ベルヌーイの定理

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ベンチュリ管を空気が流れている。管の太さが小さくなると速度が増加するが、それには圧力の減少を伴う。圧力の変化は水柱の高さの差に現れる。

ベルヌーイの定理(ベルヌーイのていり、テンプレート:Lang-en)またはベルヌーイの法則とは、非粘性流体(完全流体)のいくつかの特別な場合において、ベルヌーイの式と呼ばれる運動方程式第一積分が存在することを述べた定理である。ベルヌーイの式は流体の速さと圧力外力ポテンシャルの関係を記述する式で、力学的エネルギー保存則に相当する。この定理により流体の挙動を平易に表すことができる。ダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli 1700-1782)によって1738年に発表された。なお、運動方程式からのベルヌーイの定理の完全な誘導はその後の1752年にレオンハルト・オイラーにより行われた[1]。 ベルヌーイの定理は適用する粘性流体の分類に応じて様々なタイプに分かれるが、大きく二つのタイプに分類できる。外力が保存力であることバロトロピック性(密度が圧力のみの関数となる)という条件に加えて、

定常流という条件で成り立つ法則 (I)
渦なしの流れという条件で成り立つ法則 (II)

である。(I)の法則は流線上(正確にはベルヌーイ面上)でのみベルヌーイの式が成り立つという制限があるが、(II)の法則は全空間で式が成立する。

最も典型的な例である

外力のない非粘性・非圧縮性流体の定常な流れに対して

<math>

\frac{1}{2}v^2 + \frac{p}{\rho} = \mathrm{constant} </math> が流線上で成り立つ。ただし、v は流体の速さ、p は圧力、ρ は密度を表す。

一様重力のもとでの非粘性・非圧縮流体の定常な流れに対して

<math>

\frac{1}{2}v^2 + {p \over \rho} + gz = \mathrm{constant} </math> が流線上で成り立つ。ただし、v は速さ、 p は圧力、ρは密度、g重力加速度の大きさ、z は鉛直方向の座標を表す。

は(I)のタイプに属する。

(II)を「一般化されたベルヌーイの定理」と呼ぶこともある。

基本形

完全流体の運動方程式からベルヌーイの定理を導出する[2]

オイラー方程式

バロトロピック性 ρ=ρ(p ) と外力が保存力であることを仮定すると、 非粘性流体の運動を記述するオイラー方程式

<math>

{D \boldsymbol{v} \over D t} = - {1 \over \rho}\nabla p + \boldsymbol{f} </math> は

<math>

{\partial \boldsymbol{v} \over \partial t} - \boldsymbol{v} \times \left(\nabla \times\boldsymbol{v}\right) + \nabla \left\{{v^2 \over 2} + \int {\mathrm{d}p \over \rho} + {\mathit\Omega} \right\} = 0 </math> と変形できる。ただし、v速度ベクトル、p は圧力、ρ は密度、Ω は外力のポテンシャル f =-∇Ω である。

なお、

<math>

B={v^2 \over 2} + \int {\mathrm{d}p \over \rho} + {\mathit\Omega} </math> をベルヌーイ関数と呼ぶ。

これより、以下の二つの定理が導出できる。

(I)定常流におけるベルヌーイの定理

外力が保存力である非粘性バロトロピック流体定常な流れでは、流線と渦線から作られるベルヌーイ面上で

<math>

(B=)\,{v^2 \over 2} + \int {\mathrm{d}p \over \rho} + {\mathit\Omega} = \mathrm{constant} </math> が、成り立つ。

なお、簡単のため、「ベルヌーイ面上」でなく「流線上」とすることが多い。

(II)非定常・渦なし流れにおけるベルヌーイの定理

∇×v =0 となる流れを渦なしの流れと呼ぶが、このとき、 速度ポテンシャルと呼ばれる関数 φ が存在して、v =∇φと表せる。

渦なしの流れにおいては以下の定理(一般化されたベルヌーイの定理

外力が保存力である非粘性バロトロピック流体渦なしの流れでは、全空間において

<math>

{\partial \phi \over \partial t} + {\left| \nabla\phi \right|^2 \over 2} + \int {\mathrm{d}p \over \rho} + {\mathit\Omega} = f(t) </math> (圧力方程式)が成り立つ。ただし、f (t ) は任意の関数である。

が導ける。

  • (I)のタイプと違って、全空間で成り立つのが大きな特徴である。
  • 流れのポテンシャルを
<math>

\phi'=\phi-\int f(t)\mathrm{d}t </math>

と変更しても速度場は変わらないので、圧力方程式より f (t ) を消去することは可能である。

ベルヌーイの定理の適用条件

  • 渦なしの流れであれば(II)のタイプ「一般化されたベルヌーイの定理」により、異なる流線間でも圧力や速さの比較ができる。非粘性流体においては上流が一様流である流れや静止状態から出発した流れは渦なし流れであるので、例えば、一様流の中のの問題では異なる流線でも比較ができる。(ただし、不連続流や噴流領域を跨いではいけない。また、実在流体の場合、後述のように境界層や伴流領域は除かれる。)
  • 上述のように「渦なしの流れ」の性質を使わなくても、一様流中の翼の問題においてベルヌーイの式を全空間で使えることを証明できる。以下簡単のため重力は無視する。

翼の近傍を通る任意の異なる2つの流線 A, B を考える。流線 A, B はともに上流の一様流まで伸びること、さらに、一様流中では速度だけでなく圧力、密度も一定、つまり、ベルヌーイ関数も一定値をとることを考慮すると、流線A上のベルヌーイ関数の値と流線B上のベルヌーイ関数の値とは等しいことが導かれる。これより、全空間でベルヌーイの式(ベルヌーイ関数の値=一定)が成立することが導かれた。

  • 一般には、(I)のタイプの定理では異なる流線間の比較はできないが、流線曲率の定理を使えば異なる流線間での比較ができる。流線上で成り立つベルヌーイの定理と流線曲率の定理は運動方程式の流線に関する接線成分と主法線成分にそれぞれ対応する。
  • 粘性流体であっても、境界層外部や伴流外部の層流領域のように、非圧縮・渦なし流れであれば粘性項の寄与を無視できるので、その領域ではベルヌーイの定理を適用可能である。

(0) 静水圧平衡

一般にベルヌーイの定理に含まれることはないが、静止流体における圧力と保存力の関係(静水圧平衡)も運動方程式の第一積分である。 v =0 をオイラー方程式に代入すると

<math>\begin{align}

\nabla \left\{\int {\mathrm{d}p \over \rho} + {\mathit\Omega} \right\} &= 0\\ \therefore~ \int {\mathrm{d}p \over \rho} + {\mathit\Omega} &= \mathrm{constant} \end{align}</math> が全空間で成り立つ。これより外力の等ポテンシャル面(Ω =constant)の上では p =constant, ρ=constant であることが導かれる。一様重力の等ポテンシャル面である水平面に水面( p =大気圧=一定)が一致するのはこのためである[2]

一様重力のもとでの非圧縮非粘性定常流の場合

非圧縮性バロトロピック流体では密度一定だから ∫dp /ρ=p /ρ + constant とでき、一様重力のポテンシャルは Ω=gz となるので、(I)の基本形から以下の定理が導かれる。

一様重力のもとでの非粘性・非圧縮流体定常な流れでは、流線上で

<math>

{v^2 \over 2} + {p \over \rho} + gz = \mathrm{constant} </math> が、成り立つ。( v は速さ、 p は圧力、ρは密度、g重力加速度の大きさ、z は鉛直方向の座標である。)

表現の違い

水頭による表現

<math> \frac{v^2}{2g}+\frac{p}{\rho g}+z=H_0=\mathrm{constant}</math> [m

第一項<math> v^2 / (2g)</math> を速度ヘッド(velosity head)という。第二項<math> p / (\rho g)</math>を 圧力ヘッド(pressure head)という。第三項<math>z</math>を位置ヘッド(potential head)という。これら全てを足しあわせた値<math>H_0</math>を全ヘッド(total head)という。

エネルギーによる表現

<math> \frac{1}{2}m_0 v^2+ p \frac{m_0}{\rho}+m_0 g z =\mathrm{constant}</math> [J

圧力による表現

<math> \frac{1}{2}\rho v^2 + p+\rho g z=\mathrm{constant}</math> [Pa

単純形

位置エネルギーの変化が無視できる場合、

非粘性・非圧縮流体定常な流れでは、流線上で

<math>

\frac{1}{2} \rho v^2 + p = p_0 (=\mathrm{constant}) </math> が、成り立つ。( v は速さ、p は圧力、ρは密度。)

となる。なお、これは非圧縮性流体(液体)だけでなくマッハ数の小さな気体の流れに対しても成立する。

左辺第一項を動圧、第二項を静圧、右辺の値を総圧という。

静圧(static pressure): <math>p</math>
流体が実際に外界に及ぼす圧力。相対的な流れの中の物体表面で流速が0になる点(よどみ点)での静圧を、よどみ点圧と呼ぶ。よどみ点では動圧が0なので、よどみ点圧は総圧に等しい。
動圧(dynamic pressure): <math>q = \frac{1}{2}\rho v^2</math>
次元が圧力に一致することから”圧”という語が使われているが、圧力ではない。このため動圧を直接測定することはできない。よどみ点圧(=総圧)と静圧の差や、密度と流速から求める事ができる。
総圧(total pressure): <math>p_0 = p + q</math>
動圧と静圧の和。よどみ点以外では総圧を直接測定することはできない。全圧ともよぶが、「全圧」は分圧に対しても使われる。

流速が増すと動圧は増すが、上記条件の総圧が一定のでは、そのぶん静圧が減る。

なお、「総圧」も「動圧」もベルヌーイの式における各項の呼称以上の意味はない。これらと区別するために付けられた「静圧」も「圧力」以上の意味は無い。

直感的解釈

ベルヌーイの定理は非粘性流体の支配方程式であるオイラー方程式から直接導出できるが、 ベルヌーイの定理(I)の物理的解釈は流体粒子に対する力と加速度の関係(ニュートンの運動の第2法則)で以下のように解釈が可能である。

流体粒子が圧力の高い領域から低い領域へと水平に流れていくとき、流体粒子が後方から受ける圧力は前方から受ける圧力より大きい。よって流体粒子全体には流線に沿って前方へと加速する力が働く。つまり、 粒子の速さは移動につれて大きくなる[3]

よって流線上で、相対的に圧力が低い所では相対的に運動エネルギーが大きく、相対的に圧力が高い所では相対的に運動エネルギーが小さい。これは粒子の位置エネルギーと運動エネルギーの関係に相当する。

圧縮性流体

ベルヌーイは液体の実験より法則を導き出したので、彼のオリジナルの理論は非圧縮性流体あるいはマッハ数の小さな圧縮性流体にしか適用できない。しかし、バロトロピック性を仮定すれば、一般の圧縮性流体に対しても適用可能である。 特に気体の場合、断熱過程として適用することが多い。以下、タイプ(I)のベルヌーイの定理の応用例について解説する。タイプ(II)のベルヌーイの定理の応用例については文献[2]を参照せよ。

気体の定常流の場合

気体の運動では、重力が無視でき、また、運動の時間スケールが熱伝導の時間スケールに比べて十分小さく断熱過程と見なせる場合が多い。このときポアソンの法則により p ∝ ργ ( γ=Cp / Cv比熱比)とできるので、ベルヌーイの定理は

断熱過程に従う非粘性気体定常な流れでは、流線上で

<math>

\frac {v^2}{2}+ \left(\frac {\gamma}{\gamma-1}\right)\frac {p}{\rho} = \left(\frac {\gamma}{\gamma-1}\right)\frac {p_s}{\rho_s} </math> が、成り立つ。ただし、v は速度ベクトル、p は圧力、ρは密度、γ =Cp / Cv は比熱比、ps , ρsよどみ点における圧力と密度である。

と書き換えられる。

音速の定義

<math>a = \sqrt{\gamma\left({p/\rho}\right)}</math>

を用いれば、ベルヌーイの定理は

<math>

v = \sqrt{ \frac {2}{\gamma-1}(a_s^2-a^2) } </math>

が流線上で成り立つ。( as はよどみ点における音速)

となる。

真空では a =0 となるので、そのとき流速は最大値

<math>

v_{max} = \sqrt{ \frac {2}{\gamma-1} }a_s </math> に到達する。例えば、大きな容器に封入された気体が器壁の小さな孔から真空中に噴出する場合の流速がそれにあたる。容器の中が1気圧、15℃の空気の場合、γ=1.4, as =340m/s であるから、vmax=760m/s となる[2]

ベルヌーイの定理と流線曲率の定理

ベルヌーイの定理(I)と流線曲率の定理とは運動方程式の流線に関する接線成分と主法線成分に対応する。

外力が無視できる非粘性バロトロピック流体の定常な流れの運動方程式

<math>

\boldsymbol{v}\cdot\nabla\boldsymbol{v} = -\nabla \int {\mathrm{d}p \over \rho} </math> の接線成分と主法線成分は、定常流における加速度の分解により、

<math>\begin{align}

&{\partial \over \partial s}\left({v^2 \over 2} + \int {\mathrm{d}p \over \rho}\right) = 0 \\ &{\partial p \over \partial r} = \rho{v^2 \over r} \quad \left( \mathrm{or~} {\partial \over \partial r} \int {\mathrm{d}p \over \rho} = {v^2 \over r} \right) \end{align}</math> となる。 ただし、s は流線上の道のり(接線方向)、r は流線を円弧と近似したときの中心(曲率中心)からの距離(主法線方向)を表す。

第1式がベルヌーイの定理、第2式が流線曲率の定理に対応する。 一般には、(I)のタイプのベルヌーイの定理では異なる流線間の比較はできないが、流線曲率の定理を使えば異なる流線間での比較ができる。

揚力とベルヌーイの定理

ベルヌーイの定理は十分に検証された理論である[4][5][6]。翼の周りの流体の速度分布が正しくわかれば、翼に発生する揚力の大きさをベルヌーイの定理を使って十分に良い精度で計算できる。しかし、ベルヌーイの定理では翼の形から流体の速度分布を求めることはできないので、翼の周りの流体の速度分布を説明する理論は別途必要である。その理論について誤解がある。

同着の原理にまつわる誤解

揚力についての一般向けの解説には、
「同着の原理」のため翼の上の流れが下の流れより速くなり、ベルヌーイの定理により翼の上の圧力が下の圧力より小さくなり、よって上向きの揚力が発生する
と説明しているものがある。

「同着の原理」とは、「翼の先端で上下に別れた流体は翼の後端に同着する。」という原理である。この原理により、翼の上の経路長が下の経路長より長い場合、「翼の上を流れる速さが下の速さより大きくなる」という翼の周りの流体の速度分布が「導かれる」。しかし、実際には、上面の流れの方が後端により早く到着し、同着の原理は成り立たない[7]

現在、「同着の原理」が間違いであることは広く知られるようになった。しかし、「ベルヌーイの定理を揚力の説明に使うのは誤りで、流線曲率の定理やニュートンの運動方程式を使うべきだ」という誤解も見られるようになった。

一般向けの説明で誤っているのは「同着の原理」のみであり、「同着の原理」はベルヌーイの定理とは無関係である。むしろ、同着原理の不成立に導いた、上面の流れの方が後端により早く到着するという実験事実は、ベルヌーイの定理による揚力の発生を「補強こそすれ、否定的な意見とはならない」[8]。 また、ベルヌーイの定理が間違いで流線曲率の定理やニュートンの運動方程式が正しいというのは矛盾を含む。翼の周りの流体の速度分布が正しくわかれば、ベルヌーイの定理でも、流線曲率定理でも、運動量変化と力積(あるい反作用)の関係でも、正しく適用する限り、同じ結果が得られる。なぜなら、これらはいずれもニュートン力学に起源を持つ理論だからである[9][10]

アンダーソンらの説

D.アンダーソンDavid Andersonらは記事[11]の中で、同着原理不成立をもって、ベルヌーイの原理による揚力の発生を否定している。一方、同時に(同じ記事の中で、以下略)、翼型によるベルヌーイの定理だけで、セスナ172が飛行に必要な揚力を得るには時速400マイル以上が必要とし、過小ながらベルヌーイの定理による揚力の発生を認めた記述をしている。さらに、同時に、同着原理不成立について述べた際、翼上面の流れは「相当」早く[注 1]翼の後端につき、下面の流れは減速するとしているので、必要な揚力をベルヌーイの定理によって得られる速さは、アンダーソンらの記述に従えば、時速400マイルより「相当」小さな値になる[注 2]

アンダーソンらは、同着原理不成立の前、記事の冒頭部分で、(ベルヌーイの定理にしたがって作られた)ピトー静圧管は、高速でも正しい高度を示すので、ベルヌーイの定理は崩れ去ってしまう、と矛盾したことを書いているので、記事の内容が誤りであることは、最初の数行を読めばわかるようになっているが、意図的なものかどうかは不明である。

また、アンダーソンらは、翼型に基づいて計算、つまり、翼の前端に流れが上下に分かれる点、よどみ点が存在するとして計算しているが、同時に、よどみ点は翼の前端より下に存在すると記し、よどみ点が、翼上面のふくらみ=キャンバーの厚さの数倍下にある図も示している。よって、翼型による揚力は、よどみ点が下にある分を、さらに加算(正しくは乗算)した分大きくなる。加算により得られる揚力が数倍に増えるため、翼型だけで飛行に必要な揚力が得られる速さは、前述のアンダーソンの計算より、「相当」小さくなった値を、さらに加算後の値の平方根で割った値になる。前述の時速400マイルは、高速のプロペラ機が水平飛行で到達できる値であるので、実際に翼型で飛行に必要な揚力を発生させる値は、より低速のプロペラ機でも充分到達できる速さとなる。アンダーゾンらが数値を示していないため、厳密な値は算出できないが、アンダーソンらの図に従うと、セスナが飛行に必要な揚力を得る速さは、セスナの離陸速度とほぼ等しくなる。 アンダーソンらが同時に示しているように、上下対称の翼でも迎角を正にすれば(とれば)、上面の流れが下面より速くなる。アンダーソンらが過小ながら計算したように翼型によって同様の状態で揚力が発生するので、この時も同様にベルヌーイの定理によって揚力が生じる。揚力は、主に翼上面の流れを速くする事(と下面の流れを遅くする事)によって得られる。アンダーソンらの記述に従えば、実際の飛行に際して、キャンバーを持った翼型と迎角によって得られる主な揚力は、いずれもベルヌーイの定理に基づくものであることが導き出される。

高速では、翼型による揚力が水平飛行には過大となるため、上昇しないよう、翼を下向き、迎角を負にして水平飛行を維持する。アンダーソンらが、実際にこのような飛行を体験、あるいは正しく認識した事があるかどうかは不明であるが、翼型による揚力と負の迎角によって生じる負の揚力の大きさが等しくなる迎角、通常0揚力角という負の迎角を、アンダーソンらは、「有効迎角」0とするよう主張している。アンダーソンらは、(この場合負であるが、)迎角による揚力の発生を示している。 よって、アンダーソンらに従うと、高速では(アンダーソンらが「有効迎角」は正であると主張する)負の迎角でも飛行に必要な揚力が得られ、背面飛行も、迎角を大きくとることによって可能になる。戦闘機では翼型による揚力が大きいと、急降下の際に不都合が生じるため、上下対称に近い翼型が用いられる事もある。同様の翼型の模型飛行機では、見かけ上の背面飛行が行いやすい。なお、アンダーソンらは自分らの説が、特にパイロットが飛行を理解し、実際の操縦にたいへん役に立つと記しているが、目で見て判る迎角と異なり、有効迎角は飛んで見なければ判らない。また、通常の飛行と背面飛行では、通常の迎角より違いが大きく異なる。

アンダーソンらは翼上面の後の方が下向きになっていて、粘性によって流れを下に引くコアンダ効果によって揚力が得られるとしている一方、揚力の中心は(翼後方ではなく、ベルヌーイの定理による揚力の中心)翼、厳密には翼弦長の前から1/4にあるとしている。粘性によって揚力が発生するなら、翼の後方で、流れが翼を後ろ下向きに引きずり込み揚力が相殺され、全体の揚力は0になる。また、地面に近づくと、実際の地面効果とは逆に、粘性によって、気流が地面を持ち上げることになり、揚力が急激に減少することになってしまう。

翼の上面の流れを速くすれば揚力が増加するため、通常の飛行時以外、離着陸時には、スラットや隙間つきフラップによって、翼を前後に分離し、より後方の「翼」の上面の流れを速くする高揚力装置が広く用いられている。スループ型のヨットではジブが同様の効果をもたらす。これらの揚力もまた、ベルヌーイの定理に基づくものである。翼より上後方にジェットエンジンを配置しても、揚力を増やす事が理論上は可能である。

ニュートン力学にしたがって飛行する飛行機の揚力の発生は、すべて、ニュートン力学に基づくベルヌーイの定理によって説明できる。

コアンダ効果とクッタの条件

翼の周りの速度分布を説明する理論としては、「同着の原理」のほかに、コアンダ効果[12][13]テンプレート:仮リンクなどがある。

コアンダ効果は「粘性の効果によって翼の形に沿うように流れる」というもので、これと作用反作用則を使った揚力の原理の説明はベルヌーイの定理を使わない説明として知られている。ただし、コアンダ効果は本来噴流(ジェット)が物体に沿う性質であり、通常の翼には噴流は発生しないので、コアンダ効果を通常の翼の速度分布の説明に使うのは不適切であるとの意見もある[14]ので、コアンダ効果を使った揚力の説明には疑問がある。

クッタの条件は「粘性の効果によって翼の後端のエッジにおいて気流が翼から離れる」というものである。適切な形の翼に対して、クッタの条件に基づき循環量を決定(= 速度分布を決定)し、クッタ・ジュコーフスキーの定理を使って循環量と速度から計算した揚力が、実験ともよく合うことが知られている[15]。なお、「クッタ・ジュコーフスキーの定理」の導出にはベルヌーイの定理が使われている。

ベルヌーイの定理の拡張

系外からのエネルギーのやりとりを考えた拡張されたベルヌーイの定理も存在するテンプレート:要出典

脚注

注釈

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出典

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関連項目

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  • 2.0 2.1 2.2 2.3 テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Citation
  • テンプレート:Cite book Sections 3.5 and 5.1
  • テンプレート:Cite book §17–§29
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite web
  • テンプレート:Cite web
  • テンプレート:Cite web
  • Ison, David. Bernoulli Or Newton: Who's Right About Lift? Retrieved on 2009-11-26
  • A Physical Description of Flight (Anderson & Eberhardt),2001、『飛行の物理学的記述』、検索によりインターネット上でも読める。
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