外国国章損壊罪
テンプレート:Ambox テンプレート:日本の犯罪 テンプレート:日本の刑法 外国国章損壊罪(がいこくこくしょうそんかいざい)とは、外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他国章を損壊し、除去し、または汚損することによって成立する犯罪(刑法92条)。
概説
外国国章損壊罪は国家的法益に対する罪のうち国交に関する罪に分類される。外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊・除去・汚損する罪であり、法定刑は2年以下の懲役または20万円以下の罰金である(刑法92条1項)[1]。なお、本罪は外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない(刑法92条2項)。
具体的事案
- 1956年(昭和31年)7月に、中華人民共和国の京劇俳優梅蘭芳が来日した際、大阪市で抗議デモが行われたが、街宣車に掲揚されていた中華民国国旗の青天白日旗を除去される事件が発生した。大阪地検が捜査したが、民間人が持っていた国旗の持ち去り行為は処罰できないとして、不起訴処分になっている。
- 日中国交正常化前の1958年(昭和33年)5月に、長崎市で開催された切手展覧会の会場に掲揚されていた中華人民共和国の五星紅旗を男性が引きずり下ろし侮辱した行為[1]。警察が軽犯罪法違反で科料500円という処分と事実上不問にしたため(当時国交のあった中華民国・中国国民党政権の要請もあったという)、中国側が反発し、日中間の商取引契約が、既成立も含め取り消される外交的対抗措置に出た(詳細は長崎国旗事件を参照)。
- 1993年(平成5年)の「ドーハの悲劇」の際に、日本のサポーターが駐日イラク大使館の国旗を引き降ろし持ち去った行為が該当する(イラク公館側は“日本人の愛国心の表れ、郵便受けにでも返しておいてくれれば”と告訴しなかった)。
- ロシア外務省によれば2011年(平成23年)2月7日(日本では「北方領土の日」)、北方領土実効支配に抗議する右翼団体が、駐日ロシア大使館前での抗議街宣の際にロシア国旗を引きずり破るなどしたという。ロシア外務省は井出敬二日本公使を呼び捜査と犯人処罰を要求[2]。後日、日本外務省が駐露大使館を通じて「外国国章損壊罪に当たる事実は確認されていない。侮辱されたのはロシア国旗を模した手製の物体であり、大使館に掲揚されている国旗を侮辱したものではないため罪に問われない」と回答[3]。ロシア側は納得せず、再度井出公使を呼び抗議を申し入れると共に再捜査を求めている。更に、関与した右翼団体幹部のロシア入国を禁じる処置を取った[4]。
- 他国でも同様の規制が行われている場合が多い(火刑式)。このため、国によっては警察当局の取締りを避けるため、「汚い国旗だ」などと罵倒しながら「国旗を洗う」パフォーマンスが行なわれる場合もみられるが、日本ではあまり普及していない。
保護法益
本罪を含む国交に関する罪の保護法益については、各類型の定めている目的や外国政府の請求を訴訟条件としていることなどの観点から国際法上の義務ないし国際法秩序により保護されるべき外国の利益であるとする説[5]と、本罪の表題が「国交に関する罪」であることなどの観点から我が国の対外的地位ないし外交作用であるとする説[6][7]が対立する。
客体
外国国章損壊罪の客体は外国の国旗その他の国章である。国章は国家の権威を表象する物件を意味する[8]。
客体の範囲については、大使館など公的に掲揚されている場合に限定する説、国際競技場など公共の場所に私人によって掲揚されている場合も含む説が対立する。
行為
本罪の行為は外国の国旗その他の国章の損壊・除去・汚損である。
損壊
判例によれば「損壊」とは「たとえば、国旗を引き裂くとか、切り刻むなどのように、国章自体を破壊または毀損する方法によって、外国の威信・尊厳を象徴する効用を滅失または減少させることをいう」(大阪高判昭和38年11月27日高刑集16巻8号708頁)。
除去
判例によれば「除去」とは「国章自体に損壊を生じさせることなく、場所的移転、遮蔽などによって国章が現に所在する場所において果たしているその威信・尊厳を象徴する効用を滅失または減少させること」をいう(最決昭和40年4月16日刑集19巻3巻143頁)。
ただし、遮蔽については、「損壊」にあたるとみるべきとの説[9]や類推解釈であり許されないとみる説[10]もある。
汚損
判例によれば「汚損」とは「人に嫌悪の情を抱かせる物を国章自体に付着または付置させて、国章としての効用を滅失または減少させることをいう」(大阪高判昭和38年11月27日高刑集16巻8号708頁)。
目的犯
本罪は外国に対して侮辱を加える目的で行われることを要する目的犯である(刑法92条1項)。
訴訟条件
本罪は外国政府の請求がなければ公訴を提起できない(刑法92条2項)。刑事訴訟法237条3項を参照。
罪数
客体が他人の所有物である場合には器物損壊罪との関係が問題となり、法条競合説[11]もあるが、多数説は観念的競合説[12]をとる。
脚注
関連項目
テンプレート:日本の刑法犯罪- ↑ 1.0 1.1 テンプレート:Citenews
- ↑ ロシア、日本公使呼び抗議 国旗侮辱で捜査要求 共同通信2011年2月9日
- ↑ ロシア:国旗は模造品、侮辱の事実なし 日本が伝達毎日.jp
- ↑ 国旗侮辱問題で再捜査要求=ロシア 時事通信2011年3月3日
- ↑ 団藤重光 『刑法綱要各論 第三版 』 創文社(1990年)163頁
- ↑ 平野龍一 『刑法概説』 東京大学出版会(1977年)292頁
- ↑ 前田雅英 『刑法各論講義 第二版 』 東京大学出版会(1995年)556頁
- ↑ 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)471頁
- ↑ 平野龍一 『刑法概説』 東京大学出版会(1977年)293頁
- ↑ 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)472頁
- ↑ 大谷實 『刑法講義各論 第四版補訂版 』 成文堂(1995年)513頁
- ↑ 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)472頁