平典宏,濱野智史 河出ブックス 2012
指導学生
社会学分野のほか、IT分野など異分野での活躍している者も多い[13]
出典・脚注
- ↑ 『<民主>と<愛国>』「あとがき」
- ↑ 小熊英二さんに聞く(上)戦後日本のナショナリズムと公共性 『七人の侍』をみて、「これが戦後思想だな」と思った
- ↑ 小熊英二さんに聞く(下)戦後日本のナショナリズムと公共性 思想も運動も度量の広さが大切 戦後史を振り返って思う
- ↑ 武井昭夫による鶴見俊輔批判 あるいは片付かない「転向」
- ↑ 絓秀実「リベラル・デモクラシーの共犯-鶴見俊輔の場合」『en-taxi』第6号、2004年6月
- ↑ Koenker, Diane P., and Ronald D. Bachman (ed.), Revelations from the Russian archives : Documents in English Translation, Washington, D.C. : Library of Congress, 1997.
- ↑ 8 6 東電前・銀座 原発やめろデモ!!!!! 小熊英二アピール 日比谷公園・中幸門
- ↑ 2011.9.11 新宿原発やめろデモ 4/5 小熊英二 anti-nuclear demonstration in Shinjuku
- ↑ 6.11★新宿・原発やめろデモ!出発前02●小熊英二さん(社会学者)
- ↑ 週刊文春2012年9月6日号「刺青ストリッパー、「ベ平連」礼賛学者、パンクロッカー…「反原発デモ」野田官邸にのり込んだ活動家11人の正体」
- ↑ 朝日新聞2014年8月5日、「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断
- ↑ 朝日新聞2014年8月6日、ガラパゴス的議論から脱却を 小熊英二さん(慶応大教授)
- ↑ 小熊英二ゼミウェブページ「研究会の学生による論文」http://web.sfc.keio.ac.jp/~oguma/report/s-thesis.html に掲載されている