仕事 (物理学)
テンプレート:出典の明記 テンプレート:古典力学 テンプレート:物理量 物理学(力学、熱力学)において仕事(しごと)とは、物体に加えた力と、それによる物体の位置の変位の内積(スカラー積)によって定義される物理量である。熱と同様にエネルギーの移動形態の一つで、 MKS単位系での単位は N·m もしくはJである。
目次
概要
仕事は正負を持つスカラー量であり、仕事を通じて物体 A から物体 B にエネルギーが移動した時、物体 A が物体 B に「仕事をする」、または物体 B が物体 A から「仕事をされた」、と表現する。正負の符号は混乱を招きやすいが、物体 A が正の仕事をした場合、物体 A のエネルギーは減り、逆に負の仕事をした場合、物体 A のエネルギーは増える。
力学での仕事の例
例えば、 野球投手の投げるボールを考えると、投手は力を加えながら腕を振り、ボールに速度を与えている。つまり、ボールは投手から正の仕事をされて、ボールのエネルギー (運動エネルギー) は増える。
熱力学での仕事の例
蒸気機関 を考えると、水を加熱し、蒸気圧によって押し出されるピストンが、フライホイールを回転させる事で動力を生み出している。つまり、フライホイールは水蒸気から正の仕事をされて、フライホイールの回転エネルギー (及びそこから繋がる機関全体のエネルギー) は増える。別の表現で、熱エネルギーから仕事を取り出すなどとも言う。
仕事とは呼ばない例
以下に仕事とは呼ばない例をあげる。
- 例1
- A 君がある荷物を抱えて荷物の位置も含め、静止しているとする。A 君が荷物を抱えている状況では、静止している荷物のエネルギーは変わらないため、荷物は A 君から仕事をされていない事が分かる。実際には、A 君の筋肉は荷物の重力とつりあう上向きの力を発生するためにエネルギーを消費しているが、これは最終的には 熱エネルギー に変わる。
- 例2
- 電動機(電動モーター) を例に考える。電動機は電流を流すと回転するが、電流を流している状態で電動機を回転しないように軸を固定すると、電動機の電気抵抗によって発熱する (ジュール熱 を発生する) 。この時、電動機には回転力がかかっているが、固定されて何も移動していないためこれも仕事とは呼ばない。
- 例3
- また、野球の捕手が受け取るボールを考える。この時、捕手のミットが全く動かず、ボールは一瞬で静止するとしよう。この状況は完全非弾性衝突の場合であり、ボールがミットにした仕事はゼロである。つまり、静止したミットのエネルギーは増えず、ボールの運動エネルギーは、失われてゼロになる。実際には、動いているボールが静止するまでの微小時間に、ボールの運動エネルギーはボールやミットを歪ませるためのエネルギーに変わる (ハイスピードカメラで撮影した映像をイメージしてほしい) 。この種のエネルギーの移動は、ボールがミットにした仕事とは呼ばない。
- 例4
- 熱伝導も、物体間で微視的な原子衝突により原子の振動エネルギー (熱エネルギー) が移動するが、巨視的に観測できる力ではないため、仕事の定義には含まれない。
物体にする仕事
物体に力 F が作用し、その位置が Δx だけ変化したとき、力 F がこの物体に対してした仕事 W は テンプレート:Indent によって定義される。力と変位はベクトル量であり、仕事はその内積で与えられるスカラー量である。
より一般に、力が変化するときは、ある時刻 t における力 F(t) と、力が一定とみなせるほど短い時間 Δt を考える。この時間での物体の位置の変化は微分により Δx=(dx/dt)Δt と表されるので、この短い時間の間にこの力が物体に対してする仕事は テンプレート:Indent{dt}\, \Delta t</math> }} となる。時刻 t0 から t1 の間にこの力が物体に対してする仕事は短い時間の間にする仕事の足し合わせで定義される。Δt が無限小の極限では積分へと置き換えられて テンプレート:Indent{dt} \right) dt</math> }} となる。 この定義から明らかなように、仕事は力のような時刻 t の瞬間において定まる量ではなく、ある時間の間に定まる量である。
積分変数は時刻である必要は無く、明示せずに テンプレート:Indent と書かれることもある。 これは物体の運動の経路に沿った線積分となっている。
この式から上述の例1,2,3に関して、物体が移動しない(dx = 0)ときは仕事が0であることがわかる。
例として、バネを伸ばす時の仕事を考える。バネの伸び s は 0 から x まで変化し、その時のバネに加える力F はフックの法則より
- <math>\vec{F}(\vec{s})=k \vec{s}</math>
となる(ここでバネを伸ばす方向を正とした。バネに加える力の方向はバネを伸ばす方向に一致していることに注意する)。そのときバネにした仕事W は、
- <math>\begin{align}
W &= \int_0^x \vec{F}(\vec{s})\cdot\mathrm{d}\vec{s} = \int_0^x k \vec{s}\cdot\mathrm{d}\vec{s} \\ &= \int_0^x k s \mathrm{d}s={1\over 2} k x^2 \end{align}</math>
となる。逆に言うと、バネは <math>{1\over 2} k x^2</math>だけの仕事をされて、弾性エネルギーを増やす。
加えられる力が一定であり力の方向が物体の運動の方向と一致している場合
特別な場合として、加えられる力と同じ方向に物体が運動するとき、仕事 W は力の大きさをF、物体の移動距離(変位)を s とすると
- <math>W=Fs</math>
で表される。
例としてあなたが質量 m の物体を上に h 持ち上げる場合、W= m g h だけの仕事をしたことになる。逆に、物体は m g h だけの仕事をされて、位置エネルギーを増やす。
加えられる力が一定であるが運動の方向と異なる場合
上図のように、加えられる力が一定であるが運動の方向が力の向きに対して角度α[rad] だけ傾いているとき、仕事 W は以下のように表される。
- <math>W=Fs \cos\alpha</math>
特に、この式においてα = 0(すなわち cosα = 1)とすると上記の「加えられる力が一定であり力の方向が運動の方向と一致している場合」に帰着する。
また、α=π/2(cosα = 0)のとき、W = 0となる。すなわち、力が運動の方向と直角方向にはたらいている場合、その力は仕事をしない。
気体がする仕事
熱力学で圧力 Pの気体が、体積をVi から Vf に変化する時に気体がする仕事(または絶対仕事) W は以下のように表される。
- <math>W=\int_{V_\mathrm{i}}^{V_\mathrm{f}} P\,\mathrm{d}V</math>
絶対仕事は気体の体積が変化することによって、その気体が外に対してする仕事ととらえることができる。一方、気体の圧力が変化することによって蓄えられるエネルギーを工業仕事 W *ということがある[1]。
- <math>W^* = -\int_{P_\mathrm{i}}^{P_\mathrm{f}} V\,\mathrm{d}P</math>