テューポーン
テューポーン(テンプレート:Lang-grc-short, テンプレート:Lang-la)、あるいはテュポーエウス(テンプレート:Lang-grc-short, テンプレート:Lang-la)は、ギリシア神話に登場する神、あるいは怪物。テュポンやテュポーン、テュフォン、テュポエウス、ティフォン(現代ギリシャ語ではこの読み方が最も近い)などとも表記される。
あらゆる怪物の王とされる。
プロフィール
ガイアの息子で、一説によるとタルタロスとの間の子[1]。エキドナの夫で、キマイラやケルベロス、オルトロス、ラードーン、ヒュドラーなどの怪物の父でもある。また、多くの風の神々の父でもある。一説では、ゼウスの浮気癖に怒ったヘーラーが、彼を懲らしめるためにクロノスからもらった卵から生まれたものという説や、ヘーラーが産みピュートーンに育てさせたという説もある。
巨体は星々と頭が摩するほどで、その腕は伸ばせば世界の東西の涯にも達する。底知れぬ力を持ち、決して疲れることがない。肩からは百の蛇の頭が生え、炎を放つ目を持ち、腿から上は人間と同じだが、腿から下は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形をしているという。
また、伝承によっては鳥の翼を持ち、多頭竜のような姿をしているとも言われている[2]。
ゼウスとの死闘
出自に関してはさまざまな異伝があるが、最も有名なのは、ゼウスに対するガイアの怒りから生まれたとするもの。
ゼウスらオリュンポスの神々は、ティーターノマキアーとギガントマキアーに連勝し、思い上がり始めていた。ガイアにとってはティーターンたちもギガースたちも、わが子である。それゆえ、これを打ち負かしたゼウスに対して激しく怒りを覚えたガイアは、末子のテューポーンを産み落とした。
テューポーンはやがてオリュンポスに戦いを挑んだ。テューポーンは絶え間無い炎弾と噴流によって地球を大炎上させ、天空に突進して宇宙中を暴れ回り、全宇宙を大混乱の渦に叩き込んだ[3]。テューポーンに追い掛け回された神々は、凄まじい恐怖を感じ、動物に姿を変えてエジプトの方へ逃げてしまったという[4]。(それゆえ、エジプトの神々は動物の姿をしているとも言われる)。このとき、パーン神 (Pan) は、恐慌のあまり上半身がヤギで下半身が魚に化けるという醜態をさらした。この恐慌ぶりの伝承が、Panic (パニック)の由来と言われている。
これに対し、ゼウスは雷霆や金剛の鎌を用いて応戦した。全宇宙を揺るがす激闘の末、シリアのカシオス山へ追いつめられたテューポーンはそこで反撃に転じ、ゼウスを締め上げて金剛の鎌と雷霆を取り上げ、手足の腱を切り落としたうえ、デルポイ近くのコーリュキオンと呼ばれる洞窟へ閉じ込めてしまう。そしてテューポーンはゼウスの腱を熊の皮に隠し、番人として半獣の竜女デルピュネーを置き、自分は傷の治療のために母ガイアの元へ向かった。
ゼウスが囚われたことを知ったヘルメースとパーンはゼウスの救出に向かい、デルピュネーを騙して手足の腱を盗み出し、ゼウスを治療した。力を取り戻したゼウスは再びテューポーンと壮絶な戦いを繰り広げ、深手を負わせて追い詰める。テューポーンはゼウスに勝つために運命の女神モイラたちを脅し、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を手に入れたが、その実を食べた途端、テューポーンは力を失ってしまった。実は女神たちがテューポーンに与えたのは、決して望みが叶うことはないという「無常の果実」だったのである。
敗走を続けたテューポーンは悪あがきとして山脈そのものをゼウスに投げつけようとしたが、雷霆によって簡単に弾き返され、最後はシケリア島まで追い詰められ、エトナ火山の下敷きにされた。不死の魔神であったため、ゼウスも封印するしかなかった。以来、テューポーンがエトナ山の重圧を逃れようともがくたび、噴火が起こるという。ただし、シケリア島に封印されているのはエンケラドスとする説もある。
また、ゼウスとテューポーンの全宇宙を巻き込む激闘の後、ゼウスは雷霆の一撃で世界を尽く熔解させ、そのままテューポーンを全宇宙の奈落にあるタルタロスへ放り込んだとする説もある[5]。
語源学
英語で台風を意味する typhoon は、テューポーンの名に由来すると言われる。語源辞典などによると広東語の大風(たいふん)とテューポーンが混ざって出来たという説も存在する。
脚注
関連項目
- テュフォン (小惑星) - 小惑星番号 42355 番のケンタウルス族の小惑星。衛星を持ち、エキドナと名付けられている。