マザリンの宝石
テンプレート:Portal テンプレート:Infobox 「マザリンの宝石」(マザリンのほうせき、The Adventure of the Mazarin Stone)は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズの一つで、56ある短編小説のうち45番目に発表された作品である。イギリスの『ストランド・マガジン』1921年10月号、アメリカの『ハースツ・インターナショナル』1921年11月号に発表。1927年発行の第5短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』(The Case-Book of Sherlock Holmes) に収録された[1]。
シャーロック・ホームズシリーズの60の長短編のうち、この「マザリンの宝石」と「最後の挨拶」だけが三人称による視点で描かれている。シャーロキアンたちはこの作品が実際には誰の手によるものかいろいろな説を出しているが、「ソア橋」には、ワトスンが「私が現場にいないか、事件にあまり関わっていないため、三人称の形でしか語れない」という記述がある。また、内容的にも小説というより1幕1場の舞台劇に近い。
なお、マザリンとはフランス・ブルボン朝の宰相ジュール・マザラン(Jules Mazarin)のことである。
あらすじ
ワトスンがベーカー街221Bのシャーロック・ホームズの下宿に行くと、給仕のビリーが案内してくれる。ホームズはマザリンの宝石の盗難事件に取りかかっていて、「空き家の冒険」で使ったホームズの蝋人形が部屋に置かれていた。その時と同じように、今度もまた空気銃で狙われているというのだ。
ホームズはマザリンの宝石を盗んだ一味が誰か、すでにわかっているが、肝心の宝石のありかが未だ不明であった。そこへ、その一味の首領であるシルヴィアス伯爵がホームズの部屋を訪れる。ホームズはワトスンを警察にやり、シルヴィアス伯爵と話をつける。
ホームズはシルヴィアス伯爵に、宝石を渡せば盗難事件のことは見逃すと持ちかけ、別室でバイオリンを弾いているからその間に手下のサムとどうするか決めるようにいう。ホームズは寝室に入り、バイオリンの調べが流れてくる。シルヴィアス伯爵と手下のサムは、ホームズに全くでたらめな宝石のありかを言って、だまそうと考えるが…。
正典性
この作品は、シャーロキアンたちにとっても実際に起こった事件と解釈するには難しいらしく、現実にはありえない創作と判断を下している研究者も少なくない。ベーカー街の部屋の構造が他の作品と大きく異なっていたり、ホームズが蝋人形と入れ替わるときに気づかれないという偶然に頼ったりする部分が、非現実的というのである。
外典 戯曲『王冠のダイヤモンド』
『王冠のダイヤモンド――シャーロック・ホームズとの一夜』(おうかんのダイヤモンド――シャーロック・ホームズとのいちや、The Crown Diamond : An Evening with Sherlock Holmes)は、コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズの登場する戯曲である[2]。短編小説「マザリンの宝石」の原作となった戯曲で、シャーロック・ホームズシリーズでは経外典 (Apocrypha) として扱われている。1921年5月2日にロンドンのヒッポドローム劇場で初演され、1958年にバスカレット・プレス社から私家版として刊行された[3]。主演のホームズ役はデニス=ニールセン・テリー、ワトスン役はR・V・テイラーである。28回上演されただけで公演が終了し、忘れ去られてしまった。そのため、1949年にシャーロキアンのアンソニー・バウチャーが指摘するまで、短編「マザリンの宝石」との関係も知られていなかった[2]。
戯曲の内容は「マザリンの宝石」とほぼ同じで、犯人役の名前がシルヴィアス伯爵ではなく短編「空き家の冒険」に登場するセバスチャン・モラン大佐となっていること、犯人の逮捕で話が終わりカントルミヤ卿が来訪しないことなどが異なる。初演は1921年だが、原稿・筆跡の鑑定結果やドイルの息子の証言などにより、執筆されたのは1900年代初頭であり、1903年発表の「空き家の冒険」より前であったと推測されている。戯曲の執筆後長期に渡り発表されなかった理由は不明で、蝋人形と空気銃の仕掛けや犯人役の名前など戯曲の一部が「空き家の冒険」に流用された経緯も分かっていない。その後1921年5月になって初めて戯曲『王冠のダイヤモンド』が上演され、10月には短編小説「マザリンの宝石」として発表された。短編では「空き家の冒険」で既にセバスチャン・モラン大佐の名前を使用していたため、新たな犯人役としてシルヴィアス伯爵を登場させたのである[4]。