公転周期

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テンプレート:出典の明記 公転周期(こうてんしゅうき、英語:orbital period)とはある天体(母天体)の周囲を公転する天体が母天体を1公転するのに要する時間のこと。日本語では軌道周期とも呼ばれる。

太陽の周囲を公転する天体やの場合、目的によって以下のように定義の異なるいくつかの周期が用いられる。

恒星周期 (sidereal period)
恒星を基準として天体が母天体を1周する時間。その天体の真の公転周期と考えられ、単に公転周期と言う場合にはこの恒星周期を指すことが多い。地球の場合は恒星年、月の場合は恒星月と呼ぶ。
会合周期 (synodic period)
ある天体を地球から観測した時に、天球上で太陽に対して同じ位置に来る、すなわち太陽との離角が同じ値になる周期。その天体が太陽とのの位置に来る時間間隔であり、地球から見たその天体の見かけの公転周期と言える。地球自身が太陽の周囲を公転しているため、一般に会合周期と恒星周期は異なる。月の会合周期を朔望月と呼ぶ。
交点周期 (draconic period)
ある天体が昇交点(天体の軌道が黄道面を南から北へと交差する点)を通過する周期。月の交点周期を交点月と呼ぶ。地球の軌道面は定義により黄道面と等しいため、地球には交点周期はない。天体の軌道面は一般に歳差運動で動くため、昇交点は黄道に対してゆっくりと移動している。そのため交点周期も恒星周期とは一致しない。
近点周期 (anomalistic period)
ある天体が近点(母天体に最も近づく点)を通過する周期。地球の場合は近点年、月の場合は近点月と呼ぶ。天体の軌道の長軸も一般に歳差運動によってゆっくりと回転して近点が移動するため、近点周期も恒星周期とは一致しない。
回帰周期 (tropical period)
ある天体が赤経0時を通過する周期。地球の場合は回帰年または太陽年、月の場合は分点月と呼ぶ。春分点が歳差によって移動するため、一般に回帰周期は恒星周期よりもわずかに短い。

恒星周期と会合周期

惑星の恒星周期と会合周期の関係式はニコラウス・コペルニクスによって導かれた。

ここで以下の各記号を用いる。

E = 地球の恒星周期(恒星年)
P = 惑星の恒星周期
S = 惑星と地球との会合周期

円軌道を仮定すると、会合周期 S の間に地球は (360/E)S 度、惑星は (360/P)S 度だけ公転する。

ここでまず内惑星について考えると、地球から見て内合の位置にいる内惑星が再び内合の位置に戻るまでに、内惑星は地球よりも1周多く公転する。

<math> \frac{S}{P} 360^\circ = \frac{S}{E} 360^\circ + 360^\circ </math>

よってこの式から、惑星の恒星周期 P は以下のように求められる。

<math> P = \frac1{\frac1E + \frac1S} </math>

同様にして外惑星の恒星周期は以下のようになる。

<math> P = \frac1{\frac1E - \frac1S} </math>

この式は地球と惑星の公転角速度を考えると容易に理解できる。惑星の見かけの角速度はその惑星の真の(恒星に対する)角速度から地球の角速度を引いた値となる。よって惑星の会合周期は単に1公転(360度)を見かけの角速度で割った値になる。

太陽系の主要な天体の地球に対する会合周期は以下の通りである。

    恒星周期)  会合周期(年)  会合周期(日)
水星     0.241   0.317   115.9
金星     0.615   1.599   583.9
地球     1     —     —
    0.0748     0.0809     29.5306
火星     1.881   2.135   780.0
ケレス     4.600   1.278   466.7
木星   11.87   1.092   398.9
土星   29.45   1.035   378.1
天王星   84.07   1.012   369.7
海王星 164.9   1.006   367.5
冥王星 248.1   1.004   366.7

惑星の衛星の場合、会合周期は通常は太陽との会合の周期を意味する。すなわち、惑星上の観測者から見てその衛星が朔望の1周期を完了し、太陽と同じ離角の位置に再び戻るまでの時間を指す。よって惑星の衛星の会合周期には地球の運動は関係しない。例として、火星の衛星ダイモスの会合周期は 1.2648 日で、恒星周期 1.2624 日よりも 0.18% ほど長い。

計算

小天体の公転周期

天体力学では、中心天体の周囲を円軌道または楕円軌道を描いて公転する微小天体の公転周期 <math>T\,</math> は、微小天体の質量が中心天体に比べて十分小さい場合には

<math>T = 2\pi\sqrt{a^3/GM}</math>

と表される。ここで、

である。

この式から、軌道長半径が等しい円・楕円軌道はその離心率によらず同じ公転周期を持つことが分かる。

地球(または地球と平均密度が等しい任意の球対称の天体)の周囲を公転する小天体の公転周期は、

<math>T = 1.4 \sqrt{(a/R)^3}</math>

となる。同様に、中心天体の密度がと等しい場合の公転周期は、

<math>T = 3.3 \sqrt{(a/R)^3}</math>

となる。ここで T の単位は時間で、R は中心天体の半径である。

このように、万有引力定数 G のような非常に小さな定数を用いる代わりに、水のような基準となる物質を用いることで重力の普遍的な強さを表すことができる。密度が水に等しい物質からなる球形の中心天体の表面近くを公転する小天体の公転周期は3時間18分となる。また逆に、この関係式は普遍的な時間の単位の一種として用いることもできる。

中心天体が太陽の場合、その周囲を公転する天体の公転周期は単純に

<math>T = \sqrt{a^3}</math>

と表される。ここで T の単位はa の単位は天文単位である。この式はケプラーの第三法則にほかならない。

二体問題の公転周期

互いに質量を無視できない二天体の公転周期 <math>P\,</math> は以下のように計算される。

<math>P = 2\pi\sqrt{\frac{a^3}{G \left(M_1 + M_2\right)}}</math>

ここで、

  • <math>a\,</math> は両天体の軌道長半径の和、または(一方の天体の中心に固定した座標系で見た場合の)もう一方の天体の軌道長半径である。互いに円軌道を描いている場合には常に一定の天体間距離に相当する。
  • <math>M_1\,</math> と <math>M_2\,</math> は両天体の質量、
  • <math>G\,</math> は万有引力定数

である。この式から分かるように、両天体の密度が同じならば系の大きさをスケーリングしても公転周期は変わらない。

放物線軌道や双曲線軌道の場合には軌道運動は周期的にならず、軌道全体を運動するのに要する時間は無限大となる。

関連項目