夏時間
夏時間(なつじかん)またはサマータイム(テンプレート:Lang-en-gb-short ヨーロッパ大陸でも用いる)、デイライト・セービング・タイム(テンプレート:Lang-en-us-short。カナダ、オーストラリアでも用いる)とは、1年のうち夏を中心とした期間に、太陽の出ている時間帯を有効に利用する目的で、標準時を1時間進める制度、またはその進められた時刻のこと。ただし、オーストラリアのロード・ハウ島では夏時間と通常の時間の差が1時間でなく30分である。
現在の主な実施国・地域では実施期間が7~8か月に及ぶため、通常時間より夏時間の期間のほうが長い。
明るいうちに仕事をし、夜の余暇時間を延長できる。緯度が高く夏の日照時間が長い欧米諸国などで多く導入されている。
目次
目的と効果
以下のような効果が期待できると考えられている。
夏時間導入に対する反対論
夏時間の導入については反対論も存在する。夏時間に対する反対意見としては、以下のようなものが主張されている。
- 明るいうちに帰宅すると、暑い時間を家で過ごす時間が長くなることから冷房による電気の使用量が増え、照明の節約効果以上にエネルギー消費量が増える。それにより、かえって電気代も増えることになる。
- コンピュータを利用する各種システム(OSやソフトウェアの時計機能など)を更新しなければならないなど、移行コストがかかる。
- 時刻切り替え時に一時的に交通事故が増加するという報告もある。カナダブリティッシュコロンビア州では夏時間導入直後の月曜日には変更直前の月曜日より交通事故が平均で23%増加するとして注意を呼びかけている[1]。
- 日本においては、個人の時間を削り労働時間(残業)を増やす上、最悪サービス残業の温床になりかねないという指摘もある。
歴史
18世紀にベンジャミン・フランクリンが提唱したとされるが、これは時計の針を動かすことなく市民の早寝早起きを推奨したのみであり、フランクリンの時代にはどちらも実現しなかった。現在の方式のサマータイムを提唱したのはイギリスの建築業者であったテンプレート:仮リンクである。実際に採用されたのは第一次世界大戦中のドイツで1916年4月30日から10月1日まで、同じくイギリスが1916年5月21日から10月1日まで採用したのが始まりである。
アメリカ合衆国では1918年と1919年に各7か月間、夏時間が導入されたが、大変に不評のため廃止になった。その後第二次世界大戦中に資源節約目的で復活し、今に至る。1986年までは現地時間4月最終日曜日午前2時から10月最終日曜日午前2時までの間、それまでの時刻に1時間を加えたタイムゾーンを採用する「1966年方式」が主に使われていた。その後1986年より、開始日は4月第1日曜日となり、2007年からは「包括エネルギー法案」の可決により期間が約1ヶ月延び、開始日は3月の第2日曜日、終了は11月の第1日曜日となった。なお、議会で法案が通れば、その自治体は夏時間を使用しなくてもよいため、2008年現在、低緯度のハワイ州は州全体、アリゾナ州では大半の自治体で夏時間を採用していない。なお、2005年まで大半の自治体で夏時間を採用していなかったインディアナ州は、2006年から州全域で夏時間を採用している。
日本では、占領軍の施政下にあった1948年〜1951年の間のみ実施されていた(後述)。
稀な事例だが、二段階のサマータイムが実施された例がある。連合国占領下のドイツで1945年と1947年に実施された(de:Sommerzeit)。1945年の場合は、独ソ戦終了前から通常のサマータイムが実施されていたが、5月の独ソ戦終了まもなくから9月まで、ソ連占領地域とベルリンにおいて+2時間のサマータイムが実施され、当時サマータイムを導入していなかったモスクワと同じ時刻になった(通常のサマータイムは11月まで)。1947年の場合はドイツ全土において、4月6日に第一段階のサマータイム(+1時間)を開始、5月11日から6月29日まで二段階目(+2時間)を実施し、10月5日にサマータイムを終了した。
主な地域の実施時間
2011年現在
- アメリカ合衆国(一部除く)
- カナダ(一部除く)
- メキシコ(一部除く)
- 上記3国では、3月第2日曜日午前2時〜11月第1日曜日午前2時(現地時間基準[2])
- ヨーロッパ各国(一部除く)
- 3月最終日曜日午前1時〜10月最終日曜日午前1時(UTC基準)
- オーストラリア(北部は実施なし、西部は2006年度から3年間試行)
- 10月第1日曜日午前2時〜翌年4月第1日曜日午前3時(現地時間基準、2008年から)
- ニュージーランド(一部除く)
- 9月最終日曜日午前2時〜翌年4月第1日曜日午前3時(現地時間基準)
- ブラジル(一部除く)
- 10月第3日曜日午前0時〜翌年2月第3日曜日午前0時(現地時間基準)
サマータイムを実施していたが廃止した主な地域
- アイスランド
- アメリカ合衆国の一部(アリゾナ州)
- アルゼンチン
- イラク
- オーストラリア北部・西部(1917年、1942年-1944年)
- カザフスタン
- カナダの一部(ブリティッシュコロンビア州ピースリバー地域、ヌナブト準州サウサンプトン島、ケベック州コート・ノール地域、サスカチュワン州全域)
- キルギス
- コロンビア
- フィリピン
- モロッコ
- リビア
- ロシア(1917年-2011年但し標準時間帯を通年1時間前倒ししている。)
- 日本(1948年-1951年、後述)
- 香港(1941年-1979年)
- 韓国(1987年-1988年)
- 中国(1986年-1992年)
- 台湾(1945年-1979年)
サマータイムを実施したことがない地域
- ベトナム、タイ、インドネシアなど、東南アジア諸国の大半
- サウジアラビアほか、アラビア半島のすべての国家
- パプアニューギニア
- ベネズエラとその近隣諸国
- エチオピア、ケニアなどアフリカ大陸の30カ国以上
- 北朝鮮
- ネパール
- ブータン
- アフガニスタン
日本におけるサマータイム
米国などにより占領された期間
日本は太平洋戦争で敗北し、連合軍により占領統治された。その時期に、1948年4月28日に公布された夏時刻法に基づいて、同年5月から毎年(ただし、1949年のみ4月の)第1土曜日24時(=日曜日1時)から9月第2土曜日25時(=日曜日0時)までの夏時間を実施していた(詳しくは夏時刻法を参照)。1951年に講和条約が締結され、翌1952年4月28日に占領が終了するのに先立ち、1952年4月11日に夏時刻法は廃止された。
以後、日本では法律に基づく全国一斉の本格的なサマータイムは実施されておらず、前述の4回(4シーズン)だけ実施されたことになる。
平成における制定過程
1995年頃からは省エネなどを名目としたサマータイムの再導入が一部議員を中心に検討され始めた。
衆参両院超党派の100名を超える国会議員たちにより2004年8月に「サマータイム制度推進議員連盟」が設立された。会長は第一次小泉内閣経済産業大臣だった平沼赳夫(経産省は電力などを管掌)。2005年に法案提出の動きがあったができなかった。平沼自身は、郵政選挙で自民党を離党し、政治権力の中心から離れるとともに“反自民”の象徴となった。以降この議連による動きは止まったままである。
2007年春には、日本経済団体連合会(日本経団連)が自由民主党に対して夏時間の導入を提案した。同年8月1日から8月31日までの1か月間、日本経団連は経団連会館内で、始業・終業時刻を通常より1時間繰り上げる(早める)「サマータイム勤務」(エコワーク)を実施した。
福田康夫内閣は地球環境(特に地球温暖化対策)と生活者の重視を旗印にしており、自民党は2008年4月に地球温暖化対策推進本部を立ち上げた。会長は野田・元自治相であり「(国民の)地球温暖化対策に対する意識変化を国民運動的に求めていく」として、サマータイムを政府のなすべき温暖化対策・環境対策の切り札として位置付けていた。2008年5月13日、自民党地球温暖化対策推進本部は、サマータイム法制化・完全導入への作業を本格的に開始した。
麻生太郎内閣は2009年6月28日の日韓首脳会議後、日韓同時にサマータイムを導入すれば経済効果が高いと認識を示していた。
2009年9月9日に鳩山由紀夫内閣との日韓首脳会議で日韓同時導入を韓国が提案する方向で検討していると発表した。
サマータイム制への批判
日本では過去サマータイム制を導入しながらも廃止した経緯がある。NHKオンラインが2005年8月12日に実施したアンケート[3]では、反対派が賛成派をわずかに上回った。具体的な意見は脚注を参照。
- 日本列島は東西に細長いため、東日本と西日本で日の出・日の入りの時刻に大きな差があり、全国一律にサマータイムを導入するには不適。
- 日本は湿度が高く、日没後も蒸し暑いため、帰宅後の冷房需要が他国と比べて大きい。
- 日本の周辺国の多くはサマータイム制を導入していないので、欧米のサマータイムに合わせる必要性が薄い。
北海道サマータイム
高緯度である北海道の夏は日中時間が日本一長いため、北海道全域を中央標準時より1時間又は2時間加えることによって、明るい時間を有効に利用しようという「北海道サマータイム特区構想」にからんだ実験として実施されている。
最終的には北海道全域に限り4月第1日曜日から9月最終日曜日までの期間、1時間又は2時間時計を進める仮構想が提唱されている[4]。
札幌商工会議所は、2004年7月の1ヶ月間、北海道内の企業、官公庁に対し、就業時間を1時間繰り上げる(早める)よう呼びかける「北海道サマータイム月間」を実施。2005年は6月20日から7月31日までの期間内で実施。企業へのアンケートでもおおむね好評[5]で、夏のイベントとしての定着が進められている。しかし、北海道サマータイムは時計をいじらず、出退勤時間を1時間早めるという時差出勤の一種であり、本来の「サマータイム」とは異質な制度である。 なお2007年以降は実施する企業が激減し、景気低迷の長期化でエネルギー消費量が減っているために「省エネ」の効果が出にくくなっているとの理由から、2010年はサマータイムを実施しないことに決定した。また、2011年は7月の1カ月間に限って実施したが、傘下の企業への参加呼びかけは行わなかった。
滋賀県庁
2003年7・8月には、滋賀県庁で職員を対象にサマータイム導入実験が行われた。
奥州サマータイム
2006年6月〜8月にかけ岩手県奥州市において、水沢青年会議所が主導となりサマータイム導入実験が行われた。
企業別・職場別サマータイム
コンピュータにおける扱い
以前は、夏時間の期間に入るまたは終わる度に手動でコンピュータに内蔵されている時計の時刻を合わせていたが、近年のオペレーティングシステムは、自動的に内蔵時計を修正する機能をもっている。ファイルのタイムスタンプの扱いは、使用するファイルシステムおよびオペレーティングシステムによって異なる。例えば、FATのようなタイムスタンプの記録にローカルタイムを利用するファイルシステムの場合、夏時間内で修正されたファイルを、夏時間外で読み込んだ場合、時刻が1時間ずれる。一方、NTFSのような、タイムスタンプをUTCで記録するファイルシステムを利用している場合、このような問題は起きない。
時刻の内部管理にUTCを使うことにより、夏時間を意識せずにファイルの読み書きができるものの、オペレーティングシステム上での取り扱いは、各システムによって異なる。Windows系の場合、Windows XP以前のOSでは、時刻は現在有効な標準時に合わせて表示される。例えば、夏時間の期間中にタイムスタンプが9時であった場合、期間外では10時と表記される。この方式では表示される時刻が実際の時刻と異なることがある。一方で、夏時間の期間の前後で時刻に不連続が発生しなくなるという利点がある。また、時代・地域による期間・調整時間の差異や、未来の時刻を取り扱う時に実施当日までに変更される可能性がある夏時間規則を考慮する必要がない。一方、WindowsでもWindows 7以降およびMac OS Xの場合は、期間中に9時であったものは、期間外になっても9時と表記される。この方式の利点・欠点は前者の逆である[6]。
LinuxやBSD系オペレーティングシステムではtz databaseを用いて夏時間を管理している。
関連項目
- アラスカ夏時間 (AKDT)
- 太平洋夏時間 (PDT)
- 山岳部夏時間 (MDT)
- 中部夏時間 (CDT)
- 東部夏時間 (EDT)
- 大西洋夏時間 (ADT)
- ニューファンドランド夏時間 (NDT)
- 英国夏時間 (BST)
- 西ヨーロッパ夏時間 (WEST)
- 中央ヨーロッパ夏時間 (CEST)
- 東ヨーロッパ夏時間 (EEST)
- モスクワ夏時間 (MST)
- 西アフリカ夏時間 (WAST)
- 夏時刻法
脚注
- ↑ ICBC’s top five smart driving tips for Daylight Saving Time Insurance Corporation of British Columbia
- ↑ 開始日には午前2時が午前3時となり、終了日には午前2時が午前1時となるため、開始日の1日が23時間、終了日は逆に25時間になる
- ↑ http://www.nhk.or.jp/toppage/enquete2005/050812.html
- ↑ http://www.sapporo-cci.or.jp/summer/index.html 北海道サマータイム 札幌商工会議所
- ↑ http://www.sapporo-cci.or.jp/summer/pdf/summer-houkoku-2005.pdf 『2005北海道サマータイム月間』アンケート調査結果(PDF) 北海道サマータイムサイト内
- ↑ テンプレート:Cite book
外部リンク
- グラフィカルディスプレイ 2地点の時差、夏時間の開始・終了日をグラフで表示