専門教育を主とする学科
専門教育を主とする学科(せんもんきょういくを しゅとする がっか)とは、後期中等教育の課程(高等学校、中等教育学校の後期課程、特別支援学校の高等部など)において専門教育を行っている学科のことである。法令においては、専門学科(せんもんがっか、英称: specialized courses)と略されることも多い。
概要
専門教育を主とする学科の類型(大学科)は「高等学校設置基準」(平成16年文部科学省令第20号)や「特別支援学校の高等部の学科を定める省令」(昭和41年文部省令第2号)におおまかに示されている。
以前は、国によって「高等学校学習指導要領」に「職業教育を主とする学科のうち標準的なもの」として具体的な学科(小学科)が示されていたが、地域や学校の実情に応じた特色ある学科の設置が促されるように、高等学校学習指導要領については2003年度(平成15年度)の施行分から、高等学校設置基準については2004年(平成16年)の改正から、示されなくなった。
なお、高等専門学校(高専)は、5年制の高等教育機関であるため、この類型には含まれない。また、公の性質を持つ学校(一条校)ではない専修学校の高等課程(いわゆる高等専修学校)は、教科・科目の大系が異なるためこの類型とは異なる。
教育課程の編成
高等学校学習指導要領においては、専門教育を主とする学科の各類型ごとに、対応する「専門教育に関する各教科」に属する科目から「原則としてすべての生徒に履修させる」科目(原則履修科目)が指定されている。例えば、「商業に関する学科」については「ビジネス基礎」及び「課題研究」が、「情報に関する学科」については「情報産業と社会」及び「課題研究」が、指定されている。
生徒は専門教科の科目を25単位以上履修しなければならない。ただし、「商業に関する学科」では、外国語の科目を5単位まで含めることができる。また、その他の専門学科についても、普通科目の履修によって専門科目を履修したのと同じ効果が認められる場合について5単位まで含めることができる(高等学校学習指導要領の定めによる)。
なお、複数の専門学科を設置している学校で、自分の所属する学科以外の科目を一部選択できる総合選択制が敷かれている場合もある。普通科総合選択制とは異なる。通常の科目選択制のように、
- 所属学科の専門科目を選択し、専門を深める。
- 普通科目を選択し、大学・短期大学進学に備える。
だけではなく、
- 他学科の専門科目を選択し、広い技術を身につける。
こともできる。
専門学科の分類
専門学科は、専門高校に分類される学科(職業学科)と、その他の専門教育を行う学科(専門学科)に分類されると言われている。
現代における両者の違いは、職業学科などにおいて実習を担任する「○○実習」の免許状(いわゆる実習教諭の免許状)が授与されていること、生徒の就業体験(インターンシップ)などが文部科学省などによって強く振興されていることなどである。
しかし、両者の間に生徒の性質などに大きな違いが認められることは少なくなってきている。最近は、複数の専門教科にまたがる学科や、学校設定教科を基礎とする学科もあり、このような二者択一的な分類は、時代遅れであるという声もある。特に商業高校は紛らわしい学科が多く、国際経済科と国際教養科の両方が商業高校に設置される学科に存在している。また統合により複数の専門学科の要素がある学科に改変されることもある。
専門高校に分類される学科
専門高校に分類される学科には、農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉に関する学科、その他の学科がある。
専門高校に分類される学科の授業には、実習の時間が多く取り入れられる。そのため、実習助手や実習教諭などの実習を担当する教員が一定数以上いる。ただし商業の場合は実習助手を設置していないことが多い。
農業、工業、商業、水産に関する学科については、旧制実業学校の流れを汲み新制高等学校が成立してからの伝統が長い学科である。家庭、看護、情報、福祉は、後の時代になってから新設されたものである。また、平成16年に改正される前の高等学校設置基準(昭和23年文部省令第1号)には、「厚生に関する学科」と「商船に関する学科」が規定されていたが、厚生に関する学科は看護に関する学科や福祉に関する学科へ、商船に関する学科は商船高等専門学校へ移行した。
商船科、電波科(厳密には電波は工業の一部領域)は、高等専門学校制度の創設に伴い、高校の学科名としてはなくなったが、水産に関する学科には、航海教育や無線通信教育を行う高校がある。また、海員学校も高卒資格が得られるようになったため、かつての高校商船科に近い存在になっている。
農業に関する学科
農業科、栽培科、園芸科、果樹科、生物生産科、造園科、畜産科、バイオテクノロジー科、林業科、蚕業科、食品科学科、生活科学科、農業土木科、農業経済科、農産製造科、女子農業科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「農業」を学習する。これらの学科を束ねて、農業高等学校、林業高等学校が設置される場合がある。
工業に関する学科
工業科、機械科、電子機械科、自動車科、造船科、電気科、電子科、電気通信科、繊維科、紡織科、色染科、塗装科、建設科、建築科、土木科、窯業科、採鉱科、冶金科、セラミック科、インテリア科、デザイン科、材料技術科、情報技術科、設備工業科、化学工業科、金属工業科、薬業科、工芸科、木材工芸科、金属工芸科、印刷科、クリーニング科など多数の学科がある。普通教科のほかに専門教科「工業」、主に聾学校で開講される専門教科「印刷」、主に聾学校で開講される専門教科「クリーニング」を学習する。これらの学科を束ねて、工業高等学校が設置される場合がある。
商業に関する学科
商業科、国際経済科、情報処理科などの学科がある。普通教科のほかに英語、国際関係学、法律、経済、会計、プログラミングなどが含まれる専門教科「商業」を学習する。これらの学科を束ねて、商業高等学校が設置される場合がある。また近年では英語の教科を増設したり、その他の科目を追加することも多く、非常に多岐に渡る。
- 学校によっては下記の通りである。
- 商業科 → 商業ビジネス科
- 国際経済科 → 国際ビジネス科
- 情報処理科 → 情報ビジネス科
水産に関する学科
水産科、海洋科、航海科、機関科、無線通信科、情報通信科、水産海洋科、海洋漁業料、遠洋漁業科、栽培漁業科、水産経営科、水産食品科、水産製造科、水産工学科、海洋工学科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「水産」を学習する。これらの学科を束ねて、水産高等学校、海洋高等学校が設置される場合がある。
家庭に関する学科
家庭科、家政科、家政家庭科、被服科、食物科、保育科、生活文化科、生活科学科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「家庭」を学習する。これらの学科を束ねて、家庭高等学校、家政高等学校が設置される場合がある。
看護に関する学科
看護科、衛生看護科、衛生科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「看護」を学習する。
課程によっては、卒業すると准看護師国家試験の受験資格が取得できる。近年、専攻科も含めた5年制の看護科とする学校が増えてきている。
- 看護科(衛生看護科)+専攻科
- 正看護師国家試験の受験資格を取得できる課程が多い。
- 専攻看護科
- 高等学校または中等教育学校を卒業した者などが入学できる。看護に関する学科の出身でなくともよい。正看護師国家試験の受験資格を取得できる課程が多い。
これらの学科・専攻科などを束ねて、看護高等学校が設置される場合がある。また福祉に関する学科と合わせて、看護福祉高等学校が設置される場合がある。
情報に関する学科
情報科、情報システム科、マルチメディア科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「情報」を学習する。これらの学科を束ねて、情報高等学校が設置される場合がある。
福祉に関する学科
福祉科、社会福祉科などがある。普通教科のほかに介護などを含む専門教科「福祉」を学習する(関連資格: 介護福祉士)。これらの学科などを束ねて、福祉高等学校が設置される場合がある。また看護に関する学科と合わせて、看護福祉高等学校が設置される場合がある。
その他の専門学科
その他の専門学科には、理数、体育、音楽、美術、外国語、国際関係に関する学科、その他の学科がある。理数に関する学科の設置は、割合高い。また、音楽に関する学科については、学校の中には高度な教育を展開するものが目立つ。
地域や資料によって扱いの違いが大きく、高等学校学習指導要領においては、「外国語に関する学科」及び「国際関係に関する学科」についての言及がなく、代わりに「英語に関する学科」についての記述がある。また、文部科学省の学校基本調査においては、全て「その他の専門教育を施す学科」として一括りになっている。
理数に関する学科
理数科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「理数」を学習する。
普通科が設置されている高校に併設されているケースが大多数を占め、生徒募集時に普通科との一括募集の上で2年次への進級時に所属学科を確定する形態を採る学校や、2年進級時に普通科との間で一部の生徒の転科を実施している学校もある。
- 理数の専門科目 - 理数数学Ⅰ・理数数学Ⅱ・理数数学探究・理数物理・理数化学・理数生物・理数地学
- 普通科の数学・理科より、より深く系統的に学習を行う。
- 理科は原則3科目履修する。
体育に関する学科
体育科、スポーツ科などがある。普通教科のほかに専門教科「体育」を学習する。これらの学科を束ねて、体育高等学校が設置される場合がある。
音楽に関する学科
音楽科、声楽科、器楽科、作曲科、調律科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「音楽(楽典・理論等)」や、主に盲学校で開講される専門教科「調律」を学習する。また、殆どの場合において主科(専攻科)とは別に、副科としてピアノ(ピアノ科の学生はピアノ以外の任意の学科)を学習する。 これらの学科を束ねて、音楽高等学校が設置される場合がある。
美術に関する学科
美術科、芸術科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「美術」を学習する。これらの学科単独や音楽に関する学科などを束ねて、芸術高等学校が設置される場合がある。
外国語に関する学科
外国語科、英語科、フランス語科、ドイツ語科、中国語科、韓国語科、ロシア語科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「英語」や外国語に関する学校設定教科を学習する。これらの学科や国際関係に関する学科を束ねて国際高等学校が設置される場合がある。
国際関係に関する学科
国際科、国際関係科、国際教養科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「英語」や国際関係に関する学校設定教科を学習する。これらの学科や外国語に関する学科を束ねて国際高等学校が設置される場合がある。近年では商業高等学校の学科にもこの要素が含まれる学科が登場している。
特別支援学校のみに設置される学科
「特別支援学校の高等部の学科を定める省令」(昭和41年文部省令第2号)に示されている学科の分類のうち、「高等学校設置基準」には示されていない学科の分類である。理療、理学療法、理容・美容、歯科技工、産業一般に関する学科がある。
これらの学科は、特別支援学校で開設される教科である「調律」「保健理療」「理療」「理学療法」「印刷」「理容・美容」「クリーニング」「歯科技工」を受けて設けられている。このうち、「調律」「印刷」「クリーニング」の教科については、特別な教科に関する学科を設けずに音楽、工業に関する学科に統合されている。それ以外の専門教科については、特別に次のように分類されている。
理療に関する学科
「視覚障害者である生徒に対する教育を行う学科」とされている。理療科、保健理療科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「保健理療」、専門教科「理療」を学習する。
理学療法に関する学科
「視覚障害者である生徒に対する教育を行う学科」とされている。理学療法科などがある。普通教科のほかに専門教科「理学療法」を学習する。
理容・美容に関する学科
「聴覚障害者である生徒に対する教育を行う学科」とされている。理容美容科、理容科、美容科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「理容・美容」を学習する。
歯科技工に関する学科
「聴覚障害者である生徒に対する教育を行う学科」とされている。歯科技工科などの学科がある。普通教科のほかに専門教科「歯科技工」を学習する。
産業一般に関する学科
「知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)である生徒に対する教育を行う学科」とされている。産業科、産業一般科などがある。
上記以外の専門教育を施す学科
京都市立堀川高等学校の探究学科群、京都市立西京高等学校のエンタープライジング科、京都府立嵯峨野高等学校の京都こすもす科、山口県立周防大島高等学校の地域創生科など、各学校・設置者の取り組みにより様々な学科が設置されている。
また、岩倉高等学校の運輸科、昭和鉄道高等学校の鉄道科(運輸科と機関科を統合)など、私立の鉄道系高等学校には独自性の強い職業学科がある。