ナイトラス・オキサイド・システム

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ナイトラス・オキサイド・システム (英:Nitrous Oxide Systems、NOS) とは、ナイトラス・オキサイド(亜酸化窒素(笑気ガス/N2O))と呼ばれるガスをエンジン内部に噴射するシステムのこと。ナイトラス・オキサイド・システム(NOS)という名称自体はホーリー・パフォーマンス・プロダクツ社の米国における登録商標(商標登録第1895895号)であるが、以下で説明する方式は一般的な亜酸化窒素噴射方式とも共通性がある。元々は第二次大戦中にドイツ空軍航空機用に開発されたシステム(→GM-1)で、エンジン冷却と高い高度を飛んでも出力が低下しないようにするために用いられていた。

亜酸化窒素はその英訳であるnitrous oxideよりナイトロもしくはニトロと略称されることがあるが、名称が似ているニトログリセリンとは同じ窒素化合物ではあるが化学的特性は全く異なり、爆発性はなく安定した物質である。

概要

亜酸化窒素は高温下で以下のように乖離する。

2 N2O → 2N2 + O2

この亜酸化窒素をエンジン内に噴射すると、エンジンの燃焼に伴う高温により乖離して、遊離した酸素がガソリンの燃焼を助ける。空気(窒素:酸素=4:1)が気体5分子で1分子の酸素を持っていることと比較して、反応前の2分子から結果的に1分子の酸素を取り出しているため、もしも吸気を完全に亜酸化窒素に代替した場合には、空気と比べて、一定の吸気量に対し酸素分圧が2.5倍になる。酸素分圧を高めることにより同気筒容積でより多くの燃料を燃焼させるという点では、(酸素分圧を選択的に高めるわけではないが)空気を一様に加圧して吸気させるスーパーチャージャーターボチャージャーなどの過給器も、これと類似したシステムである。

高圧液化されたN2Oが気化する際は約-60度で周囲の熱を奪うため、過給器に見られるエンジンの加熱を抑制でき、かつ吸気温度の低下により空気の圧縮率も約1.1倍程度向上する。吸気冷却という意味ではインタークーラーと類似した効果が得られる。またインタークーラーに向けて吹き付けることにより、インタークーラーの冷却効率を上げる手法も存在する。理論的には、通常時のエンジンの排気量に対して約247.5%の出力が得られる計算になるが、実際には吸気を補うものであり、吸気の全てを置き換えるものではないので約150%程度の出力となると言われている。

基本システムは3種類の方式に分類される。

  • ドライショット:N2Oガスのみを吸気管に噴射する方式。ガスのみを噴射するので、パワーアップの上限が低い(燃料が足りなくなるため)。
  • ウエットショット:N2Oガスと同時に燃料も噴射する方式。N2O・燃料それぞれの噴射量を調整して、理想的なA/F(空燃比)を実現できる。一番メジャーな方式である。
  • ダイレクトポート(ショット):システムはウエットショットと同様であるが、各シリンダー毎に噴射口を設ける方式。単純に噴射量を多く取れる上、シリンダー毎に同一量噴射できるので、燃焼状態を均一にできるというメリットもある。パワーの上限が非常に高いうえ、エンジンコンディションを管理しやすいので、競技用途では100%この方式が採用されている。

上記以外の方式としては、

  • 基本はドライショットだが、純正インジェクターの噴射時間を延長することによってウエットと同等の出力を実現する方式(VENOM・NXマキシマイザーなど)
  • 燃調や点火時期・噴射タイミングなどをフルコン(FコンVプロ・モーテックなど)で制御し、総合的にマネジメントする方式
  • 後付けのオプションユニットにより、噴射時に点火時期・燃調を制御させる方式(NOS/NXオプションパーツ・MSDなど)など、さまざまな「亜種」が存在する。

日本での状況

アメリカでは絶大な人気を誇るメジャーなチューニング手段であるにもかかわらず、日本国内ではいまだに「エンジンが壊れやすい」「爆発する」などという偏見がまかりとおっているが、その原因は実際に使用される物質が亜酸化窒素であることが理解されておらず、ニトログリセリンを使用したシステムであると勘違いされていること[1]、施工する店舗の知識/経験の不足・噴射時における点火時期の遅角(リタード)が重要な点が理解されていないなどの要素がある。[2]特に、施工するショップが少ないことは問題で、他のチューニングと同様、専門知識を必要とするセッティングが必要なのは当然であるのに、一般ユーザーがネットオークション並行輸入で直接購入して、見よう見まねで自分で取り付けるケースが多いのも、「壊れやすい」というイメージを助長している一因と考えられる。

近年のスポコンブームや、全日本プロドリフト選手権(D1GP)で使用する車輌が多くなってきたことで、以前よりは認知されている傾向にあるが、D1では2014年よりNOSの使用は禁止された[3]

作品中でのナイトロシステム

「ボタンを押してガスを噴射することにより一時的に爆発的なパワーを得る」と言う点が見た目にもわかりやすく演出の意味で使いやすいためか、カーアクション系映像作品やレースゲームにおいてはレースやカーチェイスのシーン終盤にいわゆる「必殺技」のような感じで使用されることが多々見受けられる。

亜酸化窒素噴射方式の主なメーカー

  • NOS
  • NX(ナイトラスエクスプレス)
  • VENOM(ベノム)
  • エーデルブロック
  • ZEX(ゼックス)
  • ナイトラスワークス

備考

ガスの充填は、液化状態で充填しなければならないため専用の圧送充填器が必要になる。充填器は基本システムを製造している装置メーカーが販売している。

使用する液化亜酸化窒素ガスは各装置メーカー製ではなく一般のガス会社より購入して使う。液化状態にて充填するので、積載用ボンベ(ボトルと呼ばれる)をガス会社に持ち込んでも自社ボンベから積載用ボンベへの液化状態のままで充填する設備がない、安全が確保および確認できないなどの理由で充填を断られる場合が多い。このため通常の販売形態としては充填設備を持つ小売業者がガス会社より液化亜酸化窒素ガスボンベを仕入れ、ユーザーが持ち込んだ積載用ボンベに量り売り方式で充填販売する方法をとる事となる。愛好家グループなどヘビーユーザーが個人で充填設備を整えガス会社から液化亜酸化窒素ガスボンベを仕入れて使う。

オプションパーツのひとつに「パージバルブ」というものがある。本来の設計はスーパーチャージャーターボチャージャーなどの過給機で規定以上の加圧がされてしまった際の安全弁だが、故意的にナイトラス使用前に配管内のエアを押し出し、ガスで満たすことによって、噴射使用時のタイムラグをなくす目的として使える部品である。噴射時の様子が非常に派手なので、近年はショー的な要素が高まっている部品である。このパーツは映画『 ワイルド・スピードX2』で日産・スカイラインGT-Rが行っていたことで認知度が高まった。

脚注

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関連項目

外部リンク

  • その一例として高橋幸二の漫画「わっぱ烈伝 爆造」の劇中に劣化して液漏れしているダイナマイトから抜いたニトログリセリンをガソリンタンクの中に混入しあたかもNOSのように加速させる場面がある。
  • ただし、アメリカ本国でもドラッグレース仕様にてV8エンジンにスーパーチャージャー、ダウンドラフトキャブレターのみを積み重ねたプライベーターでも施工可能な比較的安価な仕様では、点火系統も旧来のままナイトラスを使用して、ボンネットやスーパーチャージャーが吹き飛ぶ程のバックファイアでリタイヤする車両も珍しくはない。ノウハウのあるショップで高度な電子制御を用いた適切なセッティングを行わずに車両破損に至るのは米国でも似たようなものである。
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