バラッド

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バラッド(英語:ballad)は、物語寓意のある歌のことであり、通常は詩の語りや、語るような曲調を含む。過去の出来事についての韻文による歴史物語であり、武勇伝ロマンス社会諷刺政治がテーマとなるが、バラッドの内容はほとんど必然的に破局が訪れる。バラッドを、1415世紀フランスの詩形と、それに由来する音楽形式である「バラード」と混同したり、取り違えたりしてはならない。

本来は、旋律つきか、旋律を交えて語られる口承説話がバラッドと呼ばれるべきであるのだが、時代が下るにつれて、その構成に倣って作られた悲劇的(あるいは悲喜劇的)な内容を含んだ物語詩や、それに語るような旋律を当てはめた歌曲をバラッドと呼ぶようになった。この意味においては、バラッドをバラードと混用する例も珍しくない。代表的な例として、ゲーテ原作・シューベルト作曲の《魔王》や、ビートルズの《ロッキー・ラクーン》が挙げられる。ただし、ドイツ語やフランス語ではバラッドもバラードも同じ"Ballade"という単語で表されるなど、英語以外の印欧語では単語上区別されていないことが多いので、シューベルトの歌曲のような英語圏以外の作品については一概に「混用」とは言い切れない。

特徴など

バラッドには、以下のようないくつかの特徴がある。

  • 物語が詠み込まれている。物語の語り手として、第三者が登場する(主人公の独白ということもある)。
  • 登場人物の性格や独白よりも、動作や会話が強調される。
  • 押韻も構文も単純である。
  • 反復句(リピート、リフレイン)が使われ、民謡や伝統音楽に近い。
  • 歌われる旋律は調的というより旋法的である。
  • 基本的に口承文化である。そのため、作者不詳であり、時代ごとや伝播した地域ごとに、寓話の内容や旋律に違いが生じる。
  • テーマは、口頭によっては示されない。
  • 事実や史実に基づく例も少なくない。
  • 詩の結びに、倫理的なオチがつくことがある。

バラッドには、以下のような種類がある。

  • ブロードサイド・バラッズ:かわら版と同じ判型に出版されて流行したバラッドのこと。17世紀イングランドに源流があり、アメリカ民謡の祖型になったと見なされている。トマス・レイヴンズクロフトが作曲・編集した曲集が有名。
    • 人殺しのバラッド(マーダー・バラッズ):ブロードサイド・バラッズのうち、殺人者がおのが罪をひとりごちるという体裁をとったもの。最後に主人公が収監されたり、処刑されておしまいになる。
  • 境界地方のバラッド(ボーダー・バラッズ):民謡に由来するバラッドの1つで、イングランドスコットランドの国境地方に伝わる。略奪者やならず者、国境地方の歴史が題材になる。
  • 文学的バラッド:ロマン主義の時代に民謡民族という概念が再発見される中から成立した物語詩。ショパンブラームスらによる器楽曲の「バラード」は、語るような抑揚をもつ曲調や、並列的な楽曲構成において、バラッドの構成が意識されている。ワーグナーの《さまよえるオランダ人》における「ゼンタのバラード」やヴェルディの《オテロ》における「デズデモナの古い歌」の歌詞も、文学的バラッドの一種である。
  • バラッド・オペラ:大衆的な諷刺詩に民謡を当てはめ、ことさら卑近な題材を扱い、当時の社交界におけるオペラの隆盛を茶化したもの(17~18世紀のオペラは、古代の神話や悲劇に曲付けするのが普通で、そうでないものは幕間劇と呼ばれた)。この分野の代表作に《乞食オペラ》が挙げられる。20世紀にブレヒトによって(《三文オペラ》を端緒として)再創造され、ワーグナーの楽劇への当てこすりとされた。

バラッドに由来する有名な英語圏の民謡に、以下のものがある。

  • スカボロー・フェア
  • バーバラ・アレン
  • シェナンドー
  • 三羽のカラス
  • The Ballad of Chevy Chase
  • 歌詞がロビンフッドに関係するもの
  • 朝日のあたる家(1930年代~40年代に民俗音楽学者によって再発見されて有名になった)

イーグルスのヒット曲「ホテル・カリフォルニア」の歌詞は、バラッドの体裁をとっている。レッド・ツェッペリン 天国への階段など、英国のロックバンドの曲には、バラッドの伝統を踏まえたと思われるものが多く見られる。ジェネシスキング・クリムゾンなどにもその影響が見て取れる。

関連項目

外部リンク